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はじめに

変遷し続ける物流
 物流の概念が変わった日。
それは2001年9月11日のニューヨーク同時多発テロ事件の日である。
この事件でアメリカの輸出入はストップし、自動車産業をはじめ多くの産業が打撃を受けた。
それは「在庫」に対する安全指向の崩壊であった。
ジャストインタイムで代表される在庫圧縮の考え方は
比較的安全であった日本では効果的であったが、
リスクの多い国とその貿易国には通じないことを証明した。
この日以来、我々のクライアントのなかでも
四国や北海道といった本州から離れた企業では
「在庫を一週間分確保する」といった企業も出てきた。
ならば、在庫を持つことが利益になるのかというとそうではない。
 経営における「在庫の圧縮」という課題は、
利益の最大化を考えるときには避けて通れないテーマである。
 したがって、市場環境が一瞬にして激変する現在においては、
「『適正在庫』とは?」
という永遠のテーマを恒常的に追求し続けることになるであろう。

 

「物流が強い会社」は「会社体質が強い」
 物流を制する会社は業界を制する。
デル、ウォルマート、日本では花王、トヨタなどが代表的な会社であろう。
これらの企業は最強の物流のシクミをつくり、改善を強固に継続してきた結果、
体質の強い会社となったのである。
 それでは、逆に「会社体質が強い会社」はみな「物流が強い会社」なのかと問われれば
答えは「NO」である。
それは単に物流を経営の基幹テーマと位置づけていないか、
そう考えるトップや幹部が少ないからである。
現在、企業再生の代名詞とも言われている日産のカルロス・コーン氏も
調達コストの削減という購買と連動した物流コストにメスをいれたのである。
「ロジスティクス」は日本語では「兵たん」と訳され、
軍事用語のままである。
これの意味するところは有事、いわゆるリスク下に置いて価値を高め、
磨かれていくことに他ならないのである。
今まさに競争激化、生き残りなどのリスク下において
「物流改革・改善」は待ったなしの状態にある。

 

これでいいのか物流改善
 物流改善に取り組んでいるという企業でも、実際には支払物流コストの削減だけで
終わっているところが大半である。
15年ほど前から注目されはじめた物流改善は業者たたきの値下げから始まり、
いまだに大きく変わっていない。
これは企業が物流の重要性を理解していないがために、
本流から外れた人材が行く部署という構図ができていたり、
責任者が2、3年毎に異動する組織では中長期的な絵が描けずに
「目に見える成果」=「支払物流費の削減」、
という思考に起因していると思われる。
 その結果、今では「安かろう悪かろう」の物流にリバウンドしてしまっている。
本来は、中長期的なビジョンと市場変化適応型の戦略の両方を持ちながら、
コストと品質レベル向上のバランスを取ることに力点を置いた、
継続的な改善が必要なのである。
さらに言えば、物流改善の到達点は「自社内」だけではなく、
パートナーとなり得る物流会社、仕入先を選び、
その会社の改善にまで入り込まなければ本来の改革・改善は完成しないのである。

 

万年「遅れた業界」に歯止め
 「物流業界は遅れている」と言われたとしても私はこれを否定できない。
遅れた業界には必ず異業種からの参入者が現れ、業界の革命児となる。
中古車業界におけるガリバー、文具卸業界におけるアスクルしかりである。
 残念なことに未だ物流業界には革命児が現れていない。
しかし、革命児の誕生をただ待っているだけでなく、
業界としての自助独立が必要なのである。
 物心のついた中学生、高校生か将来の職業として
「物流の仕事がしたい」
という人間か果たして何人いるだろうか?
 小学生で「将来、車掌さんになりたい」とか「トラックの運転手になりたい」
と言う子供たちがいてもそれを親が許さない。
ここに問題があり、若者の職業選択や子供たちの将来の夢に
物流業界が入ってこなければ、万年「遅れた業界」のままであると考える。
 これを打破するには、

①多摩大学大学院で進められているロジスティクス経営コースなど物流教育の場の創造
②業界のスター(企業/ヒト)づくり
③マスコミによる「物流」のクローズアップ
④職業としての物流マンの地位の向上などが必要である。

 弊社でも今年から上記の内容を事業として立ち上げる。
このような事業は会社が「できる」「できない」ではなく、
世の中にとって「要る」「要らない」なのである。

 

物流ノウハウの蓄積
物流のノウハウとは一言で言えばヒトにつきる。
ヒトは常に流出するため、蓄積されていかないのが実情であり、
これは企業や業界、さらに言えば国家にとっての損失である。
 一つには企業の組織・人事体系として、特に大企業で、
先進かつ高いレベルのノウハウを習得しても2、3年後には出向・異動となり、
そこでノウハウの蓄積が途絶えてしまうのである。
金融機関や調理士などといった職種は異動することでノウハウが蓄積されるが、
物流業界はそうではない。
これからは企業財産として物流のスペシャリストを育成、確保しなければならないのである。
実務に強く、かつマーケティングを習得した物流マンの質の向上と量的拡大が
強く求められているのである。
しかしながら、物流の情報・知識の明文化という視点からは
業界に関する書籍は多く出版されているものの、
「大企業ならばできる」という内容が大半であり、
その多くは中堅・中小企業の現場にあてはまらない学術書となってしまっているのが
実態である。

 本書では、物流企業の改善事例を多く載せることで中堅・中小企業の現場で
今すぐに役立つものとした。
この本によって一社でも多くの企業で真の物流改善が進むことを願うものである。
青木正一