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第2回 事例で学ぶ物流改善:『大手路線業者A社の営業マン研修』《後編》

主に中小規模の荷主企業やトラック運送会社をクライアントとして、物流現場の泥臭い改善を数多く手がけてきた日本ロジファクトリーが、具体的な事例をもとに物流改善のノウハウを解説する。今回は前号の後編として、大手路線業者を対象に行った物流業者の営業マン研修を紹介する。


総勢100人以上に上る物流コンサルタントを育成する。
それが大手路線業者A社向けコンサルティングの第一ステップだった。そのために実施した計12回の指導(研修)を通じて出席人数の増減はほとんどなかったが、途中、参加メンバーの交替は発生した。
前半から興味を持ち、積極的に参加していたメンバーは、最終回まで輝いていた。次のステップに研修を進める前に、嬉しい報告があった。
石田センター長のグループが、コンサルティング案件を800万円で受注したという。しかも、上場企業のコンサルティング会社をコンペで破っての受注であった。勝因を聞くと「物流コンサルタントの名刺を出すと先方が様々な物流関係の情報を開示してくれた。そのお陰で納得のいく提案ができた」という。
このコンペの担当者となった石田センター長グループの参加メンバー4人全員が、私と約束した通り、名刺に「物流コンサルタント」と印刷してくれていた。
研修を第2ステップに進めるにあたって、彼ら石田センター長のグループの4人ほか、本社システム部を中心に計12人の選抜されたスペシャルチームが編成された。このチームを相手に、研修形式から会議形式にシフトさせて実践指導を行った。テーマは図1の通りである。

2003年2月■大手路線業者A社の営業マン研修●図①
決算書の読み方
第2ステップは「実際の案件にどのように対応するか」ということ、そして「経営や生産、販売から物流を見る」ことに力点を置いた。結果として、基本的な「財務データの読み方」が、収穫の大きいものとなったのは以外だった。
彼らは選抜された精鋭たちではあったが、そうした経験を持っていなかった。研修では実際に「最近、3PLで受注した上場大手小売業の決算書」と「有価証券報告書」を配布して、物流費はどこにあるのか、物流関連の資産はどこにどれくらいあるのか、今後の物流関連の投資はどのように計画されているか、などを慣れない情報源から拾い上げていった。
例えば、あるクライアントの決算書には図のような情報が記載されていた。このような数字をチェックしながら、その詳しい内容や情報を担当者メンバーと擦り合わせていった。分析は借入金とその内容から与信管理にまで広がっていった。こうして決算書だけからでも、かなりの情報を得ることができる。
「情報は求めているところに集まる」「情報は出せば出すほど集まってくる」—これはコンサルティング業の鉄則である。
第2ステップの指導も中頃になって、テーマの仕切り直しの必要に迫られた。精鋭メンバーの中にも指導についていけない社員が数人でてきたのだ。
路線会社の雄とされるA社といえども、24回の物流コンサルタント養成カリキュラムを消化するのは難しかった。
そこで山村氏と改めてミーティングを行った。今回我々の指導で、A社の営業スタイルは従来の方法が65%、日本ロジファクトリーから導入した新たな物流コンサルノウハウの注入が35%という状態になっていた。完全移植ではなく、部分移植というわけだ。これをA社の営業の最前線で直面している案件に活かし、実際に案件に繋げようという狙いを立てた。仕切り直し後のテーマは次のようになった。

①受注するためのツール
②営業活動の方法(スケジュールの決め方、手帳の使い方など)
③キーマンの見つけ方
④アポイントの取り方
⑤名詞の利用方法
⑥商談のすすめ方
⑦交渉の進め方
⑧営業マンの考え方
⑨既存売上の守り方

提案営業の現場に出る
これをOJT形式で進めるのだ。こうした売り上げ拡大に向けた施策と共に、経費を下げるという両輪での整理も必要だった。そこでA社における役職別に業務分担を決定していった。
本社は販促キャンペーン、店長は顧客のトップまたはキーマンへのアプローチ、係長は車輌拡張の手配といった具合である。
荷主企業への提案には私を含めた日本ロジファクトリーの他のメンバーも参加した。A社の抱える農業資材メーカーC社の案件で、我々に導入コンサルティング、調査、分析と改善提案、報告書の提出まで、一貫して手伝って欲しいという依頼だった。
C社は「コストダウンを前提としたアウトソーシングの実施」を要請していた。また、リストラの一環として既存のC社の物流スタッフの受け入れも求めていた。
A社はC社とは以前から取引があった。しかしメーンの協力会社ではなく、路線業者としては三番手に位置していた。そこに第1ステップの物流コンサルタント養成指導を受講したA社の堀営業課長が提案を持ち込み、最後に本社のシステム部も加わってコンサルティングの受注にこぎ着けたという案件だった。我々にとっては、少々やっかいな流れであった。
ファーストアプローチ、セカンドアプローチまでに参画していない我々には、先方のニーズや狙い、それに至る背景や微妙なニュアンスが理解できない。その結果、改善提案がぶれる可能性がある。しかし、今回はA社スタッフの情報収集力を信じて対応するしかない。
早速、我々側でプロジェクとメンバーを編成し、我々の名前と「委託コンサルタント」という肩書き刻んだA社の名刺を作成してもらった。
調査初日、A社と日本ロジファクトリーのプロジェクトメンバー15人は、C社の西日本センターに入った。当センターは地場の物流会社の倉庫を賃借したものだった。二層式で延べ300坪という規模のセンターだ。
現場調査の第一歩は「挨拶と整理整頓」である。残念ながら、挨拶のできない現場であった。またセンター内に入るとまず、照明の暗さが印象的であった。その他、ロケーション、レイアウトの悪さによる人員動線、棚番地、事務所内における受注人員の多さなどに課題が見られた。
1週間後、栃木にあるC社の東日本センターも調査した。うだるような暑さで、センター内の温度は40℃を超えていた。汗でズボンがまとわりつく。
この東日本センターでは西日本とは全く別に独自のオペレーションを行っていた。ロケーション設定のルール、適正在庫の設定などが統一されておらす、非効率であった。梱包材の規格も西日本とは違っていた。
C社の現場には物流という概念がなかった。専門の部署も責任者もいないことは現場を見れば明らかだった。
センター見学の帰途、最寄駅前のコーヒーショップでプロジェクトメンバーと大枠を擦り合わせた。その数日後、A社の本社でプロジェクトミーティングを行った。ここで「①仮説出し」「②報告書目次内容」「③分析作業」の役割分担を決定した。
A社がC社から包括的アウトソーシングを受注するには、従来よりもコストダウンできる運賃タリフを提示する必要があった。
一般に路線会社が他社の運賃データをもらって、自社に移行した場合のシミュレーションを行うには莫大な手間と時間がかかる。1つひとつ自社のタリフに落とさなければならないからだ。しかし避けては通れない作業であった。
運賃シミュレーションと情報システムをA社が行い、ロケーション設定、適正在庫の設定などの倉内作業改善と受注業務改善などの他の分析を日本ロジファクトリーが担当することになった。報告書作成に与えられた期間は1ヶ月半だった。
20日ほど経って、中間擦り合わせでA社の本社を訪れた。分析作業の進捗状況を確認し合った。我々は新人を社内作業で投入したこともあり、若干スケジュールより遅れていた。が、A社の運賃シミュレーションは、さらに遅れていた。
当初計画していた人工数と実際の作業量に大きな開きが出たためであった。双方ともラスト7日で追い込みをかけ、何とか改善提案書が完成した。
報告会当日、C社の最寄駅にプロジェクトメンバーが集まった。全員が疲労困憊の状態であった。C社でさらに営業の堀課長と合流し、会議室に通された。C社側は専務、常務、取締役、参与など、7人の出席者であった。

プレゼンテーションの実際
まずA社のシステム部から伝票発行のパッケージシステムをPRし、改善提案の報告に入った。私からは報告作成に至る情報収集、現場調査などの経緯を説明し、質疑応答は最後に時間を取りたい旨を伝えた。
約120ページにわたる報告書を「総評」、「調査分析結果」、「改善実施項目と優先順位」、「具体的改善の進め方」という目次に沿って説明した。
後半、我々のスタッフに疲れが出てきたので、私に報告をバトンタッチ。最後にA社から新タリフを提示した。いよいよ質疑応答の時間である。2〜3分であるか、長い沈黙があった。嫌なムードが漂っていった。
その後、専務が口を開いた。「よくこれだけの短時間でここまで調べてくれましたね」。重苦しかった場が、急に明るくなったように感じた続いて参与から、A社へ新タリフの確認があった。その辺りで、C社から出席しているメンバーは物流の現状と実務について、ほとんど知識のないことがわかった。
いきなり分厚い報告書が出てきて、自社を詳しく調べ上げているのに驚いているといった様子だ。C社にすれば最終的にはA社に仕事を丸投げすればいいという開き直りがあったのかもしれない。最後にC社の常務から、「この報告書の内容を社内でもんでみます」という返事があった。
それから1ヶ月後、「質問会」を開き、A社はアウトソーシング受け入れの準備に入った。我々は、ここでプロジェクトメンバーから離れた。
約2ヵ月後、プロジェクトリーダーからC社の進捗を聞いた。物流人員の受け入れで、待遇面その他の調査に時間がかかっているものの、実取引額は順調に増えてきているという。ただし完全な移行にはあと3〜4ヶ月はかかりそうだとのこと。私はほっと胸をなで下ろした。
このOJTを振り返って見ると、A社が我々をうまく部分起用して、使われるのではなく、主体性を持って「使った」点は成功であった。しかし、実務改善をA社のアセットとアウトソーシングでカバーするC社の丸投げの姿勢には懸念が残った。経験上、アウトソーシングでカバーするC社の丸投げ姿勢には懸念が残った。
経験上、アウトソーシングの本当の成果は1年から一年半が経過しないと表れてこないものだ。完成度としては60点と評価している。
* 文中の個人名は全て仮名です。