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第14回 事例で学ぶ現場改善:『社内の共通言語を作る-青果物卸A社』

青果物卸のA社。売上高は順調に伸びているものの、それ以上に物流費が増加していた。現状に問題があることは社内の誰もが認識していた。しかし、具体的な課題を社内で共有する仕組みがなかった。新しい商品マスターを作り、それを共通言語として情報を共有化することが改善の第一歩となった。


根本的な問題はどこにあるのか

生鮮野菜・果物を扱うA社は量販店や外食店を主な顧客としていた。年商は約100億円。
同業他者ではあまり扱わないカット野菜やグラム単位・本数単位での小分け作業を得意として業績を伸ばしていた。さらに今後3年間で売上規模を倍増させる計画も立てていた。課題は物流だった。
「今までにも自社で物流改善はやってきたが、物流費は上昇するばかりで一向に削減できていない。これ以上の物流改善を行うためには、外部の力を借りるしかない」。
そう考えたA社の社長本人から弊社に直接電話があった。社長が弊社の改善事例の掲載記事をたまたま目にしたことがきっかけだった。
私は早速アポイントを取ってA社を訪問し、詳しい内容を聞いた。A社の社長が認識している問題点は次の3つであった。

① 納品先の量販店・外食店とも店着時間が午前5時から8時に集中しているため、出荷作業場が大変混雑している
② 同時店着が必要な店舗が多いため、車両の効率化が図れない
③ 小分けのピッキングを人海戦術で対応しているため、多大なコストがかかっている

社長の話からは、なんとしても物流費を削減したいという気持ちが感じ取れた。私としても期待に応えたい。すぐにでも現場を見学させてもらえるようお願いした。しかしA社の物流現場は卸売市場の中にあり、作業のピーク時間は午前4時から午前7時だということだったので、見学は日を改めることにした。
実際に現場に赴いたのは、まだ夏の日差しが残る8月下旬であった。深夜の午前2時にA社で待ち合わせをした。案内役として作業内容の説明をしてくれたのは、A社物流部の田中マネージャーであった。一通り見学させていただき、私はA社の問題点を次のように認識した。

① 商品の品質チェックがされていない。
商品の入荷検品が行われていない。
商品が入荷される時間帯とA社の従業員が出勤してくる時間帯とが違っているため、ドライバーが勝手に商品を降ろして帰ってしまう。そのため入荷された生鮮品が8月下旬の暑さの中で、しばらく入荷場に放置されているという状態だった。
また出荷の際に品質をチェックすることもなかった。つまり品質のチェックが事実上、行われていなかったのである。もっとも、これはA社に限ったことではなく、それが青果卸の現状のようであった。

② 担当マネージャーを含め、全従業員が作業員になってしまっている
業務全体を把握し、作業員に指示・命令を行うべきマネージャーまでも、作業量の多さから一作業員になってしまっていた。納品した商品の品質に対してクレームが発生した場合、その納品先への出荷商品だけを1週間から2週間の期間限定で全商品チェックしていた。その作業がマネージャーの仕事になっていた。

③ 商品のロケーション管理ができていない。
冷蔵庫での保管商品や出荷場でのピッキング待ちの商品など、商品のロケーショ管理ができていなかった。どの商品がどこにあるかは担当者の経験と勘だけで判断していた。当然、作業に慣れていない従業員には商品を「探す」手間が発生していた。上記内容を田中マネージャーにぶつけてみた。すると問題点として認識はしていたが、日々の作業に追われてなかなか改善できないでいたということであった。
A社の社長が指摘した物流の問題点についても、田中マネージャーは社長と同じ認識を持っていた。問題を認識していながら改善できないとういことは、何か他に原因があるはずである。「改善するためにはどうしたらいいですかねぇ?」私は素直に田中マネージャーに尋ねてみた。
「作業時間が重なってしまうのはある程度仕方ないことだと思っています。ですが、『このお客様にはここに保管してあるこの商品を出荷してくれ』という指示が営業担当者から出されるケースもあるのですが、その保管場所に商品が無いため、商品を探す手間がかかったり、どの商品がいつどこから入荷されるかが分からないため、出荷の事前準備ができないといったことも作業を遅らせている原因だと思います。営業には何度かお願いしたのですが、一向に改善されない。今ではこういうものだと、あきらめて仕事しています」とのことであった。

弊社では物流改善を行う際、現場見学とともに必ず行うことがある。物流部の担当者の他に、経営者・営業担当者・受注担当者・システム担当者などにもヒアリングすることである。
その理由は、「物流は受注から始まる」からである。物流とは指示された内容通りに間違い無く作業を行うことが最大の使命である。そのために物流部だけで物流を改善できることは少ない。むしろ物流部にどのような指示を流すかという、受注プロセスの改善によって、物流部の作業が飛躍的に改善されることの方が多い。営業部を含む他部署の協力があって初めて物流改善は可能になる。物流改善=全社テーマなのである。
この原則に則ってA社でも経営者を始め様々な部門の担当者に対してヒアリングを実施した。その結果、予想通り現場見学だけでは分からなかった問題点が浮かび上がってきた。全担当者が共通して認識しているA社の強み・弱み・今後の課題は次の通りであった。

(1) 強み
・お客様の要望に応えることのできる集荷力
・野菜の原体だけでなくカット野菜や本数・グラムでの小分け作業への対応力
(2) 弱み
・同じ会社であるにも関わらず、各部署が別の会社のようになってしまっており、情報が共有化されていない
(3) 今後の課題
・商品に対する品質の強化

今後A社が生き残っていくためには品質の強化が不可欠であることを全員が認識していた。しかし、前述の通り日々の作業に追われてしまっているため、改善に手が付けられない。加えて全社的なコスト削減活動の一貫として物流部でもパート・アルバイトの人数が減らされたことで、品質チェックがよけいにおろそかになっていた。

商品マスターの不備
現場見学や各担当者へのヒアリングを実施した中で、一つだけ気になったことがある。商品の廃棄についてである。
入荷された商品がしばらくの間、そのままの場所に放置されていることに加え、商品を冷蔵庫から出して出荷するまでの時間もかなりかかっていた。それだけ品質の劣化による商品の廃棄が多いのではないかと推測した。
実際、出荷作業の途中で、品質劣化が起きている商品を廃棄する光景も見た。生鮮野菜・果物を扱っている以上、商品の品質劣化は避けられない。どんなに品質チェックを強化してもゼロにはならないであろう。そして売り物にならなくなった商品は廃棄せざるを得ない。そうだとすれば廃棄量および廃棄率が管理できなければ、青果物の商売は儲からないはずだ。ましてや商品の品質強化などできるはずがない。そこで「商品の廃棄量はどれぐらいありますか?また廃棄率はどれぐらいですか?」と田中マネージャーに聞いたが、「分かりません」という返答であった。なぜ分からないのか重ねて尋ねると、そもそもA社では商品別の粗利しか管理していないとのことであった。
しかもこの場合の「商品別」とは、「大根」や「きゅうり」という意味だった。お客様からの注文=出荷の単位は「栃木産の大根」や「サイズは2L」など産地や規格が指定されている。事実上のカテゴリー単位でしか管理していないということだ。
商品の在庫数量の把握もできていなかった。仮に従業員が商品を盗んだとしても分からない状況であった。田中マネージャーは続けて説明した。「単品単位で商品マスターが設定されていない方が営業や他部署としても都合がいいんじゃないですか?商品マスターを設定する手間もかかりませんし、大根、
きゅうりといった単位の粗利でしか評価されないのですから、何とか調整も効きますし」問題の本質が分かった。
単品単位で設定されていないA社の商品マスターに全ての課題が集約されていた。複数の担当者が商品マスターを設定しているため、同じ商品マスターで複数の商品が存在していた。結果として出荷指示書には同じような商品名のものがいくつも表示されるようになっていた。
現場見学でも、同じものとしか思えない商品名が1つの出荷指図書に5つも表示されているものがあった。これらの商品が全く違う商品であるかというと、そうでもない。逆に別の商品名で登録されていても全く同じ産地、等級、規格、生産者というケースも多い。
このような出荷指示書を従業員の経験と勘で処理しているのが実状であった。この商品マスターの問題については、A社としても、それまでに何度か対策に乗り出していた。しかし、解決はできていなかった。
単品単位で商品マスターを設定するとなると、同じ産地でも生産者が違えば別の番号を振らなければならない。さらに産地、等級、規格、生産者別に単品単位でナンバーを振るとなればマスターの数は膨大になる。受注処理も、必要とする商品マスターを「探す」手間が増える。その結果、業務が非効率になるという危惧が、商品マスターを設定しない理由の一つになっていた。
実際、顧客からの注文には「静岡産のみかんが無ければ愛媛産のみかんでいいよ」といったラフな指示もあり、単品単位で商品マスターを設定すると修正の手間が増えてしまうケースも少なくなかった。しかし、単品単位で商品マスターを設定することのメリットもあるはずだ。具体的には次のようなメリットが期待できた。

①単品別の廃棄量及び廃棄率が把握できる
→商品ロスの原因を分析することができるようになり、対策を打てる
②商品の単品別の売上金額が把握できる
→各商品の販売傾向を“数値”で捉えることができるため、販売戦略への展開が容易になる(共通言語で話せる/判断しやすくなる)
③従業員の経験と勘に頼っている作業の標準化が図れる
→パート・アルバイトでの対応も可能になる。人件費の削減につながる
④発注作業が自動化が可能になる
→人件費の削減につながる
⑤商品の入荷予定表の出力が可能になる
→事前準備が可能になり、作業の効率化が図れる
⑥営業担当者が手書きしている出荷指示書が必要なくなる。
→営業担当者がより営業活動に注力できる。

以上のことから、単品単位での商品マスターを設定することがA社の物流改善には必要不可欠であると判断した。

品質管理部を新設
これらの内容を踏まえ、弊社がA社に提案した具体的な内容は大きく次の2つである。

1.品質管理部門の設置
A社における品質管理の強化は、経営者を含め全部署の担当者が今後生き残っていくめには必要だと認識していながら、手がつけられない状態になっている。そこで新たな部署を設置することを提案した。組織としては、営業部・物流部と並列的な関係として設置することとした。(図1)

2004年2月■第14回●図①
専属で人員を配置することになるため短期的に見るとコストアップ要因になってしまう。しかし中長期的にはコストダウンを実現できることを強調した。
お客からのクレームが減らすことで、今までクレーム対応品として送っていた商品の配送費は大幅に削減できる。また、A社が品質に対して力を入れていることは、A社の強みとして営業ツールにもなると
考えた。問題は、誰を品質管理部の担当者に起用するかだった。
本来であれば田中マネージャーに担当してもらうのが妥当だが、それでは今までと何一つ変わらなくなってしまう可能性がある。というのもA社では今まで営業ができない社員を物流部に配属するという傾向があった。そのため組織図的には営業部と物流部とは並列の関係だが、社員の意識の中では営業が上、物流が下だったのだ。品質管理部に求められるのは、①お客さまの求める品質をしっかりと理解し、
②A社から出荷した商品はお客様で検品しなくても大丈夫、という体制を作ることである。これを満たすためには、物流部からではなく、一時的でも営業担当者、しかも営業のトップを据えることで、営業部へのにらみをきかせるとともに、“花形部門”としてのイメージを持たせる必要があった。

2.商品マスターの整備
前述の通り、商品マスターの整備はA社にとって過去に何度か試みては失敗しているテーマだった。
私としても単品単位で商品マスターを設定することのデメリットは十分理解したつもりだ。それでもやはり今後、A社が生き残っていくためには、品質の管理と同様にマスターの整備が必要だと判断した。
マスターを整備することのメリットは、①物流現場の作業効率を上げて、コスト削減を実現できること、②社内の全部署が同じ商品マスターで同じ商品をイメージできるようになること、③過剰在庫商品や廃棄率の高い商品などの商品情報を単品単位で把握できること——などだ。いずれも不可欠な機能だった。なかでも、全社的な共通言語を作ることは最も重要なテーマだ。
単品単位での商品マスターは社内の共通言語として機能する。一つの商品マスターが一つの商品を意味するようになれば、商品の廃棄率や、在庫の回転率などを単品単位で正確に把握することができるようになり、全部署で問題点を共有化できるようになる。ただし、これを実行するためには、メリット・デメリットをA社に伝えた上で、なぜそれが必要なのかを全部署に理解してもらわなくてはならない。
商品マスターの整備は全部署に関わる問題であり、それによって大きな負担のかかる部署も出てくるからである。弊社の提案は基本的に全て受け入れられた。
A社社長からは、「御社の提案は今まで何度も自社で行ってきたが、出来なかったことだ。自社で出来ないために御社に依頼したのだから、プロジェクトメンバーとよく話しをした上で必ず実行して欲しい。またプロジェクトメンバーはこちらで選定するが、会議には全メンバーが参加するようにして欲しい。やりにくいことがあれば私に相談してくれれば、私から直接指示を出すようにする」というお言葉を頂いた。
改善を開始してから約二ヶ月が経過した。計画通り、品質管理を担当する部署が設置された。
組織としては物流部と並列の関係で、共に営業部の中に組みこまれ、それぞれ物流課、品質管理課となった。(図2)

2004年2月■第14回●図②

担当者は田中マネージャーの他にプロジェクトメンバーとしてA社の全部署から一人ずつが選定された。営業に睨みの効く実力者をプロジェクトリーダーに据えるという弊社の当初の提案とは違いが出たが、これはプロジェクトメンバーともよく話しあい、私も納得した上での決定である。
営業部の中に品質管理部と物流部を組み入れた理由は、お客様が求める品質を営業部が品質管理部及び物流部に伝え、指導できるようにするためである。最終的に営業のトップが品質管理部門の責任を持つという点は狙い通りだ。商品マスターの整備は長期的な課題として捉えている。今までに何度も頓挫しているだけあって、思うように進んでいないのも事実である。しかし根気強く必要性を説くことで、徐々にではあるがプロジェクトメンバーの考えも変わってきている。時間はかかるが、不可能な課題ではない。
必ず成功させる。A社における問題点、それは「共通言語(単品単位での商品マスター)」が存在しないことであった。そのため、各部署がそれぞれの言葉=必要とされる商品の単位でしか物事の判断が
できなくなっていた。これが結果として物流改善を妨げる一番の要因になっていたのである。このことに気付いたA社は社内の共通言語となる単品単位での商品マスター作りに着手し始めた。この行動は必ずA社を飛躍的に発展させる要因になると信じている。

皆さんの会社でも同じようなことが起きてはいないだろうか。一度確認してみて欲しい。