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第16回 事例で学ぶ物流改善:『チェーンストアY社のスピード改革』

中堅ディスカウントストアのY社は、物流改善プロジェクトを実施するに当たって、2つのコンサルティング会社を同時に利用した。異例のことだが、結果は正解だった。Y社はスタイルの違う両コンサルティング会社から多くのノウハウを吸収できた上、改革のスピードも速まった。


トップダウンの現場改善

Y社は首都圏に八店舗をドミナント展開している総合ディスカウントストアだ。約1万3000のアイテムを扱い、品揃えと安さで顧客の支持を得ている。
Y社は当社がコンサルティングに入る三年前にも全社的な物流改革を実施していた。マテハンメーカーの主導で、外部の物流コンサルタントも使った本格的な取り組みだったが、期待したような成果を上げることができなかった。これを教訓として改めて第二次物流改革を進めることになった。社内のプロジェクトチームと当社のほか、もう一社、当社とは別のコンサルティング会社も活動に加わった。
私はコンサルタント歴15年になるが、テーマの違うコンサルタント会社が複数入ることはあっても、物流という同一テーマで2つのコンサルティング会社を並行して活用するというケースは初めてだった。
改革に対するY社の意気込みを感じた。社内プロジェクトメンバーの選抜にもそれは表れていた。仕入れ・商品・店舗・物流センター・情報システムの各部門から、現場の第一線にいる課長代理クラスの若手のホープをメンバーに引き抜いていた。こうした人選からY社の現場を重視する姿勢を窺うこともできた。
実際、Y社の社長や専務の現場認識と物流ノウハウの高さには舌を巻いた。その後の活動でも、よく現場を掌握している経営陣と、現場第一線の若手との具体的な改善方法や解決策のやりとりは、まさに「全社一丸」と呼ぶに相応しいものであった。
改革プロジェクトの基本的な流れは、コンサルティング会社2社と社内プロジェクトチームの3つの組織が共同で現状の調査・診断を行った上で、3ヶ月後に物流改革案をトップに提示するというものであった。もっとも、Y社は正式にプロジェクトを開始する以前の、我々コンサルタント会社が営業プレゼンテーションを行っていた段階から既に次のような改革に着手していた。

a.通路別納品(売り場)
b.運行スケジュールの変更(配送)
c.センターでの出荷・入荷バースの変更(荷受・配送)
d.自動発注ルールの改善(発注)
e.ピッキング動線の改善(出荷)
f.「緊急商品」のマーキング(店舗荷受場)
g.単品スキャンの徹底(入荷検品)

順に説明する。
まず「a.通路別納品」について。それまでY社ではセンターから店舗に供給された商品を、到着順に陳列するという形をとっていた。そのため店舗のどこかで一日中、陳列作業が行われている状態で、来客者の購買活動を阻害してしまうことが少なくなかった。
加えて店員は陳列をしながら接客する必要も出てくるため、陳列作業の能率が上がらず、店舗バックヤードに滞りを発生させていた。そこで、店舗のレイアウトに沿って通路別に納品する体制に切り替えた。この通路別納品の導入により、店舗では特定通路に集中して陳列作業ができるようになり、作業効率が向上。店舗のバックヤードの滞りを解消した。同時に円滑な接客が可能となった。
「b.運行スケジュールの変更」は、センター側と店舗側の納品時間の設定と伝達に差が生じていたことから抽出した。
店舗毎に30分単位の納品時間を設定し、比較的客数の少ないアイドルタイムに納品トラックが到着するようにスケジュールの組み直しを行った。
「c.センターでの出荷・入荷バースの変更」は、比較的実施の容易なテーマであった。Y社のセンターは車両への積み卸しを行うバースが建物の片側だけにある構造になっていた。そのため出荷車両と到着車両がかち合って混雑することが多かった。
具体的には店舗配送の出荷バースがプラットホームの一番奥に設置されていたため、大型車両の入荷があった場合、スムースに出発できないという事態が生じていた。そこで出荷バースと入荷バースの位置を入れ替えた。
「d.自動発注ルールの改善」では、店舗側での陳列作業を簡素化させるために発注のバッチ数を減らし、一回当りの納品数を多くした。
センター内作業を調査したところ、少量多頻度の出荷作業の負担が大きく、作業を長時間化させている元凶になっていることが分かった。そこで売り場での欠品が発生しないことを大前提として、バッチ処理の回数を減らした。これによって店舗側でも陳列作業を集中的に行うことができるようになった。
「e.ピッキング動線の改善」もセンターの改善としては、基本的なテーマであった。センターのピッキング作業の動線が一方通行のジクザグになっていた。ピッキング開始地点と終了地点を結ぶ動線がU字型になるように保管レイアウトを変更した。これによって大幅な作業効率の向上が実現できた。
Y社に限らず、マテハンを中心にセンターのオペレーションを設計したセンターに、こうした動線のムダはよく見られる。マテハン設備の動きと配置を重視する余り、人の動きに対する基本的な配慮が欠落してしまっているのである。
「f.緊急商品のマーキング」は、Y社の社長の提案だった。店舗からの「緊急商品」には、それと分かる印をつける。具体的にはオリコンに赤のテープを張る、というシンプルな方法だが、気づきと知恵の改善と言えるであろう。現場スタッフ、特に出荷スタッフが「緊急」の認識を持って作業に当たるようになった。
「g.単品スキャンの徹底」は、検品作業を担当するパート社員の作業ルールの問題だった。センターではハンディターミナルで商品バーコードを一つひとつ読み込むスキャン検品を行っている。しかし、同じ商品が複数ある場合に、一つの商品をスキャンして、後は個数を手入力しているパート社員が少なくなかった。そのため実際の入荷数と差異が生じていた。同じ商品でも一つずつスキャンするルールを
徹底した。プロジェクトが本格的に開始される以前に着手していた改善項目は以上のような内容であった。
実はこれらの改善の大半はY社の社長・専務のトップダウンによるものだった。その後のプロジェクト活動でも、社長・専務はミーティングに直接参加することはしなかったものの、我々コンサルタントのプレゼンテーションやPJのキックオフミーティング、中間報告、社内PJミーティングの報告など、節目となる場所には必ず姿を現し、議論に注意深く耳を傾けて、その場で的確な指示を出していた。「物流改革はトップダウン」と再確認させられる場面だった。

在庫管理部の発足に賛否両論
プロジェクト開始から中間報告までは、約2ヶ月間をかけた。その後も我々コンサルタントと社内プロジェクトメンバーは週一回のペースでミーティングを行った。
このミーティングは双方にとって非常に有意義なものとなった。Y社プロジェクトチームにとっては最終的に経営陣に提案する改革案を検証し、すぐに実施に取りかかれるレベルまで練り上げるための手助けとなった。当社にとっても、当事者の意見を聞くことで、より現場のニーズにあった改革手法を選択することができた。こうした合同ミーティングを一ヶ月間計4回行った。そして最終報告で提案した大テーマは以下のとおりである。

1.在庫商品の見直し
2.店舗発注と補給陳列作業の改善
3.入荷・入荷検品の改善
4.保管、ピッキング、仕分の改善
5.直納品の納入形態の変更
6.店舗配送の見直し
7.物流管理指標の設定
8.評価基準の見直し
9.取引先との取り組みの強化

「1. 在庫商品の見直し」の内容は、①店舗商品改廃基準の見直し、②Y社のセンターで一定量の在庫を保有するDC商品と、在庫を持たないTC商品の区分の見直し、③在庫管理部(在庫アナリスト)の発足である。
このうち最も大きな議論になったのが「在庫管理部(在庫アナリスト)の発足」であった。実際、在庫管理部の創設は様々な企業で試されてはいるものの定着はままならない状況である。その原因として、在庫管理部の役割がいわゆる横割りで、組織の業務範囲を明確するのが難しいこと、また在庫管理部のスタッフに求められる適性を持った人材が見つけにくいことなどが挙げられる。以下にその適性の一部を表す。

イ.(できれば)仕入れ、売場、センター等商品の通過する全ポジションの職務経験がある人
ロ.イの代替案としてそれに準ずる知識と現場掌握ができている人
ハ.データ加工、分析力のある人
ニ.現場至上主義でデータを疑い、検証できる人
ホ.部門間を越えたコミュニケーション力と進言ができる人
ヘ.執行管理能力の高い人

加えて組織の問題もある。通常、在庫管理部は商品部や物流部に属されることが多い。しかし、在庫は仕入れ、店舗、商品、物流、情報システムといった商材の流れ全てと連動する。それらの縦割り組織に対して中立的で、かつ対等な発言力を保証するだけの権限と責任を持たせなければならないのである。議論を呼ぶのも当然と言えた。

フローラックは不採用、DPS は採用
「2. 店舗発注と補給陳列作業の改善」は、①販売数と陳列数に合わせた発注基準の設定、②部門別の発注頻度と時間の設定、③自動補給指示の平準化という取り組みによって構成される。このうち②の「部門別発注頻度と時間の設定」では、店舗側に画期的な結果をもたらした。カテゴリー、売場通路、棚数、アイテム数から、それに対する補給回数を算出し、アイテム別の発注点割り出した。
その結果を先に改善済みであった通路別の商品陳列と組み合わせることによって、通路ごとに陳列時間までの在庫数を設定。過剰在庫の発生を阻止することができた。
「3. 入荷・入荷検品の改善」の内容は、①納入台数のコントロール、②入荷バースのレイアウト変更、③作業フローの改善、④検品の改善、⑤入荷検品精度の向上である。小零細企業も少なくない。請求書の内容と実際に納品された商品が違うといった誤納品の問題には長年頭を痛めてきた。そのためマテハン機器を活用した納品精度の向上に従来から取り組んでいた。その一つが商品の重さを測って納品内容を確認する重量検品システムだった。センターに納品される全ての商品に同システムを適用していた。
しかし、重量検品は加工食品や日用雑貨品など、全く同じ規格で大量生産された商品には効果的であるものの、サイズや商品による重量差の少ないアパレル製品などには適していない。そこで重量検品に適さない商品だけスキャン検品に切り替えることにした。これにより入荷検品後の作業フローは変更を余儀なくされたが、大きな混乱は生じなかった。
「4.保管、ピッキング、仕分の改善」の狙いは、①ピッキング効率の向上、②ピッキング精度の向上、③棚入れ作業の効率化、④保管、ピッキング機器の改善、⑤梱包方法の改善、⑥その他である。
最も議論を博したのは機器の改善の部分であった。先入れ先出しを重視する我々は新たにフローラックの導入を強く勧めた。しかしY社の社長、一般的な中量ラックを有効活用することを望んだ。実はY社では過去にフローラックを導入したものの、うまく使い切れなかったという失敗経験があった。最終的にはY社の意見に譲ることになった。
確かにフローラックはピッキングしやすいというメリットがあるが、一般ラックより広いスペースを要する。そして一般のラックが一台平均一万円前後であるのに対し、フローラックは一台平均五万円と割高だ。保管効率、投資効率を重視することにした。
次にY社が関心を示したのがデジタルピッキングシステム(DPS)の提案と、そのロケーションレイアウトであった(図1)。

2004年4月■第16回●図①

Aランクの商品のみをDPSとし、ゾーンレイアウトで運用するというものだ。
DPSの導入により、12名の人員が削減できるというシミュレーション結果も出ていた。これについては、現在前向きな検討に入っている。
その他のポイントとしては、ピッキングミスの削減を目的とした「カラーコントロール」の導入があげられる。ピッカーに対して要注意商品や破損しやすい商品に対する注意をうながすために、ロケーションカードや棚箱の色に変化をつけたのである。参考までに人間工学的によると、人間が識別しやすい基準は(1) 色(2)記号(マーク・図柄)(3)数字(3 ケタ)(4)文字の順だという。
私は常々、「理想のセンターは店舗である」と考えている。通路幅、建物内の明るさ、上記のような識別表示等々、いずれも店舗レベルに近づけることで、より良いセンターになっていく。もちろんコストが課題になるため、全てを店舗レベルに近づけることは難しいだろうが、改善のヒントは大いにある。

納品時間帯を整理
「4. 直納品の納入形態の変更」の内容は仕入先への納入形態変更の働きかけである。後でも触れるが、Y社は仕入先ごとにバラバラな納品形態をそのまま受け入れていた。店舗でもセンターからはオリコンで納品されるに対して、ベンダーから直接納品される分に関してはケース、オリコン、その他と統一されてなかった。
我々は当初、納品形態をオリコンに統一する方向で店舗側と擦り合わせを行った。しかし現場サイドでは直納品がオリコン納品となった場合、むしろ検品に時間を取られてしまうという反論があった。そこで再度検証したが、確かにオリコンへの統一は店舗側に負担がかかるため適さないと納得できた。
「5. 店舗配送の見直し」の内容をまとめると以下の通りである。① 配送運賃契約体系の見直し、②納品時間の予測による店舗物流の円滑化、③積み込み検品の精度向上である。
家具、パソコンなど大型商品を扱う小売業では宅配サービスが定着している。同様にY社も物流子会社を通じて宅配サービスを行っていた。しかし、そのコストは相場とは大きく乖離し、高い料金体系となっていた。そこで市場のプライスリーダー企業の料金を参考に見直しを行った。運送原価を算出し、物流子会社への支払物流費にメスを入れた。
店舗納品作業をスムーズにするために、納品トラックの到着時間を店舗側で把握できる仕組みも作っている。オリコンの店舗ラベルに車両ナンバー情報を追加。車両出発時にドライバーがセンター管理端末の「出発」キーを叩く。これによって、どの車両にどの商品が積まれているかを検索できるようにするのである。これには情報システムの変更と現場運営ルールの変更が伴うため、現在、仕組みを構築中である。また、センターを経由せず、仕入先から直接店舗に納品される商品の受け入れ体制も修正した。これまでは納品時間を14:00〜 16:00までのアイドルタイム2時間と定めていただけで、仕入れ先ごとの納品時間がコントロールできていなかった。これを改めアイドルタイムを複数の時間帯に分け「仕入先別時間帯納品」を導入した。Aランク商品納品の時間による偏りを防止し、店舗スタッフの陳列作業の負担を軽減させたのである。

2004年4月■第16回●図②

パート活用の原則
「7.物流管理指標の設定」の内容は、①物流コスト表による改善効果の追跡、②物流効率指標の設定と運用、③物流品質指標の設定と運用である。
Y社にとって、トータル物流コストの算出は初めてのことだった。同社以外にも、物流改善は行っているけれど、トータル物流コストを算出していないという会社は少なくない。
トータルコストを算出せずに物流改善を行うと、必然的に協力物流会社に支払っている「支払物流費」に白羽の矢が立てられることになる。これではまともな物流改善は期待できない。トータル物流コストの算出は物流改善へのキップである。
そこでY社でも今回のプロジェクトをきっかけに、トータル物流コストを把握し、そこから改善目標を設定することになった。また検品ミス率、ピッキングミス率、納期厳守率、在庫差異率、センター在庫欠品率といった物流管理レベルを算出し、定期的にチェックする体制を整えた。
「8.評価基準の見直し」とは、物流部門における人事評価制度の確立である。② 物流部門正社員の評価方法の見直し、および③パート/アルバイトの人事評価の賃金体系への反映を行った。
Y社に限らず、センターの運営コストの高い会社を調べると、そのほとんどで労働配分いわゆる人件費対作業量に問題が見られる。社員比率が高く、パート/アルバイトの導入が十分ではない。もしくはパートの戦力化が図れていないのである。
パートの有効活用には、正社員とパートとの業務の線引きが重要なポイントになる。パート比率で80〜90%が目安である。残り10〜20%が正社員の仕事になるが、その主たる業務は判断、指示、管理、非常時の対応、改善の立案である。それ以外の業務はパートで運営できる。これは他のサービス業、外食産業と同様である。現場の生産性を上げるには、各パートの仕事ぶりを適切に評価して、信賞必罰を行う必要がある。模範となるパート社員は当然厚遇する。それによってパートによるパートの管
理が可能となってくる。つまり正社員とパートの業務の線引きを改善することが可能になるのである。
「9.取引先との取り組みの強化」の内容は、①EDIの推進、②入庫ノー検品の取り組み、③物流指標による取引先の評価である。

取引先との協働が課題
EDIの導入は、自社内だけでなく取引先の協力が必要になるため長期戦になる場合が多い。仕入先の意識、規模の大小、仕入先から見たY社の取引ウエイトの問題など、課題は多い。しかし、推進のメリットは大きい。EDI によって情報とモノの動きを一致させる“情物一致”を実現することは、流通業の生き残り、活性化、発展に欠かせないと私は考えている。
Y社でも従来からEDI の普及に取り組んできたが、「入荷予定データと納品内容が違う」、「入荷検品実績と請求明細が合わない」といったミスの発生が少なくなかった。仕入先の入荷予定データに信頼性がない、あるいは入荷検品のミスが原因である。
解決策として、これまで入荷可能日を予定日プラス前後数日としていたものを、入荷指定日納品商品以外は納品検品をしないというルールに変更した。仕入先に対して入荷予定の重要度を示したのである。これによって、センター側では入荷処理の業務量を事前に把握することができるようになり、検品精度も高まった。しかし、予定日を守れない仕入先はまだいくつか存在しており、今後さらに強い働きかけが必要である。このことも含めて仕入先と協働(コラボレーション)は同社の今後の最大のテーマだ。
一般に小売業は買う側の強みで仕入先に対しての要請も受け入れられ易いのが相場だが、Y社にはその論理があてはまらない。品揃えと安さを強みとしているがゆえに、極論すれば多くの仕入先に対し、頭を下げて商品をかき集めているといった力関係になってしまっている。このままでは、大きな改善効果は期待できない。そこで思い切って商流(仕入)と物流をはっきりと分けて考えてもらうように発想の転換を促した。
といっても仕入先に物流改革を強制することはできない。まずは「協力レベルでの打診」から始めた。
平たく言えば、現場レベルの折衝に委ねたのである。Y社の若手精鋭メンバーならかならず実行してくれると信じている。これをクリアできなければ、物流改革のみならず強い会社になることができない。
こうして3ヶ月間のプロジェクトを終え、最終報告書に従ったY社自身の改革が始まった。ちなみに2つのコンサルティング会社を使うという異例の方法は、結論から言えば正解だった。
このプロジェクトで当社と同時に入ったコンサルはセンターに張り付き、現場改善中心に課題の抽出を行った。
一方、当社はセンターと店舗の情報交換(受発注)に着目し、商流改善を現場の視点を交えてデータ分析で進めた。
Y社はスタイルの違う2つのコンサルティング会社から多くを吸収した。そして改革のスピードも速まった。