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第20回 事例で学ぶ物流改善:『経営破綻したK物流の再生』

年商に匹敵する借入金を抱え経営破綻したK物流。投資会社の管理下に入り、再生の道を歩むことになった。しかし、現場は荒廃していた。課題を開発し、改善に取り組む以前に、社員に染みついた負け犬根性を払拭し、やる気と活力を取り戻す必要があった。


投資会社の管理下に

K物流は東北地域に基盤を持つ年商300億円、車両台数1500台の中堅物流会社である。K物流は事実上の倒産状態にあった。バブル時代の不動産投資が仇となり、年間売上高に匹敵する借入金を抱えていた。そこに本業の低迷が加わり、ギブアップせざるを得なくなった。投資会社の支援で事業は継続することになったものの、まず債権放棄を行い、借入金を圧縮、関連会社の整理を行った。その後、トヨタ式改善などを行い、総仕上げとして現場レベル、戦略レベルでの改善を行うことになった。
投資会社の管理下に置かれたK物流は改善に時間をかけるわけにはいかなかった。少なくとも半期毎に明確な結果を出すことが求められた。火事場の馬鹿力を出す以外、再生の道はなかった。
現在、K物流の大株主となっている投資会社からの依頼で、我々NLFがそのお手伝いをすることになった。
通常、当社が倒産会社の中身を見ることはない。倒産イコール店じまいというのが従来は当たり前だったからである。時代とともにコンサルティングニーズも変化していることを感じた。
まず投資会社を介してK物流の社長をはじめとした経営陣とプレゼンテーションを兼ねたミーティングの場が設けられた。再生計画が順調に推移していることもあり、彼らは手応えと上昇気運を持っていた。ある程度の業務レベルは持ち得ているとの印象を受けた。
我々は不採算となっている5つの事業所を診断、改善提案を行い、その後事業所とテーマを絞り、実務改善を行うという流れでK物流のコンサルティングに着手することになった。
早速、現地調査に入った。スタートはK物流のお膝元に位置しながら採算の取れていないA事業所であった。現場に入って20分もしないうちに、私はがく然としてしまった。
① 車両が汚い、②電話は鳴りっ放し、③広い敷地内に荷主の破損物が散らかっている。ひどい状況だった。
これまで私が視察した会社のなかでもワーストワンである。これでは破綻するのも当然と思えた。「① 汚い車両」には、ドライバーとその管理者のマインドが表れていた。設備投資を行う余裕がなかったのだろう。ほとんどが古い車両であった。しかし、「古い」ことと「汚い」ことは違う。
良い会社は「車両が古い」→「きれいにして大事に乗ろう」となる。これに対して、K物流は「車両が古い」→「きれいにしたところで同じこと」という考えになっていた。
「② 電話は鳴りっ放し」という状況から、物流業はサービス業であるという基本が欠落していることが伺えた。さらに調べると、鳴っていることはわかっていても電話を取りたくない理由のあることが分かった。
電話の内容は荷主からの荷物の問合せか未着のクレームだった。そしてK物流には貨物追跡の仕組みがなかった。そのため電話を取った担当者はその対応にかなりの時間をとられるだけでなく、最後には怒られることになる。担当者の電話を取りたくない気持ちも理解できた。輸送品質が悪いために全ての品質が低下してくる。悪循環であった。
「③ 広い敷地内に荷主の破損物が散らかっている」のは「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」以前の問題といえた。商品事故の報告が徹底されていなかったため、破損そのものを放置していた。このようなA事業所の状況を目の当りにして正直、大変な仕事を受けたものだと思った。

現実を直視できない
現場視察を終え、所長そして中間管理職のヒアリングを行った。しかし所長は自分たちの現場の状況・実態をほとんど把握できていなかった。
A事業に限らず、他の各事業者も同様であった。なかには我々が視察した現場の状況と全く反対のことを述べる所長や質問に対してピントのずれた回答をしてくる所長もいた。現場を直視せず本社からの「こうあるべき」幻想にとりつかれてしまっているのである。
課長クラスを中心としたヒアリングでは営業、運行管理とセンター業務、事務といった部署からそれぞれ確認作業を行った。彼らにも共通点があった。それは「何をやらなければいけないか」ということ自体は、ちゃんと理解していることであった。理解しているのに実行していないのである。
後のB事業所、C事業所のヒアリングから分かったことだが、K物流には全社的に「やりっ放し」「作りっ放し」の体質があった。「徹底」することを教育訓練されていなかったのである。我々にとっては最も手強い相手である。
一般に現場改善のコンサルティングは、やる気はあるがやり方がわからないといった組織には大きな効果がある。しかし、やり方は知っているがやる気がない組織となると、全面改装が必要となってくる。
それでも一連の視察とヒアリングを通じて、同社の問題点ははっきりした。
一つは「倒産」により負け犬根性が付いてしまったこと。もう一つは人事考課制度が加点法ではなく減点法になっていたこと。つまり、やる気をそぐシステムになっていたこと。そして三つ目が中間管理職の競争意識のなさであった。
ドライバーの理想像として、よく佐川急便とヤマト運輸の名があがる。両者のドライバーも最近ではサラリーマン化して魅力が低下していると私は思うが、それでも一般の人たちは両社にはすごい教育システムと訓練があるのだろうと思い込んでいる。それも否定はしないが、注目すべきは「後工程」より「前工程」である。人事戦略にも「工程」がある。
「前工程」は「いかに優秀な人材を採用できるか」である。これに対して「後工程」は「いかに優秀な人材に育てていくか、適材適所の人事ができるか」である。会社のトータルの利益を考えれば「前工程」がしっかりしている会社ほど強い。佐川の強さも「前工程」にある。
ひと昔前までの佐川には「人の3倍働いて人の3倍給料をもらえる」という噂があった。実際、他社と比較して格段に給与水準が高かった。そのため「我こそは」という苦労を覚悟した人間が入社してきた。
これに対してK物流の社員は、佐川とは正反対の動機で入社している。「K物流に入れば食べてはいける。ぼくらの時代には皆、そう言ってましたね」。現地でたまたま乗り合わせた50代のタクシー運転手から耳にした。つまりK物流は公務員的な人材の集まる「前工程」の弱い企業だった。このような企業は人材面での血を入れ替えなければ、まず生き残れない。

   2004年8月■経営破綻したK物流の再生●図①
A事業所に続き、B、C、D、E事業所と、調査を続けた。課題・問題点のおよそ8割は各事業所で共通していた。残り約2割が各事業所特有のエリア性、業務特性から発生する内容であった。
これらの比率から、K物流の病状が部分疾患ではなく、心臓、神経といった全体疾患であることは明らかだった。いわゆる中枢機能にメスを入れる必要があった。改善項目は大小合わせて50項目以上に上った。主な項目だけをいかに列記してみる。

・ 現場管理者の訓練と執行管理のシクミづくり
・ 「強み」の告知力強化
・ 「強み」を活かしたコンビネーションメニューの提案
・ 事業所別競合店設定による対策の抽出
・ 現場改善提案力の習得
・ 新規開拓目標の設定
・ 長距離幹線の傭車化
・ 役職別職務基準書の作成
・ 兼務業務の削減による責任所在の明確化
・ 人事考課制度の見直し

このようなK物流の経営状況を、読者の方々はどのように感じられただろうか。ウチの会社、あるいはウチの協力会社にも当てはまることが多いと感じられたのではないだろうか。
事実、K物流の経営はバランスシート上、借入金が多いだけで、運営面ではK物流と同様の課題を多くの物流企業が抱えている。つまり多くの物流企業が課題を直視せず、破綻を先送りすることで日々を過ごしているのである。
言い換えれば、一部の優良企業を除き、多くの物流企業が倒産予備軍なのである。右に列記した項目のうち、5項目以上当てはまる場合には、明日は我が身と考え、ゼロからの出発をコミットしていただきたい。
我々が提示した改善項目はほぼ全てK物流の経営陣に受け入れられた。これらの項目を100%着手し、内容としての出来栄えが80%以上達成できたならば、売上高の倍増、すなわち年商600億円を実現できると私は断言した。社内の壁をとりはらうK物流の事業者は数十ヶ所にわたっていた。そして本社と事業所の管理層、現場の三層には深刻なメンタルギャップが生じていた。
本社と事業所との物理的な距離がそのままマインドの温度差を生んでいるように思えた。そもそも物流会社に立派な本社など要るのだろうか。私はずっと疑問に思っていた。
ひと昔前、名古屋の食品スーパー・ユニーが本社を物流センターの上層階に移転したことが話題になった。
物流業も現場を「ショールーム化」させ、その近くに本社を置けばいい。このアイデアをK物流に適用した。小さな本社を目指し、本社にこもっていた幹部を全員現場に追い出した。また、事業所も所長室や仕切り類を一斉取り払った。
そもそも部屋を作るから温度差が出るのであるのなら、部屋を取り除けば温度差も自然となくなるはずだ。実際、徐々にではあったが、情報が共有化されるようになり、出来事に対する判断とタイミングのずれがなくなってきた。
非常に困難であったのが、ドライバーのやる気と活力を出させることであった。まず、全ドライバーの個人面談を行うことにした。K物流の方針と今後ドライバーに期待することを各事業書の所長と配車担当の2人が、ドライバー人ひとりと話し合うのだ。
単に個人面談と言っても一つの事業所には100人近いドライバーがいて、出社・帰社時間はバラバラ。並大抵な手間ではなかった。事業所長と配車担当者にとっては、まさに試練であった。しかし、徹底力のない組織が忍耐強くこの業務を果たすことができれば、ドライバーと現場管理者の意識は変わる。
これと並行して人事考課制度にも着手した。それまでも業績給は導入されていたものの、手当の数が多く、ミス等を発生させると給料を減額するというマイナス指向の制度になっていた。いわゆる減点法であり、ドライバーのやる気をそぐ仕組みだった。
これを「頑張った人が報われる」、加点法に変更する必要があった。例えば私が以前に勤めていた大手物流会社では、遅刻をすると1万円が給料から天引きされるルールになっていた。これだけなら減点法だが、そのお金は会社が懐に入れるわけではなく、現場にプールする仕組みになっていた。そうやってプールしたお金を皆勤賞の対象社員に分配するのである。
遅刻者が延べ12人であると12万円プールされることになる。そして皆勤賞の対象が4人であれば1人3万円の報酬金がもらえるわけだ。今考えても入り口と出口に矛盾のないよくできた仕組みだと思う。皆が納得でき、信賞必罰がはっきりしている。
このように良い人事考課制度とは、シンプルな構造で誰にでも理解できるものでなくてはならない。
これらを考慮して現在、新しい制度を策定中である。ドライバーのモチベーション向上策として、もう一つ手を打った。
元気が出る全社目標の設定とその公表だ。「倒産」は、どうしても社員のマインドを冷やしてしまう。
さらに「再生」「再建」などの言葉や文字を見て、ますます社員は落ち込んでしまう。負け犬根性がついて何事にも積極的になれなくなる。
そこで我々は、開き直り、今の「負けを認めて将来の勝ちを得る」ためのアクションを開始することにした。今は敗者でも将来勝者になればいい。そのためには全社一丸となれる目標が必要であった。それが上場である。投資会社にとっても上場すればメリットは大きい。具体的には2010年までの上場を目指し、社員持株会の準備など社員たちにもメリットとその意義を説明した。
それから2ヶ月が過ぎようとしている。若干ながらK物流の社内には活気が戻ってきたように思う。

新規顧客開拓チームを組織
なお誤解のないように述べておくが、視察した5事業所の全てが前述のような事業所であったわけではない。
例えばE事業所は所長をはじめ、中間管理職、そして現場が一体化し、活気ある環境であった。所長は常に現場を回り、様々なメンバーと会話する。当然現場の掌握もできていた。中間管理職以下も所長の考え、指示に基づき運営していた。
E事業所の課題は営業力であった。優良荷主を抱えているが、コンペで獲得したとか、提案営業を行ったといった能動的な内容ではなかった。赤字事業所となっている理由もここにあった。
結局、既存荷主の対応型営業は各事業所で行い、新規開拓を中心とする営業部隊は激戦区の首都圏にあるY事業所で集中的に展開することにした。
各事業所から人員が選抜され、経営方針を営業戦略に落し込み、荷主ターゲットの設定、営業手法、営業ツール、役割分担などを体系的に整理し、内容を詰めていった。途中、考え方や言葉についていけない脱落者が出かけたが、個別指導を行い、部隊に戻すことができた。
実践して1ヶ月。新規の獲得先はまだ出ていないが、案件は確実に増えてきた。新聞や雑誌を使っての情報入手、ホームページや帝国データバンクなどによる会社情報の取り方は彼らにとって大きな収穫だったようである。
また、チラシ、DM、提案書、名刺の使い方などは実践メンバーには重要な武器となった。実践営業の第一段階は目処がたってきた。
第2段階は「コンペの戦い方」である。物流会社の営業力は荷主が行う「物流コンペ」にお声がかかるかどうかでも判断できる。「強み」をPRできている会社、口コミで知られている会社、荷主業界で活躍している会社は“声”がかかる。K物流はまだそのレベルに達していなかった。地域密着型の事業展開と売上規模を考えれば、充分“声”がかかっても良いレベルであるはずなのだが告知力がない。特に「強み」である配送網や住設物流を告知できていなかった。
また、取得免許である「通関」や「保税倉庫」などを活用したコンビネーションメニューもなかった。
これらにもテコ入れをし、ホームページ、提案書の刷新を行った。物流各社は燃料費や修理費、タイヤチューブ費、高速費、人件費などのコストダウンを日夜行っている。
こういった血と汗と涙のコストダウン活動は営業力強化による売り上げの獲得が伴って初めて過去の美談になる。
前向きな目標を持って、長く苦しいリハビリを楽しく進めていくことが何より大事なのである。