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事例で学ぶ物流改善:『生き残る会社 消えゆく会社』

−物流会社4社の事例から考える

物流会社の経営が二極分化している。
環境変化に対応することなく、自社の状況を直視できないまま沈み行く会社が
増えている一方、物流業界の長年の課題に果敢に挑み、成果を挙げる強い会社も
生まれている。
経営トップの舵取りが問われている。

現場に甘すぎる経営者
今回は生き残る物流会社の共通点とその秘訣、消えゆく可能性のある物流会社の
問題点を当社がコンサルティングを手がけた4社の改革事例を通して探っていく
ことにする。
初めに紹介するのは関西に基盤を置く地場の物流会社A社である。
年商は約4億円。車輌35台と延べ1000坪のセンターを所有している。
創業社長が現在も経営指揮を執っているが、3年後には息子の専務に経営を委ねる
予定である。
A社はK社長の並々ならぬ努力によって創業期に優良大手荷主を数社獲得していた。
輸送業務からセンター運営に業務内容を拡大し、着々と基礎を固め、
経営は順風満帆だった。
ところが一時期から、このような成長期によく見られる「社長のおごり」が出始めた。
それが深刻な労働争議を招いてしまった。
A社の労働争議は10年にわたって続いた。
地元では今でも語り草になるほどの壮絶な戦いであった。
その影響から優良大手荷主が1つ、また1つとA社との取引を停止するようになってしまった。
同時に長期間の労働争議はK社長の心身を深く蝕んだ。
K社長は経営に対する自身をすっかり失くしていた。
私がK社長と出会ったのはそんな頃である。
K社長との話し合いで、失われた荷主(売り上げ)の巻き返しと組織力の強化、
資金繰りの改善という、ほぼ経営全般にわたる改革テーマが出された。
今でいう経営再建と言えるかもしれない。
実際、コンサルティングを請け負った当初はいつ倒産の連絡が入ってもおかしくない
状態だった。
私自身、A社から電話が入ると全身の毛穴が開いたものだった。
経営再建の定石通り、A社は役員賞与、社員給与のカット、銀行へのリスケジュールを
断行した。
資金繰りに困って、K社長の生命保険の解約はもとより、しばしばサラ金から金を
借りることもあった。
予断を許さない“月末”が毎回のように訪れた。
しかし、K社長の不屈の精神と努力によって、状況は徐々に改善していった。
ピーク時には年商と同規模の4億円の借入があったが、今ではそれも半分以下の
1億8000万円まで返済が進んだ。
息子にバトンタッチする3年後には借入金を残り1億円ぐらいまで減らしたいとK社長はいう。
しかし、まだまだ安心はできない。
これまでのA社の改革で最も大きな課題となったのは、K社長の現場に対する過保護と
幹部不在、そして案件に対する消極的な姿勢であった。K社長は典型的な現場型である。
K社長に限らず、創業社長というものは多かれ少なかれ現場型であり、
それ自体は悪いことではない。
ただし、現場型には、2つのタイプがある。
1つは現場を熟知した上で、その力を最大限引き出すために厳しく指示を出すタイプである。
そしてもう一方が、現場を分かりすぎる
が故に現場の苦労に共感し、ついつい甘やかしてしますタイプである。
K社長は後者であった。そのこと自体は珍しくはないし、むしろメリットもある。
しかし、その場合には経営者をカバーする管理職がいるかどうか問題になる。
いわゆる鬼軍曹の存在である。
経営は「ボケ」と「ツッコミ」である。そう私は考えている。
社長が「ボケ」なら、№2は「ツッコミ」、その反対もしかりである。
ホンダを築き上げた本田宗一郎と藤沢武夫、ソニーの井深大と盛田昭夫も、
まさにそうした関係にあったに違いない。
トップと№2の補完関係と明確な役割分担が、強い経営基盤を創ると常々思っている。

景気のせいにするな
ある日、K社長と幹部が集まっての会議があった。この日のテーマは営業であった。
ダイレクトメール営業で問合せのあったX社と、取引先から紹介されたY社、
そして既存荷主のZ社の三社についての対応策を考える場であった。
売り上げ拡大につながる前向きなテーマであったり、私は久しぶりの「大入り」を喜んでいた。
しかし話し合いは、A社の先行きを不安視させる方向で進んだ。
最初の議題、ダイレクトメールを見て問合せをしてきたX社は酒卸であった。
問合せの内容は、X社の運営する量販店センターに、他の3拠点から納入する輸送業務
の依頼であった。
3拠点のうち2拠点は、4t 車と10t 車を使った納品輸送で、
納品一回当たり8000円という指し値が出されていた。
残る1拠点については貸し切りで見積を提出して欲しいとのことであった。
割りのよい仕事とは言えないが、その後の取引拡大も見込める新規顧客からの
正式な要請だった。ところが、それに対して会議に出席したA社のメンバーは、
大型業務よりも「小口発送の仕事が欲しい」、「センター納品分の仕事が安い」などと
言い出した。
次のY社は、4t車の貸し切りを月60万円から70万円で請け負って欲しいと言う話し
だった。今のご時世では割りの良い仕事といえる。
ところが今度はK社長が「あの仕事はきつい。ドライバーがもたない」と言い出した。
最後のZ社は、既存荷主の大手電機メーカーである。
新たにバンニング(バン出し)の仕事をもらったのであるが、担当のセンター長は
「品物が高価であるため、ミスに対するリスクも大きい」などと不平不満を言い出した。
思えばA社はこの会議に限らず数年来、「荷主が欲しい、仕事が欲しいので指導して下さい」
と私に言い続けてきたものの、いざ案件を目の前にすると、対応できない理由を並べ立て
る傾向があった。
さらに、この会議の途中で「招かれざる客」が来た。
燃料会社である。約30分間にわたる会議中断の末、K社長が戻ってきた。
「けんもほろろに4円の値上げですわ」とK社長。
「物流会社はこれからどうしたらよろしいんでしょう」と嘆いた。
それを聞いて私は心の中で「嫌やったら辞めなさい」と叫んだ。
原油高等の情報など、既に耳に入っているはずである。
他の地域では4円どころか、6円〜7円の値上げ要求が来ているところもある。
確かに排ガス規制、スピードリミッター問題、さまざまな許認可制度など、
物流業界に対する社会的規制の影響は大きい。
しかし条件は他社も同じだ。
予測できる環境変化を正面から受け止め、対策を繰り出すのが経営である。
K社長には業界特有の「被害者意識」が染付いていると言わざるを得ない。
物流会社に求められる経営者のレベルは今や大きく変わりつつある。
環境に適応し、いかなる状況でもコスト低減を果たし、緻密な数値管理能力とリスクに
挑戦する優秀な経営者が物流業には不可欠となっている。
そうでなければ、業界から「退場」(レッドカード)を免れない時代となった。
以下のようにA社の問題点は山積している。このまま放置したら大変なことになって
しまうだろう。

① 経営者が現場に対して甘い
② 幹部が危機感を持っていない
③ 社長以外、経営数値を理解できていない
④ 「おいしい」仕事を求め、「きびしい」仕事を利益化する意欲、能力に欠ける
⑤ 評価の高いドライバーの品質と努力を会社が活かしきれない
⑥ 能力のない息子を無理やり後継者にする
⑦ 過去の成功体験が抜けきれない

老舗のプライドが足かせに
B社は関東圏では言わずと知れた名門物流会社である。
小口配送、センター業務などを行っており、バブル期には年商100億を超えていた。
当時は物流会社の勝ち組として常に名前が挙がっていたが、好調は長くは続かなかった。
今では経営不安の噂までささやかれるようになって数年になる。
私は同社の次期社長が内定している創業者の長男M氏とお付き合いしている。
この長男は腰が低く、気配りを絶やさない“良い人”である。
B社は現在、ピーク時と比較して売上高が40%もダウンしている。
バブル期の不動産投資による多額の借入も残っている。
窮状を脱するために成長著しい同業者に出資の申し入れを行った。
しかし結果は見事に断られた。
理由は

① 借入金が多額であること
②赤字であること
③社内改革を断行できないこと

の3つであったという。
このうち①と②は、当たり前とも言える理由であったが、③の社内改革を断行できない
という話しが、私にはどうにも腑に落ちなかった。
そんなある時、私はM氏から会食に誘われた。話し合いの中で、同社が社内改革を断行で
きない理由が明らかになってきた。
1つは老舗企業のプライドであった。
余剰人員をリストラできないのである。
そしてもう1つは父親である現社長とM氏とで経営の役割分担ができていないことに
起因していた。
現社長からM氏への権限委譲も明確になっていなかった。
B社は名門の老舗企業としてのプライドが強すぎて、
「弱者の戦略」を取れずにいるように私には見受けられた。
一般に「強者」が「弱者」の戦略を展開すれば、怖いもの知らずの強い会社へと
進化する可能性がある。
しかし、「弱者」が「強者」の戦略を振り回しても空回りするだけだ。
自らを「弱者」と位置付ければ、「強者」やその周囲から情報を収集することができるように
なる。
しかし「強者」と位置付ければ、自らのやり方を正当化することに固執し、
周囲の情報を得ようとしなくなる。
かつてB社が強者であったのは事実だ。
しかし今は売上大幅ダウンの弱者である。
そのことが当事者達には分からないのであろうか。
いや、分かっているのである。頭では理解できているのであるが、
身体がそれを受け入れない。
行動に反映させられないのである。
B社は物流業界の変化や自社に対する評価を直視できない“井の中の蛙”であった。
その上、さらにやっかいなことがB社の社内では行われていた。
次期社長になるM氏を先代の古参組が執拗に持ち上げ、同時に外部との接触をしきりに
シャットアウトしようとしていた。
プリンスが余計な知恵を付けることで自分たちの身に不利に働くことを防ぐために、
M氏を“裸の王様”に仕立て上げようとしたのである。
一種の陰謀であった。信じがたい世界である。B社の問題点をまとめると以下の通りになる。
これまた放っておけない状態である。

① 次期社長のM氏には「継ぐ」のではなく、「継がされる」と言う意識が強い。
先代社長も息子以外の選択肢を考えていない。
② 名門企業として今更、弱者の戦略をとることができない
(プライドを捨てきれない)。
③ 後継者に社内改革を行うリーダーシップがない。
④ 過去のブランドを捨て、再出発するだけの勇気がない。

生き残る企業の共通点
C社は、本誌2004年6月号のこのコーナーで紹介した会社である(詳細は同号参照)。
その後も快進撃を続け、右腕の退職という挫折を乗り越え、着実に足場を固めている。
最大の荷主である大手住設メーカー向けの売り上げは横這いながらも、
直近の7月では昨年同月比142%と大幅に事業規模を拡大させている。
以下のような項目が好調の理由として挙げられる。

① DM営業で獲得した荷主から2ヶ月に1回の割合でチャーターの増車依頼がきている。
② ドライバー名刺営業が浸透し、口コミ、紹介による荷主数の増加。
② 保管、流通加工への本格的対応

稼動車輌台数も30%増加した。
新規荷主が安定するまで他の既存業務を傭車に託し、自社車輌の購入を控えている。
堅実である。
S社長は多くを語らない。寡黙である。
しかし、「これだ!」と思ったときの目の輝きには、胸に秘めた闘志をいつも感じる。
C社の成長の秘訣をまとめると以下のようになる。
これからもC社S社長の前向きな経営を楽しみにしている。

① サービス業として物流業を営んでいる
② 営業案件は先ず受ける。業務を行いながら採算を合わせていく
(創業以来、ギブアップした荷主はまだゼロ)。
③ 「これは面白い」と思ったことは先ずやってみる
④ 人の話しを良く聞き、素直な気持ちで物事を判断する
⑤ 教育は初めが重要。ドライバーは入社日からパソコンで日報作成

勝ち組の物流子会社
D社は年商100億円規模の物流子会社である。
親会社向け以外の業務比率、いわゆる外販比率は現在約35%。全国に事業を展開し、
物流子会社としては珍しく自社トラックによる集配を行っている。
ただし自社車輌は150台をリミットとして、自社便と傭車を組み合わせてネットワークを
構築している。
ロジスティクス・ビジネス誌が毎年実施している「物流企業番付」等でも、
毎年上位に顔を出す優良企業である。
そんなD社は成長企業というより、強い企業と言える。
その核になっているのが、T社長の存在である。
T社長は他の物流子会社同様、親会社から派遣された天下り社長である。
しかし、いわゆる“雇われ社長”ではなかった。
就任時から子会社ならではの依存体質を敵視し、挑戦的かつ大胆な施策を打ち出していた。
まず意識してワンマン経営を行った。
合議制や総意経営などと生易しいことを言っていては、子会社であるD社は依存体質から
抜け出せない。
そう考えて自ら率先垂範し、嫌われ役に徹した。
同時に教育、人材育成面に注力した。社員を外部セミナーに数多く参加させると同時に、
社内研修を実施。
テーマ別研修、役職別研修も熱心に行っている。
毎年度、経営利益の1%を教育費に当てるという方針を立てている。
人材獲得面でも子会社のプロパー(正社員)、
親会社からの転籍に加えて、中途採用を積極的に行っている。
D社の強さの秘訣は以下のようにまとめられる。

① 親会社から派遣されたトップが、子会社体質打破の為に敢えてワンマン経営を
推進した
② 教育費を予算化し、継続している
③ 人材を外部にも求め中途入社組が活躍している

生き残りのチェックポイント
言うまでもなく、ここに挙げたA社、B社はこのままでは消えゆくであろう会社、
C社、D社は生き残る会社として紹介した。
とはいえ今時、安泰としていられる会社など、物流企業に限らず1社とてない。
それでも生き残るための努力をしている会社と、そうでない会社があるのは事実である。
以下に生き残る物流会社の共通点をまとめてみた。

□トップが素直で最も前向きである。
□年商100億クラスまではワンマン経営の方が強い
□トップが強いリーダーシップを持って組織を引っ張っている
□他社が嫌がる仕事、できなかった仕事が自社に回ってくるという自覚がある
□人材育成は採用時に70%が決まり、残り30%を継続した教育で育成している
□後継者の決定は親族ありきではない

さて皆さんの会社または取引先の物流会社はどちらの会社に当てはまるだろうか。