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第26回 事例で学ぶ物流改善:『地域卸の生き残りをかけたセンター開発』

手狭になったセンターにところ狭しと商品が置かれている。通路で作業員がすれ違うのもままならない。出荷作業が滞るのも当然だった。経営環境は厳しい。資金的な余裕があるわけでもない。しかし卸にとって物流機能は生命線だ。経営トップは生き残りをかけて新センターの建設を決意した。


中規模卸の物流戦略

食品卸のN社は北関東を地盤とする地域卸だ。年商約40億円、従業員数75人という規模で、外食チェーンや加工食品ベンダーなどに納品する業務用食品の扱いをメーンとしている。そんなN社が「新たに物流センターを建設するに当たって、専門家を探している」と、ある情報システム会社から紹介を受けた。
我々NLFがN社を訪問すると、M社長とS常務が揃って出迎えてくれた。センター開発の狙いも社長の口から直接聞くことができた。言うまでもなく経営トップの関与は改善・改革の成否を大きく左右する。N社の対応には好印象を受けた。経営トップがいかに物流を重要視しているかが感じ取れたからだ。もっとも、それも当然と言えるのかも知れない。
物流機能の向上は中小卸にとって生き残りに不可欠な課題である。一般に食品卸は年商150億円規模が生き残りの1つの目安とされる。実際、旧知の大手食品メーカーの営業本部長は、販売先の与信管理で200億円以下の卸は信用度が低いとしてCランクに設定し「売り」を控えているという。ただし、業務用卸となると生き残りラインはぐっと下がり、年商30億円クラスとなる。N社は規模的にはギリギリのラインだった。
また物流面では、大手卸はアウトソーシング、中小卸は自社配送という構図が大半となっている。200億円〜500億円の中堅規模では商物分離を行って失敗するケースが多い。得意先との関係、いわゆる業者選定の理由が何であるかをよく把握していないためである。中小卸の経営では営業マンによる自社配送が最大のコミュニケーションツールとなっている場合が多い。得意先へのきめ細かな対応や、即時納品、時には自営業者の話し相手になることが、卸としての存在価値となっているのである。
したがって、商物分離は得策ではない。「品揃え」「価格」「リードタイム」「営業マンの対応」「支払いサイト」など、卸の機能は多岐に渡る。そして得意先の業者選定は、多岐にわたる機能の“掛け算”で決まる。
得意先ごとのニーズを見極め、合致する得意先だけ商物分離するという判断は成り立っても、全てを対象にしてしまえばマイナスになるケースが多くなる。これが年商1000億円クラスともなると話は違ってくる。教育された提案営業とシステム化された商取引ツールが前提となるため、商物分離の成功率も高まってくる。要するに卸の物流は「ヒト」重視の関係であれば商物一体、「会社」重視の関係であれば商物分離と大半できる。N社の場合、物流戦略の舵取りが最も難しい規模にあると言えた。
実態としては業務用卸という性格上、中規模ながら「会社」の関係を重要視した営業スタイルをとっていた。そのため物流業務も全車両の9割を協力物流会社にアウトソーシングしていた。それだけに物流品質の管理が経営上の大きな課題だった。
M社長の説明によると、それまでN社は本社に隣接する約500坪の施設を物流センターとして使用してきた。しかし近年の売上規模の拡大に伴い、スペースは手狭になっていた。さらには得意先から物流品質の向上を強く要請されていた。 そのため従来のセンターから約三キロの距離に新センターを建設することを決断したという。
新センターの規模は建物面積約900坪。平屋建てながらドライ・保冷・冷凍・チルドの全温度帯に対応する機能を持つ。もっとも、当社が訪問した時点では、稼働を3月後に控えながらも、センター内の作業設計については全く白紙の状態であった。
M社長の説明を聞いて、すぐにセンター開発プロジェクトをスタートさせた。ハード面での条件は既に決まっていた。自社センターといっても土地は坪3500円の賃借。建物もそれまでその土地で物流会社が使用していた施設を居抜きで買い取り、最低限の改修を行ったものだ。
イニシャルコストをできるだけ下げようという配慮だったが、オペレーションを設計する上では大きな制約となった。
とりわけ入荷スペース、出荷スペースなどのゾーニングには頭を痛めた。実際に施設を見学するまで、我々はトラックからの積み下ろしを行うドックシェルを二基から三基設置することをイメージしていたが、荷付けヤードを手当できない。通過型のクロスドッキングのオペレーションも人海戦術で処理しなければなかった。

出荷特性からロケーション設定
新センターの内部のオペレーションを設計するためにまず旧センターを見学した。約9000アイテムの商品がところ狭しと並び、通路の確保もままならない。温度帯別に区分けされてはいてもバラとケースが同じ場所に保管され、そのままでは実棚の勘定もできないという状態であった。スペース的に限界が来ているのは明らかだった。ピッキング作業にも多くの時間を費やしていた。

① 作業スペースが狭いこと
②ロケーションの不備
③棚番地の設定

などが曖昧であったことなどが原因だった。
入庫から検品、出庫までの作業に時間がかかることで、温度維持にも問題が生じる。それが得意先からの返品、クレーム、遅配を発生させていた。
新センターへの移設によって①作業スペース面での課題はクリアできる。しかし、②ロケーションの不備と③棚番地の設定をクリアする必要があった。
まず、「レイアウト」の見直しに着手した。商品の出荷頻度別ABC分析を行うため必要なデータの提出を依頼したが、案の定、データベースが整理されていない。やむを得ず過去六カ月の納品書の控えをダンボール箱にもらい、我々NLFの事務所に持ち帰って、1枚ずつ入力していった。ちなみに同じ食品分野でも一般商品を取り扱っている場合には商品のライフサイクルが短く、改廃が激しいため、6カ月分もの実績データを分析してもムダになることが多い。
しかしN社の場合、主力取扱品が粉物と油物などの原料品であるためサイクルが長かった。こうして出荷頻度別ABC分析を行い、商品のランク付けを行った。結果は約9000アイテムのうち上位約1800アイテム、つまり上位20%のアイテムで売上高全体の80%を占めるというパレートの法則2:8の原理)通りの状況であった。この結果から、商品を

① 頻繁に出荷する商品
② 比較的よく出荷する商品
③ ときどき出荷する商品
④ たまにしか出荷しない商品

の4つに区分し、作業スペースを充分に確保することを念頭に入れて、新センターのロケーションを設定した。それを「棚割り」の段階でさらに細分化した。
簡単にいえば、出荷頻度別に四分類したものを、さらにランク別に仕分け、下記の(図1)のように棚を「仮設定」した。

2005年3月■地域卸の生き残りをかけたセンター開発●図①

 

ピッキング用の棚には4段棚を用いることが多い。このうち一番下の段からのピッキングは腰を曲げ持ち上げることになるため負荷が大きい。そこで一番下の段はストックスペースとした。最もピッキングがしやすい2段目と3段目には出荷頻度の高い商品。そして最上段にはC商品を置いた。なお最上段にスペースが確保できる場合には、ここを空き箱置きなどとして活用することもできる。これを「仮設定」と称したのは、実際に稼動させた後でロケーションを修正することになるからだ。
出荷頻度だけでロケーションを決定すると、結果的に類似商品が隣接して置かれるケースが出てくる。
これがピッキングミスの原因になる。そのため形状や商品名が類似したものは間を空けて保管するか、
あるいは色のついた仕切りを入れるなどさらに工夫を行う必要が出てくる。
なおN社の現場では、缶や瓶などの比較的重量のある商品が全体の70%以上を占めていた。そのため棚に平均5%の角度をつけ、取り出しやすいように設定した。これが菓子などの軽量物の場合には一〇%程度の角度になるが、重量物では箱がつぶれてしまったり、補充時に商品の重さで落下してしまうことがあるため角度設定にさじ加減が必要になる。
またN社の場合、Aランク商品に袋物、缶物が多かった。このエリアではラックや什器は使用せず、パレット上で保管する。ただし、その時に、さらにパレットを一段重ねて、ピッキングの上下運動を短縮するという工夫を施した。

6つの「ない」
こうしたピッキングなどの「人員オペレーション」はセンター開発・改善で最も重要な要因と言える。その基本となる「6つの『ない』」を頭に入れて欲しい。

1. 持たせない
2. 書かせない
3. 歩かせない
4. 待たせない
5. 考えさせない
6. 探させない

このうちN社では「1. 持たせない」、「3. 歩かせない」、「5. 考えさせない」、「6. 探させない」
に重点を置いた。
「持たせない」は前述の通り、重量物の持ち上げ作業をできるだけ削減した。またピッキングカートは台車にコンテナを載せたものを使用し、Aランク商品はそのまま台車部分へ、B・Cランク商品はコンテナに入れるというピッキングスタイルにした。
「歩かせない」では、出荷頻度別ABC分析によるロケーションの設定に力を注いだ。3カ月に一度の頻度でロケーションのメンテナンスを行っている。
「考えさせない」と「探させない」は連動していた。
N社の現場では納品伝票の控えをそのまま出荷伝票して使用し、それを基にピッキングを行っていた。
これを改め、保管ロケーションを分かりやすく明記したピッキングリストを新たに策定した。この時に商品名と棚番地の照合作業に配慮した。棚番地の番号を人間が記憶しやすいと言われている三桁の数字に統一した。また出荷頻度別の区分けをはっきり認識できるようにAランクの棚番地は赤色、Bランクは青色、Cランクは最も集中できる色とされている黄色を用いた。これによって物流現場の風景が、いくらか華やかになった。店舗に近づいたと言っていい。
一般に物流センターは店舗と違って何よりローコスト化が追求されるため、暗く無機質で殺伐としたイメージがある。しかし物流品質を向上しようとすれば、スムーズな作業の流れをつくることと同時に、作業環境にも配慮が必要になってくる。これまでのセンター運営は熟練者によるカンと経験が財産であった。しかし昨今ではパート・アルバイトによるセンター運営が主体となっている。
新入りのパート・アルバイトでも今日、明日からある程度の業務をこなせる環境を作るには、スムーズなオペレーションと同時に解り易さが不可欠である。良いセンターは店舗に似る。そこでは心理学やマーケティングに基づいた店舗設計・運営のノウハウ、いわゆる商品を買ってもらう、買わせる工夫が大いに参考になる。
実際、店舗の売場表示は棚番地の表示に使える。二人がすれ違うことのできる通路の確保はセンターのレイアウト設計に、売場の陳列はピッキングの棚割に、買い物のカートはピッキングカートに応用できる。今後、物流センターの風景は店舗に近づいていくだろう。イメージの問題ではない。それによって物流センターの作業効率をアップさせ、ピッキングミス、出荷ミスを削減できるようになるのである。
実際、ある家電メーカーの物流子会社では女性メンバーが中心となって上記のような改善を行った結果、作業効率(生産性)が昨年対比130%となり、ピッキングミスを50%削減することに成功している。N社でもこうした作業環境への配慮が大きな成果を発揮した。
新センターへの移設から6カ月が経過した段階で、得意先からの返品、クレームは月間1件あるかないかというレベルになった。過去のデータがないため効果を数字で比較することはできないが、N社の営業部長は「明らかにトラブルが減った」と結果を高く評価している。
もちろん稼働当初は多少の混乱もあった。とりわけセンター長はパート、アルバイトの人繰りと管理に苦労していた。作業スピード、生産性のアップが進まない。
最近は物流現場にフリーターなどを派遣する人材派遣会社も台頭し、200人規模の現場であれば管理者を常勤で派遣することも可能になってきているというが、N社の場合は自社管理が必要だった。そこでパート・アルバイト一人ひとりのピッキングミス、商品の破損、出勤率などを管理する簡易的な評価制度を作った。処理能力や勤務状況が時給に反映される仕組みだ。
導入時には現場の一部から不満の声もあがったが今ではそれも落ち着き、活気あるセンターとなっている。
今後の課題は物流業務のデータ化だ。適切な物流指標を作成し、それに基づいて課題を解決するという循環によって継続的に品質を向上していく。
それが実現した時、N社は「問屋不要論」とは無縁の存在になっているはずだ。