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第28回 事例で学ぶ物流改善:『建設資材メーカーのローテク改善』

納品時間が遅すぎる—。資材が届かなければ、その日の作業が滞ってしまう建設資材業界においては、
致命的と言える課題だった。当然、クレームも多発していた。まずは社内に蔓延する物流軽視の風潮を変える必要があった。


原因は物流に対する認識不足

A社は、建設現場の足場に使用する部材を製造・販売する年商90億円規模の建設資材メーカーだ。関西圏を中心とした建築現場に、地元の物流会社を使って部材を納品している。競合他社が物流サービスを強化していく中でA社は後れをとっていた。最大の問題は納品時間であった。受注翌日納品というレベルでの対応はできていたものの、納品時間が午後以降となっていた。午前中必着を求める得意先からの問い合わせ、クレームが相次いでいた。その原因を突き止め、早期に改善することが、我々NLFに与えられた課題だった。建設、住設の物流は特殊性が強い。

① 現場納品が大半。
② 施工スケジュール変更による当日の出荷キャンセルが多い。
③ 現場納品のため天候に左右される。
④ 平ボディーのユニック車(小型クレーン付き車両)など、他の貨物に転用することが難しい特殊車両を使用する。
⑤ 現場納品のため、受領印をもらえない場合が多い

など、物流管理の厄介な業種の一つといえる。A社の物流にも、右記の特徴が全て当てはまっていた。
しかし、それが納品時間遅れの発生する本質的な原因だとは言えなかった。
実際、A社のライバルのX社は、物流を外注せずに、自社の社員で処理することで、翌朝7時には納品のトラックを出発させていたのである。
現場調査、書類・伝票のチェック、物流担当者・営業責任者へのヒアリングなどから、A社の抱える問題の“本質”ともいうべき原因が徐々に浮かび上がってきた。第一に、A社には全社的に物流の重要性に対する意識が薄かった。とりわけ営業にその傾向が顕著で、物流は後処理業務という認識が蔓延していた。
受注処理のルールも全く守られていなかった。翌日配送に伴う受注締切時間は16:30に設定されていたが、ルールが形骸化していた。営業からの要請で時には当日受注分までその日の配車に組み込まれている状態だった。
本誌2005年2月号で紹介した中堅印刷メーカーY社と同様に、A社もまた営業至上主義の色合いが強い会社であった。ゼネコン、鉄筋資材などの一筋縄にはいかない会社を相手にしている営業は、緊急発注や緊急納品など、得意先の要望をそのまま物流現場に押しつけていた。そのために営業部門自体も夜遅くまで受注対応を行っていた。
トップから直々の改善依頼であったため、当初我々NLFはA社を物流に対する問題意識の強い会社であるかと考えていた。しかし実際にはトップ以外の幹部は、誰も物流の重要性をしっかりとは認識していなかった。またトップ自身も問題を抽象的にしか捉えていなかったため、組織を説得し、理解させるには至っていなかった。さらに配送を協力運送会社に外注していることも、納品時間が遅くなる一つの要因になっていた。
午前中納品のためには不可欠となる早朝の出荷準備、いわゆる“宵積み”対応ができていなかった。我々は物流部門、営業部門、管理部門、システム部門の各部署からの二人ずつと、そこに社長を加えたプロジェクトチームを組織。週1回のペースで物流改善ミーティングを行うことにした。
そこでは経営における物流の位置づけや重要性をディスカッションするとともに、なぜ物流品質が競合に勝つために重要なのか、各社の事例を挙げながら解説した。残念なことに3回目のミーティングから社長が顔を出さなくなった。社外活動に忙しいS社長はアフターファイブに行うミーティングを避けたのであった。
これによって物流改善の成功率はぐっと下がった。中堅以下の企業の物流改善は本来、トップダウンで強力に進めなければならないからである。それでも物流部門はもちろんシステム・管理部門から参加したメンバーは次第に理解を深めていった。しかし営業から派遣された二人は最後まで物流改善に対する抵抗感が強かった。
「あなたがた営業は、受注締切時間を延ばして得意先の意向を聞いてあげることが相手に喜んでもらっていると思っておられるようですが、翌日の納品が午前中に着かないことで、相手はむしろ怒っているんです。このままで本当にいいんですか」。私が思わず声を張り上げる場面もあった。
苦労はしたが、ミーティングメンバーの最古参でもあった営業責任者のK氏が最後には折れて、前向きに取り組み始めたことで、一気に改革が進んだ。K氏は自ら図形入りのFAXオーダーシートを提案し、サイズや、類似商品の発注のミス防止にも一役かってくれた。
改革、改善の成否を決める第一の要因は実はロジックやスキル、ノウハウではない。気力である。改革の当事者にどれほどの覚悟があるのか。周囲はその姿を見て、自分の身の振り方を考えるものなのである。

固定制運賃を従量制に変更
先の宵積み対応の問題は協力物流会社との契約形態の見直しと交渉によって改善を進めた。A社の外部委託先には、通常の法人契約と「持込み」の個人契約の二種類があった。双方とも契約は物量に関係なく固定制の月極料金制を取っていた。
これを我々は重量当たり運賃に変更し、車両回転率が上がれば協力会社の収入も増える仕組みにすることで、協力会社が自発的に出荷業務の開始を早めるようにし向けた。得意先を調査した結果、早朝7:00出発が2台、その他は8:00台に出発すれば午前中納品が実現できることがわかっていた。このうち7:00出発の2台に宵積みが必要だった。それを協力会社の1つに依頼し、数回の話し合いの末、承諾してもらった。
車両2台は納品後、自社に引き上げずに、A社にそのまま停留させておく形にしたのである。こうした工夫によって午前中必着の要望に応えられるようになった。
クレームは激減した。運賃体系の変更で支払い物流費も7%削減できた。しかし効率的な物流の仕組み作りという点では、依然としてその場しのぎの域を出ていなかった。改善のリーダー役を命じられていたM氏に、S社長の意思が十分に伝わっていないことが原因の一つになっていた。
全社の調整を行うべきS社長がプロジェクトから離れたことで、M氏は最古参の営業責任者K氏と意見調整をおこなわなければならない立場に置かれていた。しかし大先輩に当たるK氏に対して、M氏は気遅れしてしまっていた。
それもあってM氏は日々の仕事を優先し、改善が遅れていることを「忙しいから」と言い訳するようになっていた。そこで我々は、M氏が「忙しい」という業務をもっと簡単に処理する方法や、他のメンバーに依頼して業務を遂行する方法を、実際にやってみせることにした。そこまでしなければ納得してもらえないと考えたからだ。
M氏に限らず、基本的にヒトは納得しないと動かないものだ。今回の改革で最も注意を払い、かつ苦労したのは体制の変更に伴う移行業務だった。特殊性の強い建材業界の物流は、外部委託による費用対効果の判断や外部委託する業務と社内で処理する業務の線引きが難しい。実際、この業界では外部委託による品質低下やコストアップも珍しくない。そのために、多くの企業が白ナンバーの自社車両で物流を自ら処理している。この点をS社長に改めて問い直した。
その結果、物流業務は外部に委託して、自社の社員は製造と販売に特化させるというのが、A社にとっての基本的な方針であることを確認できた。これを前提として改めて業務体制を検討した。
納品車両のうち、2台だけは従来から自社配送だった。これを外部委託に変更するため、既存の協力会社数社に見積もりを依頼した。ところがコストが合わない。自社配送のほうが安く上がるのである。

引き継ぎ時の注意点
やむを得ず我々NLFのネットワーク先の1つとなっている関東のある物流会社の大阪営業所に状況を説明して協力を要請した。これで何とか採算に合うレベルの運賃を引き出すことができた。ただし、自社配送から外部委託への移行はスムーズにはいかなかった。
得意先との暗黙の了解となっている納品場所や、長年の信頼関係に基づく受領印のまとめ押しなど、A社の納品業務には、いわゆる勘と経験を必要とする部分が少なくなかった。新参者には慣れが必要であった。新規外部委託の2台の車両が業務を円滑に回せるようになるまでには結局、3カ月ほどかかった。
このように物流の外部委託や協力物流会社の変更は、荷主企業の上層部が一般に考えるほど簡単ではない。難航する場合がほとんどである。
引継ぎの現場は、“移行”に伴う反発や嫌悪感によって強く支配される。A社のように自社物流を外部にアウトソーシングする場合、既存の担当者はどうしても「数日後には自分の仕事がなくなってしまう。なぜ仕事を教えなければならないのか」という気持ちになる。同様に協力物流会社の変更の際にも「なぜライバル会社に仕事のやり方を伝えなければならないのか」と非協力的になる。
荷主の担当者がこの引継ぎに介在しても調整には自ずと限界がある。それでは現実にどうやって引継ぎを行っているのかと言えば、行き着くところは「視察・見学」である。目で見て業務を盗むのである。
ただし、ノウハウとも言うべきポイントは、見ているだけではまず分からない。そのため通常でも1カ月、長くは3カ月以上、協力会社の切り替え時には現場が混乱することになる。それを見越して閑散期や商品の入れ替え期など、混乱の影響が最小限に留まる時期を移行期に設定しておく必要がある。
業務範囲の広い3PLのパートナーを切り替える場合には、移行期の負荷はさらに重くなる。そのため切り替えが決まった後も当面は既存の協力会社に運営を任せ、業務習得のタイミングを見はからって、仕組みの見直しや改善を行っているのが実情だ。
こうした協力会社変更に伴うスムーズな引継ぎの仕組みやルールづくりには、まだ多くの課題が残っている。しかも今回とりあげた建設、住設業界は、情報システムの活用、随時配車、納品形態などの点で物流のシステム化が遅れている。
それだけに改善のチャンスも大きいと言える。
この業界の物流を変えてやろうという意欲と能力を持った物流会社の登場に期待したい。