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事例で学ぶ物流改善:『生花販売チェーンF社の物流網刷新』

生花の販売店をチェーン展開するF社が物流網の再編に乗り出した。
事業規模の拡大によって、従来の自家物流体制は限界にきていた。
そこで新たに3PLへのアウトソーシングを実施。
これと並行して商品の調達から店舗配送に至る一連のプロセスを見直した。

鮮度管理がカギ握る
F社は関東圏で生花の販売店をチェーン展開する年商約20億円規模の小売業者だ。
店舗数は67で、その大半が直営店となっている。
鮮度の高さと割安な価格、丁寧な接客を武器にして、これまで順調に業績を伸ばしてきた。
鮮度が商品価値を大きく左右する生花の物流管理は容易ではない。
そのため一部の大企業を除いて、これまで生花を多店舗販売する企業はまれだった。
2004年11月には同業界でベンチャー企業として台頭したハナ・プレンティが倒産しているが、
これも適切な物流体制を構築できなかったことが倒産原因の1つに挙げられている。
実際、生花の物流は温度と時間との戦いだ。
これまでF社は、それを物流会社に頼らず自社で行ってきた。
しかし出店数の増加に伴い、従来の自社配送体制は限界にきていた。
これを機会としてF社は、物流業務の外注化とともに、
将来の出店計画まで視野に入れた新たな物流の“シクミ”作りを決意した。
そのパートナーとして、オペレーションの委託先となる3PLのH社、
そして我々日本ロジファクトリー(NLF)が参画することになった。
F社の仕入れには、中国を中心とした海外からの調達と、
国内の生花市場のセリで仕入れる二つのルートがある。
中国からの輸入には温度管理の可能な40フィートのリーファー・コンテナを使う。
7℃に設定したコンテナを上海港から出荷して横浜港で陸揚げ、
本社兼加工センターまでドレージ輸送する。
このプロセスでは通関業者の選定に加え、薫蒸(くんじょう)、
検疫からドレージ輸送までの業務の流れに課題があった。
一方の国内生花市場からのルートでは、市場側で手配した物流会社が物量の増加に対応できず、
商品の積み残しが頻繁に発生していた。
生花は採取後、外気の温度だけでなく、自ら発する熱によっても傷んでしまう。
そのため産地から市場、市場から買い手に至るリードタイムを可能な限り短縮する必要がある。
自社の加工センターに商品が届いてしまえば、後はF社のノウハウとも言える加工技術によって
鮮度を維持することはできる。
それを確認した上で、我々は今回、改善のポイントを以下の3点に絞った。

①店舗配送業務の外注化とその安定化
②輸入陸揚げ後の業務フローの見直し
③出店計画と配送網構築の調整

このうち「①店舗配送業務の外注化とその安定化」については、
自社配送を担当してきた4人の正社員ドライバーの処遇がまず問題となった。
幸いにして4人は配送専属ながらも繁忙期には他の業務を手伝っていたことから
加工センターへ異動させることができた。
そのうち一人は客注や別注などの突発的配送業務に対応するかたちとなった。
次にコスト。
自社配送から外部委託への切り替えにあたり、
荷主企業は往々にして既存社員の人件費のみを基準にしてしまう。
運行三費(燃料・油脂費/タイヤ・チューブ費/修繕費)と減価償却、保険料を
無視してしまうのである。
その結果、外注はむしろ高くつくと判断し、
価格交渉の段階で外注化を断念するケースが少なくない。
その点、F社は物流会社の必要経費には理解を示した。
右肩上がりの成長期ということもあり、
まずはしっかりとした店舗配送を実現することを重視し、
さらには今後出店を加速させるための物流体制構築に目を向けていたからだ。
そのため外注化にあたっての最大の優先順位も、円滑な運営ができることに置いていた。
とはいえ、コストが高くなることを簡単に容認するわけにもいかない。
そこで3PLのH社には運賃の計算方法を工夫してもらうことにした。
1日当たり料金と1ルート当たり料金について、
それぞれF社の車両を使用した場合と通常のH社の車両を使用する場合の
計4パターンを提示してもらった。
物量の多寡に応じて車両の利用方法を変えることで、コストを抑えようという狙いだ。
生花業界の物量の波動は30倍にも上る。
閑散期と繁忙期で料金体系を切り替えることができればメリットは大きい。
弾力性のある料金体系が実現したことでF社の物流担当者のK氏も大変喜んでくれた。
こうして配送業務を外注したことで、結果として配送効率は飛躍的に高まった。
もともとF社には配送ルート表や配車という機能がなく、
ドライバーが自らの判断で店舗、物量、商品を選択している状態だった。
その体制でも納品先は直営が大半であったため、
破損などがない限り、ほとんど問題は発生していなかった。
これをH社のプロドライバーに切り替え、配送体制やルールを整備したことで、
車両回転率や配送時間短縮が大幅に向上した。

通関業者を変更
「②輸入陸揚げ後の業務フローの見直し」は、
通関業務を委託する協力物流会社の見直しから入った。
既存の協力会社はバースクレーンなどの港湾設備を自社で所有しない中間通関業者であった。
この協力会社との契約を打ち切り、新たにハードを自社で所有する乙仲会社に切り替えた。
さらにF社から輸入に関する書類一式(インボイス、パッキングリスト、BL、アライバル、
中国でのサニタリー証明書、輸入許可書、植物検疫合格証、薫蒸証明書など)を提出してもらい、
分析を行った。
その結果、まず短期的な課題として横持ち費用を解消するための改善に手を付けた。
従来は薫蒸や保管などのプロセスをそれぞれ別の物流会社が担当していたことから、
陸揚げから本社加工センターの納品までに多い時には四カ所の倉庫を経由していた。
これを改め、1カ所あるいは2カ所の倉庫で全てのプロセスに対応できる倉庫会社に
委託先を集約したことで、横持ち費用を10%削減することができた。
さらに中期的な改善課題として、輸入品の流通加工業務を割安な中国に移管する改善を試みた。
輸入した生花の薫蒸には臭化メチルや青酸などの多くの薬品処理が必要で、
コストと時間がかかる。
そこで上海現地の出荷品質を向上させることで国内での薫蒸処理をできるだけ少なくしよう
という取り組みだ。
具体的には、これまでF社が直接現地の仕入れ会社と出荷のやりとりを行っていたのを改め、
今回新たに選定した乙仲会社の上海支社経由で現地のチェック機能を向上させた。
その結果、業務切替え後、約3カ月間は従来通りの薫蒸処理が発生したが、
約5カ月目にしてその処理を3分の2にまで減少させることができた。
このF社のケースに限らず、一般にこの手の輸入対応では船港や空港の着地決定を
行うまでは良いのだが、その後で実際に運用を開始してから、
商品に応じた処理、加工施設の有無や能力、寄港スケジュールなどの問題が発覚して、
着地の変更を余儀なくされる場合が多い。
それによって横持ちによる陸送費、いわゆるドレージ料金が予定していた以上に
跳ね上がってしまっているケースが多々見られる。

物流の視点で店舗展開を検証
「③出店計画と配送網構築の調整」では、F社と最も多くの議論を交わすことになった。
F社の店舗は商品鮮度、接客、価格などの面での評価が高く、
以前から食品スーパーやショッピングセンターなどから多くの出店依頼が寄せられていた。
これに対してF社は、品質の悪化を招きかねない急速な店舗数の拡大や安易な立地選定には
慎重な姿勢をとっていた。
それでも出店ペースは従来の年間2〜3店舗から4〜5店舗へと、徐々に上がってきていた。
これに伴い出店エリアも拡大する傾向にあった。
従来は東京都内と横浜を中心に展開していたが、
新たに大宮や船橋といったエリアまでが候補に挙がるようになっていた。
我々NLFはセブンイレブンを例にとってドミナント出店による物流面での優位性を指摘、
出店コストおよび店舗維持コストに物流コストを含めたトータルコストを検討した上で
出店エリアを選定するよう提案した。
この提案に物流担当のK氏はすぐに理解を示したが、M社長は納得しない。
どうしても出店する食品スーパー、ショッピングセンターの賃料や保証金、
出店ゾーンなどの条件にこだわっていた。
しかし生花のような鮮度品を運ぶには、保冷車を投入したとしても、
できるだけ配送時間を短くする必要がある。
また開店と同時に納品させ、販売機会のロスを無くすためにもドミナント戦略は大前提だ。
再三の話し合いの末、年度ごとに出店エリアを設定し、
その中で出店条件の合う商業施設を選ぶという方法をとることになった。
今年度は東京都内と横浜に集中。来年は北関東エリアといったやり方である。
こうしてF社は物流体制を整備し、我々から見ても磐石な店舗網を構築することができた。
小売業や外食産業においては、確かに「立地」は最重要項目だ。
しかし同時に配送コストまで含めた商材調達の効率、鮮度維持やそれに伴う販売機会損失など、
出店計画は物流の視点からも検証する必要がある。
F社のように単価の低い商品を扱っている場合は、なおさらそれが重要になるのである。