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第37回 事例で学ぶ物流改善:『物流会社K社の3PL人材育成』

経営破綻から再生を果たした中堅物流会社K社。次のステップは3PLへの業態革新だ。そのために3PL事業の担い手となる人材の育成に着手した。研修で得たスキルをすぐに実務で活用する。それを繰り返すことで、着実に改革を進めることができた。


経営破綻からの再生

東北地方を地盤とする年商300億円のK社は、本連載2004年8月号でも紹介した物流会社である。
前回は同社が巨額の負債を抱えて経営破綻し、投資会社の管理下で再建に取り組む様子を紹介した。
その後、K社は見事な再生を果たした。今や黒字企業として近い将来の株式公開も視野に入ってきた。
そのK社から改めて問い合わせが入った。
前回のコンサルティングで我々、日本ロジファクトリー(NLF)との交渉窓口を務めてくれたM氏からであった。「おたくからのセミナーの案内を見て、ウチの社長が是非社員に受けさせたいと言っている」とのことであった。
セミナーとは、NLFが本年開講する「物流実務カレッジ」の「3PLプロフェッショナルマネージャーコース」のことである。
M氏の話を聞いて正直、私は「K社に3PLはまだ早いのではないか。もっと現場管理職や営業担当者の教育をしなければならないレベルではないか」と疑問に感じた。
しかしその後、K社のY社長やS常務の話を聞いていくうち、物流品質の向上を高め、市場環境に適応していくには〝井の中の蛙〞であってはならないという強い危機感を持っていることが分かった。苦難を乗り越えたK社は、今度は強い会社づくりのための第一歩を踏み出そうとしていた。その目玉となるテーマが3PL企業としての成長と発展であった。
K社からの参加は15人に上ったため、我々は別枠でK社単独の3PLプロフェッショナルマネージャーコースを設けることにした。実務研修のカリキュラム内容は表1の通りである。

2006年2月■物流会社K社の3PL人材育成●図①

こうしてK社の3PL改革は実務研修と並行して展開していくことになったのである。
第1回の研修内容は、第1部「NLFにおける3PLの定義解説」、
第2部「3PL担当者に求められるスキル」、
第3部「提案営業の進め方と効果的ツールの作成」、
第4部「一括受託提案の方法とポイント」、
第5部「グループ別ワーキング」
であった。
グループ別ワーキングでは、参加した15人を5人ずつの3つのグループに分け、それぞれを仮想3PL会社として位置付けた。各グループで相談して、自分たちの3PL会社の社名、主な業務、対応エリア、営業拠点などを決定し、それぞれが目指す3PL会社のスペックを決めていった。
このグループ別ワーキングは、単に講義を受けるだけではなく、3PL会社を運営するために必要となる、強みとする物流サービスや物流インフラ、傭車ネットワークなどの体制について、参加者の知識を整理し、身につけていくことが狙いだった。

白ナンバーを狙え
それから2週間後に、第2回研修を実施した。開催の冒頭にプロジェクトリーダーのM氏から、第1回研修を具体的な社内活動に、どう結びつけたのか報告を受けた。
「前回の研修で物流ニーズ、3PLマーケットが様々なところに転がっていることが認識できた。これを受けて〝白ナンバー〞をターゲットとした営業戦略を立案し、具体的に動き出している」とのことであった。
白ナンバーとは、自社物流を行っている荷主のことである。営業用トラックのナンバープレートが緑色であるのに対し、自家用トラックが白であることからそう呼ばれる。
一般的に白ナンバーは食品や建築資材の卸、問屋や中小メーカーに多い。これらの荷主にアウトソーシングの提案を行い、受託するというものである。こうしたケースでは、業務とともに荷主の既存スタッフと車両まで含めて3PL側で受け入れることになる場合が多い。それを3PL側から積極的に提案していくことで新規荷主を獲得しようという戦略だ。
もともとK社は地場の食品卸を中心に営業を展開していた。それに対して私はターゲット企業の見つけ方として、名簿などの活用はもちろん、もっと生きた情報収集も必要であることを指摘した。そして具体的な方法として、車両通行量の多い主要幹線道路で定点調査を行い、会社名を拾い上げリスト化することを提示していた。
私の提案をK社はすぐに実行に移していた。
第2回の研修は、第1部「物流管理指標作成・運用による改善の着眼点」、
第2部「コンサルティング活動の内容とその進め方①」、
第3部「コンサルティング活動の内容とその進め方②」、
第4部「3PL契約内容とそのポイント」、
そして
第5部「グループ別ワーキング」
という構成だ。グループ別ワーキングは今回も仮想3PL会社をベースにした。それぞれ仮想荷主を設定。
トータル物流コストの削減やリードタイム短縮のシクミづくり、アウトソーシングなど、各仮想荷主の要望を受けて提案書の作成に取りかかった。初めて提案書を作成するという社員も多かった。そのため提案書の「厚み」に怖じ気づくことのないよう、重点項目に絞り込んだ簡易版の提案書を作成させることにした。
ハードルが高すぎては落第者を出してしまう。小さな成功体験を積み上げることで、参加者に自信を付けさせなくてはいけないという配慮からだ。
さらに2週間後。第3回研修の開催冒頭に再びM氏から活動報告を受けた。今回は大きな動きが2つあった。1つは日本郵政公社とのタイアップが実現できそうであるということ。そしてもう一つは既存荷主の電機メーカーに庫内作業効率化のための物流改善提案書を提出したということだった。この提案書は先方の意に留まり、K社と共同で現場改善をすることになったという。
具体的には出荷頻度のABC分析を行うことで在庫のロケーションを変更し、狭い庫内を有効に活用しようという内容であった。
このように毎回、活動の成果を聞くことは、私自身にも大きな励みになった。ますます研修に力が入っていった。

物流コンペのタブー
第3回研修は、
第1部「3PL運営におけるコストダウンの方法」、
第2部「物流改善の手法とその進め方①」、
第3部「物流改善の手法とその進め方②」、
第4部「レイバーコントロールの方法」、
第5部「ロールプレイング」
というカリキュラムだ。ロールプレイングではトータル物流コストの算出作業を行った。トータル物流コストの「人件費」の項目では、大半のメンバーが算出ミスを犯した。人件費=給与という思い込みが強く、社員にかかる福利厚生費を加算していない参加者が多かった。
ちなみに福利厚生費は一般に、平均給与の12%〜13%ほどかかってくる。こうした実作業を経験することで得られるものは決して少なくない。
このロールプレイングでも、それまでなかなか研修についてこられなかったある社員が「こういう内訳になっているのですね」「実際、計算をしてみると面白い結果が出ます」と、大きな関心を示してくれたのであった。
第4回研修は、
第1部「パートナーシップ構築の方法」、
第2部「荷主情報開示提案とその進め方」、
第3部「3PLに必要な情報システムとその機能」、
第4部「情報システム活用による業務の可視化」、
第5部「グループ別ワーキング」という内容である。
このグループ別ワーキングでは第2回研修で作成した提案書に修正を加え、完成させた提案書でプレゼンテーションを行った。
私が仮想荷主の物流担当者となって、プレゼンテーションについての質問や確認などを行った。総じて物流マンは人前で話をすることが苦手である。K社の社員も同様であった。また、質問に対する回答として“言い訳”や“後ろ向きな見方”、“あいまいな逃げ口上”などが多く見られる。
提案営業でもっともタブーとされるのが、自社の都合を正当化してしまうことである。提案書レベルでは一見、荷主の要望に応えた内容となっていても、いざ踏み込んだ質問をすると、つい自社の利益優先の本音が出てしまうことが多い。
経験を積み重ねることが必要なのはもちろんだが、会社としても日頃から物流マンとしての引き出し、解決策をできるだけ多く持つように社員を育成していなければ、多様化かつ高度化する一方の荷主のニーズには対応できない。
第5回の研修内容は、
第1部「3PL運営における業務品質向上策」、
第2部「在庫管理の方法と進め方」、
第3部「3PLに必要なマテハンノウハウ①」、
第4部「3PLに必要なマテハンノウハウ②」、
第5部「グループ別ワーキング」
であった。

研修を実務に活かす
最終回となる第6回研修の開催前の活動報告では、従来から取引関係のあった商社A社のオフィスにK社の専用デスクを置くことになった、つまり商社にK社のスタッフが常駐することが決まったという報告を受けた。
商社A社は食品物流に定評のあるK社のノウハウに注目し、共同で営業活動と受託後のセンター運営や配送を行うことになったのだという。
第6回研修の内容は、
第1部「同業者ネットワークの構築方法」、
第2部「フリーアセットによる物流インフラの組立て方法」、
第3部「物流遊休資産の対処方法」、
第4部「共通目標のあり方と設定方法」、
そして
第5部「グループ別ワーキング」
である。最後のグループ別ワーキングでは当コースのまとめとして、以下にタスクとその進捗管理を記入し、実務研修終了後も引き続き3PL改革の実践を進めることを全員でコミットした。一連の研修期間を通じて、K社の行動は常に迅速であった。
その結果、実務研修→実践→実務研修→実践というサイクルができあがり、研修の時間対効果・費用対効果は格段に高まった。
研修は消化すれば良し、とする時代は終わった。いかに会社に戻ってモノになるスキルを習得できるか。結果を出すことができるかが問われている。その意味で研修を即座に実践し結果を出したK社の取り組みは理想的なケースといえる。
K社の実践のなかには、3PLとは言えないような展開も発生した。しかし、それも3PLを経営ビジョンに掲げることがなければ得られなかった収穫である。今や会社の目標、ビジョンに3PLを掲げる物流企業は後を絶たない。ただし、その成果は3PL事業そのものだとは限らない。3PL改革の醍醐味は、業態革新よりもむしろそのプロセスにあるのかもしれない。