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第38回 事例で学ぶ物流改善:『建材卸M社の物流アウトソーシング』

各営業所がそれぞれ物流機能を備えた商物一体の体制では、拠点展開のスピードが遅くなる。物流機能を営業所から切り離して1カ所に集約し、アウトソーシングできないか。経営者はそう考えた。しかし現場は、アウトソーシングする以前に片づけなければならない課題が山積していた。


アウトソーシング以前
建築資材卸のM社は北関東に本社を置く年商約60億円の中堅企業である。取り扱い商品はサッシやガラス、窓枠などといった資材が中心で、県内とその周辺に五カ所の営業所を構えている。現在の社長で3代目という老舗で、オーナー一族は地元の名士に数えられる。
M社のS社長はホームページの検索エンジンで我々日本ロジファクトリー(NLF)の存在を知ったとの
ことであった。実際にお会いすると、S社長は物腰の柔らかな紳士的な人物で、我々への応対も丁重だった。その人柄や社内の様子から、我々は伝統の重みとも呼べるような雰囲気を、M社から感じたのだった。
S社長からの相談は、物流業務のアウトソーシングであった。「当社は今まで〝物流〞というものを営業活動の付帯業務としか考えていなかった。そこにメスを入れて、新しい物流の仕組みを作りたい。それによってコストダウンを図りたい」というのがS社長の要望だった。
それまでM社では全ての営業所にストックヤードを併設し、正社員がハンドルを握って商品を届けていた。しかし、この体制では営業拠点を増設するたびに、営業や管理だけでなく、物流機能まで構築しなければならないため、拠点展開がどうしても重たくなる。そこで営業拠点ごとに分散していた物流機能を1カ所に集約し、業務自体をアウトソーシングできないかという話だった。
我々に相談する前に、物流をどのような方向に持っていくかについて、M社の社内で話し合ったが、やはり専門家の意見も聞いてみようという結論に達したとのことであった。
本連載でも既に何度かとりあげているが、このM社も含めて最近「白ナンバー」の自家用トラックを使った物流を改善したいという相談が増えている。相談依頼者の多くは卸・問屋である。「問屋無用論」の再来なのか、はたまた人手不足・少子高齢化による自社物流の限界なのか。いずれにせよ中間流通業者の伝統的な自家物流が、何らかの警告を発し始めていると私は感じている。
さて、こうして我々NLFは簡易診断という形でM社の調査に入った。まずは現場を視察して、定性的な調査を行った。
5カ所ある営業所はそれぞれ約130坪〜160坪程度のストックヤードを持ち、在庫品を保管している。これらの在庫の保管は出荷頻度分析によるABC管理はもとより、基本的な整理整頓さえままならない状態であった。
中には返品された商品を山積みして放置している営業所もあった。現場には物流概念はおろか商品を〝お金〞として見る意識自体がなかった。
配送車両の運営状況も同様だった。配車表や配送スケジュールというものはなく、それぞれの配送員たちが勝手に判断して積み荷や納品先を決めていた。
ある営業所では我々が調査を行っている約一時間半もの間、本社から回ってきたトラックが停止したままであった。この現場視察と並行して、定量的調査としてトータル物流コストの算出を行った。
過去2カ月間の実績データを分析した結果、M社の全社合計の対売上高物流コストは17.8%であり、卸・問屋業としても非常に高い数値であることが分かった。これを営業所別に見ると最も対売上高コスト比率の低いD営業所が15.8%。最も高いB営業所が18.5%という結果だった。
もともとM社は配送員の賃金水準が高く、人員も多い。それに加え、営業担当者であっても、実際には配送や物流作業に多くの時間を割いていて、新規開拓やメニュー拡大、提案営業など、営業担当者が本来行うべき仕事が後回しにされていた。それが高コスト物流の原因であった。この結果にS社長が強い関心を示したのは当然であった。物流のみならず営業にもメスを入れる必要があった。
もっともM社でなくても、中間流通業の物流改善では、大半が営業改善と連動する。M社は決して珍しいケースではないのである。

2006年3月■建材卸M社の物流アウトソーシング●図①
労務管理に大ナタ
物流アウトソーシングの基本は「管理」は自社、「運営」は外部である。自社で「管理」できない、「管理」しない、いわゆる「丸投げ」は後々、協力会社のコストコントロールが効かなくなって逆効果になる。
単にコストだけの問題ではなく、例えば受注締切時間後の緊急出荷には対応できないなどの制約ができることで、物流に合わせて営業しなければならなくなる、といったような失敗例を我々はいくつも見てきた。
M社には、その「管理」する機能がなかった。我々はこのままではアウトソーシングは不可能だと判断した。やや遠回りに思えても、まずは社内の物流管理機能を整備する必要がある。そして自社物流を一定のレベルで運営管理する体制ができあがってから、アウトソーシングを実施するように、S社長と幹部に提案した。
幹部たちの多くは、新たな仕事が増えることで日常業務に支障をきたす恐れがあると抵抗を示したが、S社長は我々の提示内容に合意した。そしてすぐさまS社長の号令によって「物流管理プロジェクト」と「営業力強化プロジェクト」の2つが立ち上げられることになった。
「物流管理プロジェクト」のリーダーには人事部長が任命された。まず人件費にメスを入れた。それまで配送員は固定給プラス残業代という給与体系だった。この固定給部分を20%下げ、残業代を全廃。
その代わりに納品件数1件当りの手当てを設定する歩合給制に切り替えた。人員も削減した。
高齢の配送員を対象に希望退職者を募り、21人の配送員を17人に減らした。しかし繁忙期の必要人員を考慮しても、まだ人余りの状態であった。そこで17人の配送員のうち、営業に適しているとみなされた2人を営業担当に転属した。
一方、「営業力強化プロジェクト」はS社長自らがリーダーとなった。既存顧客数そして新規開拓余力数から必要な営業員数を割り出し、サポート人員を2人在籍させるという考え方で営業部門の適正人員を算出した。さらに営業の業務内容を抽出し、検証を行った。検証結果にS社長は困惑した。
従来の営業員数50人に対し、適正人員は35人だった。「これほどまでにムダがあったのか」とS社長は驚くとともに、「これだけの人員削減をどうするか」と頭を抱えた。
S社長の予想通り、実父である会長は人員削減には反対で、雇用を守ることを強く望んでいた。地場の老舗企業には雇用第一主義を唱える企業が少なくない。M社もその例外ではなかった。
この問題で約1カ月間、プロジェクトはストップした。その間に何度も社長と会長の話し合いが行われた。それでも結局は当初の方針のまま改革は続行されることになった。最後はS社長の粘り勝ちだった。
この結果は我々には意外だった。社長が、父である会長を説得することができないために、改革案の変更を余儀なくされたり、あるいは改革自体が潰されるケースを、我々は過去に何度も見てきたからだ。
しかしM社の場合は、会長の子離れと、S社長の独り立ちができていた。S社長の方針は50人の営業担当者を35人に削減。少数精鋭化によって、従業員一人当たり3000万円の生産性を3600万円に引き上げるというものだった。
これに会わせて15人の営業担当者がグループのリフォーム会社に転籍となった。そのうち約半数は自主退職し、最終的には8人が転籍を受け入れた。S社長としても辛い判断だった。
物流コストを18.2%削減活動から4カ月後、正式に本社物流部が発足した。男性社員2人と女性アシスタント1人という体制だ。しかし、器はできたものの新設部署のため、車両の運行原価や得意先別の物流費などの過去のデータが全くない。そこで他社事例から類推した数値や、決算書のデータを按分することで、概算で基礎データを作成した。
こうしてさらに2カ月後、いよいよアウトソーシングに踏み切ることになった。アウトソーシングにあたって1つ懸念材料があった。M社で使用する車両は「ウマ」と呼ばれる荷台に三角形のあて板を積載する建材輸送専用車両であった。
そこでM社の既存車両を協力会社に下取りしてもらうことを条件にした。M社と我々とで物流会社を八社ピックアップし、5社が条件に応じた。さらに提案力と見積りの過程で2社に絞られた。最終的には双方の物流会社の現場視察によって1社に絞った。地元に本社を置く、メーカーの物流子会社だった。
子会社ながら外販にも実績があった。
正式依頼を前提としてM社と協力会社のトップ会談を開き、M社の意向とそれに対する物流会社の対応方針が確認して、契約書を締結した。
このアウトソーシングによってM社は、トータル物流コストを18.2%削減することができた。
現在、アウトソーシングの実施から3カ月強になる。今のところ、物流現場や得意先から大きな問題は報告されていない。しかし、一般にアウトソーシングの成否を判断するには、最低6カ月間は経緯を見る必要がある。
我々は無事運営されることを祈りながら、白ナンバー物流の今後の方向性を探っていこうと思う。