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第39回 事例で学ぶ物流改善:『地場物流会社S社の3PL展開』

大企業と中小企業では3PLのスタイルも違う。実際、中小企業同士が最初から包括的なアウトソーシング契約を結ぶケースなど希だ。むしろ小さな仕事から始めて実績を積み上げろ。信頼を構築することができれば、業務委託範囲を拡大するチャンスは後からいくらでも
やってくる。

主要荷主の合理化で売上減少
S社は名古屋に拠点を置く年商10億円の地場物流会社だ。創業は8年前。電機メーカーに勤務する営業マンだった当時28歳のN社長が脱サラして物流業に参入した。
N社長には運送会社を経営する叔父がいたものの、自身は物流業界について全くの素人だった。その素人性を、N社長はS社の武器とした。
全てのドライバーに名刺を持たせ、納品時にS社の会社案内に名刺を添えて配布させるようにした。
帰社後もドライバーが自分でパソコンに向かって日報を入力する。業界の常識をうち破る数々の営業活動、運営方法を見事に実現し、着実に業績を上げていた。
そこには旧態依然とした「運送業」ではなく「サービス業」として物流事業を展開したいというN社長の強い想いがあった。
これまでずっと順風満帆だったというわけではない。創業から6年目のこと。N社長の前職でもあり、またS社の主要荷主でもある電機メーカーのD社がリストラの一環としてグループ会社2社の統合を行った。これに合わせてグループ会社2社が業務を委託していた物流会社を集約し、運賃の見直しをかけるという事態になった。
統合から6カ月後、従来の貸切り運賃から納品一件当たり運賃へ、運賃体系が変更された。さらに、その6月後には物流会社の集約、見直しが行われた。幸いにしてS社は統合会社の物流業務委託先に残ることができた。しかし物量は6台の2t平ボディ車の使用を4台に減らされた。今後の展開も雲行きが怪しくなっていた。
S社としては新たな一手が必要だった。売上高の減少分を新規開拓で補いたい。しかし従来のやり方で新規開拓を進めると、業務量に応じてドライバーや車両資産を増やさなければならない。固定費の増加は避けたいところだ。
そこで自社資産50%、外部資産50%を目安としたフリーアセット型の3PLを展開しようという方向性を打ち出した。新たな方針を元に、まず過去に問い合わせのあった生花販売のF社に連絡を取った。
F社は年商20億円、食品スーパーなどの入り口にテナントとして生花店を出店している。現在の店舗数は約50。前回は店舗に生花を納品するルート配送の相談だったが、話し合いの結果、S社の既存のリソースでは対応できないと判断して業務を断わっていた。
それから3カ月が経過していた。既に他の物流会社に決まってしまっただろうと、諦め半分で連絡したところ、「なかなかこれといった物流会社がなく、自社物流を続けている」とのこと。
早速、改めてF社を訪問し、業務の対応ができる体制を整えたことを伝えた。前回と違って今回は、我々日本ロジファクトリー(NLF)とS社が協力して、企画、提案、コンサルティング、現場改善を行い、S社の既存のリソースで対応できない場合でも、NLFのネットワークを使って外注化対応を行うというスタイルだ。もっともF社の場合は、もともと自社物流であったため、F社の既存のドライバーと車両をS社が受け入れる形で活用するという選択肢もあった。

まずは配車権を握れ
再三に渡る話し合いの末、全体の配車管理業務および現状の全8コースのうち2コースだけをS社が担うことになった。その2コースも、ドライバーの一人はF社からの転籍者。車両は2コースともF社の所有車を使う。結局、新規業務に伴ってS社が投じたリソースはドライバー1人と配車管理者1人の人員2人に留まった。
車両の投下はゼロであった。しかしS社としては〝配車権〞を獲得しているため、業務拡大を慌てる必要はなかった。
実際、1カ月のテストランを経て、本稼動となった後は配送効率を高めることで8コースを6コースに削減し、4カ月後には6コースのうち、5コースまでがS社の運営となった。ドライバーは5人のうち3人がF社からの転籍者であった。
外注化提案から10月後、F社はS社の運営の安定性を評価し、次のステップとして生花市場からの商品の引き取り、いわゆる調達物流業務をS社に委託したいという要望が出された。生花市場から出荷するための輸送車両は通常、市場側が手配している。それを自社でコントロールできないかという相談だった。
それまでの市場側の車両手配では、繁忙期に荷が残ってしまったり、間違って他の会社の荷を持って帰ってしまうなどのトラブルが珍しくなかった。配送上のミスは店頭での欠品を招くだけでなく、生花という商品の特性上、荷傷みが生じやすく、ロス率が一気に上がってしまう。
そこで我々S社とNLFは、生花市場への車両の入場時間と引き取り到着時間、そして繁忙時の増車対応、保冷車を利用した温度管理などを検討して、新たな調達物流体制を設計した。
これによって物流品質が安定化しただけでなく、リードタイムを短縮することができた。市場内でのタイムロスが無くなったことで、それまでセリ日の夕方にF社の加工工場に納品されていたものを、当日の昼過ぎの納品に前倒しできた。
こうしてS社の受託業務の範囲は店舗配送から始まり、配車管理、調達物流と段階的に拡大していった。

3PLとは呼べないかも知れない。
F社の案件ではセンター内業務のアウトソーシングが発生しないため、仕事としては「業務請負以上・3PL未満」といったところだろう。それでも充分、成功だと言える。S社とNLFによる役割分担という同じスキームで次の荷主にもアプローチした。
その1つが本連載2006年1月号でご紹介した年商約50億円の印刷会社、P社だった。
先のF社と同様、P社の案件も自社物流の外注化であった。商物分離によって会社をスリム化すると同時に、営業マンの生産性と付加価値を上げたいというのがP社の狙いだった。
今回もS社は段階的にアウトソーシングの領域を拡大していくことを目指した。実際、S社がこの案件に投下したのはヒトだけだった。ただし、ここでもS社は物流管理者を設置し〝配車権〞を握った。
全14コースのうち、まず3コースだけを受託するところから始めた。トライアルから1年後の現在、S社は14コース全てと物流管理業務そして工場から各営業所に納品される幹線輸送までを対応するに至っている。
本誌をはじめとして世間では、大手荷主と大手物流会社の間で実施される年間数10億円規模の3PLの事例がよく取り上げられている。しかし、そうした〝一括受託〞はまだ大企業同士の一部の動きにとどまっている。とりわけ自社物流の外注化では、段階的に進めるのが一般的で、最終的にもフルアウトソーシングにはならないケースが多い。しかし中小荷主、中小物流会社の間でも、実力相応の3PLは成り立っているのである。
はじめは〝一部受託〞であっても双方の理解の上に着実に運営が実施され、信用が積み上がっていけば、いずれ一括受託にもつながっていく。それなのに〝一括〞にこだわるがゆえに失敗に終っている3PLがどれほど多いことであろう。
物流企業にとって重要なのは受託範囲や委託金額ではなく、その内容である。中立的、客観的立場に立った提案とコンサルティング、そして現場改善力による受託が大切である。
現状の3PL事業にミスマッチがある場合には、物流企業側では顧客ターゲットの設定、そして荷主側ではパートナー企業の選定に、その原因がないか、改めて検討してみるべきだろう。