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第42回 事例で学ぶ物流改善:『素材メーカーY社の在庫削減』(続編)

過剰在庫の最大の原因は経営陣の意識にあった。実態を数値で示し、事実を直視することで、経営陣の意識は変わった。その結果、在庫は大幅に削減された。次の課題は社内の意識改革だ。「5S」をはじめとした地道な改善活動の定着が、その証しになる。

25%の在庫圧縮
今回は本連載の2005年7月号でご紹介した素材メーカーY社の改善活動の続報である。まずはざっと前回のおさらいをしておこう。
九州に本社を置く年商約60億円の中堅素材メーカーY社は在庫管理に問題を抱えていた。在庫が多過ぎると皆が感じていたものの、ルールを無視したデータの改ざんや期末の調整などが常態化し、信頼の置ける基礎データ自体が社内に存在しない状態だった。同社のオーナーでもある会長自身、在庫の実態を隠したがっているフシがあった。
Y社には在庫のほかにも一つ深刻な問題があった。事業継承である。会長は気力こそ旺盛ながらも既に高齢である。そのため近年は少しずつ実子であるS社長に業務を移管し、今では経理と仕入れの値決めに会長の役割は限定されていた。
一方、S社長は営業活動に主軸を置き、会長とはできるだけ顔を合さないかのような動きをとっていた。衝突を避けるためである。
実際、会長と社長は月に何度も考え方の違いでぶつかり、社員の前で大喧嘩になっていた。見かけの上は事業継承が進んでいるように見えても、会長はまだ気持ち的に息子に経営を任せていないのである。
困るのは幹部や他の管理職である。会長と社長で指示が異なる。そのたびにどちらの指示を聞けば良いか現場は混乱する。その結果、どちらかに影響することを恐れて、何もしないということになる。
こうした二頭政治が、動かない組織をつくっていた。このような状況にS社長は危機感を抱き、我々日本ロジファクトリー(NLF)にコンサルティングが依頼されたのであった。
S社長をはじめとしたプロジェクトメンバーたちとY社の現状を分析した結果、我々は以下のような改善施策を最初に実施すべきだという結論に至った。

・仕入れや在庫金額などの業務改善に落とし込むことのできる経営指標の公開
・棚卸の頻度を年1回から月1回へ
・製品アイテム別在庫回転率の算出
・原材料発注点の設定
・一時間ごとのバッチ処理による受注
・在庫管理表(システム)の改良
・保管ルールの設定と実施
・両工場の物流コスト算出による改善の必要性の浸透(業務の可視化)
・新工場における荷札貼り作業の外注化(物流会社)
・現場人員の業務目標の設定
・その他(言葉の統一と帳票の統一、整理整頓の徹底など)

その後9カ月の活動を経て、どのように改善が進められ、その結果、どのような効果があったのかを以下に報告していきたい。
まず特筆すべきは在庫の圧縮であろう。改善着手から4カ月弱で、25%の削減を果たした。その最も大きな理由は実質的なトップである会長の意識が変わったことであった。
我々NLFは、Y社の在庫を調査分析した結果を資料にまとめた。そこには、Y社と同業他社および同規模の会社の平均在庫を比較するグラフや、Y社が全体としての在庫量は多いものの、売れ筋のAランク商品は欠品寸前になっていることなどが示されている。
目の前に数字を突きつけられて、会長はそれまでの在庫に対する考え方を変えざるを得なかった。いくら生産ラインの段取り替えに時間を要するとはいえ、大量生産を続ければ在庫は膨らむ一方だ。それで生産効率は上がっても、結果として会社の利益にはならない。
一方、段取り替えの頻度を上げれば、確かに生産効率は落ちるが、ムダな在庫を作らなくても済む。それによってキャッシュフローは増大し、保管スペースや物流コストも削減できる。結果的には経営にメリットをもたらす
——そうした意識を経営トップが持つことで、大幅な在庫削減を実現することができた。

5Sができれば何でもできる
次いで生産改善、物流改善の関所とも言える「5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)」活動の状況である。極論かも知れないが、私に言わせれば、5Sができる会社、あるいは5Sができている会社は、何でもできる会社である。5Sの定着は、経営の基本ができており、基本を維持する力があるという証しである。
Y社で5S活動のプロジェクトリーダーを務めたS社長は当初、5Sの推進を甘く考えていたという。しかし、その後、各活動グループの業務内容と、各グループを担当する管理職名をリストアップし、具体的なアクションプランを立てる段階になって、その難しさに気付かされることになった。それまでY社は、現場の改善活動など行ったことがなかった。
それに加えて現場では5S活動と並行して、在庫の適正化に向けた新たな仕組みの導入も進められていた。現場の消化不良と混乱を避けるため、結局Y社は「5S」を、「整理」と「整頓」の「2S」に絞って活動を開始したのであった。ちなみに5S活動における「整理」とは、要らないモノを捨てることである。
また「整頓」とは、よく使用するモノを次に必要になった時に、すぐに使えるように整えておくことである。
現場レベルの改善は、このような具体的な表現にまで落とし込まなければ、末端までその意図が伝わらないものだ。
Y社では、まず毎月の第一週の土曜日を「2Sの日」に設定した。その初回には実に4t車一台分にも上る「要らないモノ」が出てきた。
廃材や使わなくなった部品、壊れて修理不能のローラーなど様々なモノが現場に放置されていた。それを取り除いた結果、在庫削減効果と合わせて27%の空きスペースができ、人員の動線がスムーズになった。
もっとも当初は、何が要るモノで、何が要らないモノなのか、判断がつかないという声もあった。その場合には、まずグループを担当する管理職に相談する。それでも判断がつかない場合には、プロジェクトチームの本部に相談するというルールにした。各現場グループ間の調整は、それぞれのグループリーダーに任せた。
これは若手幹部に考える力を着けさせたいというS社長の考えであった。その甲斐はあった。あるグループのリーダーは、現場の整理・整頓をどのレベルを維持するのかということに焦点を置き、最高レベルと判断される時点での現場の様子を写真に撮り、それを工場内の事務所付近に大きく張り出すという工夫をした。
こういった取り組みが横に拡がっていった。こうして四カ月が経過した頃、グループリーダーから「マンネリ化が見られる」「2Sの日にしか整理整頓を行わないグループがある」といった意見が出されるようになった。対策を検討した。
その答えは「2Sの日」をワンランクアップさせて「清掃」を加えた「3Sの日」に変更することであった。同時に各グループ単位で、なぜ5Sが重要なのかということを改めて確認する作業を行った。

多能工化のキーマン
在庫削減と5Sに並ぶ、三つ目のテーマは「多能工化」である。これもS社長がぜひとも押し進めなければならないと強調したテーマであった。プロジェクトチームのサブリーダーであるM氏が中心となって進めることになっていた。しかし、当のM氏は「忙しい」という理由から、なかなか積極的にならない。
実際、M氏は忙しかった。M氏は大手メーカーからの転職組で、大半がプロパー社員あるいは中小企業出身というY社にあっては異色の経歴の持ち主だ。そのキャリアを活かしてもらおうと、会社としてもM氏を大手取引先の営業フォローに充て、また品質管理などの業務も兼務させるなど、重責を与えていた。そうした面でM氏の大手メーカーにおける勤務経験はY社にとってプラスになっている反面、弊害もあった。
M氏は中小メーカーであるY社の現状を冷静に評価しながらも、当事者意識を欠いた発言や、社内コンサルタント的な立場をとることが少なくなかった。プロジェクトに対する意見は出すものの、自分の分担するテーマについては、出来ない理由を並べるといった感じであった。
我々NLFとプロジェクトメンバーは、M氏との個別面談や話し合いを行い、プロジェクトの成功にはM氏の力がどうしても必要であるというメッセージを送り続けた。プロジェクトが進んでいくのに伴い、M氏の姿勢は変化し始めた。
いったん動き始めると、M氏の適応力、落とし込みの能力には目覚ましいものがあった。そしてM氏は多能工化の対象となる社員達との〝飲みにケーション〞など、表に出ない貢献にも精を出してくれるようになったのであった。
こうして多能工化に向けた取り組みのエンジンがかかった。その途中で目標を「多能工化」から「多能班化」に軌道修正した。
これまでY社の現場では生産ラインごとにグループを組み、グループ内での連携を図ってきた。そこで培われたチームワークを活かすには、多能工化という個人単位の改善より、グループ単位でジョブローテーションを行った方が効果的だという判断だった。
この多能班化が奏効し、現場の生産性は23%アップした。これまで各生産ラインにそれぞれ一つのグループが対応する体制だったものが、1つのグループで平均二2・3ラインに対応できるようになった。
これによって、生産量の変動に柔軟に対応できるようになった。また、それまで工場間の横持ち輸送を担当していた社員二人分の業務を物流会社に委託したことで、コストダウンと同時に、浮いた社員二人を手が足りなかった生産ラインに補充することができた。

改善活動が人を育てる
このように素材メーカーY社の九カ月にわたる改善は、導入段階としては一定の成果を収めたと言える。改善活動には費用対効果とスピードを求められるのが常である。その点に関しては、まずは成功と言えるだろう。しかしY社の本格的な改善活動はむしろここから始まる。一般に、中小企業の現場改善は困難を要する。大手とは違い大半の場合、担当者は日常業務をこなしながらプラスαとして改善活動を行うことになる、つまり専任者を設置することができない。
またOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が中心で基礎教育、研修を受けた社員がほとんどいない、といった理由がある。
それだけに中小企業のトップは、改革プロジェクトに対して、金銭的な効果だけでなく、参加メンバーの意識の向上や、成功体験を植え付けるといった、管理職教育の効果も期待する。Y社の場合もそうだった。
そのために我々NLFは今回、当初の決定事項を完遂することに強くこだわった。それはY社に、決めたことが継続できないなどすぐに棚上げになるといった体質を感じていたからだ。
これからY社は改善活動の次のステップに進め、新たな項目出しにかかる。未着手テーマを洗い出し、また改善中のテーマをひとつずつクリアして、全てを完遂するまでには、少なくともあと二年は必要であろう。
その時、Y社には何人の次世代リーダーが誕生しているだろうか。