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第43回 事例で学ぶ物流改善:『学習塾チェーンB社のコスト削減』

とにかく安く−それがB社の改革の全てだった。
それまでの支払い物流費が高水準だったわけではない。むしろ安過ぎるぐらいだった。それでも、もっと安い業者もいるはずだとB社は料金にこだわり続けた。そのことで協力物流会社だけでなく、我々コンサルも苦労することになった。


安い倉庫を探せ
B社は学習塾のフランチャイズチェーンを全国展開している。年商は約100億円。全国に約2000の教室を組織するほか、教育出版など幅広く事業を手掛けている。
教材や学習塾の運営に必要な販促チラシ、POP、備品など、物流管理上の取扱いアイテム数は約400。そのオペレーションは全国28カ所に配置している支局がそれぞれ管理している。
急速な少子化の影響もあり、同業界の競争は年々激しさを増している。対応策の一つとしてB社は物流コストの削減に目をつけ、全社的テーマとして改善に着手した。もっとも改善を担当するのはB社の中でも本部に所属するY氏ひとり。
しかもY氏は情報システム改革など他の改善業務も兼務している状態であった。
我々、日本ロジファクトリーに相談が舞い込んだのは、B社がそれまで東日本地域でメーンとしてきた協力物流会社との契約を打ち切り、倉庫を移管することが決まったタイミングであった。とりあえず我々は、B社を訪問して詳しい話を聞くことにした。
Y氏によると、これまでメーンにしてきた協力物流会社T社は、B社が一部出資までしている関係にあったという。それを打ち切ることになった理由は明らかにはされなかったが、移管のタイムリミットは年内で、それまでにT社に保管している商品を新拠点に移さなければならないとのことだった。
Y氏はB社の上層部から、これまでT社と交わしていたコストレートを上回ることがないようにと通達されていた。そのコストレートを聞いてみると、
入出庫料込みの保管料が周辺相場の58%、約6割という水準であった。極端に安い。我々にとっても厳しい相談になりそうだった。
T社の倉庫は東京都内にあるが、現状のレートで都内の倉庫を借り直すのは、まず無理だろう。実際、Y氏自身、我々に相談を持ちかける前に、現状のレートで対応できる倉庫を探しに仙台や秋田まで物件を見て回ったという。しかし、いくらコストダウンの必要があるとはいえ、商品の調達コストを考慮すれば、東日本の拠点を、仙台や秋田に移してしまうのは本末転倒になりかねない。
B社が協力印刷会社などから教材等を仕入れる料金には、輸送費が含まれている。入出庫料や保管料が下がっても、仕入れコストがはね上がれば、トータルコストは逆に上がってしまう。
協力物流会社T社はそれまでB社に対し、3つの項目で売り上げを立てていた。1つは先ほどの周辺相場に対して58%の水準の保管料、しかも入出庫料込み。
そして2つ目は、全国一律・一個(平均重量10キログラム)480円の運賃。そして月額20万円の受注システムオンライン使用料の三つであった。
このうち三つ目の受注システムはT社との契約打ち切りを機に、B社で自社構築もしくはASP(アプリケーション・システム・プロバイダ:インターネットを介してビジネス・アプリケーションをユーザーにレンタルする業者)の利用を検討していた。そのため、新たにB社と契約を結ぶ協力物流会社は倉庫料と運賃で工夫するしかない。このうち運送料の480円/個はなんとか対応できる会社が見つかりそうであった。しかし倉庫料には頭を抱えた。

あるところにはある
我々は調査・分析の段階で、とくに調達コストのシミュレーションに注力した。先述のように支払物流コストは下がっても、仕入価格に含まれている物流コスト、いわゆる調達コストが上がってしまっては何もならないからである。
そこでB社の仕入量の80%を占める主要仕入先10社に対して、仕入価格(印刷料)とそれにかかる運賃を分けて、できるだけ正確な明細の分かる請求書を発行してもらうことにした。
そのうち輸送費については、B社側で輸送業者を指定するという前提で運賃情報を収集し、新たに確保する倉庫の候補地を分析した。
主要仕入先10社の立地は、西は関西、東は東北にまで広がっていた。このことが幸いしたのかもしれない。調査結果としては東京、神奈川、埼玉、千葉のほか、群馬、茨城の一部まで含めた比較的広域での拠点設置が可能であることが分かった。
一方、倉庫の場所が変わることで、出荷品のリードタイムの問題、つまり到着日の遅れが懸念されたが、これについても適切な路線会社を選択することで、仙台までは翌日到着、仙台以北は翌々日到着という現状のリードタイムを維持することができると分かった。
このシミュレーション結果を基に、新しい物流センターの候補物件を探すアクションを取った。東京、神奈川、埼玉、千葉で物件を探すのは至難の業であると判断し、群馬と茨城の一部に照準をあてた。
我々NLFのネットワークから両県の物流会社・倉庫会社をピックアップし物件概要を提示した。
7社にオファーしたうち、対応可能との回答をくれたのは一社だけだった。茨城県の地場物流会社S社が借庫として手配した物件であった。
料金はB社の希望である相場価格の58%よりも、月当たりの坪単価でさらに800円安い。あるところにはあるものである。それでもB社は、もっとコストを比較したいと他の物件も探し求めた。しかし、なかなか見つからない。結局、我々のネットワークから、改めて群馬の物件を見つけ出したが、この物件は料金の折合いがつかなかった。
こうして最終的には、茨城県の地場物流会社S社の物件に決定した。しかし、新たなパートナーとなるS社は、その料金で本当に採算がとれるのだろうか。今度はS社の立場になって試算した。
B社から収受する料金から、S社が外部に支払う借庫料と運賃を差し引くと、差額は月額51万円だった。
これを倉庫担当者二名の人件費に充てるとして、収支はいいとこトントンで、後は改善によって利益を出すしかない、というレベルであった。
業務開始から1カ月を過ぎた頃、協力会社S社の専務と話し合う機会を持った。専務によると、提案段階でB社から通知された予定量に対して、実際には120%以上の物量が入っており、近々スペースの拡張が必要である旨を伝えられた。しかし拡張分を既存のレートで担保するのは困難だった。
低料金対応と物量データ不備のダブルパンチでS社は苦戦を強いられていた。B社を紹介した我々も責任を感じざるを得なかった。
そこで今度はS社側の現場改善をサポートし、商品入庫時間の厳守やロケーション設計、棚番地の明確化などを進めた。これによって2カ月後には、生産性が二七%上昇し、ようやく利益化のメドが立ったのであった。
しかしその後もS社は日々悪戦苦闘している。仮にB社から、さらなるコスト削減要求があれば手をあげてしまうに違いない。他の物流会社に委託しても同じことだ。今回のB社の物流改善は、何より料金の低減が狙いだった。これによって、協力会社そして我々自身も苦しまされたのだった。
このような断片的改善、部分最適化は、いずれ限界がくる。B社に限らず、一般に荷主企業は物流コスト削減のために支払物流費の削減に躍起になる。しかしその結果、延着、遅配、庫内作業のピッキングミスなどの物流品質の低下や、あるいは仕入価格が上がってしまえば、結果的には経営にマイナスになる。そうなってから、はじめて全体最適の必要性に気付くというのでは、授業料としては高い買い物と言わざるを得ない。
物流コストは支払物流費と社内物流費を合わせたトータル物流コストの範囲で改善を行っていかなければならない。そして、そのための意思決定は、大所高所から経営を見て調整を図ることができるトップ層に限られるという原則を知っておく必要がある。

プライシングを武器に
一方、このB社のコンサルティングを通じて、我々NLFは物流企業側の課題も知った。それは、物流企業もまた〝相場〞の呪縛にかかっているということである。
競合他社の運賃や料金が目に入り、それを下回る価格で競争をしかける企業がいるために、結局、どこが受けても利益の出せない料金がまかり通ってしまう。その料金では、荷主に喜ばれる付加価値のあるサービスなど生み出せるはずもない。
安売り還元が消費者メリットを生む小売業とは異なり、物流業のコスト管理の裏付けのない価格競争は新しい価値を生まない。それどころか、いったん値下げの成功に味をしめた荷主は、いずれ再び価格交渉を行うであろう。
物流会社は悪戦苦闘の末、現場改善を行ってようやく利益を出したとたんに、再び値下げ要求を突きつけられることになる。
その結果、安かろう悪かろうの物流サービスが横行し、物流会社は撤退を余儀なくされる。黒字化のために流した汗と時間は帰ってこない。
大きな損失である。企業向けの物流業は荷物の重さや容積、個数などによって、料金を自由に設定できる。いわゆる「一物多価」のサービスである。
保管料金一つとっても、月/坪当り単価や、重量当たり単価など様々な料金体系を設定できる。しかしその特徴に気付き、その優位性を活かせている企業は本当に少ない。原価計算をしっかり行い、ダンピング会社とは同じ土俵で戦わない。
しかし荷主には納得してもらえる。そんなプライシング(値決め)に物流企業の活路がある。