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第44回 事例で学ぶ物流改善:『雑貨メーカーY社の生産性向上』

Y社の物流現場にはゆとりがあった。
我々の目から見て優雅過ぎた。そのくせ繁忙期になると注文から出荷まで五日もかかることがあるという。主婦層のパートを主体とした現場運営のイロハが分かっていなかった。6カ月間にわたる改善活動に取り組むことになった。

雑貨メーカーY社はイベントグッズやキャンペーングッズを企画販売する年商約40億円のメーカーだ。製造は主に東南アジア。アイテム数は約300。販売チャネルの工夫や優れた商品企画力によって、売上高は年々増加傾向を辿っている。利益も十分に確保している。
我々日本ロジファクトリー(NLF)への相談内容は「自社物流センターの作業効率をアップして、注文にスピーディーに対応する」ことであった。当初、企画室の担当者から話を聞いていただけでは、今ひとつ改善イメージがわかなかった。それが現場視察と現場担当者からのヒアリングによって徐々に鮮明になっていった。
Y社は本社から歩いて5分の場所に自前のセンターを構えている。1階から3階までを物流センター、4階を受注センターとして使用している。立派なセキュリティ管理に十分な空調や照明など設備の整った施設だった。そこで社員5人とパート22人のスタッフが働いていた。
同センターの現場は、〝作業〞と呼ぶのがはばかられるような優雅な仕事ぶりだった。笑い声あり、話し声あり、おやつあり。決して時間に追われているという状況ではなかった。しかし繁忙期には処理が溜まってしまい、注文から出荷まで5日もかかることがあるという。
Y社は新聞の折り込みチラシやダイレクトメールを使って直接ユーザーに売るダイレクトマーケティングを展開していた。チラシやDMという売り方は食品スーパーなどの小売業でいう「特売」の連続である。それだけ物量の波動が大きかった。
出荷量は最大で1日3000ケース、最小で300ケース。繁閑差は10倍にも及んだ。またY社が扱う商品には、季節や地域性による影響を受けない商品が多かった。消費者に飽きられないように、販促を打ってから3カ月程度は間を空ける必要があるものの、基本的には通年で販売できる。そのため製造ロットを大きめにする傾向があった。
加えて「売り切り御免はしない」という会社の方針が、在庫増をもたらしていた。在庫増は通常であれば深刻な問題だ。しかしY社の場合、売り上げは順調に伸び、利益も出している。在庫を絞るより、製造ロットを大きくして安価で調達し、欠品による機会損失を抑えた方がメリットは大きいという判断のようだった。

机が多過ぎる
我々はまず依頼内容である作業効率の向上に注力することになった。注文から3日以内に出荷できるようにすることがY社の要望であった。
それまでの最低5日を2日分縮めようというわけだ。それが当面の改善目標となった。Y社側では物流センター長のM氏が我々と共に改善を担当することになった。M氏は現場あがりで配送ドライバーの経験もある。しかし、主婦層のパートを主力としたセンターを運営したことはなかった。本人いわく「女性のパート社員にどのように作業を教えたり、指導すれば良いのかわからない」とのことだった。
結論から言えば、同センターには作業現場のルール化や一貫性というものが皆無であった。我々はM氏からのヒアリングと現場視察によって、以下のように課題と改善点を整理した。
それぞれについて説明する。

①立ち作業によるスピードアップ
②商品ABC分析による倉庫レイアウト、保管ロケーションの見直し
③分かりやすい「棚番地」の作成
④作業ラインの見直し
⑤作業ルールの決定(事前準備の徹底)
⑥マニュアルの作成
⑦パートリーダーの設置
⑧パート、アルバイトの評価制度と給与体系の見直し
⑨適正在庫の設定とデッドストックの削減
⑩ライン業務別作業量の設定によるレイバーコントロールの実施

まず「①立ち作業」について。最初に視察してすぐ、フロアーに事務机が多過ぎると感じた。もちろん同センターにも立ち作業はあったが、開封や検品などの作業は座ったままでの作業となっていた。
「②商品ABC分析による倉庫レイアウト、保管ロケーションの見直し」は、定番の改善テーマともいえるが、Y社の場合、商品別の出荷頻度を分析する以前の問題として、そもそも庫内レイアウトが作業効率に配慮したものとなっていなかった。
前述のようにフロアーには事務机が多く、そのためか、棚のほとんどが壁沿いに配置されていて、動線にムダが多かった。
さらに、③の「棚番地」という概念がなかった。保管場所は熟練パートが把握しており、新人パートは先輩に聞きながら保管場所や作業方法を覚えるという運営だった。
新人はどうしても先輩に頼らざるを得ない。そのためパート間にタテ社会が形成されていた。
④の「作業ライン」もきちんと設定されていなかった。フロアーには一応、ローラーコンベアーが設置されていた。しかし、商品の流れに対して、スタッフがそれぞれ自分の判断でポジションを決めて作業していた。
前工程にどれくらい仕事が残っているのか、後工程にどれだけの仕量が溜まっているかが見ても分からない。作業ラインとして機能していなかった。
このように同センターでは「⑤作業ルール」がすべて暗黙知になっていた。これを今日入ってきた新人のパートでも作業がこなせるように「⑥マニュアル化」することにした。

主要業務については紙に書くだけではなくビデオに収めた。ペーパーマニュアルは、なかなか読んでもらえないからである。そもそも物流作業のような「動き」は、動画の方が分かりやすい。ビデオの収録・編集には、一カ月半を要したが、今では同センターの人気グッズになっている。

パートリーダーに権限委譲
「⑦パートリーダーの設置」は、業務権限の委譲が目的である。前述ように同センターの人員構成は社員5人に対しパート22人である。社員一人がそれぞれ4〜5人のパートを管理する計算だ。
平常時や閑散期であればそれで問題ないのだが、繁忙期になると、判断業務や指示の伝達等に支障をきたしていた。管理グループを3〜4人に細分化する必要があった。
当面の措置として、熟練メンバーの3人をパートリーダーに選出した。なお、このリーダーの人選は、各パートの資質や働きぶりを把握した上で定期的に見直す予定だ。
「⑧パート、アルバイトの評価制度と給与体系の見直し」は、Y社の物流センターに限らずパート・アルバイト主体で運営されている現場では、まず不可欠となる取り組みだ。
具体的には社員用に使用している「人事考課表」を「自己申告チェックリスト」と表現を和らげ、パートに適用した。
パート各人の仕事に対する自己評価と会社側の評価とのギャップを確認し、課題を克服することが狙いである。各人の評価は当然、時給にも反映させた。ただし、時給格差については細心の注意を払った。
〝がんばりに対してお金で報いる〞という基本欲求には応えながらも、仕事のやりがいやチームワークなどにも充分配慮する必要があったからだ。
M氏と相談して他社の事例も参考しながら、時給の最大格差を100円とした。入社間もないパートで時給900円、優秀なパートで時給1000円ということである。ただし、この仕組みだと時給1000円に達したパートは、それ以上は時給が上がらないことになる。
もともとパートの時給は、センターのランニングコストである。仮に評価を100%時給に連動させて、天井をなくしてしまえば、ランニングコストが大幅に上がってしまう。そこで最高時給を制限する代わりに表彰制度を採り入れた。
月1回、「月間MVP大賞」として、その月にがんばったパート社員を表彰するのである。表彰者には5000円が与えられる。主婦にとっては、家族二日分の食事代である。大きなインセンティブになる。
表彰者の選出方法としては、社員5人とパートリーダー3人が推薦者と推薦理由をノミネートし、最終的にはセンター長が決定する。表彰者は月1名とは限定しない。同じ月に2名の該当者がいる月もあれば、該当者ナシもある、というシクミである。
「⑨適正在庫の設定とデッドストックの削減」は、次のステップのテーマとして現状では先送りになっている。
我々NLFが、デッドストックの保管コスト、在庫金利、廃棄コスト、値下げセールによる売上損失などのトータル在庫コストと、大量生産による製造コスト低減をシミュレーションし、どれだけのロットで製造した場合に、最もメリットが大きくなるか、Y社の経営陣に報告する予定だ。

パートの適性を活かす
「⑩ライン業務別作業量の設定によるレイバーコントロールの実施」でも現実的な対応を試みた。
教科書通りに改善を進めるなら、まず同センターの物量およびライン業務別作業量を算出して、一人当たりの作業量を導き出すことになる。しかし単品大量販売が前提で、繁閑差が極端に大きい同センターには、そうした一般的なアプローチが上手く機能しないと判断した。それに代えて、同センターではまずパートスタッフ各人の能力把握を行うことにした。

2006年9月■雑貨メーカーY社の生産向上●図①
図1のようにそれぞれの業務ごとに、スタッフの適性を「SA」、「A」、「B」、「C」の四段階で評価する能力チェックを行った。その結果を前提として、最も効率的なグループ分けをした。
力仕事やスピードのある業務には向いているが検品などの集中業務は向かないタイプ、スピードはないが緻密な作業に適しているタイプ、スピード・緻密さともある程度ハイレベルで対応できるスタッフ、スピード・緻密さとも劣るスタッフなど、パート各人には、それぞれ適性がある。それを上手く組み合わせることで全体の効率を引き上げようというわけだ。
スピード型スタッフはラインの中盤に配置する。作業にリズムをつくり、全体の処理スピードを引き上げる狙いである。緻密型は検品とシール貼りの業務に配置した。どの業務であっても、ある程度ハイレベルで対応できるスタッフはオールラウンドプレイヤーとして、作業が溜まっているラインに応援に入ってもらう、といった工夫を重ねた。
これら一連の改善を約4カ月かけて実施した。途中、軌道修正も行ったが、改善に着手してから1カ月目には生産性向上の兆候が表れた。
一般に女性パート中心の現場は、いったん改善の手ごたえと面白さを感じると、取り組みに自主性と弾みの出る傾向がある。Y社の物流センターもそうであった。
同センターの改善課題はまだ尽きてはいない。それでも「注文から三日以内の発送」という当初の目標は既にクリアし、今では閑散時には交替で延べ5名のパートさんに休んでもらえるようになった。
恵まれ過ぎた環境では、真の改善はできない。自主性も生まれないものなのだとつくづく感じた。