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第45回 事例で学ぶ物流改善:『建設資材卸T社のセンター移設』

物流センターを移管することになった。
次の経営トップを期待される社長の実子がプロジェクトリーダーだ。改革に取り組む熱意は十分。しかしリーダーシップを示そうとするあまり、現場の声をかき消してしまう恐れがあった。社内の意見調整が我々コンサルタントの役割だった。


本連載がきっかけに

T社は名古屋に本社を置く年商約800億円の建設資材卸だ。全国23カ所に営業所を設置し、建設会社や二次卸、ホームセンターなどに建設資材を販売している。
取り扱いアイテム数は約35000。うち輸入品が2000アイテムほどある。本社建物の一部に倉庫施設を持ち、全国の営業所経由で顧客に製品を納めている。
T社が我々日本ロジファクトリー(NLF)とコンタクトをとったのは、本連載の記事がキッカケだった。
2003年9月号で紹介した改善事例が、T社の物流形態や課題とよく似通っていたため、記事をずっと保管していたのだという。
そして今回、T社は手狭になった本社倉庫を移転するのに伴い、全体最適化を図ろうという狙いから、当社に相談を持ちかけた。
T社側で我々の対応窓口となった取締役業務部長のM氏は現社長の実子であった。ゆくゆくはT社を背負うことになるだろう人物だ。理想的な人選だった。本連載でも私はこれまで繰り返し「物流改善はトップダウンで行うべきだ」と訴えてきた。
「部分最適」ではなく、「全体最適」を目指すならば、これは当然のことである。物流の改革や改善を押し進めていくと、その影響は否応なく営業や生産もしくは購買・調達にまで及んでいく。その結果、部門間の調整が必要になる。
具体的には、改革によって物流コストは下がるが、営業対応力も下がり、客離れのリスクを伴う場合、あるいは物流コストは下がっても購買・調達コストの増加する可能性のある場合など、経営判断の問われる場面が必ず出てくる。労務管理上の問題もある。
物流業務のアウトソーシングを導入したり、オペレーションのムダをなくして人員削減を図るといった場合に、既存の従業員をどう処遇するのか。
そうした〝ヒト〞の扱いが、最近の改善では必ずといって良いほど問題になる。これにもやはり経営トップの判断と調整が必要になる。
その意味で、次期トップであるM取締役は、我々のカウンターパートとしてはうってつけだった。改革の概要設計からプロジェクトメンバーの構成、月々のミーティングの進行など、M取締役は我々NLFに、プロジェクト全般にわたるサポートを求めた。
T社の社内に物流の専門家がいないことは我々も当初から想定していた。それに加えてM氏の右腕と言えるような人材も社内には不在のようで、とりあえず物流現場の管理者がその役割を担うことになっていた。
またT社では、我々のような外部スタッフを交えてプロジェクトに取り組むこと自体が初めてであった。どのように外部スタッフと役割を分担するのか。あるいはミーティングにおける議事録の付け方など、プロジェクト運営の基本的な進め方まで含めて指導して欲しいとのことだった。
こうして我々NLFは、T社の改革プロジェクトを12カ月にわたってコンサルティングすることになった。
改革の目的は大きく3つ。

① 物流センターの移転をスムースに行う。
② 新たなシクミづくりによる全体最適化を図る。
③ 次のステップとして改善によるコストダウンを図る

ことにあった。
本来であれば②新たなシクミづくりから着手し、①物流センターの移転、③現場改善という順序で進めるべきところだ。
ところが、我々NLFが相談を受けた時点で、既にセンターの移転時期は決まっていた。移転は間近に迫っていた。時間的な余裕は全くなかった。
そのため三つのテーマのうち、センター移転後のゾーニング、レイアウト、ロケーション作成、およびその運営を先に着手しなければならかった。
事前に済ませておくべきシクミづくりが後回しになってしまうことで、改善の遠回り、もしくは暫定的な改善にとどまる恐れがあるが、これは致し方なかった。

レイアウトを詰める
第1回のプロジェクトミーティングで、私はまずプロジェクトの目的を確認した。次に役割分担。そして具体的な作業として、a全体の物流フローの作成と、bアイテム別の出荷頻度分析(ABC分析)から着手することを伝えた。
ミーティングの最後には、各メンバーから各自が考えるT社の物流の課題、問題点を話してもらうことにした。
第1回のプロジェクトミーティングには、プロジェクトメンバー以外にも営業担当役員や常務などの経営陣が参加していた。
古参幹部のなかには、これまで会社を支えてきたという自負のためか、物流改善の重要性やプロジェクトへの協調性に欠けるものもいた。
残念なことではあったが、T社の内情を早い時点で理解できたことは、マイナスではなかった。また幸いにして社内に強い発言力を持つ常務は、物流というテーマに大きな関心を持っていた。社内の調整役としてM取締役の強力な後ろ盾になってくれる可能性のあることが分かった。実際、常務はその後のミーティングにも頻繁に顔を出すことになった。出荷頻度によるABC分析は、T社のシステム部門のスタッフが担当した。
35000ものアイテム数を扱っているだけに、暫定的にAランクと仮設定したものだけでも約300アイテムに上った。それでもシステム部門の担当者は飲み込みが早く、2〜3回のやり取りを経て、分析表を提出してくれた。
この出荷頻度ABC分析表と、M取締役が独自に進めていた新センターのレイアウトプランの図面とを照らし合わせ、庫内ロケーションの作成作業に入った。
庫内ロケーションの詳細を詰めていく段階では、保管する商品の荷姿や、重量、ケース物かパレット物かといった要素が重要となってくる。そのため現場管理者から運営面での最適な保管方法などの意見を吸い上げる必要があった。
第二回のミーティングは、ロケーションの作成作業に費やした。しかし、細部に不明な点が残り、その場ではどうしても現実的な落とし込みには至らなかった。そこで、改めて新センターをプロジェクトメンバー全員で視察することにした。
新センターは従来の本社兼倉庫から車で10分ほどの距離に位置していた。建設面積800坪の2階建てで、延べ床面積は約1600坪。自社正社員12人のほか、パートと嘱託がそれぞれ1人ずつの計14人で運営する予定になっていた。
M氏が作成したレイアウトプランの図面を手にしながら、現場のチェックを行った。センター内の細部の寸法や、垂直搬送機二基のスピード、エレベーター一基の広さや耐重量など、図面通りに庫内をレイアウトした時に、オペレーションに無理が生じることはないか、一つひとつ確認していった。
新センターは賃貸物件だったが、築10年弱と比較的新しいこともあり、効率性を考慮して柱の太さができるだけ抑えられていたり、天井の高さも十分にとられているなど、使い勝手は良さそうだった。
またセキュリティシステムも貸し主側で最新機種に取り替えてもらえるということだった。この視察をもとに、再度ロケーション作成に取りかかった。
この話し合いでは、天井の〝高さ〞を有効利用できないかというアイデアが新たに提案された。M氏が作成したレイアウトプランを修正することにした。
出荷頻度SAランクのシート類は当初の2階から1階へ移動。逆にAランクのバラ商品ゾーンを1階から2階へ。それに合わせて1階のフリースペースの位置を少し中央にシフトさせるなど、現場の実態に即してプランをブラッシュアップしていった。
途中、他の事業部の商品も加わることになり、ロケーションの一部変更を余儀なくされたが、それも50坪ほどのスペースが新たに必要になっただけで、全体には大きな影響は出なかった。ところが、一連の修正作業にM取締役が反発した。現場の意見を聞きながらも、可能な限り自分の意見を通そうとする。私のアドバイスが却下されることさえあった。

社内の意見を調整
M取締役がプロジェクトに率先して取り組んでいるのは、単に社内に物流人材がいないという理由だけでなく、将来に向けて自分のリーダーシップを示しておきたいという狙いがあるようだった。
実際、M取締役は新センターの賃貸物件の決定やレイアウトプランの作成だけでなく、ラックの選定などの細部に至るまで自分の意見にこだわった。一部現場からは運営面で難しいレイアウトであるという声も上がっていた。しかしM取締役の立場も理解できないわけではなかった。
そこで我々NLFが仲を取り持つ形で、現場に対して「移転後のロケーションのメンテナンスでよりベストな形を作りましょう」と調整を行った。
具体的には、ロケーション設定後の次善策として以下3点をまとめた。

① 移設後のロケーションのメンテナンスでは妥協を許さない−プランと運営・実施のギャップを確実に埋める。
② 物量が増加した時の拡張対策
a周辺の屋外保管場所を一時保管や仮置き場として利用する。
b従来の本社倉庫を使用する。
c在庫調整を行う。
③ 移設時の人的オペレーションに対する余力の確保
新体制が安定稼働するまでの間、現場は一時的に労働力不足となる。その間の臨時労働力を確保しておく。

このうち③のセンターの移設に伴う一時的な人手不足は、M取締役も強く危惧するところだった。それに念を押す形で我々NLFからも、自社社員の応援もしくは派遣スタッフの調達が必要であることを伝えた。
次に移設の詳細なスケジュールを詰めた。既にハード関連についてはスケジュール表が作成されていた。そこで電話の移設や事務所の増築工事の完成日をしっかり抑えること。
またラックやクレーンなど、マテハン関連設備の納期日を再度確認するようにアドバイスした。心配し過ぎのように思われるかも知れない。
しかし、これらの日程がずれてしまうと、スケジュールが大きく狂うだけでなく、緊急対応によるコストアップ、最悪の場合には出荷作業停止といった事態にも陥りかねない。
スケジュールの確定は、センターの移設では最も気を使うポイントの一つだ。ソフト面では運営・人員体制計画がまだ作成されていなかった。
これは単にスタッフの配置を決めるというだけでは済まない。従来、T社の本社倉庫はピッキング、出荷、リフト作業などの業務を、それぞれ決まったスタッフが処理する自己完結型の配置をとってきた。
しかし新センターの作業スペースは、従来の1.7倍になる。新たに時間別分業体制をとる必要があった。
作業の進捗に合わせて同じスタッフに複数のエリアを掛け持ちさせるわけだ。そのため個々のスタッフの適性や能力を考慮して計画を作成しなければならない。そのフォームを我々NLFが提供して、それを埋める形で現場管理者を中心に作成してもらった
(図1)。

2007年10月■建築資材卸T社のセンター移設●図①

こうして今年七月中旬に移設作業を開始した。稼働初日から次々と新センターに商品が入荷されてくる。予想通り現場の人手が足らなくなった。派遣スタッフ八人を手配することになった。移設後10日間は格納作業に追われた。
ロケーションに添ったオペレーションを実施するまでにはさらに5日間を要した。結局、運営が落ち着くまで、20日間ほどかかった。それでも想定の範囲内だ。
通常でも新センターを立ち上げてから安定稼働まで一カ月はかかるとされている。移設から2カ月がたった現在、2回目のロケーションメンテナンスに取り組んでいる。徐々にオペレーションはこなれてきたが、在庫管理システムの見直しという新たな課題も浮かび上がっている。
もともと流通の川下の物流は改善の難易度が高い。扱いアイテム数の多い卸系のセンターでは、基本的な在庫管理でさえ徹底が容易ではない。
とくにT社のような建設関連資材を扱う卸は、そのほとんどが物流に悩みを抱えていると言っていい。
建材には長尺物、重量品などの異形物が多い。ハンドリングに手間がかかり、トラックの積載効率も悪い。加えて納品先が建築現場というケースが多く、EDI(電子データ交換)などのシステム化を進めるにも制約がある。
T社の場合は、年々増加する傾向にある輸入品のハンドリングも課題になっている。センター移管の次のステップとなる「全体最適化」も、またかなりハードなプロジェクトになりそうである。