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第48回 事例で学ぶ物流改善:『中堅食品メーカーB社の商物分離』

営業マンがライトバンで小規模店を回るルート営業の商物分離を図った。これに合わせて営業活動自体にもメスを入れた。営業マンを物流業務から開放するだけでは、顧客にとって単なるサービスの低下になってしまうからだ。

大卒社員の定着率が悪化
今回紹介するB社は中・四国地方を地盤とする年商100模の食品メーカーである。
各種調味料を中心に健康食品やレトルト食品などをラインナップしている。
我々日本ロジファクトリー(NLF)にとって、B社に対する物流コンサルティングは今回が二度目となる。最初の依頼はNLFを創業して間もない10年近く前のことだ。
物流コスト削減をテーマに、我々が調査・分析・ヒアリングなどを行い、診断書と改善提案書を提出した。
しかし当時のB社は、創業者であるオーナー経営者が健在で、地場の馴染み客に対する思い入れが強く、改善活動に対する制約が多かった。これは地方の老舗企業に特有の傾向ともいえる。
またB社の社内も変化を受け入れようとする土壌に欠け、組織体制が整っていなかった。そのため我々の提案は内容の半分くらいを消化しただけに留まった。
それでも支払物流費の削減を中心に、何とか約10%のコストダウンにこぎ着けた、という経緯があった。
この時に改善活動のキーマンだった役員のM氏から、久しぶりに連絡が入った。
その後、B社では経営者が代替わりし、経営環境も大きく変化したため、改めて改善を図りたいとのことであった。既に組織にもメスを入れたという。
前回のコンサルティングで我々NLFが執拗に提案した「本社物流部門の発足」は一昨年前に実現していた。
一部の外注化にとどまっていたTC(トランスファーセンター:在庫を一時保管せず、入荷後すぐに仕分けて出荷する)業務の完全外注化も、途中、協力会社の変更等はあったものの実施されていた。
ただし全国の主要物流拠点、特にDC型(在庫保管型)拠点の運営外注化は、うまく機能しているところがある一方で、外注に失敗し、自社運営に戻している拠点があるということであった。
私は久しぶりにB社の本社を訪れた。2度目となる今回の依頼の主旨は、「ルート」と呼ばれている小規模商店向け、いわゆるパパママストア向け納品業務の商物分離と、物流費の削減であった。
一般的に食品メーカーの販路は大きく三つに分かれる。
① 大手スーパー/量販店ルート、② 卸/問屋ルート、③商店直販ルートである。
このうち商店直販ルートは、B社の場合、営業マンがライトバンに乗り、営業と納品を行っていたのであるが、a.残業時間の拡大、b.提案・企画営業の不徹底、c.大卒社員の定着率の悪化などの障害が出ていた。
商物分離によって、それを解消しようという狙いだった。
物流費の削減は、本来であれば社内物流費を含めたトータル物流費を対象にして施策を検討すべきである。
しかしB社では、外注化が進んだことや、従来から支払い物流費が社内指標として根付いているとの理由から、支払い物流費そのものを指標に使うことにした。
ただし、商物分離に伴う外注費の増加分はその対象外とすることで改善の大枠を決めた。

食品物流の基本原則
食品メーカーの物流は「長い距離を運ばない」が、基本原則である。食品は重量や容積がかさむ割に単価が安く、粗利も少ない。長く運べば物流コストだけで赤字になってしまう。
そのため全国ネットでTVコマーシャルを打っているようなナショナルブランドメーカーでは集中生産ではなく、エリア別・ブロック別に工場を設置しているケースが多い。
それによって「長い距離を運ばない」を実践しているのである。
一つの工場のまま販売エリアを拡大しようとする地方の食品メーカーも時折見受けられるが上手くいくことは稀だ。
また食品メーカーには物流コストの削減を最大の目的として物流子会社を設置するところも多い。他社の物流を取り込んで共同配送を行うことで、親会社の売上高に占める物流比率を下げようという狙いだ。これも運賃負担力の低い商品を売っていくための工夫だといえる。
さて、B社の新たな改善活動は前回の時と比べ比較的スムースに展開していった。物流部が発足されており、責任部署が明確になっていたこと、そして何と言ってもB社のキーマンであるM氏と物流部のT部長が、改善活動の負の側面を理解している点が大きかった。
商物を分離して、営業マンが納品を行わなくなることで取引が切れてしまう店が出てくること、つまり、ある程度の売上ダウンを二人は覚悟していた。
これが売上構成比の高い量販ルートや卸ルートなら、そうはいかなかっただろう。今後の成長が見込めない販路だからこその決断である。
もともとB社は売り上げとしては全体の約15%を占めているに過ぎない商店直納ルートに、30%近くの営業マンを割いていた。著しく営業効率が悪かった。
B社の改善メンバーと我々は、まず営業マンのあるべき業務の姿を整理し、社内で行う業務と外部の物流会社に委託する業務を線引きすることにした。
営業担当者からのヒアリングを行い、他社の事例も参考にして検証を行った。同時に外部に委託する業務が、物流会社に対応できるものなのかどうかも検討した。
B社のような常温品を扱う食品メーカーの商物分離では、委託対象となる物流会社は三つのタイプに分かれる。
① 地の利を活かしたエリア性の強い物流会社、
② 食品に強い物流会社、
③ サービス面で小回りが効く地場物流会社
の3つである。
通常、食品の納品には単なる輸送だけでなく、「a陳列」、「b先入れ先出しによる賞味期限管理」、「c在庫管理による定数納入」、「d注文取り」、「e空容器の回収」、「f鍵預かりによる開店前納品」などの付帯業務が求められる。
実際、食品に特化した物流会社はこれらの対応に日々悪戦苦闘している。
B社メンバーとの協議を重ね、外部委託先には「注文」や「在庫管理」など多くのことを求めず、配送〜納品〜陳列までを外注化し、それ以外の業務はB社の営業マンが対応するという方針を立てた。
これによって顧客対応の強化を図ると同時に、外注する業務の難易度を下げることで、委託先物流会社の候補の幅を広げたわけである。
次のステップは、物流会社の選定だ。コンペ方式を採った。
商店直販ルートの売上構成比の低い東海エリアから着手した。リスクヘッジと競争意識を持ってもらうため、全部で8ルートある業務を1社ではなく2社に委託することにした。
コンペの末、パートナーに選んだのは、一社は全国ネットを持ち食品に強いY社、もう一社は地場の物流会社でサービス面での小回りの効くX社であった。
繁忙期がピークを越えた六月から外注に移行した。案の定、いくつかのトラブルが発生した。最も頻度の高かったのは「商品の降ろし間違い」であった。
配送員が商品名を覚えきれていないことが原因だった。開始月の6月には計17件ものミスが発生した。また、なかには「運転手に売り場にまで入ってきてもらいたくない」という女性店主からの厳しいクレームもあった。
対策として営業マンからのフォローに加え、配送員に対する商品説明会を実施した。さらに配送員にはB社の社名が入ったジャンパーを配布することにした。
開始後約三カ月でトラブル、商店からのクレームはほとんど収まった。心配していた客離れと売上ダウンも、物流業務から開放された営業マンが奮闘することで、ダメージはほぼゼロであった。

仮説を検証する
先に述べたように商物分離に並ぶ、もうひとつの大テーマが「支払物流費の削減」でああった。これについて我々は以下の仮説をB社に提示した。
(1)3PL活用
(2)配送日の絞り込み
(3)共同配送
(4)営業改革
(5)発注方法の改善

この一つひとつを検証し、実行に移すか否かを決定していった。

(1)3PL活用
B社の関東工場では支払い物流費が年間二億8000万円に上っていた。
それに対して協力物流会社は12社であった。協力物流会社の数を絞ることでボリュームディスカウントを狙った。
コンペ方式は採らなかった。現状の主力協力会社であり、対応力があると工場長が評価している特別積み合わせ事業者のT社を3PLのパートナーに選び、他の物流会社の集約方法やコストなどを協議した。
既存の協力会社のうち、諸処の事情からB社として契約を切ることができない2社についてはT社のアンダー(下請け)として取引を継続することにして、残り9社の業務をT社に集約するかたちとなった。
それによって10%のコストダウンを見込んでいたが、燃料高騰とドライバー不足のあおりから6.2%、約1700万円の削減という結果となった。

(2)配送日の絞り込み
東海エリアと同様、商店直納ルートを対象にして、納品頻度の適正化を検討した。
従来から関東エリアでは納品先店舗を、週1回納品、2週間に1回、月1回という形で分類していた。
しかし、その判断は各営業マンが恣意的に決めていたり、昔からのやり方を踏襲しているだけだったりで、ルールとして機能しているわけではなかった。
その結果、販売量の多い商店であるにもかかわらず、月一回しか納品しないために欠品が出ていたり、逆にほとんど売れていない商店なのに陳列スペースが小さいという理由から週一回の納品を行うといった矛盾が生じていた。
我々は営業マンから過去二年分の店別・月別販売数量と、各店の陳列可能数量の調査データをもらい、商店の販売見込(需要予測)と欠品の発生リスクを分析して、必要納品回数のABCランクを設定した。
販売見込数量÷陳列および在庫可能数量=必要納品回数という計算である。こうしてAランク納品先は週1回、Bランク納品先は2週間に1回、Cランク納品先は月1回を〝物流ルール〞として設定した。
その結果、既存の八ルートのうち一ルートは他の七ルートに吸収することができた。
納品回数が減る商店は営業マンにフォローさせることで、売り上げも維持することができた。
しかし営業マンのなかには月末の営業数字の締め日が近づくと必要量以上に商品を押し込もうとするものもいた。それがスポットの増車を招いていた。

(3)共同配送
共同配送については、次のステップの検討課題とした。
現在、取り組んでいる改善が終了する6カ月後に改めて着手することになった。

(4)営業改革
営業の本来あるべき姿(業務内容)の線引きと、客単価やインストアシェアの向上などのハイレベルな目標設定について検討した。これは商物分離を行うに当たって最も重要なテーマであった。
物流の外注化と営業マンの高付加価値目標の設定は、商物分離の〝両輪〞である。そして多くの企業がこの部分で失敗を犯してしまっている。
ある印刷会社では、商物を分離したものの単に営業マンの負担が減っただけに終ってしまった。またある機械部品メーカーでは、それまで〝御用聞き〞で数字を作っていた営業マンに対し、簡単な研修を行っただけで、急に提案営業をやれと命じたことで、数名の営業マンが会社を去ってしまった。
そうした失敗を避けるため、B社では営業の高付加価値活動をどのように展開するかについて協議を重ねた。調整は難航した。
B社には従来から提案営業を行う「営業企画」と企画を行う「販促」という部署がある。同じ機能を全ての営業マンに持てと命じても現実的ではない。
結局、5回にわたる協議を経て、「在庫管理」と「新商品の案内」そしてこの後に説明する「発注方法の改善」の3点に特化して、営業活動の付加価値を高めることに決まった。それほど難易度の高い業務ではない。
しかし、従来は営業マンが納品業務を兼務していたため片手間になっていた仕事だった。それだけに営業マンの混乱も少なかった。

(5)発注方法の改善
商物分離をするまで商店直納ルートでは、全受注件数の65%を電話もしくはファクスで、残り35%を営業マンが直接注文をとっていた。
「物流は受注段階で90%決まる」というのが、我々NLFの基本的な考え方だ。
これに基づいて電話やファクスの発注、(B社にとっては受注)比率をどうしても下げなければならなかった。
商店主にインターネットで発注してもらえれば、B社側では電話応対や転写作業の人件費を削減し、受注ミスを抑制することができる。
問題は商店側のネット環境の有無と協力への理解である。営業マンを通して調査を行ったところ、世代交代をした若手店主を中心に既に全体の約半分の店がネット環境を備えていることが分かった。
しかし、インターネットを使って発注する作業については「手間がかかる」「邪魔くさい」「そんなことができるわけがない」といった否定的な意見が大半を占めた。
そこでインターネットでの発注にインセンティブをつけることにした。
具体的には①インターネットで発注した場合の値引きと、②受注締め切り時間の延長だ。以前に我々NLFが、ある紙メーカーの改善で効果を発揮した仕組みだった。B社に沿ったかたちでアレンジした。
当初の反応は非常に悪かった。しかし文書での通知や営業マンのPR活動により、その後じわじわと普及が進み、ネット環境を有する顧客のうち15%がネット発注を利用するようになった。
その後も、この比率および件数は毎月わずかずつながら上昇を続けている。
五つの改善はB社に大きなコストダウンと効率化をもたらした。取り組み初年度は全社支払物流費を12%削減できた。さらに2年目は改善前のそれと比較して約25%削減という効果が得られた。
同時に営業マン一人一日当たりの残業時間は従来の2.5時間から一・二時間に大幅に短縮された。商物分離は非常にデリケートなテーマである。顧客にサービスの低下と受け止められることが多いからである。
しかし過度なサービスは必要ない。やはりサービスとコスト、そしてその品質のバランスが重要なのである。