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第49回 事例で学ぶ物流改善:『物流子会社L社の3PL事業強化』

中期経営計画で3PL事業の強化による大幅な売り上げ拡大を目標に打ち立てた。その達成には、提案営業力の強化と物流子会社特有とも言える高コスト体質の改善が必要であった。社内の力だけでは改革は難しい。経営陣はそう判断した。

割高な人件費が負担に
L社は電機メーカーの物流子会社である。
全国10カ所に物流センターおよび営業所を展開している。うち4カ所は親会社の工場に隣接するかたちで拠点を構え、工場の構内物流、在庫管理、出荷処理、輸配送、一部近隣のサプライヤーからの調達物流までを手がけている。
他の6カ所の拠点は物流需要のある東京、名古屋、大阪のほか、北海道、中四国、九州に配置している。
現在の年商は約300億円。売り上げの内訳は親会社向け物流事業が約半分。残りの半分は親会社以外の外部荷主向け、いわゆる〝外販〞で稼いでいる。
さらに来期から始まる中期経営経計画では、現在の年商の約30%に当たる90億円の売り上げ拡大を、3PL事業の強化によって達成するという目標を掲げている。
そんなL社のY専務から連絡が入った。
L社と弊社日本ロジファクトリー(NLF)とは既に5年ほどの付き合いがある。先代社長の時代に我々が課題解決を請け負ったのをきっかけに、その後も現場改善、人材紹介、研修など、様々なテーマでコンサルティングを行ってきた。
Y専務とも当然、面識があった。L社のキーマンである。物流子会社の通例として、L社でも社長をはじめとした経営陣の多くは親会社から赴任し、定期的に交代している。それに対してY専務はL社のプロパー社員として入社し、役員まで上り詰めた叩き上げで、L社をこれまで引っ張ってきた実務面でのリーダーであった。次期経営計画の達成は、Y専務の手腕にかかっていると言っていい。
我々は改めてL社の本社を訪問した。その席でY専務は「今までも当社なりに提案力の強化や、現場改善には積極的に取り組んできた。
しかし自社だけではもう限界にきている。さらに競争力のある会社にするために、社外の力も活用したい」と、今回のプロジェクトの背景を説明した。
これまでのコンサルティングを通して我々は、L社の強みと課題について、かなりのレベルで把握しているつもりであった。
そのため今回は、過去のプロジェクトで対象外となっていた現場や、各種内部情報を確認することから進めていった。
具体的には東京、大阪以外の八カ所の物流センターを視察し、現場運営力や管理職の資質などをチェックした。
また内部情報としては、コスト構造に焦点をあて、様々な数値資料を検証した。現場視察、スタッフへのヒアリング、そしてデータチェックなどの一連の作業には、約一カ月半を要した。
その結果、我々がそれまで認識していたL社の概要と、現場の実態には、かなりのズレがあることが分かった。
今回の実地調査をするまで我々は、L社の現場運営能力を特別に強いとは言えないまでも、一定の対応力はあるものと認識していた、実際、親会社の工場に隣接する四拠点では、メーカー系ならではとも言える高いレベルの品質管理が徹底されていた。
また残りの東京と大阪の2つの拠点も、競争の激しい地域だけに一定のレベルにはあった。ところが、それ以外の地方の4拠点の現場運営能力は、はっきりと〝弱い〞と言わざるを得ないほどレベルが低かった。
現場は乱れていた。「整理」、「整頓」をはじめとした「5S」どころではない状態であった。
商品の取扱いや在庫管理においても、現場のスタッフが基本を教えられていないため、その日の入出荷をこなすだけになっていた。
これでは全国展開している大手の荷主企業に対して、3PLを提案するのは不可能であろう。またL社のコスト構造も想定外の内容であった。
具体的な数字は明らかにはできないが、「人件費」そして「自社配送費」「減価償却費」が大きな負担となっていた。
総じて物流子会社の一人当たりの人件費は一般の物流会社よりも高い。
L社の場合、それが他の関東圏の地場物流会社と比べて約1.45倍の水準にあった。「自社配送費」も、その中身の過半は人件費である。
一般に物流子会社の輸送力の確保の仕方には二つのパターンがある。

① 自社ではアセットを全く所有せず、全て傭車し、管理のみに専念する。
② 一定量(一般的には100台〜200台まで)を基準に自社所有し、それ以上の物量は傭車で対応する、というやり方である。

L社は後者だった。10トン車、4トン車、2トン車を中心に、約150台の車両を自社で所有していた。そのドライバーの給与水準は相場の約1.3倍となっていた。

提案失敗のパターン
これらの調査の後、Y専務と再び打合せを行った。
我々は以下の三つの改革テーマを提示した。いずれも、基本的な内容である。
Ⅰ    提案営業力の強化
Ⅱ  全社レベルでの現場運営力の強化
Ⅲ ローコストオペレーション
このテーマを見て、L社が本当に3PL事業で90億円もの売上げを作れる会社なのか、はなはだ疑問だと感じる読者もいるだろう。
しかしL社には、物流コンペで負け越さない一定の提案力が既に確立されていた。大手日雑卸のセンター運営など、実績もあった。
つまり実力はあった。ただし、その力は会社の一部に偏在しており、全社的に敷衍されてはいなかった。
そこに、さらなる改善余地があると我々は判断したわけである。具体的な取り組みとしては、まず「Ⅰ提案営業力のさらなる強化」と「Ⅱ全社レベルでの現場運営力の強化」を同時に進めて、その後で「Ⅲローコストオペレーション」に着手するという計画を立てた。
「Ⅰ提案営業力のさらなる強化」については、今回のプロジェクトの前年に、東京と大阪に分かれ、我々NLFが営業スタッフに対する実務研修を行っていた。
その演習の様子などから、少なくとも主要メンバーの提案のスキルは、かなりのレベルまで引き上げられていることが確認済みだった。
そこで今回は「実践」をテーマに置いた。スキルレベルが中級クラスのメンバーを対象にして、提案営業に我々NLFが同行することにした。
我々も「企画室長代理」という肩書きでL社の名刺を持ち、営業に出向いた。営業交渉中の荷主を事前に「既存拡大」先と「新規開拓」先に分けてリストアップした。
そのうち「既存拡大先」2社、「新規開拓先」2社の計4社に同行した。「既存拡大」では、既に業務を請け負っている荷主に対して新たな提案をして、業務委託範囲を拡大するというアプローチをとる。
現状業務の「前工程」や「後工程」など、作業連動性の強い業務の外注化を提案するというのが正攻法である。
ところが、L社の営業スタッフの提案は、自社開発した「WMS(W a r e h o u s eManagement System:倉庫管理システム)」の導入を勧めようという意識が強過ぎた。これは失敗する提案営業の典型であった。
本来、荷主のニーズに対して提案しなければならないところを、自社の都合から提案してしまっているのである。
「既存拡大」の提案のベースになるのは、その荷主企業の物流現場の具体的な将来イメージである。既に顧客となっている荷主の物流を、今後どのように展開すれば良いのか。
業務フローの流れ、拠点のあり方、外注化の度合いとその内容、システム化を行うとすれば、どの業務から行うかなど、3PL事業の営業スタッフは明確にイメージできていなければならない。そこで必要とされる構想力がL社の営業スタッフの共通の課題であった。
一方、「新規開拓」にあたっての提案書の作成力、プレゼン力などは申し分なかった。ただし荷主からの質問に対して、しどろもどろになる場面も少なからず見られた。
特に「誤出荷をなくしていくには、L社ではどのような方法を取っているのか」、あるいは「緊急出荷やイレギュラーな業務が発生した場合の対応はどのようにしているのか」など、現場の運営品質に関わる質問への応答が、全くと言えるほどできていなかった。
L社の場合、営業スタッフにも全員現場作業を経験させている。ただし、その期間は6カ月から三年までとバラつきがあり、営業スタッフが現場を熟知しているとは言い難い。
現場作業が本人の中できちんと整理され、ルール化されていなければ、先のような運営品質に関する質問にはスムースに対応できない。
とはいえ営業スタッフに現場運営の品質および管理の具体的な手法を教え込ませるのには相当な時間がかかる。向き不向きなど個人差も出てくる。いかに優秀な営業スタッフといえども万能ではない。
そこでY専務にこれらの状況を報告し、我々NLFが提唱する「現場はショールームである」という原則を実践に活かしたいと提案した。
具体的には、提案が現場運営のテーマに差しかかる二次営業と三次営業の間の期間に、荷主の担当者にL社の東京もしくは大阪の物流センターを見学してもらうように働きかけるのである。
それによってL社の現場品質を荷主にアピールしようというわけだ。Y専務は諸手を挙げて賛成してくれた。営業会議でその旨を伝え、実践するようすぐに指示を出した。

社内コンサルタントを育成
「Ⅱ全社レベルでの現場運営力の強化」に関して、方法は一つしか見当たらなかった。東京、大阪両物流センターの持つノウハウの横展開である。
両センターの現場運営力を向上させた改善担当者に残り四カ所の現場を改善させるのである。そのために当初は東京、大阪のセンター長補佐クラスで、かつ独身者の二名の地方転勤をY専務に提案した。
しかし「本人たちの抵抗が強い」という理由から、この人事異動は見送られた。
それに代えて、改善実績のある東京のセンター長M氏と、大阪のセンター長補佐T氏を「社内コンサルタント」として位置付けることにした。
M氏は北海道と名古屋、T氏は中・四国と九州を担当し、それぞれの改善責任者を現業と兼務させるわけである。彼らが本籍を置くセンターには幸いにして若手メンバーが育っている。
またこれを機に若手の引き上げを図るというY専務の方針も出た。それでも東京、大阪の両センターでは、キーマンの不在による品質低下の懸念がぬぐえない。
そのため社内コンサルタントの日数管理を行った。東京のセンター長のM氏は出勤日数の3分の1を地方の2カ所の改善日に充てる。同様に大阪のセンター長補佐T氏は最大で2分の1までを改善日に充てることができる、という形で上限を設けたのである。
「Ⅲローコストオペレーション」は困難な改革であった。物流子会社のコスト競争力を阻害している最大要因が「人件費」であるのは動かしがたい事実である。
しかし、いくら一人当たり人件費が割高だといっても、物流子会社の賃金水準自体にメスを入れるケースは稀だ。少なくとも私は耳にしたことがない。
それは親会社を含めた企業グループのプライドであり、そこまでの改革が避けられないくらいであれば、むしろ物流子会社の売却という方法を採るのが普通なのだろう、と私は捉えている。
そこでL社のローコスト化では、現状のコストをいかに削減するかというアプローチではなく、現状のコストでどれだけの売り上げをつくれるかということに照準を定めた。
具体的には、まず既存拠点の保管効率を高めることで空きスペースをつくり、外部荷主を入れるという取り組みを進めた。
一般に物流子会社のコストは割高とされるが、逆に物流子会社であるがゆえに、コスト的なメリットを享受できている場合もある。
例えば親工場の隣接地や親会社が所有する土地に物流センターを建設する際、安価で土地を借りることが多いため、地代家賃は相場の2分の1から3分の1に設定するケースが珍しくない。しかしL社の場合は違った。
とりわけ東京センターの倉庫賃料は土地取得を自社で行ったため、月当たり坪7000円と、周辺の倉庫賃料と比較して3割も高い。
これでは競争力どころではない。新規獲得は困難である。L社は親会社の経営方針の影響もあり、安全対策には特に力を入れている。
そのため庫内のレイアウトも作業スペースにかなりの余裕を持たせていた。そのメリットは活かしつつも、パレットを多層積みするためのネステナーラックや重量ラックを購入し、面だけでなく縦を活用することで保管許容量を増加させた。
その結果、満庫状態にあった東京物流センターで新たに約800坪の空きスペースを生み出すことができた。これによって新規荷主を受け入れる体制が整った。
同時に今までは最低でも200坪クラスからの荷主を営業のターゲットにしていたが、一般の営業倉庫が対応している100坪未満の中小規模の荷主の仕事も積極的に受注するように企業方針を改めた。
輸送に関しては自社車両台数に150台という枠があるため、傭車比率を上げる方向に動いた。ただし、長年にわたる取引実績のあるL社専属の数社の運賃水準は相場より1割程度高かった。積載効率の面でも帰り荷の確保ができていなかった。そのため協力運送会社の数を増やすことにした。
我々NLFの紹介や入庫車両会社などを中心に相見積りをとり、新たに3社と契約し、配車の選択肢を増やした。
右記のようにL社のローコスト化を進めた。
同時に営業面では、「工場並の品質」と、「準工業化センターとしての付加価値のある流通加工業務」
をL社の売りとして明確に位置づけた。
また相場に対して割高な賃貸料を吸収するため、流通加工業務と組み合わせた新たな料金表を作成した。
取り組みから半年が経ち、L社のコンペでの勝率は上がってきた。しかし高コスト体質の改善はまだ道半ばである。
物流会社の3PL展開
——それは子会社から、自立した別会社への脱皮を条件とする。容易なことではない。