Top > 雑誌寄稿 > 事例で学ぶ物流改善:『食品原料メーカーS社の受注業務改善』

事例で学ぶ物流改善:『食品原料メーカーS社の受注業務改善』

物流コストや物流オペレーションの生産性は、受注段階で90%が決まってしまう。
しかし受注業務を改善するには顧客の協力が必要だ。
取引条件の改革は物流部門だけでは対応できない。
経営トップの決断と、営業部門の取り組み姿勢がその成否を握る。

バーコードが泣いている
食品原料メーカーのS社から連絡が入った。
関西に二つの工場を構え、食品メーカーに副資材や原料を供給している年商約30億円の
会社である。
「得意先から要請されている多品種少量対応がうまく行かず、出荷ミスなど業務品質が低下し、
効率も悪くなっている。
しかし社内のスタッフだけでは何がボトルネックなのかハッキリ分からない」という。
詳しい話を聞くために後日、S社を訪問した。
T社長が対応してくれた。
T社長は昨年、実父の先代社長から社長職を引き継いだばかりで、
会長職に退いた実父と二人三脚でS社の経営を舵取りしているという。
T社長は、得意先の食品メーカーで近年、多品種化が進んでおり、
しかも自分たちでは在庫を持たなくなってきていることなどを説明してくれた。
しかし我々日本ロジファクトリー(NLF)への要望や、S社の抱える問題点については、
定性的な内容の話が多く、それだけでは具体的な問題が見えてこなかった。
T社長同席のもと、担当部署の責任者を務めるK氏からも話を聞くことにした。
K氏は多品種少量化が進んだことで倉庫が手狭になり、
そのことが理由で業務が煩雑になっているという。
T社長の問題意識とは若干違いがあるようだ。
さらにK氏に主要な業務内容を詳しく説明してもらううちに、
どうやら受注の仕方に問題がありそうだということが分かってきた。
大手食品メーカーの一部の工場とはEOS(電子発注システム)を結んでいる。
しかしそのボリュームは受注件数全体の10%を占めているに過ぎず、
残りの90%はファクスによる受注だという。
その処理に、手書き、転写、再入力といった人手による作業が発生している。
これはミスを誘発しやすいやり方である。
出荷伝票が作成されるまでの受注処理の段階で、商品番号、商品名や数量などが間違って
入力処理されている可能性が高い。
ヒアリングの後、現場に入った。
驚いたことにバーコード管理システムが導入されていた。
それなのに、なぜ出荷ミスが起きるのであろう。
K氏と共に倉庫内をまわり、いくつか質問していくうちに、その謎が解けてきた。
作業にバーコード管理用のハンディターミナルを使ってはいるものの、
ミスを発見できる仕組みにはなっていなかったのである。
作業者は出荷検品のためにハンディターミナルで荷物のバーコードを読み取っている。
ところが、出荷が済んだ後になって、ハンディターミナルを事務所に持ち込み、
読み取り装置でデータを照会していた。
当然、ピッキングミスを修正することなどできない。
ハンディターミナルを使う現場と、読み取り装置を設置した事務所は、
わずかではあるが離れていた。それが後処理になってしまった原因らしい。
何のためにバーコード管理を行っているのかを、現場が全く理解していない。
そのために、せっかくのバーコードシステムが活かされていなかったのである。
またS社では、基本的に得意先の要望は全て聞くという方針をとっていた。
受注生産している商品であっても返品を受け入れている。
コストが見合わない対応をしていることも多そうだ。
これでは物流コストは下げられない。
一般に食品業界の商品単価はキログラム当たり数百円程度で、物流コストの負担力は乏しい。
そのため各社とも物流や生産性の改善には従来から力を入れてきた。
しかしS社の場合は違った。
S社の扱う商品は食品業界にありながらも、キログラム当たり数千円とひとケタ違う単価
であった。
コストは十分に吸収できる。そのことが幸か不幸か、物流管理に対する意識を遅らせていたの
である。
我々はまずS社内に改善プロジェクトチームを発足させて、定期的にミーティングを行うことに
した。
その結果、先の受注処理やバーコード管理の問題に加え、以下のような多くの改善点を
発見することとなった。

① S社における課題、問題点の提示はすべて感覚的・定性的であった。
業務を可視化するには、基礎データの収集から始める必要があった。
②「生産待ち」による出荷遅れが発生していた。
③年功序列意識が根強く、年配者の発言が若手の意見や考えを封じ込めていた。
④二つの工場は「計画生産」と「受注生産」という機能別に役割を分けていた。
このうち計画生産の工場では、需要予測の精度の低さから欠品や在庫過剰商品が発生していた。
⑤得意先別の荷合わせのために、不定期で横持ち輸送が発生していた。

ミーティングやヒアリングを重ねるたびに次々と重要な問題点が噴出してくる。
受注業務だけでなく、会社全体の業務フローを見直す必要があった。
こうしたことは中小企業の物流改善では珍しくはない。
しかし課題が全社テーマにまで膨らんでしまうと、改善プロジェクトチームは本来の目的を
見失ってしまいがちになる。
我々は今回の改善の目的を再度確認し、課題に優先順位を付ける必要があった。

手書きの発注伝票をなくす
受注段階で物流のスペックは九〇%が決まってしまう——我々NLFはかねてから、
そう主張し続けている。
受注とは、商取引の「5W2H(Why, What, Who, Where, When, How,How many)」を
確定させるプロセスである。
受注情報に基づいて物流は構築される。
いくら現場のロケーションやレイアウト、動線の見直し、情報システムの導入などを実施しても、
物流の入口となる「受注」が改善されなければ結局、部分最適に終わってしまう。
受注改善こそ全ての基本なのである。多くの現場改善を通じて、
我々はそのことをイヤと言うほど思い知らされてきた。
今回の改善でも我々は「①受注の改善」から着手することにした。
それを受けて「②全社フローの改善」、「③需要予測方法の見直しによる受注生産力の向上」、
「④適正在庫の設定」、「⑤物流管理指標の設定」、「⑥出荷頻度ABC分析による
保管レイアウト、ロケーションの改善」を進めるというかたちで、優先順位を決定した。
「① 受注の改善」には、二つの方法が考えられた。
「② 一つはファクスで受注した伝票を「OCR(光学式文字読み取り装置)」を使って
テキスト化する方法だ。この場合、OCRの読み取り率を上げるために、
得意先に対しS社の専用伝票を使ってもらう必要がある。
もう一つはEOSもしくは電子メールによる受注に切り替えてしまう方法だ。
これもまた得意先に協力を取り付けなければならない。
どちらが良いかを判断するために、現状ファクスで送られてきている発注伝票をチェックした
ところ、約4割の得意先がパソコンのファクス送信システムに連動した発注伝票を使っていた。
パソコンで発注する仕組みが既に整っているのなら、それを電子メールに切り替えるのは
容易なはずだ。
これを手がかりにして、一気に電子受注に切り替えてしまおうという結論に至った。
問題は得意先の協力が得られるかどうかだ。
営業マンを通じて主要取引先に対するアンケート調査を実施した。
40日後、結果が出た。
6割の得意先が電子発注を望んでいた。受注件数に換算すると八割をカバーすることができる。
受発注にファクスを使っていることでS社同様に得意先側でも、手書き、転写、再入力といった
業務のムダが発生していた。
それが非効率であるだけでなく、ミスの発生にもつながっているとのことであった。
また、このアンケートには、電子化に協力すると答えた得意先に対して、その方法として
「EOS」と「電子メール」のどちらを選択するかという質問も設けた。
これについては、システム環境の整っている中堅以上のメーカーはEOSを選び、
中小メーカーは電子メールを選んでいた。
一方、従来通りのファクス発注をよしとして、電子発注への切り替えを望まない得意先も
4割あった。
発注の電子化は、得意先の一部を切り替える程度では、事務処理コストの削減やミスの
低減で、目に見える効果を上げることはできない。
あくまで100%が理想であり、できる限りそれに近づける必要がある。
しかし、電子発注を望んでいない得意先はもちろん、
アンケートで電子発注を望むと答えた得意先でも、
実際に業務を変更する段になると、なかなか腰を上げてもらえない可能性がある。
得意先のなかには単独店レベルの中小零細も少なくない。無理強いはできない。
我々は受注件数の90%以上をカバーするために、
得意先の75%を電子発注に切り替えるという目標を立て、
さらに電子発注の導入にインセンティブを与えることにした。
インセンティブの形式は、「値引き」か「受注締め切り時間の延長」が一般的だ。
そのどちらがS社に適しているのか判断する必要があった。
受注方式の変更やインセンティブ制度は、やり方を間違えると大惨事を招く恐れがある。
物流現場の合理化のために、自社の〝強み〞を失うようでは本末転倒である。
得意先はどんな点に取引メリットを感じてS社を選んでいるのか。
競合他社と比較した時のS社の優位性を確認するため、プロジェクトメンバーの意見を収集した。
その結果、S社の取引メリットは価格ではなく、
「小回りに効く対応」、「NOと言わない営業」
にあることが分かった。

出荷ミスが半減以下に
こうして受注締め切り時間の延長をインセンティブに、EOS・メール発注の普及活動が始まった。
当初、約2カ月は反応が芳しくなかった。
インセンティブに反応しない得意先に対してはひたすら「お願い」する以外に方法はなかった。
それでもT社長自ら普及活動に参加するようになって、
徐々に電子受注に切り替える得意先が増えていった。
約10カ月の活動で、以前からEOSを導入していた10%に加え、
新たに35%の得意先が電子受注に切り替わった。
これに伴い受注処理にあたっていた4名のスタッフの業務から煩雑さが消え、
落ち着くようになった。
月に10件以上あった出荷ミスは4件まで減少した。
このほか重要課題の一つにあがっていた
「②生産待ちによる出荷遅れ」の問題は、蓋を開けてみればシンプルであった。
現状を調べてみると、昨年対実績、昨月実績、
そして営業担当者からの内示情報の収集などは、
一定のレベルで機能していた。問題は工場の運営にあった。
出勤体制が交代のない一勤制であるため、1日当たりの稼働時間が短かった。
これを2交代制に改めただけで「生産待ち」は解消された。
現在は在庫の適正化に取り組んでいる。発注点の設定を改善している。
さらに今後はシステム改善、組織改革と続いていく見込みである。
また、電子化の目標である七五%を実現するには、今後一年ぐらいはかかるだろう。
このようにS社の改善は「受注」を皮切りに全社テーマに広がっている。