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第53回 事例で学ぶ物流改善:『物流会社M社のパート戦力化PJ』

物流センターで働くパート・アルバイトの戦力化に取り組んだ。パートの募集から採用までのプロセスを強化し、社員とパートの役割分担を明確化した。加えてパート向けの評価制度や表彰制度など、パート現場を管理するノウハウをセンター長と副センター長の2人に教え込んだ。

パート比率は上がったが‥‥
物流会社M社は電機メーカーS社のパーツセンターの運営を請け負っている。
S社の補修用部品を保管し、全国七カ所に配置したサブセンターに送付する。年間の商品通過額約80億円、取扱品目数約3万8000アイテムの在庫型センター(DC)で、1日あたり約120人のスタッフが働いている。
我々日本ロジファクトリー(NLF)がM社を支援するのは今回が2度目となる。前回は、それまで正社員中心で回していた庫内作業をパートに置き換えるプロジェクトを実施した。
その結果、庫内の非正社員比率を従来の30%から85%に引き上げることに成功した。それから1年半。改めてM社のM社長から相談を受けた。
「年々、アイテム数が増加し、運営が厳しくなっている。パート社員の採用方法や運営管理、生産性と品質のバランスなどに問題があるようだ。そこで今度はパート・アルバイトを中心とした非正社員の戦力化に力を入れたい」という。
センターを訪問し、現場責任者のYセンター長とT副センター長からもヒアリングを行った。やはりパート・アルバイトそして派遣スタッフの人繰りに頭を痛めているという。具体的な問題点としては以下の3点に整理できた。

①パート・アルバイトの定着率が悪く、せっかく仕事を覚えてもすぐに辞めてしまう。
②生産性を高めるためにはパート・アルバイトにどこまで仕事を任せれば良いのか。
③パート・アルバイトのモチベーション管理(やりがいづくりなど)はどうすれば良いか

Yセンター長、T副センター長の両名にセンターの案内をしてもらいながら、1時間ほど現場を見て回った。
センターは2階建てで、ラックにはぎっしりと部品が保管されている。出荷頻度のABC分析によるレイアウト、ロケーションの設定も成されている。「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」も、ほぼ及第点。ただし、現場スタッフの働きぶりは確かに機敏とはいえない。指示された仕事を急ぐことなく、ただこなしているという印象だ。
これらの現場視察とヒアリングをもとに後日、M社長にパート・アルバイトの戦力化を目的とした以下の改善テーマを提示した。

①採用媒体の見直し
②履歴書の見方
③面接方法の見直し
④役割分担と権限委譲
⑤コミュニケーションの取り方
⑥評価制度、表彰制度の導入
M社長の同意を得て、これら6つのテーマをYセンター長、T副センター長の両名に指導することになった。

M社長の同意を得て、これら6つのテーマをYセンター長、T副センター長の両名に指導することになった。
①採用媒体の見直し
これまでM社は、新聞チラシと求人雑誌を中心にパートの募集広告を打っていた。これを改め、携帯電話に対応したインターネット広告を新たに試してみることにした。携帯電話向けの求人サイトにM社の求人広告を掲載したのである。
パート・アルバイト層のライフスタイルにはマッチした募集媒体である。しかも費用対効果が高い。携帯電話向けの求人サイトは現在数十社がアップされている。
広告出稿料金の相場は一週間の掲載で平均2万5000円程度。紙媒体よりも安い。それでいて、出稿1回当たり平均7人の問い合わせがあった。紙媒体が平均二人なので、3倍以上の効果ということになる。
②履歴書の見方
応募者が提出する履歴書類は、採用を判断する上で重要な資料の1つとなる。「採用に値する応募者」の履歴書には、一般に以下のような傾向がある。

・履歴書、職務経歴書以外に「選考をよろしくお願いします」といった旨の送付状が一枚添えてある
・履歴書の記入欄はできるだけ埋めている
・「応募動機」に前向き、かつ建設的なコメントが入っている
・印のマークがある場合、押印がしっかりなされている。

一方、「採用に値しない応募者」の履歴書は次の通り。
・当方の会社名、住所、担当者名が間違っている
・折れ線の所がヨレヨレになっているぐらい、明らかに何度も使用済みの履歴書を使用している
・履歴書に空欄が多い
・写真が大きくはみ出していたり、傾いて貼られている

履歴書一つで、そこまで決めつけて良いのか、やはり会ってみないとわからないのではないかという意見もあると思う。
しかし我々の経験から言わせてもらえば、履歴書ほど〝一事が万事〞という言葉があてはまるテーマはない。
そもそも自分の職場、自分の仕事を決める大切な書類を不真面目に書く人などいない。つまり提出された履歴書には、本人が真剣に取り組んだ結果が表れている。そこには本人の持っている常識や集中力、慎重性などが明らかに出るのである。
③面接方法の見直し
携帯サイトからアクセスしてきた応募者でも、面接日時等のやり取りにメールを使うのは避けるべきだ。
あえて電話を使用することで、本人の「電話応対度」をチェックすることができる。とくに最初の応対が大事だ。応募者の携帯には、こちらの番号はまず登録されていない。相手が分からないため、その人の〝地〞が出る。
そして電話のやりとりの最後には、常識のある応募者であれば「当日、何か持っていくものはありますか?」と必ず尋ねてくるものである。
留守電になることもあるが、どれくらいのスピードでコールバックしてくるかということから本人の就職意欲を窺うこともできる。
面接も当然、重要なプロセスである。応募者を判断する上で大事であることはもちろん、面接に立ち会う採用側も面接によって応募者から評価されていることを忘れてはならない。
つまり面接とは会社側が「選ぶ」機会であると同時に、応募者から「選ばれる」機会でもある。面接者の印象や対応で、その会社が働くのにふさわしい場所であるかを応募者は判断しているのである。
これまでM社では、主にYセンター長が面接にあたっていた。Yセンター長は大柄で声も大きく、また強面である。センター長としては相応しくても、面接官としては威圧感があり過ぎる。
Yセンター長には悪いが、M社の印象は良く映らない。そう我々は判断した。そこで面接官をT副センター長に代わってもらうことにした。人当たりがソフトで、知的なイメージもある。面接官にはうってつけだ。
急に面接官を外されたYセンター長は、はじめ少し拗ねていたが、「これもあなたのためです」となだめて何とか納得してもらった。
④役割分担と権限委譲
正社員と非正社員の役割分担と権限委譲を進めるために、図1のようにセンター運営業務の棚卸しを行った。

 2007年5月■物流会社M社のパート戦力化PJ●図①
それまでYセンター長、T副センター長の両名には、率先してリフト作業をやりたがる癖があった。どちらが上手かを競っている始末である。現場主義にもほどがある。管理職としては失格と言わざるを得ない。
管理職は本来、来月、3カ月後、来期というような将来を予測して、その準備を進め、改善などの業務を行わなければならない。
一方でパート・アルバイトや派遣スタッフは今日明日の作業をスピーディかつ正確に進めることが使命である。
これよってそのセンター、その現場は進化する。そのことをわかっていない管理職が多い。M社に限らず、物流現場の管理職の多くが自分たちの仕事を勘違いしている。「業務(Task)」と「作業(Work)」を混同しているのである。
⑤コミュニケーションの取り方
同様に管理職の多くが、現場スタッフに挨拶や声をかけることだけでコミュニケーションが取れていると勘違いしてしまっている。
コミュニケーションとは「会話」ではなく「対話」である。
M社の現場には、それまで「会話」はあっても「対話」がなかった。そのために意思の疎通がうまくいっていなかった。そこで社歴の長いパートから順番に、管理職との個人面談を半年に1回ずつ実施していくことにした。
面談の時間配分を予め設定した。1人当り60分を目安とし、初めの40分は、管理職は聞く側に徹する。そして残り20分で管理職の考えや方針を伝えることにした。
仕事のこと、職場の人間関係、さらには家庭の事情など、パートはそれぞれに様々な悩みを抱えている。それを管理職がじっくり聞くことで「私は会社から看られている」と感じてもらうことが狙いだ。
パートの人数が多いため、Yセンター長とT副センター長のほかに正社員の現場リーダー3人を管理職側の面談要員に加えた。
個人面談では、様々な改善提案を聞くことになった。その結果、夏冬の空調などの環境整備に加え、休憩時間などにM社の不満をしばしば周囲に漏らしていたベテランパート1名を配置転換することになった。
ある新聞社が実施したアンケートによると、「上司に言われてやりがいを感じる一声」の1位は「ありがとう」、2位は「助かったよ」であった。これは物流現場でも同様である。
ところが物流現場の作業は、うまくできて当たり前という特性があるため、管理職はどうしてもミスを指摘するばかりになりがちだ。それでは現場の雰囲気が暗くなってしまう。
そこで面談を担当したYセンター長、T副センター長、現場リーダー3人に対し、自分が受け持っている部下やパート一人ひとりについて、長所を3つずつ書き出してもらうことにした。
マイナス思考になりがちな現場管理職に、部下・パートの長所をみつけ、誉めるということを意識的に行わせようという狙いである。
⑥評価制度、表彰制度の導入
物流現場における評価制度や表彰制度の必要性は昨今ますます高まっている。
パート・アルバイトが今や現場オペレーションの主力となっている以上、それも当然と言えば当然である。
ただし、あまりに大掛かりな制度を作ると、プレッシャーや責任の重さに及び腰になり、脱落するパートも出てきてしまう。Yセンター長とT副センター長と話し合い、M社の現状に相応しい制度を検討した。
時給を決める人事考課は「勤務態度」と「能力」によって決める。このうち勤務態度はさらに「a. 勤務態度」「b.協調性」「c.責任性」の3つの小項目に分け、それぞれについて具体的な基準を明示した。「無断欠勤は無かったか」という具合である。
一方の「能力考課」には「a.業務知識」「b.理解力」「c.表現力」を小項目として設定した。これもまた「自分の言いたいことを簡潔に表現できるか」など、計十二項目の基準が設定されている。
それぞれの基準をクリアできているかどうか、まずパート本人が自己申告する。それをもとに管理者と個人面談を行う。
両者の評価にギャップはないか、あればその理由は何か、どう改善していけば良いか、個人にフィードバックする仕組みである。
作業評価は、「生産性」と「品質」に関してそれぞれ一つずつの指標を選び、目標を設定することにした。
具体的には「生産性」は「ピッキング個数/人・分」、「品質」は「ピッキングミス率(ミスピッキング行数/全ピッキング行数)」を用いた(図2)。

2007年5月■第53回●物流会社M社のパート戦力化PJ●図②
これに並行して二種類の表彰制度を設けた。
「月間ベストピッキング賞(上記二つの指標を基に総合評価)」と、「月間MVP賞(人事考課表の主要ポイント三つに絞った項目に基づき評価)」である。
ただし、表彰は該当者ナシの場合もあるという前提にした。受賞者には毎月の最初の朝礼でトロフィーと商品券が渡され、センター内のメーン掲示板に名前と写真が掲示される。いささか大げさかと少々不安もあったが、いざ実施してみると現場は予想以上に雰囲気が明るくなり、授賞式は盛り上がった。その後、現在はパート・アルバイトから社員への登用制度を作成している。

派遣スタッフの課題
派遣スタッフも基本的にはパートと同様に扱う。
朝礼や昼礼など現場の基本行事にも参加させる。先の目標管理の対象にもなっている。ただし、派遣であるため現場の管理者が直接、個人評価をすることはできない。評価は派遣会社の担当者を通じて間接的に本人に伝えてもらうしかない。
その意味でも基礎教育を施したスタッフを派遣する付加価値のある派遣会社が求められている。しかし人手不足による売り手市場が、それを阻止してしまっているのが実状だ。そのため派遣スタッフは繁忙期や採用不足の際の臨時労働力として利用することが基本であり、自社パートの戦力化と採用の強化が先決となる。
M社のセンターは現在、社員15%、パート・アルバイト80%、派遣5%で運営している。派遣に対する依存度は低いと言える。それでも社員、パート・アルバイト、派遣スタッフという労働力の多重構造を前提として、垣根のない情報共有と教育、そして目標設定とインセンティブの仕組みが必要であることには違いはない。