Top > 雑誌寄稿 > 第54回 事例で学ぶ物流改善:『雑貨メーカーT社の拠点集約』

第54回 事例で学ぶ物流改善:『雑貨メーカーT社の拠点集約』

物量の増加に応じて、場当たり的な借庫を重ねた結果、在庫拠点が14カ所にまで分散していた。その賃貸料は総支払い物流費の半分以上を占めていた。拠点集約プロジェクトに取り組んだ。改革プランはシンプルだったが、拠点の閉鎖に伴うスタッフの転勤など、人の問題では苦労した。


在庫の増加で拠点が分散

T社は年商約240億円の中堅雑貨メーカーだ。
取扱いアイテム数は約5800。関東に本社を置き、北関東の生産工場に隣接して延べ床約800坪の物流センターを所有している。
我々日本ロジファクトリー(NLF)がコンサルティングを開始した時点では、このほかにも近畿に保管型物流センターを構え、両センター周辺にいくつも倉庫を借りていた。そのオペレーションも自社で処理していた。
T社は物流センター運営のアウトソーシングを過去に二回、失敗している。1回目は社内に物流スペシャリストが不在だったことによる外部委託コストの上昇、2回目は3PL企業の改善失敗によるセンター機能の停止であった。それらがトラウマとなり、T社のトップは「センター運営は自前」という方針を強く打ち出していた。
2004年からは社内のスタッフだけで物流改善活動にも取り組んでいた。部門間の意見調整に長けた優秀なスタッフが、プロジェクトリーダーとして活躍していた。ところが今年に入ってそのキーマンが退職してしまった。
このまま社内の力だけで改善活動を進めていくのは困難だと判断し、金融機関の仲介で当社NLFにサポートの依頼が舞い込んだのであった。
T社の物流担当役員のS取締役が我々のカウンターパートだった。数回のヒアリングを経て、東西二つの物流センターと主要な借庫の視察を行った。
2つのセンター以外に、実に12カ所もの借庫があった。その費用はT社の総支払い物流費の50%を超えていた。
なぜこれだけの借庫が発生したのか、S取締役に尋ねた。答えは以下の通りであった。
まず工場隣接型のセンターがオーバーフローを起こした。そこで回転の少ないCランク商品の在庫を、近くに借庫して保管することにした。返品や生産ミスによって発生したデッドストックも別の倉庫に移した。これに並行して、海外生産品の輸入が増加した。
現在、T社では約40%の商品の生産を、中国をはじめとしたアジア諸国のOEM(相手先ブランド生産)メーカーに委託し、完成品を日本に輸入している。それを荷受けするための、輸入コンテナのデバンニング用の倉庫を新たに借庫した。こうして、継ぎ接ぎ式に倉庫が増えていった。
T社のケースに限らず、場当たり的に増やした借庫が物流管理上、適正な立地にあることは少ない。それが十二カ所にまで分散すれば、在庫管理に支障を来すだけでなく、横持ち輸送のコストが加速度的に増加してしまう。
我々は拠点集約の方法を検討していった。主な検証ポイントは以下の通りであった。

① 得意先納品エリア分布とそのリードタイム
② 調達先のエリア分布
③ 輸入国からの寄港スケジュールおよび頻度
④ 集約パターン別による必要倉庫面積の算出
⑤ ④の結果に基づく北関東エリア、横浜エリア、千葉エリアそれぞれの借庫賃料と有力倉庫会社および物流会社のリストアップ
⑥ 横持ち輸送の必要・不要の振り分けとコストの算出

検証の結果、拠点を関東一カ所に集約できることが分かった。ただし、北関東工場に隣接した既存の物流センターではキャパが足りない。メーカーの在庫削減の基本は、受注生産方式への移行による工場からの直送だ。
しかし、T社の場合、いくら直送化を進めたとしてもリードタイム面での条件が厳しい顧客や輸入品用に一定の在庫スペースは必要であり、工場の敷地に増設の余地はなかった。幸い工場から車で約一〇分の場所に適地が見つかった。そこに、協力倉庫会社に新たなセンターを建てさせて、賃借するかたちを
とることになった。
新設したセンターは平屋建ての約一1500坪の規模。これと既存の工場隣接型センターの800坪を併せて計2300坪のスペースを確保した。

デッドストックの発生源を辿る
関東の新センターの稼働に合わせて、近畿物流センターは閉鎖することになった。また、今まで神戸港と横浜港に分散していた輸入品の荷揚げも横浜港に一本化することが決まった。
この拠点集約は副産物として3つの改善テーマを生んだ。
「① 東西二拠点体制から一拠点体制への移行に伴うオペレーションの安定化」、「② デッドストックを生み出している返品・生産ミスを撲滅するための営業部門、生産部門を巻き込んだ改善」、「③梱包サイズの見直しによる支払い運賃の明確化」である。
このうち「①オペレーションの安定化」については、拠点集約によって集中することになった入出庫オペレーションをスピーディに処理することに加え、業務精度の維持・向上が課題であった。
ここでもやはり重要なポイントは“人材“であった。人手不足の折、新センターのオペレーションを担うパート・アルバイトの募集には苦戦を強いられた。
結局、定員の半分しか集めることができず、残りのマンパワーを派遣会社に委ねるしかなかった。管理スタッフの確保には、さらに手を焼いた。机上で考えれば、関東の新センターには、閉鎖した近畿物流センターのスタッフを投入すればいい。
しかし、スタッフは転勤を強いられることになる。幸いにしてS取締役と人事部が調整に動き、熱心に説得したことで、同センターの副センター長クラス2人とラインリーダー1人の計3人のスタッフは異動を受け入れてくれた。
しかし、センター長は転勤に応じることができず、自主退職する結果になってしまった。その穴埋めに、NLFの人材紹介事業部(ロジキャリアバンク)の登録者を新センター長として新たに採用して、何とかオペレーション品質のメドを立てた。
一般に物流マンは他の業界に比べ転勤を嫌う傾向がある。とりわけ首都圏から地方への転勤は避けられることが多い。仮にT社の集約先が近畿であったら、スタッフを異動させることは、もっと困難であっただろう。
「③ 返品・生産ミスの撲滅」については、返品の原因分析をもとに、物流面、営業面、生産面、それぞれに対策を打った。物流に起因する返品は、①ピッキングミスおよび出荷ミスによる品違いと、②商品破損が大半を占めていた。
そこで新センターでは作業品質に焦点を定めた管理指標を新たに設定し、その改善に注力することにした。
具体的には棚番地の文字や伝票印字を大きくすることでピッキングミスを回避するともに、ダブル検品を実施した。
営業面では、卸向けルートにおける返品を前提とした押し込み販売(過剰納品)が、返品を発生させる主な原因となっていた。
これを改善するため、営業マンを対象にしたペナルティ制度を導入した。返品を処理するための、いわゆる“赤伝”を発生させた場合には、その実額に対し1.5倍の売り上げを担当営業マンの成績から差し引くという社内ルールを設定し、返品を受ければ営業成績が下がるようにした。
これでT社の営業マンの活動には抑止力がかかった。しかし、肝心の得意先が返品を前提にした発注を続けたために、返品はほとんど減少しなかった。
また、取引先卸にとってT社は在庫のバッファーセンターとして支持されているところがあった。
このようなことから現在は、取引先卸の在庫適正化を目指した「定数納入システム」の導入を検討している。
アイテムごとに適正在庫量を設定し、不足した量をT社が自動的に補充する事実上の自動補充システムだ。

トータルコストを2割削減
生産面におけるミスは、海外で生産するOEM品に集中していた。現地工場での「製造依頼書」の見落とし、不良品のチェックミスなどが主な原因だった。
T社の海外生産比率は年々拡大する傾向にあり、放置できない問題だった。これに対して我々NLFは、指導員を日本から現地に派遣する案を提示した。
結局、この案が役員会でも承認され、海外主要工場7カ所に、定期的に指導員を送り込み「製造依頼書」の読み方、チェック方法、検品作業の進め方、受注から出荷までの業務フローの組み換えなどの現場改善を行うことになった。
その担当者としてT社の工場長OBら3人を起用した。この指導員派遣から約半年が経過した段階で、現地での生産ミスは派遣以前に比べて半減した。
次は国内の輸入受け入れ側のチェック機能強化であった。T社のように海外からの調達比率が高い企業では現場での製品チェックはもちろんのこと国内入庫時の数量検品や製品の抜き取り検査が不可欠だ。
輸入コンテナ到着時の入荷検品人員を実質的に二名増員することで、製品名、数量、品質のチェックを強化した。
「④ 梱包サイズの見直しによる支払い運賃の明確化」では、それまで36種類あった出荷梱包サイズを20種類に絞り込んだ。
従来は梱包方法のパターンが多過ぎて、作業が煩雑になっていた。また特積み各社の運賃タリフとの整合性が取れず、支払い運賃の請求書をチェックすることができなかった。梱包物がそれぞれ運賃タリフのどれに該当するのか、判断が困難であった。
梱包パターンを絞り込んだことで、全体の90%について出荷梱包サイズおよび重量と請求書が連動するようになった。
一連の改革によって、T社のトータル物流コストは改革前と比べ、現時点で約20%削減された。現在は協力物流会社の見直しを含む配送インフラの強化によって、納期および配送リードタイムの安定化に
取り組んでいる。