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第56回 事例で学ぶ物流改善:『通販会社Y社の物流インフラ構築』

伸び盛りのネット通販ベンチャー。それまで物流は事務所の一角で社員たちが自分で処理してきたが、
売り上げの拡大によっていよいよ限界が見えてきた。本格的に物流インフラを整備する時期だ。社長自ら指揮をとり、倉庫の選定とアウトソーシングの検討に入った。


化粧品をネット通販
関東に本社を置く通販会社Y社は、米国製の化粧品やマウスケア製品など、約700アイテムを扱っている。
販売ルートは9割がインターネット通販で、残りが専門店や百貨店への卸販売だ。現在の年商は約18億円。年々、売り上げは伸びている。
国内ではあまり見かけない珍しい商品を多く扱っていることから、雑誌やマスコミに取り上げられる機会が多く、そのたびに自社ホームページのアクセス数が上がり、事業拡大へとつながっている。
私がY社を訪ねると、事務所には所狭しと商品が積み上げられていた。商品の山に埋もれるように、社員たちが受注処理や出荷作業に追われている。私にとっては、以前にも見たことのある光景だった。
現在は一大ビューティーサロンに成長したP社の事務所が、かつては同じような状況だった。
私が訪問した当時、P社は新宿の本社事務所で商品の入荷から保管、検品、出荷業務を行っていた。その後、P社は我々日本ロジファクトリー(NLF)のサポートを受け、外部倉庫を借り、物流業務のアウトソーシングに踏み切った。
これによって初めて、P社の物流機能は本格的に動き出したのであった。Y社も同じ時期に来ているようであった。
私の訪問に対し、Y社側ではS社長自らが出迎えてくれた。S社長は米国の大学で薬学を専攻し、10年前に来日してビジネスを開始した起業家である。その相談内容は明確であった。“倉庫を探して欲しい”という。
既に一部の商品は外部倉庫に保管しているものの使い勝手が悪い。そこで、もっと規模の大きな倉庫に移り、現在は事務所で保管している商品と合わせて拠点を一カ所に集約したい。その具体的な施設と協力業者の選定が、我々に対する要望であった。
この倉庫移転に当たり、S社長は三つのシナリオを用意していた。

A案:物流の保管と運営全てを第三者にアウトソーシングする。
B案:事務所併設型の倉庫を借り、管理を自社で行う。
C案:事務所とは別に倉庫会社の施設を借り、管理を自社で行う、という選択肢であった。

Y社にとって物流は競争力の源泉(コア・コンピタンス)とは言えない。そのため本来であれば、A案のフルアウトソーシングが正攻法だろう。
ただし、それには問題があった。専門技術者の確保である。
Y社が取り扱う商品のなかには、「責任技術者」と呼ばれる専門的な管理者の設置を義務づけられているものが少なくない。具体的には

① 管理薬剤師の資格を有する者  もしくは
② 大学または高校で物理、化学、金属、電機、機械、薬学、医学、歯学の専門課程を終了し、3年以上の実務経験を有しているもの

がその対象となる。
それまでY社ではS社長自らを「責任技術者」として届け出を行っていた。これをアウトソーシングするには、協力物流会社側で有資格者を確保することが条件になる。
しかし、管理薬剤師は人材難で、大手物流会社といえども社内に有資格者を在籍させている会社は多くはない。そのため業務自体は物流会社にアウトソーシングしながらも、現場に荷主企業側で手当てした有資格者を常駐させているケースも珍しくない。
この問題に加えて、協力物流会社のセンター運営ノウハウに対する懸念もあった。S社長と話し合った末、A案のフルアウトソーシングは第2ステップのテーマとして位置付け、当面は見送ることになった。そうなると、次はB案の事務所併設型かC案の倉庫専用かという判断である。
これについては、現状の事務所の家賃水準を検討した結果、相場に比べて割安感があり、事務所の移転によるコストメリットが小さいことから結局、C案が選択された。具体的な倉庫施設の選定では、次のことを条件とした。

①本社事務所から車で一五分〜20分の距離
②保管料は現在一部の商品を保管している賃貸倉庫と同等レベル(これは決して探すことが困難な水準ではなく、いくつかの倉庫会社を当たることが可能なレベルであった)
③20フィートコンテナのデバンニングが可能であること(平屋あるいは一階部分を利用したい)
④商品汚れが生じる恐れのある施設(埃や粉塵の出る施設)は避ける。

我々NLFは、この条件を満たすことのできる物流会社や倉庫会社を探した。その結果、前述のビューティーサロンチェーンP社のパートナーを務めている中堅倉庫会社のL社に打診することになった。
L社はY社の希望エリアに倉庫を数カ所所有していたからである。L社の専務に連絡をとったところ、タイミング良く“空き”があるという。しかもL社は社内に「責任技術者」の有資格者を数名抱えているということであった。中堅倉庫会社としては稀なケースといえる。
L社の持つ空き物件のうち、予算面も含めてY社の条件に合う施設が二カ所あった。L社と打ち合わせを行った上で、そのうち保管料の安いA倉庫をY社に紹介することにした。

賃貸倉庫を選定
私とL社の担当者がY社を訪れ、S社長との三者面談を行った。まずはL社の会社概要を案内し、次にA倉庫の紹介に入った。
提示した保管料はY社の当初予算を20%ほど下回っている。それに気を良くしたS社長は具体的な質問を次々にぶつけてくる。
メザニン(中2階)も使用できること、外部の出入りを規制するセキュリティ面の充実、繁忙期の人員補充の対応などを説明すると、かなり乗り気になってきた。ただし、本社事務所からの距離には懸念があるようだった。
S社長は、出荷などの庫内管理を担当している社員も一度本社に出勤させた後で、車で現場に向かわせたいという意向を持っていた。そのため本社事務所からA倉庫の移動時間が大きなポイントとなっていたのだ。
念のため、もう一つの候補だったB倉庫も紹介した。本社事務所との直線距離はA倉庫とほぼ変わりないが、道路のアクセスが良いため移動時間は五分強ほど短い。しかも近くに駅があるため、将来社員を直接倉庫現場に出勤させることになった場合にも便利であった。ただし保管料はA倉庫に比べると10%ほど高い。
三者面談の後、L社の担当者がいない席で、S社長にL社の感想を聞いてみた。「倉庫会社としては申し分ない。繁忙期にヒトの補充対応をしてもらえるのも助かる。しかし、できればB倉庫の方が近いため、そちらを使いたいのだが、費用は変わってくるのがどうも」というコメントであった。
少し痛いところを突かれた感があった。コストの問題以外にも、現場の「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」のレベルや所長の管理能力など、トータルで見た場合には、A倉庫の方がY社には適していた。その旨をS社長に説明し、一応の理解は得られたものの、十分に納得してもらえているかは分からなかった。
数日後、L社の営業担当の案内でA倉庫を視察することになった。Y社からはS社長のほかにも2名の関係者が同行した。この日は渋滞もなく10分余りでY社本社事務所から現地に到着した。移動時間は物件選定の重要ポイントになっていたため、私は内心、ほっと胸をなでおろしていた。

即断即決が功を奏す
到着後、現場の案内と質疑応答を40分ほどで終えると、S社長はすぐに切り出した。
「OK! ここに決めます。よろしくお願いします」起業家らしい即断即決であった。結果として、Y社は良い買い物をしたといえる。
後になって聞いた話であるが、現場周辺はこのところ借庫ニーズが高く、A倉庫にはY社の他にも三社が商談中であった。この日から10日後、商品の引越しが完了した。
さらに引越し完了から一カ月も経たないうちに、今度はY社の他事業部門であるアパレル製品の保管もA倉庫に委託されることになった。
これは今回のA倉庫の業務内容とL社の対応にS社長が満足していることのあらわれであろう。当初、第2ステップとして先送りした運営業務のアウトソーシングまで現在は視野に入ってきた。
いまだ物流市場においては荷主企業と協力会社のミスマッチが頻繁に発生している。その理由を物流会社は荷主の無理な要望に求める傾向が強い。
しかし私の見る限り、ミスマッチの多くは、物流会社側の提案力の欠如が原因となっている。物流会社側に中立的、客観的な提案力と厳密な原価計算に基づいたコスト管理能力があれば、ミスマッチのほとんどは解消できる。
しかし、現実は理想とはほど遠い状況にある。今回のケースでも私は、荷主企業と物流会社との商談に通訳の存在が必要であることを痛感した。
荷主に対して一般的な解決方法や事例を紹介し、一方で物流会社に対して荷主のニーズを専門用語で伝えるのである。
この温度差を埋めるために、第三者機関としての3PLが必要になっている。

今回のケースでは我々NLFがその役割を果たした。しかし、それは本来、物流会社自身の企業努力によって埋められていくべきものなのではないだろうか。