Top > 雑誌寄稿 > 第59回 事例で学ぶ現場改善:『印刷物取扱T社の物流センター新設』

第59回 事例で学ぶ現場改善:『印刷物取扱T社の物流センター新設』

マスコミ企業を親会社とするT社は、媒体紙に挟み込むチラシ等の仕分け・配送を事業としながらも、自らを物流企業としては認識していなかった。当初の要請は新センターへの移行をサポートすることであったが、それ以前の問題として社員の意識改革が必要であった。
 

初めての物流研修
T社は各種紙媒体を発行するマスコミ企業のグループ会社で印刷物のハンドリングを事業としている。
年商は約90億円。印刷会社から入荷した広告や求人チラシを、媒体別・方面別に仕分けて配送している。
市内は自社配送、圏外への配送は同じマスコミ業界の印刷物ハンドリング会社に委託している。商流上は荷主企業ではあるものの、実際の業務内容は物流専業者の通過型センター(TC)とほぼ同じであった。
口コミで弊社日本ロジファクトリー(NLF)を知ったというT社のS取締役からお呼びがかかった。本社を訪問するとS取締役の他に、もう一人の取締役が同席した。
その彼が話の口火を切った。「2006年11月に新しい物流センターが稼働する。それに向けて、力を貸してもらいたい」という。
T社の取り扱いの約70%は親会社向けの仕事だが、ほかに親会社のライバルとなる媒体紙のチラシ類も扱っている。まさに「物流は共同で、競争は営業で」という構図なのだが、T社自身は自らを物流会社としては認識していなかった。
そのため物流業務に関する管理職の意識レベルや管理内容は、かなりお粗末な状態であった。
この依頼を受けるに当たり、我々NLFは部長クラス2名、次長クラス4名、課長クラス4名から現状をヒアリングし、現場視察を行った。
案の定、現場は親会社におんぶに抱っこの状態であった。約30%の外部荷主を持っているとはいっても、実際には親会社からいわれることをしているだけ、到着した商品をただ捌くだけの受動的な現場であった。
このままでは、新しくセンターを作ってハードを整えても、“ソフト”は目も当てられないものになってしまう。新センターへの移行を検討する以前に、そこで働く人たちのノウハウやスキルの向上が必須であった。
「管理者とは何か」「物流会社として現場をどのように管理し、改善していくのか」といった基礎を一から伝えていく必要があったのである。
そこで月に2回、就業時間終了後の時間を見計らって実務研修を行うことにした(図1)。

      2007年12月■第59回●印刷物取扱T社の物流センター新設●図①T社特別研修カリキュラム
第1回目の研修には管理職クラスと現場リーダーの総勢17人が参加した。担当役員であるS氏もオブザーバーとして顔を見せた。しかし皆、メモを取っていない。今まで研修というものを受けたことがないらしく、どのように研修を受ければよいのかという戸惑いの表情が見られる。参加者の平均年齢は40歳を越えている。講師にとって、かなりやっかいな研修になりそうだった。
そこで私はカリキュラムに予定していたテーマをあえて逸脱し、極めて基本的な事柄から話をすることにした。話し方も一方通行を避け、各参加者に質問するかたちにした。
「今なぜ研修が必要なのか」「研修を受けることで、どのように自分たちの仕事が変わるのか」を、切々と語りかけるように説き、質問していったのである。
最初に研修の目的をはっきりさせたことで、2回目以降の研修では、参加者の姿勢も変わってきたように思えた。オブザーバーも増えた。S取締役に加えて他の取締役2人と社長まで参加した。もっとも、良い研修の場合、参加者は研修を「受ける」のではなく「活かす」という姿勢で臨むものだ。T社の場合は到底そのレベルには達していなかった。

現場運営の原則
まずは働く人たちの考え方を改善していかなくてはならない。そのためT社の新センター建設に向けた取り組みは、「物流業」という視点から、これまでのT社の仕事を捉え直していくところからスタートしたのであった。そして研修終了後に、そこで習得した内容を既存のセンターで実践していくというステップである。
現場の基本的な管理や運営は既存センターでも新センターでも変わらない。具体的には次の5点に絞り込んで現場改善および運営を実施した。

①5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)の徹底
②商品事故、車両事故の撲滅
③入荷情報の事前収集
④センター内の動線の見直し
⑤パート・アルバイトとのコミュニケーションの取り方

「①5Sの徹底」では、「整理」とは具体的に何を指すのか、「整頓」とは何か、「清掃」とは、「清潔」とは、そして「躾」とはと、1つひとつ言葉の意味を噛み砕いて説明し、それを各現場に伝えていくという指導方法をとった(図2)。

     2007年12月■第59回●印刷物取扱T社の物流センター新設●図②5Sとは
「②商品事故、車両事故の撲滅」では、現場調査によってフォークリフトの爪でパレットの上にある印刷物に穴をあけてしまうという事故が週に1件は発生していることが分かったため、フォークリフト講習を行うと同時に、商品事故の発生がどのような問題に発展するのかについて、部長および営業担当者が具体的な事例を紹介するかたちで説明会を行った。

「③入荷情報の事前収集」も大事なテーマであった。それまでT社の現場は当日にならなければ物量がわからない状態で日々の仕事を行っていた。適正人員の設定などできるはずがない。しかも繁忙期であっても社員はしっかりと有給休暇を消化していた。
なぜ入荷情報が事前に分からないのか。調べてみると、T社へ荷物を納品するベンダーには、印刷会社や広告代理店、その下請けなど多くの会社が入り込んでいて整理がつかないためであった。そこで、ベンダーに直接働きかけるのではなく、入荷を担当するベンダーの協力物流会社を通して入荷予定情報をもらうようにした。
しかし、それだけでは全入庫量の40%にしか満たない。その後、大手印刷会社から納品予定情報を取れるようになって、ようやく物量の目安がつくようになった。

「④センター内の動線の見直し」では、通過型センターとしてのムダのないヒトの動きとはどうあるべきなのか、また印刷物の結束・仕分け機の周囲にどのような人員配置を行えば良いかという点を重視して指導した。

「⑤パート・アルバイトとのコミュニケーションの取り方」は、T社の管理職が最も興味を示した事項だった。
何より管理職はパート・アルバイトの名前を覚えること、頑張ったときには誉めてあげることが大事であることを強調した。そして仕掛けとしては年2回の個人面談を必ず行うこと。さらにはパートリーダーを設定すること。つまり能力があり、責任感のあるパートには、それだけの権限を与える。初期レベルの管理を担ってもらうという権限委譲を進めていった。
こうして研修終了からの3カ月を既存センターの改善に費やした。かなりスケジュールとしてはタイトではあったが現場は少しずつ変わっていった。
最も改善された点は「整理」と「整頓」の「2S」が合格ラインに達したこと、そして現場で声を掛け合う機会が増えてきたことであった。
このように既存センターにおける基本的な改善と運営の見直しは、一定の手応えを残し、最後の繁忙期を迎えたのであった。

センター建設の手順
 一方、並行して進めていた新センター建設の準備も次第に大詰めに入っていった。新センターの規模は延べ床面積約2000坪の平屋建てだ。親会社の財務体質が健全で投資余力が大きいため、土地・建物は自前という前提であった。
S取締役をはじめT社の役員たちは土地の取得と近隣地主への説明、調整に追われていた。センターの設計についての打ち合わせは、やはりS取締役と部長クラス、そして設計会社の代表、私というメンバーである。
設計コンセプトは「ショールーム」であった。我々NLFが持論とする「現場はショールームである」という考え方を研修で紹介したところ、T社の社長が気に入ってくれたらしい。
このコンセプトを基に打ち合わせを重ね、三種類の設計図を起こし、それについてさらに協議を進めていった。私は次の4つの点を中心に意見を述べた。

①マテハン機器、保管ラック、仕分け、入荷、出荷スペースの位置関係
②庫内事故(特にフォークリフト作業における事故)防止
③人手不足時代に向けたパート・アルバイトの作業負担の軽減
④車両、ヒトの動線など

このうち①の作業スペースの位置関係について、当初の図面で設定されていた仕分けスペースを拡張し、仮置きスペースを新設した。
また②事故防止では、フォークリフトの専用通路として黄色で明示したスペースを設けることにした。
③パートの作業負担軽減ではとくに空調対策に配慮した。結束・仕分け機の作業スペースに、エアーダクトをそれぞれ設置、さらに通常の1.5倍の厚さの断熱材を使用することにした。
④車両動線は、入り口と出口を別々に設けることで一方通行にした。そして作業動線は人と人がすれ違う時にも肩があたらないように最低限必要な通路幅を確保した。
こうした各打ち合わせメンバーの意見や提案を設計会社が取りまとめて、いよいよ建設に取りかかった。
基礎工事以降も私は月に2回のペースで建設現場を訪れた。S取締役と部長・次長クラスのメンバーらと共に、防護ヘルメットをかぶりながら現場監督と意見を交換し、細かな要望を出していった。帰りにはいつもスーツと靴にクリーニング屋が喜ぶほどの土が付いていた。
完成まで残り3カ月となった頃、我々は新センターで使用する什器、備品、看板、サインなど、設置品の準備に取りかかった。
しかしながら、この作業は大きく難航した。管理職、特に部長・次長クラスがのんびり構えてしまい、予定していた時期までに案が出てこなかったのである。
最初にはっきりと役割分担と期日を決めてありながら放置されていた。普段は温厚なS取締役も、これにはさすがに堪忍袋の緒が切れたようだ。私のいる前で担当者を厳しく叱責する場面もあった。
「今まで言われたことをやっていれば給料をもらえるという状態だったので自主的とか、能動的に動くということを知らないんですよ」と、S取締役は私にこぼすのであった。
結局、一部の看板等が納品されないまま落成式を迎えるハメになってしまった。外部参列者はともかく、社内幹部からは当然、厳しい非難の声があがった。
現場や組織は変わってきているのだが、それと比べて古参組の管理職の意識改革は遅々として進まない。これは他社の改善でもよく見られる現象である。
それでもT社の新センターは何とか予定通り稼働にこぎ着けた。グループに媒体紙を抱えている強みを活かし、パート募集に大きく紙面を使って広告した結果、30人の定員に対し97人の応募を得た。
新センター稼動から6カ月を過ぎようとしている現在、これらの新しいパートが戦力として育ち、課長以下の若手管理職がそれを牽引することで現場は順調に機能している。
前述の「5S」は、センター内の4カ所に大きな看板を設置した。
センター内のどこからでも看板が常に目に入る。日々、この看板の下で現場の若手リーダーがパートを前に朝礼を行っている。
こうしてハードとソフトが融合し、はじめて「ショールーム」は機能するものなのである。