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第60回 事例で学ぶ物流改善:『鉄鋼製品メーカーL社の資材在庫削減』

投資はしない。組織や人事にも手を付けない。それでも3カ月間で改善の成果をあげようというプロジェクトに挑んだ。ターゲットは発注方法の見直しによる在庫の適正化に絞った。使用したツールは手製の「持ち出し表」のみ。しかし期待以上の効果を上げることができた。

 
投資のいらないローテク改善
L社は年商約30億円の中堅鉄鋼製品メーカーだ。病院や医療機関などで使用するベッドや棚、椅子など、約3000アイテムを製造販売している。
私がL社の改善を支援するようになったのは、金融機関からの紹介がきっかけだった。当初の要望は「適切な協力物流会社を選定してほしい」という内容であった。これについては数カ月間の商談設定の末に某物流会社を選定し、無事成約に至っていた。
それで私もお役御免かと思っていたところ、L社の社長から再び力を貸してほしいとの依頼があった。
しかし当のM社長に話を聞いても、我々日本ロジファクトリー(NLF)に会社を診てもらいたいというだけで、具体的に困っているテーマがあるわけではなかった。コンサルタントとしては有り難い反面、成果が見えなくなる恐れのある要請であった。
我々NLFは改めてトップヒアリングを行い、その後、現場視察と現場リーダーに対するスタンディングインタビューを実施。改善課題の抽出に必要な情報を収集した。
それを元に物流を中心として、仕入れ、販売、そして生産の仕組みと流れを整理した結果、次のような4つのテーマが浮き上がってきた。

①棚卸方法の見直し
②適正在庫の設定と発注点の見直し
③仕入先との協力会社会議の実施
④無梱包、簡易包装の検討

通常のコンサルティングであれば、この4つのテーマに優先順位をつけ、順に着手していくところである。
しかし今回、我々NLFはL社に対して“改善に対する成果”を重視することを約束していた。そこでM社長と話し合ってテーマを一つに絞り、短期間で成果を出すことにした。そのテーマとは「②適正在庫の設定と発注点の見直し」であった。
しかしL社は実地棚卸を年に1回しか行っていなかった。在庫データの信頼性自体に問題があった。まずこの点を指摘して、実地棚卸を月1回に変更してもらった。これについてはL社のスタッフが自力で行うという計画である。
その他にも今回の改善には大きな壁があった。L社は100%受注生産体制をとっていた。従って在庫はすべて調達資材である。これを適正化するには資材の発注方法を見直す必要がある。ところがL社の販売はすべて代理店経由であった。これは最終需要の予測が不可能に近いということを意味していた。
組織にも問題があった。資材の発注を行っている組織が現場の資材部門と物流部門の2つに分かれていた。つまり、同じ現場に2つの発注ルートがあった。このことも我々の頭を悩ませた。
通常であれば、まず発注購買組織を1本化するところだ。しかし今回、我々には3カ月の改善期間しか与えられていなかった。そのため組織や人事には手を付けないことになっていた。
短期決戦で最大の効果を出す方法として、我々は先ず「持ち出し表」の導入を行った。L社の工場の各生産ラインに隣接して設けられている資材を保管する棚に資材を出し入れする際に毎回、この表に在庫数と担当者名を記入させるのである(図1)。

 2008.01■表①●持ち出し表

2008.01■表②●発注点管理表

 

資材が鉄パイプ、原反、ウレタン、木枠、スチールなどの異形物であったこと、バーコード管理には適していないこと、さらには会社の規模からRFID(ICタグ)等への投資は難しいことなどから、このようなローテクな改善手法を採るほかなかった。
これに対して現場の一部から「手間がかかる」、「今まで問題なくやっているのになぜこの表を記入しなければならないのか」と、非難の声があがった。
現場スタッフたちは、それまで棚の在庫量から独自に判断して調達先に発注する権限を与えられており、自分たちのやり方は正しいという認識に立っていた。
とりわけ強い抵抗のあったのが縫製ラインだった。そこでは古参の女性パートがリーダーを務めており、スタッフ全員が女性であった。当初は感情的なものが先行しているようにも見えた。しかし話をしているうちに、パートたちには現場にほとんど足を運ばない事務所スタッフに対する不信感の根強くあることが分かった。
プロジェクトリーダーでもあり、これらの発注を統括する立場にあるS部長と共に、我々は全部で7カ所ある各生産ラインを一つひとつ回り、そこにいる現場リーダーたちに「持ち出し表」を記入する目的を説明し、協力を依頼したのであった。

定番と非定番にアイテムを区分
こうして導入した「持ち出し表」で収集したデータを、後日チェックした。しかし、そのデータからは、資材全体に当てはまる発注点を導き出すためのルールを見出すことはできなかった。そこで調達資材を、全体の出荷量にほぼ比例して出ていく「定番」品と、出荷量には比例しない「非定番」品に分けることにした。
このうち「定番」は「在庫型資材」として位置付け、安全在庫を二日とした。一方の「非定番」については、当日必要な量だけ入荷する「JIT(ジャスト・イン・タイム)型資材」とした。
今回の改善に取りかかる以前からL社は「非定番」のJIT調達を一部のアイテムで実施していたため、他の資材に展開させることは比較的容易であった。ところが「定番」では少し苦労した。
発注点の計算式は「1日当たり使用量×2日(安全在庫日数)」+「1日当たり使用量×納品リードタイム(日数)」で表すことができた。しかし「持ち出し表」の導入から、まだ1カ月しか経っていない。出荷量には当然、繁閑差があるため1カ月分だけの出荷データをもとに通年で運用することはできない。
しかし、いくら受注生産とはいえ過去3年間も遡れば月別の季節指数(12カ月で合計12とし平均月は1・0となる)の傾向が表れているはずだと推定し、その作業をS部長に依頼した。
仮説はドンピシャであった。見事に月別の出荷傾向が出ていた。これを月別在庫係数として乗じることにした。
次に発注量と発注回数の設定であった。それまでは仕入先から提出された最低発注ロットをそのまま受け入れていた。
仕入先と最低発注ロットの条件を交渉することも改善策の一つではあったが、前述のように今回は時間的制約があったため見送ることにした。
小口化による仕入価格上昇をシミュレーションする手間もかけられなかった。まずは「仕入先別・品目別・最低発注ロットおよび発注回数(月当たり)の一覧表」と「持ち出し表」を照らし合わす作業を行った。
その結果、従来通りの発注ロットと回数で問題のないアイテムが定番品の約75%を占めていた。残り約25%は改善が必要であった。といっても発注ロットを下げて発注回数を増やすというのではなく、逆に発注ロットを大きくする必要があった。
これらのアイテムは、ほとんどを毎日発注しているにもかかわらず、しばしば欠品を発生させていた。受注生産体制で実際に注文が来るまでその日の生産が確定しないため、朝のうちにあった資材が夕方にはなくなってしまうことが起きていたのである。
そこで、これらのアイテムのうち32品目については発注ロットを引き上げることにした。それでも日々の出荷量が多いため、月単位でみれば在庫水準を増加させる心配はなかった。
むしろ発注ロットをまとめたことでバイイングパワーが働き、平均で2・5%の仕入価格の軽減につながった。
次に我々は改善活動の時間対効果をさらに追及しながらも、L社が自力で進めていた月1回の実地棚卸しの集計結果と「持ち出し表」による数値の差異を分析した。差異を発生させる原因としては圧倒的に
「記入漏れ」「記入間違い」が多かった。

3カ月で改善成果
これらの一連の分析作業によってスチールをはじめとした65品目で在庫過多が判明した。これらのアイテムについては発注を控え、在庫水準の抑制を行った。
その結果、3カ月の改善期間中にも約2700万円分の在庫削減が実現した。年間では約4200万円の効果につながった。
L社で現場発注を行っていた部署のなかには、在庫を適正に持つことの必要性自体を理解できないところがある一方、在庫に対する意識はあるものの、どうすれば良いかわからないという部署もあった。
後者では「持ち出し表」によって在庫を可視化できたことが、即座に在庫削減につながった。このことが短期決戦に大きく寄与してくれた。
振り返ってみると、L社の在庫改善は、過去の棚卸データがなく、短期間で改善して成果を上げる必要があり、さらには現場の協力体制の不足など、活動環境が整っているとはとても言い難かった。
それでも問題の本質をとらえて、実施項目の優先順位と取捨選択を適切に行うことで、十分な成果をあげることができた。
もっとも、L社の抜本的な改善は今始まったばかりである。