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第61回 事例で学ぶ物流改善:『物流事業を副業にするA社の改善』

主業から派生するかたちで物流事業を手がけるA社。売上規模は拡大しているものの利益が出ない。クレームも多発していた。キャパを無視して無理な受託に走る営業、物流管理のプロを欠いた現場運営。副業として物流事業を続けるのは限界に来ていた。

素人運営のまま事業規模が拡大
昨今、3PL企業の台頭を、本誌を始め業界各紙が報じている。その影響からか多くの人が、大手荷主の元請け仕事はほとんどを物流子会社か3PLが受託していると思い込んでいるようだ。しかし、物流市場の裾野は意外と広い。
「そんな会社が?」という、物流業界では名の知られていない会社が優良荷主の物流をつかんでいるケースは決して珍しくない。
私の知る限りでも、麺の卸を主業とする会社が小売りの一括物流センターの運営を手広く受託しているケースや、業務用の消耗副資材を販売している会社が物流事業を手がけているケース、あるいは本業で大きな市場シェアを持つ大手日用雑貨卸や食品卸なども物流事業に参入し、コア事業の一つとして育成している。
今回はそのように物流を主業としておらず、事業の一環として展開しながら、優良荷主の物流センター業務などを担っている中堅企業をご紹介したい。
印刷業を主業とするA社である。現在、通販会社や印刷会社など荷主計70社から物流業務を受託している。
同社の創業者でもある現社長が印刷物の卸業を営む中で、顧客から印刷物をしばらく預かって欲しいという依頼を受けることがままあり、既存の倉庫に不満を持っている顧客が多いという点に目をつけて、
物流をサービスの一つに加えたという経緯である。
同社の物流事業の売り上げはこのところ好調で、今期に入ってからは前年同月比で135%という実績で推移している。今では年商約30億のうち物流事業の売り上げが約3分の1を占めるまでに至っている。
そんなA社の二代目、現社長の息子で次期社長として事実上事業を承継しているM取締役から、我々日本ロジファクトリーに連絡が入った。
「物流事業で顧客からのクレームが絶えない」、「素人集団では限界が来ているため専門家から意見、提案をもらい、早急に改善を行いたい」とのことであった。
早速、A社の本社を訪れた。対応してくれたのはM取締役と営業部長のT氏だ。この二人が、同社の物流事業の限界を最も強く感じている今回のプロジェクトのキーマンであった。
A社では物流センターを流通加工の“加工場”という意味で“工場”と呼んでいる。“工場”は本社から車で一時間半の距離の同じエリア内に現在、5カ所を展開しているという。そこで現場視察に向かう車中で2人から具体的なクレーム内容や現在の管理レベルなど、種々のヒアリングを行うことにした。

管理者不在で荒れた現場
A社は輸配送を全て外注し、業務をセンター運営にほぼ特化している。一部、 専門業者顔負けのコールセンターまで運営しているという。
部隊編成は社員が24人、パートが約100人。派遣スタッフはゼロ。社員とパートによる自前運営である。
この体制で売り上げこそ伸びているものの、利益が出ていなかった。ヒアリングによれば、次のような状況にあるという。

①本社とセンターとの情報共有化、連携が不十分である。
②営業部隊は現場であるセンターとの打合せ、事前確認などをほとんど行わず受託を行っている。
③センター運営における管理について現場リーダーをはじめ社内に誰一人、物流のプロと呼べる人材がいない。

マネジメントの欠如は明らかだだった。
現場は案の定、我々が過去に視察したなかでもワースト5に入るほどの荒れかたであった。
空きダンボールやパレットが散在し、いたるところで埃を被った商品が荷崩れを起こしている。他社の物流マンが見れば、誰もが自分の仕事ぶりに自信を持ってしまうところだろう。
我々は、この日のほかに、二回の視察を行うことにした。1回目は5つの物流センターの視察と現場リーダーのインタビュー。
そして2回目を課題、問題点の検証作業にあてるという段取りである。この2回の現場視察および調査の後、改めてA社の本社を訪れ、創業者のS社長に対して報告を行った。
この報告で我々が「短期・中期改善実施項目」として提案した主な内容は以下の通りである。

①現場管理者(&営業担当者)研修の実施
②担当取締役の交替
③「5S」の徹底
④物流現場管理指標の設定
⑤保管ロケーションの明確化
⑥他社センター見学の実施
⑦現場に時計を設置
⑧「協議→決定→実施→修正」サイクルのスピードアップ
⑨パート評価制度の作成

「①研修の実施」は、現場管理者よりもむしろ、営業担当者にこそ必要な施策であった。A社のセンター作業が混乱する最大の原因は、営業の“無責任受注”にあったからだ。
M取締役が説明したように、A社の営業は受注の際に、センターとの打合せをほとんど行っていなかった。業務内容やインフラのキャパシティ、開始時期などについて現場と充分な確認を取らないまま受託を進めていた。
その結果として、キャパオーバーを招き、現場からは悲鳴に近い声が常に上がっていた。
スペースの足りない状況で業務を処理しなければならないことが、誤出荷や出荷遅れ、破損といったトラブルを発生させていた。
これを改善するには、何より営業が、物流センターを運営するために、どのようなことを確認する必要があるのかを分かっていなければならない。

「②担当役員の交替」も必須だった。物流事業の担当役員のD取締役は、S社長の側近として創業時代から苦楽を共にしてきた功労者だ。
またD取締役はセンターを増設するたびにその責任者となって本社とセンターを行き来してきた。
しかし、これまで物流を本格的に学んだことはなく、自己流の手探りで管理を行ってきた感は否めない。そのため改善といってもどこから手をつけてよいかわからない。部下からの提案や営業からの要望を的確に判断し、スピーディに行動に移すこともできずにいた。
率直に言って、D取締役の能力と資質は、A社のセンター業務の品質を落とす原因の一つとなっていた。利益が出ていないため、経費を削減する。それも業務の改善によってコストダウンするのではなく、業務に必要なラックや手袋、消耗品といったものまでも購入させないといった悪循環を招いていた。

③の「5S」の必要性は言うまでもないだろう。
「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」のうち、まずは「整理、整頓、清掃」の「3S」運動、美化運動から開始することにした。
その効果が最も早く現れたのは、物静かで気の弱そうな責任者が管理する「第五センター」であった。
失礼ながら、強いリーダーシップを発揮できるタイプにはとても見えなかった。そこで、いち早く効果を上げることのできた理由を、その責任者に尋ねてみた。
すると「美化運動は、まずは自分でほうきを持って動き出したところ、振り返るとパートさんたちもほうきを持っていました。反対に、作業の工夫に関しては自ら動かず、みんなの意見を聞くことにしました」という。模範解答である。
実際、この率先垂範と権限委譲をはき違えている管理者は多い。


不動在庫は物流会社も儲からない

「整理」の一環として、要らないものを捨てる、いわゆる“不動在庫”にもメスを入れた。
スペース不足は返品や不良在庫などが現場にあふれていることも理由の一つだった。そこで、営業部隊を3つのチームに分け、順番にセンターに出向かせて、担当する顧客の在庫を自分の目で確認させた。
そして、在庫の処分について顧客と話し合わせたのである。
営業マンのなかには不動在庫であっても、預かっていれば保管料が請求できるからでは良いではないか
と考えているものもいた。
間違いである。A社のように常にキャパオーバーとなっているセンターでは不動在庫は不利益になる。
荷主だけでなく物流企業にとっても、利益につながるのは、入・出庫料の見込める荷動きのある商品なのだ。不動在庫は荷主、物流会社双方にとって可能な限り早く処分するのが得策である。
これらの「整理」に加え、多段積みのできる「ネステナー」などのラックを、費用の一部を荷主に負担してもらい導入した。
260基を購入し、100基をレンタルして計360基を確保した。高さを活かせるようになったことで収納能力は約36%アップした。「スペースがない」という声は次第に小さくなっていった。

⑥の「他社センター見学の実施」は今のところ後回しになっている。
しかしA社に限らず、ほとんどの物流会社、特にセンター運営を行っている会社は“井の中の蛙”となっている。
他社のセンターを見て視野を広げること、ひき出しの数(解決方法の種類)を増やすことは、有効な教育方法の一つである。

⑨の「パート評価制度の作成」はA社の大きな財産になった。事前調査のヒアリングで各センターの現場リーダーに「どうすれば現場が良くなると思うか」という質問を投げかけたところ、「パートの時給が安いから優秀な人が入ってこない。時給を上げるべきである」という意見が多く出ていた。A社の経営陣もそれを一部認めていた。
しかし、それだけでは根本的な改善にはならない。時給を上げれば確かにパートは集まりやすくなるが、それは十分条件ではない。むしろパートが自分の仕事ぶりを会社側に適正に認めてもらっている
と実感できる“シクミ”のほうが重要なのである。
そのことを我々は主張し、パートの評価制度を別表のように作成し、運用に移したのである(図1)。

 

2008年02月■別表●物流事業を副業にするA社の改善jpg

我々が改善に着手した段階で、荷主からのクレームはピークに達していた。そのまま放置していれば業者切り替えの憂き目にあっていたことは十分に想像できる。
既にA社にとって物流事業は事実上、主業の一つになっている。経営に与えるダメージは計り知れないものになっていたはずだ。
物流事業は素人が片手間で運営できるほど甘くはない。その一方でA社がいまだ中小企業に不況感が残る中で毎年二桁増のセンター売り上げを作っていることも、また事実である。物流専業者にとって、これは驚異だろう。
物流専業者の多くは現在、現場運営の品質を落とさないように受注活動を控える傾向にある。それに逆行するかたちでA社は事業を拡大した。それが単なるビギナーズラックなのか、それとも物流業の営業戦略として有効であるのか、現時点では判断できない。
3年後、5年後にその答えは出ているであろう。