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第63回 事例で学ぶ現場改善:『小規模メーカーA社の物流インフラ構築』

システムやノウハウに欠ける中小荷主は往々にして大手物流会社のブランドに頼りたがる。その気持ちは分かる。しかし、実際のコスト効率や作業品質はどうか。大手に委託して業務を孫請けに丸投げされるよりも、むしろ自分の身の丈にあったパートナーを選んだほうが良い結果を生むことが多いのである。

売上高物流費比率16%
A社は婦人靴を製造・販売する年商約8億のメーカーだ。
中国に現地法人化した自社生産拠点を2カ所構え、日本国内向けに輸入販売している。売り上げの約8割は全国の靴卸相手のB to Bだが、インターネットで一般消費者に直接販売するB to Cも約2割ある。これまでA社の支払物流費は売上高の約16%という尋常ではないレベルにあった。
我々日本ロジファクトリー(NLF)への依頼内容も「現状の支払い物流費ではコスト倒れになってしまう。品質的にもユーザーからの信用を得られない」というものであった。

まずはA社のトップ、そして我々NLFとの交渉窓口となった担当部長の両名と、数時間にわたる話し合いを行った。そこから今回の改善の目標を、卸向けのB to Bに関してはコスト削減、一般消費者のB to Cは出荷精度向上のための“シクミづくり”に定めた。
通常であれば我々は、コスト削減とシクミづくりという2つのテーマを同時並行で進めることはしない。シクミづくりは時に新規投資や物流コストの増加を避けられないことがある。コスト削減とは必ずしも両立しない。コストとシクミのどちらを優先させるのか。それを確認できないまま改革に着手してクレームを発生させているコンサルタントや物流企業を、これまで我々は数多く目にしてきた。
しかしA社の場合は、B to BとB to Cのチャネルがはっきりと分かれているため、それぞれ別の目標を立てることも可能だと今回は判断したのである。
話を聞けばA社は我々に相談を持ち込む直前に、自主改善を行ったばかりであった。協力物流会社の変更である。
中国・上海から輸入した貨物を日本で処理する、具体的には日本における港湾荷役、通関、保管、出荷業務の委託先をT社からM社に変更していた。
いずれも大手物流会社だが、この変更でリードタイムの1日の短縮を実現できたという。確かに米国の同時テロ事件以降、物流企業によって、通関手続き、申請、受理などの処理スピードにはかなりの違いが出るようになってきている。
法令順守(コンプライアンス)面での優良事業者に対する優先的な扱いが実施されているせいで、大手物流企業同士であっても差が生じているのだ。そこに目を付けたわけである。
アパレル物流においてリードタイムは最も重要な管理指標の1つだ。もともとアパレル製品はアイテムごとの売れ行きが流行によって大きく左右されるため需要予測が難しい。売れ残りによる値崩れや損失を避ける必要もあるため、いったん売れ筋が判明すると、一気に増産をかけるという特徴がある。
しかもタイミングを逸すれば販売機会を失ってしまう。勢い輸送手段には割高な航空輸送を使うことになる。
A社においても、平常時は海上輸送だが、繁忙時には航空輸送に集中する傾向がある。それだけに1日といえどもリードタイムを短縮した意味は大きかった。

2008.04■別表●荷主と物流会社の温度差

A社自身、その点には満足しながらも、新たなパートナーとなったM社のコスト効率と作業品質には不満を持っていた。とくに通関後の陸上輸送コストの高さ、そしてB to C物流における出荷精度には問題を感じていた。
その原因を探るため、我々NLFは現地に出向き、現場作業の視察を行い、またM社からの請求書をチェックした。原因が判明するまでに多くの時間は必要なかった。
M社における下請け物流会社の選定ミスと管理手数料の高さ、そして中小荷主相手の片手間仕事からくる作業ミスが、主な原因であった。
他の大手物流会社と同様にM社では、通関、港湾荷役、保管、出荷業務までを自前で処理し、その後の輸配送は路線会社に委託していた。
路線会社は配送エリア別に二社を使い分けていたが、その分担が両社の会社の得意とするエリアとズレていた。そのために両社では配送の再委託を行う必要が生じ、配送料金が高くなってしまっていたのである。
中小荷主に対する片手間仕事も、大手物流会社ではよくあることである。大手物流会社をパートナーにするには、荷主側に最低でも300坪以上、場合によっては1000坪以上の倉庫スペースを利用するだけの規模が求められると考えるべきなのだろう。
100坪そこそこの荷主では、大手には軽く見られてしまう。やっつけ仕事になりがちだ。荷主専任の担当者を置くこともできず、日常の連絡も商品知識を理解していないアルバイトなどが対応することになってしまう。
実際、A社のB to C物流で発生していたミスの内容も送り状の貼り間違いという至って初歩的な内容であった。現場でダブルチェックを行うだけで、基本的には免れたはずのミスである。

協力会社に相手にされていない
この現場調査の結果を受けて我々は以下の3つの提案を行った。

①航空貨物と海上貨物を分けて、改めて協力会社を選定する
②B to Bの協力会社と、B to Cの協力会社を分離する
③B to Cにおける出荷頻度の削減

1つ捕促すると、A社の中国の現地法人で管理している上海側の港湾荷役会社と船社の見直しは今回は見送ることにした。
前年に見直しを行ったばかりであり、融通の利く最適な協力会社だという現地法人の意見を尊重することにした。
過去に日系物流会社に同業務の見積もりを依頼したところ、現状よりも高い料金を提示されたという経緯もあった。
① 航空貨物と海上貨物の協力会社を分離するのは、それぞれの輸送モードに強いフォワーダーを使い分けたほうが有利だという判断からだ。
パートナーのM社は海上貨物の扱いでは大手でも、航空貨物は得意とは言えなかった。キャリアとの価格交渉やスペース確保の点で、航空貨物を強みとする会社と比べるとやはり力の差があった。改めて航空貨物に強い会社をリストアップして紹介し、3社が候補にあがった。ちょうどA社の繁忙期で航空輸送が集中して発生する時期に当たっていたため、提案書と面接による審査だけではなく、実際にトライアルを行って選考を進めることにした。各社2回ずつのトライアルを行い、結果的にS社に決定した。
S社は陸運業を主体としているが、航空フォワーディングに強い商社系のL社とパートナーシップを組んでいた。
しかもS社の既存インフラで、空港からの仕分けや配送を処理できるため、この2つのコストが従来比で22%ダウンしたのであった。

② B to Bの協力会社と、B to Cの協力会社を分離することについては、A社自身その必要性を従来から感じていた。
A社の担当部長は「今の自分たちの売上規模、物量では組む相手が大き過ぎる。もっと小回りの効く中堅以下の物流会社のほうがいいのかも知れないと考えていた」という。
A社だけでなく、物量が少ないために大手物流会社から十分なサービスを受けられないでいる荷主は決して少なくない。
システムや管理の水準が低い中小荷主ほど大手のブランドに頼ろうとする。もちろん仕事は引き受けてはもらえる。
しかし実態としては相手にされていないことが多い。これは物流会社側にも問題がある。中小企業の物流を扱うノウハウが整備されていないのである。
その結果、荷主企業と物流会社の温度差、すれ違いがいっそう拡大してしまっている。残念ながら従来のA社とM社の関係にもそうした傾向が見られた。
そこで我々NLFのクライアント先で、10坪〜50坪クラスの荷主企業をメーンにしている小規模な物流会社に、A社のB to C物流の対応を依頼することにした。
年商は約3億円という規模ながら、小口保管とその出荷業務を得意とする物流会社であり、作業品質には信頼が置けた。
過去に別の荷主の案件でも、この会社を紹介したことがあるが、「委託を行ってから約一年経つが、作業ミスはほとんどゼロと言ってよいレベルで、納品先からの評判も良い」と、その荷主から報告を受けていた。

過剰サービスを修正
③ B to Cにおける出荷頻度の削減は、多少説明が必要であろう。前述の通りA社のB to C物流とは、一般消費者向けのネット通販である。
しかし大手ショッピングサイトに出店しているわけではなく、自社ホームページからの販売で、A社の社長は「我々はあくまでメーカーであり、生産に注力するのが基本。ネット通販にはそれほど力を入れない」と断言していた。
それでもネット通販の売り上げは既に全体の2割に達している。今後ヒット商品が出れば物量はいっそう増える。これらを総合的に考慮し、プラス50坪の拡張余力のある倉庫が必要だと我々は判断した。
ただし、それだけではコストアップになってしまう。いくらシクミ作り優先とはいっても避けたいところだ。
しかしA社のB to C物流の注文件数は現状では1日当たり20件、1週間当たり100件強に過ぎない。
作業自体の効率化には限界があった。そこで出荷頻度の削減に目を付けた。従来は毎日出荷を行っていた。
しかし商品特性上、翌日納品の必要性が薄いことは明らかだった。そこで協力物流会社とも相談のうえ、木曜日と土曜日の週2回の出荷に切り替えたのだ。これによって支払物流費の35%ものコストダウンが実現した。
さらに我々はA社に対して、将来は週に1回の配送でも構わないはずだとアドバイスしている。物流コストが下がれば、A社の競争力はより高まる。その効果は出荷頻度削減の影響よりもはるかに大きいという指摘だ。
この提案にA社の社長と部長は、大いに納得してくれた様子だった。こうしてA社の新しい物流インフラとルール作りは、ひとまず完了した。
A社のような中小荷主の物流管理では、協力物流会社の選定が重要な要素となる。物流会社側では、中小荷主を魅力の薄い相手としか見ないため苦労は大きい。
しかし、日本の99%以上はA社と同様あるいは、それ以下の規模の中小企業である。未曾有の規模を持つ中小荷主支援型の物流市場が、いまだ手つかずの状態にあるといえる。