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事例で学ぶ現場改善:『商物分離の明暗を分けるもの』

営業マンが自分で出荷や納品まで処理する体制を改め、営業活動と物流を分離する──商物分離に成功すれば、営業マンの生産性の大幅な向上や売り上げの拡大を実現することができる。一方、改革の失敗はコスト増だけでなく営業力の弱体化を招く。その成否を左右する最大の要因とは何か。

社内分離 VS 社外分離
このところ商物分離について相談を受ける機会が増えている。
アプローチは業態によって異なる。
一般にメーカーにおける商物分離は、小口得意先が“分離”を受け入れず、
結果として取引がなくなることまで覚悟して改革に取り組む場合が多い。
一方、卸・小売りは、そもそも小口得意先こそが主要顧客であることから、
受け入れ拒否はどうしても避けなければならないという思いが強い。
しかし、いずれの相談も、商物分離を単なる物流改善ではなく、
業界における生き残り戦略として位置付けている点で共通している。
商物分離とは、読んで字のごとく“商流”すなわち営業と、
“物流”同じく配送を分けることである。
大きく二つのパターンがある。
一つは同じ社内において営業スタッフと配送スタッフを分ける場合である。
“社内分離”と呼ぶことにする。
この場合、商物分離の実施に伴って担当する部門は変わってしまうが、
同じ会社の人間が納品することに違いはないため、
得意先からの理解は得やすい。
業務の細かな内容についても社内同士であるため融通が利く。
その反面、役割分担が不明確になってしまい、
コスト削減などの点で大きな成果を出せないことが多い。
また社内分離では、新たな給与体系の設定で、
頭を悩まされることも少なくない。
外部の物流会社に拠点運営や納品業務を委託する“社外分離”であれば、
そうした問題を回避できる。
ただし、この場合には、荷主は往々にして協力会社に対し多くを求め過ぎる。
具体的には受注、集金、先入れ先出しのための棚陳列などの
付帯業務を押しつけようとするのである。
商物一体の時と同様に、委託先のドライバーが納品先における立会い検品、受領印、
さらには棚陳列まで処理させるとなると、
一得意先当たりの滞在時間が2.5倍から3倍になってしまう。
それだけ配送効率は落ちる。
当然それがコストに反映されることになる。
それでは商物分離の成否、明暗を分ける最も重要なポイントとは何だろうか。
「最適な委託先の選定」と答える読者が多いかも知れない。
間違いである。
答えは、商物分離後の営業スタイルの確立である。
商物分離に伴って営業マンは物流業務の負担から開放される。
それを営業活動の量的拡大と提案やマーケティング活動などの
質的向上に結びつけなければならない。
実は商物分離に伴う物流体制の構築自体は、それほど難易度は高くない。
適切な手順を踏めば何とか軌道に乗せられるものである。
しかし、それは改革の半分に過ぎない。
商物分離によって配送効率が上がったとしても、
同時に売上増または利益増につながる営業改革を実現できなければ
片輪の車と同じである。
営業活動の量的拡大・質的向上は容易ではない。
一般に商物一体型の営業マンの仕事は物流業務が6割から7割を占めている。
つまり事実上は物流マンなのである。
彼らに提案営業やマーケティング営業を教育し、
実践させなければならない。
しかし、それを教える上司がいない。
上司にとっても新しい取り組みとなるのである。

2008.06■別表●商物分離チェックリスト

スピードよりもプロセス重視
その成功事例から紹介しよう。
精密機器を販売するA社。
約2000アイテムを扱い、年商25億円を売り上げている。
これまで同社は都心部にある本社で商品を保管し、
納品も営業マンが自ら行うという商物一体の体制を敷いてきた。
しかし、スペースが手狭になったことや、近隣対策、
そして営業マンの生産性を向上させたいという狙いから商物分離を実施した。
まずは営業、購買、システム、経理、管理など、
各部署からメンバーを登用して組織横断型のプロジェクトチームを結成した。
改革を担当部署だけで進めることは避けた。
商物分離の成功には社内の理解が何より必要だと考えたからだ。
このプロジェクトチームの活動を通じて、
「何のために商物分離を行うのか」、
「新たに協力物流会社が納品することになる得意先には、
そのことを補うのに十分な営業のフォローが必要であること」、さらには
「これからの営業にはどのようなスキルが求められるのか」
などを全社的に議論し、共有化していった。
新たに設置する物流拠点の立地選びにも時間をかけた。
我々NLFと物流担当者だけであれば、
経験値から立地を決めてしまうところだが、
この取り組みでは物流のことを知らないプロジェクトメンバーと
一緒になって、まずは「得意先マップ」を作成した。
納品先となる得意先の所在地と物量、
そして各得意先の納品受け入れ時間を地図上に記していった。
また同社の得意先は大手メーカーから研究所までと層が広く、
なかには緊急対応による営業マンの納品が他社との差別化要因と
なっている場合も少なくない。
それもあって安価な郊外の倉庫ではなく、
納品先に近い都心型倉庫を敢えて選定するという方針を立て、
拠点候補地を二カ所に絞り込んだ。
そして両候補地から主要な得意先までの移動時間をマッピングして最適な拠点を決めた。
この活動と並行して、商物分離の対象とする得意先を選定するために
「商物分離チェックリスト」(表)を作成した。
営業マンにそれぞれ自分の担当する得意先一軒ごとにリストを作成してもらい、
配送を分けるか否かの確認作業を行った。
このリストは、別に設けた“提案営業プロジェクト”に持ち帰り、
社長も交えて営業活動の見直しの資料としても利用した。
これら一連の取り組みによって、全体の約8割の得意先が
商物分離体制に移行した。
物流センターの運営および配送は外部の協力物流会社に
委託することになった。
結果として同社の営業担当者1人当たりの売り上げは
年間6500万円から7400万円にアップした。
改革のスピードよりもプロセスを重視して、
社内の理解度を高めたことが成功の一因だった。
次に失敗事例。
業務用食品卸B社は商圏を営業所ごとに細かく区分した
地域密着型の営業スタイルで年商60億円を売り上げている。
同社では事業所別損益が赤字となっているC営業所の建て直しが
急務となっていた。
C営業所は車両7台で営業マンが自分でハンドルを握って納品する
商物一体体制をとっていた。
午前中から午後1時ぐらいまでが納品時間。
午後は荷台の空いた車両に乗って注文を取りに回る。
実質的な車両の稼働率は50%ということになる。
ムダであろう。
そこで商物分離に踏み切ることにした。
既にB社の他の事業所で商物分離を実施し、損益の改善に成功している。
C事業所でも大きな問題は出ないはずだという考えだった。
実際、配送面では稼働当初に若干のトラブルが発生したものの、
取引を左右するような大事には至らなかった。
 ところが営業面で大きな問題が起きてしまった。
「新規開拓は私にはできません」、
「車に乗る仕事が好きでB社に就職しました」、
「仕事の割りに給料が安い」
などと言った不平不満が営業マンたちから噴出したのだ。
商物分離をきっかけに退職する営業マンまで出る始末だった。
C営業所では商物分離後の新たな営業活動について、
「新規開拓、提案営業の実施」
というお題目を掲げたのみで具体的な進め方や手法、ツール開発
などの落とし込みが行われていなかった。
C営業所のスタッフはそれまで営業マンとは名ばかりで
実質的にはドライバーとして働いていた。
急に営業をやれと命じられても、どうすればいいのか分からない。
自分の将来に大きな不安をもってしまったのも無理はないだろう。

営業部門の混乱で収益悪化
C営業所の失敗の原因は管理者に他の営業所でも成功しているから
大丈夫という思い込みがあったことに加え、収益性の改善を急ぐ余りに、
現場や営業担当者とのコミュニケーションやプロセスの開示を
怠ってしまったことにあると言える。
結果として、C営業所の業績は、売り上げは横ばいながら、
物流の外注化による経費増のため結局、赤字が膨らんでしまった。
改善にはしばらく時間がかかるだろう。
以前(2006年1月号)にこのコーナーで取り上げた印刷会社P社でも、
営業とフィールド(納品)を分離してから、
その効果が数字に現れるまでに2年の月日がかかっている。
今では得意先数も増え、
インストアシェア(各得意先の発注業務に占める自社の割合)も
拡大してきたが、途中、営業担当者の出入りの激しかった時期もあった。
それが落ち着いたことで、初めて効果が目に見えて現れるようになった。
このような数々の事例から、私は商物分離の成否はその会社の採用方針にも
紐付けられているのではないかと考えるようになっている。
改革を成功させたA社の場合、
営業担当者の採用は業界未経験者のみに絞っている。
反対にB社では経験者を優遇している。
そのことが商物分離に伴う営業スタイルの変更に
柔軟に対応できるかどうかと深く関係しているように思えるのである。

いずれにせよ、商物分離は物流改革であると同時に、
いやそれ以上に営業の改革であることを再度指摘しておきたい。