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第66回 事例で学ぶ現場改善:『路線会社〝営業所留め〟の思わぬ効果』

毎朝の路線便の入荷時間が1時間〜2時間繰り上がれば、得意先への納品時間を午後から午前中に前倒しできる。しかし路線会社に特別扱いを要請しても簡単には対応してもらえない。そんな場合には、荷物を路線会社の所轄営業所留めにして、自分で引き取りに行く自社便の導入を検討してみよう。


路線便営業所に自社便で引き取り
在庫を持たない、持ちたくない場合には、リードタイム短縮が有効な手段になる。モノが〝止まっている時〟に着目することで、それを実現できる。
物流といっても、実際にはモノが〝流れている時〟ばかりではない。ムダな滞留時間は必ず見つかる。
それをなくす、あるいは短くする方法を考えるわけである。
そのテクニックの1つとして、路線便(特別積み合わせ便)の〝営業所留め〟を利用した改善事例を2つほど紹介しよう。地味だが思いのほか納品リードタイム短縮に効果の上がる施策である。

1つ目の事例は、年商約100億円の印刷会社P社。
関東にある本社兼自社工場で印刷・加工を行い、完成した印刷物を全国7カ所の営業所に送っている。
各営業所では営業担当者や、現場作業をサポートするフィールドサービス会社のスタッフが、工場から納品された完成品を検品し、それぞれの得意先へ配達するというフローである。
P社では、得意先からの物流に関するクレームが絶えなかった。「今日納品されるはずの商品が届いていない」という問い合わせである。P社の営業担当者やフィールドサービスが、工場からの入荷を処理して営業所を出発するのは毎日正午頃。どんなに急いでも午後一番の納品が精一杯であった。クレームが来るのは当然と言えた。
営業所を出発するのが正午になってしまう理由は、大きく2つあった。1つは自社工場から送られてくる完成品の納品に間違いが多かった。数量違いや、出荷処理のミスで他の営業所に商品が送られてしまうことなどが多かった。そのため営業所では、到着した完成品を入念に時間をかけてチェックしなければならなかった。
納品を急ぐのであれば、工場から得意先への直送を検討するところだが、商品の特性上それは無理だった。
営業所では得意先の要請に応じて、商品に台紙をセットしたり、折り目を付けたりといった、付帯作業や加工処理を行う場合が多く、その詳細はそれぞれの得意先の担当者にしかわからなかった。
出発が正午になってしまうもう1つの理由は、路線便の営業所への配達が毎日9時30分から10時頃になってしまうためであった。それから検品作業を行うことになるので、午前中に出発することができなかった。
我々は工場で利用している路線会社に打診して、その会社の所轄の営業所の所在地と、P社商品の積載時間、配送ルートなどの確認を行った。さすがに配送ルートまでは回答してもらえなかったが、1つはっきりしたことがあった。
P社の配送は2便目、すなわち路線便のドライバーが朝一番の配達を終えて営業所に戻った後の2回目の配達にP社の商品が載せられていたのであった。それだけ配達時間は遅くなる。
P社は最近、営業所を移転している。実はそれによって路線会社の管轄営業所も変更となっていたのであった。
このように荷主の移転などによって管轄営業所が変わった場合、路線会社の営業所は荷主から何らかの連絡や通知がない限り、その荷主から安定した物量が出始めるまで〝スポット〟と見なし、それ以外の午前中必着の荷主を優先するものである。
また路線会社の一便は、限られた時間で多くの件数を回らなければならないが、P社の物量は1日平均0.7トン強あった。このこともP社の荷物が一便に載せられない理由になっていた。
我々は路線便の納品時間の前倒しはムリだと判断し、それに代えて路線会社の管轄営業所まで自分で荷物を取りに行くことを検討した。
一般に路線便の幹線輸送は夜間に行われ、渋滞に巻き込まれない朝方6〜7時頃までには基幹店または近隣営業所に到着している(図1)。

2008.07■図●路線会社の配送ネットワーク
そこで工場には路線会社の〝営業所留め〟扱いで商品を出荷させて、自社便で引取るのだ。路線会社の管轄営業所で8時に荷物をピックアップすれば、8時30分には自社営業所に到着する。
P社の就業時間は9時からなので、8時30分から9時までは協力会社のフィールドサービスのスタッフが数量検品、簡単な品質検品を行い、9時からそこに自社営業担当者が合流するかたちでスケジュールを組んだ。これによって10時には得意先に出荷できるようになり、午前中納品が実現した。約1時間50分のリードタイム短縮である。同時に営業担当者の残業時間が1人当たり月平均50時間から25時間に半減した。
フィールドサービス会社に対する早出料金が若干発生したが、それを十分吸収できた。そして得意先からのクレームを解消することができたのであった。

業者指定で路線便を集約
2つ目の事例は、約2000アイテムを病院や研究施設に納品している年商約70億円の医療器械販売L社の取り組みである。
同社は在庫を持たない方針を堅持している。新しい在庫が社長や会長に見つかろうものなら、「これは何だ!」と居合わせた社員たちが叱りつけられるという徹底ぶりであった。
商品保管面積は約20坪に過ぎず、デッドストックや特殊商品を在庫しているだけであった。
これまでL社では営業マンが自分で商品を納品していた。これを物流会社にアウトソーシングして商物分離を実施することにした。その課程で大きなムダが発覚した。
1つ目の事例として紹介したP社と同様、L社でも路線便の納品時間が遅いために毎日2時間のロスが発生していたのである。
仕入先から調達した商品の大半は路線便で納品されていた。調べてみると仕入先ごとに計5つの路線会社が利用されていた。まずは路線会社をA社一社に集約することにした。
各仕入れ先に申し入れて、L社に納品する路線会社をA社に指定することにしたのである。いわゆる〝業者指定〟である。
仕入先の約7割が、この要請に応じてくれた。しかし残りの3割の大手仕入先が首を縦に振らない。
L社は仕入先にとって客の立場にはあるものの、ここでは取引の力関係が大きく影響した。結局、指定業者にもう1社、B社を加えることでクリアするしかなかった。

次のステップとして、L社の商物分離のパートナーとなるアウトソーシング先の物流会社C社に対し、
路線会社A社、B社の管轄営業所2カ所への引取りを依頼した。C社との運賃形態は月極のチャーターにした。
引き取り便や配送便の運行を工夫して稼働率の高い配送計画を組むことでコスト効率を上げようという狙いだ。
もともとL社は在庫を持たないため、受注から納品までのリードタイムが2日と比較的余裕があり、納品時間の指定にもほとんど制約がなかった。この条件を活かして調達物流の内製化を図った。
配送便と同一方面に仕入先の物流拠点がある場合などは、そこに寄って商品を調達して帰ってくるというアイデアだ。
しかし、ここでも取引の力関係が働き、大手仕入先は引取りを拒んだ。その大手仕入先がアウトソーシングを行っている物流会社では計画的に庫内業務を行っており、そこにL社のような一部引取り対応というイレギュラーが発生することで、現場の段取りが狂ってしまうという理由である。
このように全てが計画通りに進んだわけではないが、路線会社の〝営業所留め〟による引取り輸送を含めた商物分離が実施に移された。これによって営業担当者は物流作業の負担から解放された。
毎日9時過ぎの朝一番に各担当者は得意先に出発することができるようになり、得意先への訪問頻度アップ、インストアシェアの拡大につながった。
物流面でも注文(受注)時間の前倒しが可能になった。それまでは営業担当者による午後納品が中心であったため、注文時間もそれにならっていた。午前中に得意先に訪問できるようになったことで、注文時間が自然と早まった。
その結果、仕入先への発注のタイミングも前倒しになり、従来の翌々日納品が一部翌日納品に改善されたのである。