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第68回 事例で学ぶ物流改善:『老舗食品卸Y社の輸送費削減』

中途入社で老舗卸に入社した二人が、会社を変革するためのプロジェクトメンバーに起用された。その突破口として物流改善に目を付けた。二人とも物流については全くの素人。それでもコンサルの助けを借りながら、古い体質を打破するために真っ向から課題にぶつかっていった。


物流を切り口に老舗を改革
食品卸Y社は東海エリアに5つの事業所を展開する創業100年の老舗企業である。
学校や給食会社、飲食店などが主な得意先で、年商は約120億円である。金融機関の紹介でY社を訪問することになった。

ところが、窓口として対応したY社の担当者の話を聞いても、とりあえずコストダウンしたいというばかりで、物流の何で困っているのか、はっきりとしない。どのような背景から何を狙っているのか、さっぱり理解できないまま帰路についたのであった。

それから1カ月を過ぎた頃、改めてY社の別の担当者から連絡が入った。今度は、先方が日本ロジファクトリー(NLF)の事務所を訪問したいという。担当者が変わったことで、話が振り出しに戻ったようだ。
我々NLFのような外部の専門家を入れて物流改善に本格的に取り組みたいとのことであった。

その担当者とアシスタントの2人をNLFの事務所で迎えた。2人はいずれも入社5年前後の中途入社組で、老舗企業にありがちな幹部たちの凝り固まった考え方や、昔ながらのやり方にあぐらをかいているところを変えていきたいという。
そのことは次期社長が約束されている創業者一族のS専務も合意しているとのことであった。〝会社を変える〟最初のステップとして彼らの選んだテーマが
物流改善だった。
2人は「物流は門外漢で全く分からない」という。しかし公的機関のアンケート調査によると、Y社と同業種のトータル物流コスト(対売上高物流コスト比率)が平均で約7%となっているのに対し、Y社の場合は約10%に上っている。そこが彼らの着眼点だった。

こうして中途入社組のプロジェクト窓口2名に、Y社の現場ベテラン幹部を加えた3人による物流改善の取り組みが始まった。
まずはY社の5カ所の事業所の中で最も売り上げの大きいH事業所から着手することにした。そこで改善の成果(結果)を早期に実現し、それをテコにして改善の重要性を社内に認識させて徐々に改善から改革へと歩を進めていこうというシナリオであった。

H事業所では、2t車の自家用トラック35台を納品に使用していた。ドライバーは納品作業に加え、ルート営業も行う。このほか早朝便の4台を協力運送会社に委託していた。プロジェクトメンバーと我々は早朝5時半にH事業所に入り、しばらく積み込み作業を見学していた。

朝早くから多くの社員が出勤してくるが、なかなか出発しない。積み込み場は多くの人でごった返している。ドライバーのほか管理職や事務職も作業に駆り出されているようだ。それでも結局、ドライバーたちが出発したのは、出勤してから約2時間後のことだった。

後で知ったのだが、H事業所の納品先には、昼食の商売を中心とする顧客が多く、午前中納品が大半であった。
そのためY社の出荷作業は基本的にはドライバー自らがピッキングを行って積み込むという自己完結型をとっているのだが、H事業所では午前中の出荷作業に総動員であたっていた。

午後は納品トラックの同乗調査を行った。トラックに横乗りしてドライバーにヒアリングを行うとともに、納品先とその倉庫や冷凍庫の陳列作業を手伝い、ドライバーの負荷や納品時間などを確認した。

こうして、その日の夕方6時から第1回目の会議が始まった。会議には我々とプロジェクトメンバーのほか、H事業所の管理職六人全員が参加した。
いくつかの確認作業を行ったうえで、我々NLF方から所感と改善の仮説を以下のように提示した。
①商物分離による車両数の削減
②現行の13時間枠一杯の労働時間を「8時間+残業」という勤務体制とする。同時に改善による残業時間の削減を図る
③仕分け担当者の設置。事前の方面別仕分けを徹底し、ドライバーの作業負担を軽減し、車両の出発時間を前倒しする
④車両の多様化による積載率の向上(2t車のみではなく、軽や3t車を導入)
⑤倉庫内ロケーションの見直し
⑥車両購入(リース)先の見直し、再交渉
⑦給油先の見直し、再交渉
⑧搬入台車の大型化
⑨外部倉庫の集約

この日の協議は深夜にまで及んだ。しかし、何1つ決定できなかった。それは上記の改善策が多くの制約に触れてしまうためだった。

例えば「②現行の13時間枠一杯の労働時間を『8時間+残業』という勤務体制とする」という改善策について、そもそも現行の「13時間労働枠」は、従来あまりにも多かった残業時間を削減するために
先月に決定したばかりの制度であり、当面はこの条件の中で改善方法を考えなければならないという。

また時間と投資のかかるテーマは今回の短期決戦(即結果が出る方法)の主旨から除外しなければならなかった。
さらにはY社には古い体質が根深く残っていて、大きな変化を伴う改善は、すぐには受け入れられないという。要するに、コストダウン効果の大きさよりも短期間で確実にコストの下がる施策が必要であったのである。

適切な改善策は百社百様である。とりわけ卸の場合、時間外受注や当日配送などの物流上のムダが、
会社の〝強み〟や差別化要因になっていることが珍しくない。その場合には、あるべき姿への矯正はタブーとなる。我々NLFとしても、ゴリ押しはできない。

第1回会議から5日後、我々NLFは改善実施事項を改めて提示した。施策を2カ月以内に成果の出せる短期決戦向けと、中・長期的に実施するテーマの2つに分けた。

1 短期実施項目
⑴午後からの配車、納品ルートの見直しによる積載率の向上、日々管理による稼働車両台数の削減
⑵運行日報、営業日報フォームの見直しによる新配送コースの作成
⑶車両別原価計算の実施によるムダの排除
⑷日別損益表作成によるムダの削除
⑸⑴〜⑷による配車管理、運行管理の徹底
⑹車両購入(リース)先の再交渉、見積り
⑺軽油購入先の再交渉、見積り
⑻外部倉庫の集約(B倉庫を坪単価の安価なA倉庫に集約)

2 中・長期実施項目
⑴商物分離による車両の減車(①社内分離、②外注化)
⑵⑴と合わせた残業時間の削減、短縮
⑶仕分け業務担当専任化による車両出発時間の前倒し
⑷車両の多様化(軽、3トンなど)による積載率の向上
⑸倉庫内ロケーションの見直し(①誰もがわかる保管棚、②仕分けスペースの確保)
⑹社内分離による配送スタッフの歩合給導入

3 協議、検討事項
⑴搬入台車の大型化(購入コストとコストダウン見込額との比較)
⑵宵積みの禁止
⑶傭車の内製化または削減
⑷引き取りの推進

このように短期的には配車、運行管理に的を絞り配車効率を向上を狙った。また卸の物流改善では本来、外注化による商物分離が正攻法である。
しかしY社の場合はその反対の内製化を取った。外注化による商物分離は一時的にはコストアップになるためである。

「13時間労働枠」のために、作業時間の短縮によるコストダウンという伝家の宝刀も導入できなかった。
一定時間内でどれだけ多くの業務をこなせるかというかたちに、一般的なアプローチを反転させる必要があった。

2008.09■図●日別配送実績表

「素人VS 玄人」のバトルが奏功
それでも改善は進んでいった。プロジェクトの中心メンバーに、〝物流の素人〟を自認する2名を選んだことが功を奏した。
「配車とはどのような業務ですか、詳しく教えてください」「〝宵積み〟の意味を教えてください」
と言った具合に、初歩的な質問を物流実務担当者にどんどんぶつけてくる。これに回答するメールの応酬では時折感情的になり、バトル状態になることもあった。

このやり取りはプロジェクトメンバー全員に転送されていた。傍観者である他のベテラン社員たちも
「あいつらは本気だ」と感じざるを得ない。そこから「昔の感覚を変えなければ」といった意識が社内に芽生えてきた。頭の固いベテラン社員を動かすきっかけとなったのである。

その後、追加策として得意先倉庫の鍵をY社のドライバーが預かり、深夜に配送するなどの施策も実施し、勤務シフトの変更を行った。
その結果、H事務所は物流コストを5%削減することができた。当初目標の7%には及ばなかったが、
プロジェクト窓口の2名と次期社長はひとまず「合格」と評価している。
我々NLFに対しても〝会社を変えるきっかけになった〟との嬉しいフィードバックがあった。
現在、Y社のプロジェクトはH事業所に次ぐ規模のT事務所へと、その対象を移そうとしている。