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第73回 事例で学ぶ現場改善:『本社物流部門を新設して改善を実現』大手精密機械メーカーS社

年商1000億円のメーカーが初めて本格的な物流改革に乗り出した。効果を実現するには恒常的な物流管理専門部署を設置する必要があった。プロジェクトチームは経営陣を説得し、組織改革を断行。苦労を重ねながらも徐々に全社を巻き込んでいった。

初めての物流改革
精密機械メーカーS社は、年商約1000億円、主力商品では国内トップシェアを誇る大手メーカーである。
同社総務部のM氏が、私の執筆した記事を読んで我々日本ロジファクトリー(NLF)に問い合わせを入れてきた。もっとも初回の面談はコンサルティングの依頼というより、物流管理とは何なのかを説明することに終始した。
S社は長年、技術力の強化と製品開発に力を注ぐ反面、物流をはじめとしたバックオフィス機能をなおざりにしてきた感があった。
しかし、生産活動や販売網が広く海外に広がってきたこと、さらには市場が成熟化し、シェア拡大に限界が見えてきたことなどから、同社としては初めて後方支援機能に本格的なメスを入れ、収益性向上を目指す体制強化に乗り出したのであった。
これを受けて総務、人事、財務などの各管理部門では、早々にプロジェクトチーム(PT)が発足し、
改革がスタートしていた。
しかし物流に関しては専門部署がなかったこともあり、どこからメスを入れるべきなのか判断がつかずにいた。
そもそも物流の業務範囲とは、どこからどこまでなのかさえ見えていない状態だった。社内の戸惑いを示すかのように、正式に物流PTが発足したのも、我々の初回の訪問から半年近くが経過した後のことだった。
そこにアドバイザーとして参加した我々は、先ずそのチーム編成を見て頭を抱えた。総務、経営企画、システム部といった管理系部門のメンバーのみの編成で、肝心な販売や製造の担当者が入っていない。
そのことを指摘し、なぜ販売や製造を巻き込む必要があるのかを説明し、チーム編成の見直しを促した。
その1カ月後、チームは再編成され、ようやくプロジェクトはキックオフを迎えたのであった。
S社は国内3カ所に生産拠点を構えている。物流拠点も3カ所。東西2拠点のほか、成田空港に近い原木に輸出拠点を設置している。
我々は各拠点を視察して回り、それぞれの拠点の入出荷状況や荷姿、作業手順、業務を委託している物流会社などを把握し、それと並行してS社から提出されたデータ類のチェックを行った。S社の製品は大きく〝大物〟と〝小物〟に分けられる。
〝大物〟の物流は工場から顧客に直接納品するのが基本となっている。一方、〝小物〟は工場からいったん物流センターに移し、そこで荷揃えも含めて処理する体制となっていた。このうち後者、物流センターから顧客までの小物の販売物流を、当面の改善の対象に定めた。まだトータル物流コストを算出していない段階であったが、S社の決算書を見る限り、売上高に対する支払物流費の比率は1%以下に収まっており、上場している同業他社と比較しても決して高くはなかった。物流フローにも大きな問題は見られなかった。
しかし、数多くのヒアリングやPTとの協議を重ねることで、S社の物流課題は徐々に浮き彫りになってきた。そこから我々NLFは、次の5つのテーマを具体的な改善項目として提示した。

①物流業務の可視化
②物流専門部署の設立
③受注業務における手書き、転写業務の削減
④主力物流パートナーの決定
⑤物流拠点立地の見直し

①物流業務の可視化については、拠点別のトータル物流コストの算出から取りかかった。同時に工場の部品調達まで含めた物流フローを作成した。
さらに誤出荷率、返品率等の物流品質の管理指標や、1人当たり出荷個数、残業率といった生産性指標を作成するためのデータ収集に着手した。
一般に物流管理の専門部署が存在しない企業では、全社的な指標管理が行われていないことが多い。ましてやS社のような規模ともなれば、各現場では基幹システムに合わせたオペレーションを行いながらも、その生産性は拠点ごとに管理し、部分最適となっている場合が多い。これを統一したフォームに集約する作業には苦労を要する。大企業の物流改善で我々NLFがいつも痛感させられていることである。

第73回■図●着地点分析●2009年02月号

 

物流部門設置の投資対効果を検証
②物流専門部署の設立は、S社が後方支援機能を強化し、継続的な改善を行うためには不可欠の施策であった。
しかし、組織改革の実施はPTの持つ権限を超えていた。PTから経営陣に対して要請はするものの、なかなか理解が得られない。そこで私が駆り出されることになった。
PTのメンバーに代わって私がS社の取締役会に出席し、直接経営陣に現状報告と物流専門部署の必要性を訴えることになったのだ。
その結果、何とか承認は得られた。ただし条件付きだった。その条件とは、適切な人事案を提示すること、そして部署設立の投資対効果を示すというものであった。
人事案については、それまで各工場で物流業務に携わってきたメンバーを中心にキャスティングを行った。
しかし、どうしても部門長を任せられる人材が見当たらない。一時は我々NLFとの窓口を務めるM氏にも白羽の矢が立ったが、管理畑が長く現場経験のないことから見送りとなった。最終的には、従来から物流に強い関心と知識を持っていた九州工場長を初代物流部門長として起用することに決まった。工場長という重職にはあるものの、あと1年で定年を迎える年齢であり、その後は顧問として再雇用することが決まっていたことから、本人および経営陣も受け入れやすかったようである。
一方、物流専門部隊の投資対効果に関しては、どれだけ物流コストを削減できるかという点に尽きた。
前述したように、S社の物流にはそれほど大きなムダがあるわけではなかった。それだけに改善によるコスト削減効果には限界があった。
我々としても初年度で5%削減、その後は3%、3%、2.5%という固いラインでシミュレーションを行うほかなかった。そこから新設する物流部門の定員を四人と弾いた。一人を増員しても会社に大きく貢献できる計算であった。
ちなみに同部門は設立から1年半を経過した現在、6人体制に増員され、その人件費を十分にペイするだけの貢献を果たしている。
③受注業務の改善は、オンライン化が狙いだった。それまでは電話受注こそなかったものの、全体の60%をファクスで受けていた。その入力作業に人手がとられていた。
そこでエクセル(表計算ソフト)を使って簡単な「受注(発注)フォーム」を作成し、ファクスからの切り替えを〝啓蒙〟した。
販売部門が根気強く顧客を説得したことで、現状でファクス受注率を60%から35%にまで引き下げることに成功した。今後半年で20%まで低減できる見込みだ。営業本部長によるトップダウンが功を奏した。
また別案として、ウェブ上に受注窓口を作ることも検討したが、投資の伴う改善テーマはプロジェクトの第二フェーズとして位置付けていたことに加え、一部の中小ユーザーに反発されかねないという意見が販売部門から多く寄せられたため、時期尚早と判断した。

協力会社を40社から3社に集約
④主力物流パートナーの決定は、物流コンペの実施というかたちで進めていった。S社の年間支払物流費は約10億円であった。それに対して協力物流会社の数は40社を超えていた。3カ所の国内工場と3カ所の物流拠点が、それぞれ物流会社と契約を結んでおり、料金体系もバラバラだった。
これではボリュームディスカウントが利かないだけでなく、請求書のチェックもままならない。そこで西日本、東日本、そして輸出拠点となっている原木の3カ所で、それぞれ元請けを任せる物流パートナーを見つけることとなった。
当初は全国の物流を3PL一社に集約する案も出ていたが、競争原理の確保と、リスクヘッジの点から、パートナーの数は3社と決定した。
その選考過程では料金、提案力はもとより、トラブル発生時のクイックレスポンス、そしてコンプライアンスに基づく機密保持とセキュリティ体制を重視した。
運営面では在庫管理能力とシステム対応力、そして3PL会社のアンダーとなる協力会社の対応力まで
選考の評価項目に加えた。
最近の物流コンペでは、元請けとして選んだ3PLの対応や実績、コストに問題はなくとも、いざ運用となった段階で、エンドユーザーからのクレームが多発するという失敗が珍しくない。
その多くは3PLのアンダーで現場を担う協力会社の作業品質や、荷主と現場のコミュニケーション不足が原因である。その点に留意したのである。
また原木のセンターでは航空便を多く利用していたこともあり、外資系フォワーダーをメーンパートナーとして、他に波動対応力、輸送力を補強するかたちで国内フォワーダー2社をサブパートナーに設定した。
⑤物流拠点立地の見直しでも、コンペ参加企業から提案を受けたが、いずれの物件も拡張性に課題が残った。しかもPT自身で着地点分析を行い、最適立地を検証したところ、最適とする立地と既存拠点では直線距離で15キロメートルも離れていない。移転コストや現場管理スタッフの通勤問題もあり、既存の施設をそのまま使用することにした。
こうしてS社のPTは苦労の末に、物流改善の第一フェーズを終了した。
PTおよび我々NLFが経営陣に提示した、物流コストの5%削減という計画は無事クリアすることができた。
先日、久しぶりにM氏から連絡が入った。予定よりも前倒しにして改善の第二フェーズに取りかかることが取締役会で決定したとのことであった。リーマンショックを機に、輸出を中心に売り上げが大幅にダウンしたことが原因だ。
今回は拠点の集約まで視野に入れて、物量減少に対応した、さらなるコストダウン策を検討する必要があるという。
世界同時不況は国内の物流拠点にも容赦なく迫っているのである。