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事例で学ぶ現場改善:『強い現場をさらに強くする 』電機メーカー物流子会社E社

優良物流子会社が現場力の向上を目指してプロジェクトを開始した。既に高いレベルにあるオペレーションを、さらに改善しようという試みだ。物流コンサルタントとしても腕の見せどころとなる。気を引き締めてかかった。

現場コンサルタントの腕試し
 E社は電機メーカーを親会社とする年商約150億円の物流子会社である。
親会社の国内5カ所の工場で、部品庫の管理から生産ラインへの部品投入に至る生産物流を始め、
梱包、保管、輸配送などの業務を処理している。
総売上高のうち親会社以外の荷主が占める比率、
いわゆる外販比率は約40%に達しており、
メーカー、卸、小売業、ネット通販など幅広い業種・業態をカバーしている。
 荷主向けの営業および受注後の顧客窓口と倉庫施設は自社で対応し、
現場作業は荷役子会社に、輸配送業務は外部の協力会社に、それぞれ委託している。
単なる受け払いだけを行う物流子会社や、
親会社の仕事に売り上げの大半を依存する多くの物流子会社とは一線を画し、
自立性の高い経営を維持している。
 E社は以前に当社日本ロジファクトリー(NLF)が主催する「物流実務カレッジ(LPC)」に
参加するかたちで、現場リーダーを対象とした研修を行っている。
その後、経営者が交代し、改めて〝現場力の向上〟が経営目標として掲げられたことから、
LPCで研修したスキルを、実務を通して身につける段階に進むことになった。
そのサポートが我々NLFの役どころである。
 国内5工場のうち、まずは主力工場の関東工場を対象として改善活動に取り組むことになった。
そこで成果を挙げた施策を、他の工場に横展開するというアプローチである。
その指揮を執る改善担当責任者として二人の中堅社員が任命された。
彼らを改善のスペシャリストに育て上げることも今回の取り組みの狙いの1つであった。
 筆者が関東工場を訪問したのはLPCの研修以来、2度目のことだった。
E社の現場運営は元々高いレベルにあったが、
改めて見学した現場は初回訪問の時からさらに進化していた。
多能班化やパート・アルバイトへの表彰制度、
ピッキングミス防止のためのカラーコントロールなどが新たに導入されていた。
LPCで研修した内容がよく活かされていて、
改善の工夫とトライ&エラーの痕跡を随所に確認することができた。
 LPCの研修においても、関東工場から出席した現場スタッフは、
その受講態度や意識の高さが際立っていた。
しかも若いメンバーが中心であった。
研修における彼らの評価、イメージと現場の印象が一致していたことに改めて感心させられた。
 今回のプロジェクトを開始するに当たって、
我々NLFはE社の新社長から次のような言葉を与えられていた。
「関東工場をはじめ、現場はよくやってくれていると思う。それでも、物流企業としてさらに現場力を強化し、コスト削減を図っていかなければならない。そこで外部の目で当社を見てもらい、自分たちでは気付いていないことを、できる限り提案して欲しい」
とのことであった。
 我々にとっては一般的なミッションであった。
しかし、E社、特に関東工場の現場オペレーションは
我々から見ても既にかなりのレベルに達している。
それに対して、果たしてどれだけの改善テーマを列挙することができるだろうか。
E社のように改善の進んだ現場では、調査、分析、ヒアリングなどの回数を増やしても、
新たな改善課題はほとんど出てこない。
仮説をどれだけ持つことができるのか。
改善の抽出の数がポイントとなる。
コンサルタントとしての我々の力が試されていると気の引き締まる思いであった。
 我々は現場を目にしながらも、そこに顕在化されていない事象にまで意識を向けるように努めた。
それはまさに現場の〝行間を読む〟ような作業だった。
その結果、大小合わせて73項目にわたる改善テーマを何とか抽出することができた。
ストレッチフィルムのラップ作業の平準化、
ダンボール購入先のコンペの実施、
関東工場における製・販・物部署による在庫削減会議の開催といった具合である。

イケメン荷役軍団の奮闘
 次のステップでは改善テーマに優先順位を付けた。
一般に中堅企業や中小零細企業における物流改善と大企業のそれでは展開も変わってくる。
中堅以下の企業では、トップやそれに準ずる経営幹部がプロジェクトに直接参加することになる。
そのため時には改善から改革へと取り組み範囲が広がって、
経営全体の組織改革や事業構造改革にまでつながることも珍しくない。
 しかし、大企業ともなると、他部署との調整が必要となる施策や、
組織・人事に関わる施策、あるいは投資の伴うシステム化などの施策は、
当初の計画に盛り込まれていない限り、その必要性が取り組みを通して明確になったとしても、
着手するのは現実的には困難である。
大企業の取り組みでは、予めプロジェクトチームに与えられた権限と与えられた予算と期間の中で
成果を上げる必要がある。
 E社の取り組みではまず、改善テーマを
「①改善スピードが速く、コスト削減効果の高いもの」、
「②改善スピードが速いが、コスト削減効果の低いもの」、
「③改善スピードは遅いが、コスト削減効果の高いもの」。
「④改善スピードが遅く、コスト削減効果の低いもの(改善対象外)」の4つに分類した。
 そして「スピード(達成にどれだけの時間が必要か)」と、
期待できる「成果」を基準として、テーマに優先順位を付けた。
この際、実現に他部署や得意先の協力が必要な実施項目は別途協力を仰ぐ準備を行う、
また大きな成果が期待できるとしても達成に著しく時間のかかるものは
改善項目からいったん除外して達成できるテーマに力を集中するという方針を立て、
73項目を22項目に絞り込んだ。
 こうして設定された改善課題を前にして、
関東工場の荷役会社に所属する若いスタッフたちは、
「今までこんなところまで見ていなかった」
という、新たな発見に対する驚きに加え、
「なぜ気付かなかったのか」
という悔しさも感じたようだ。
それが、その後の改善活動のバネになった。
 「パレットの買い替え数量の抑制」を担当したF氏。
若干25歳で口ヒゲと耳にピアスを装備している。
そんな彼が他の4工場に対して、FAXと電話を使って
先方の責任者を半ば脅すかのごとく追いつめた。
「関東工場」と印字されたパレットを返却するように依頼しているのだ。
妥協を許さない追跡であった。
 若手メンバーの中心核であるT氏。「作業動線の短縮」を担当した。
E社の倉庫は工場棟の遊休スペースを利用したもので、保管スペースの通路が長かった。
そこに並列して部品棚が並んでいる。
T氏は、保管スペースの中間点に横断通路を設けるというアイデアを思いついた。
ただし、コストはかけられない。
そこでT氏は、ヒトとリフトが通れるように、自分でボルト付けの設置棚をぶち抜いたのであった。
 「ピッキングミスの撲滅」を担当したM氏は、若手メンバーのサブリーダー的存在だ。
イケメンの物流マンであるM氏は仕事もイケている。
それまでピッキングミスの発生が多い部品棚には、赤色の段ボール板を他部品との間に差し込んで、
混ざらないようにするという工夫をしていた。
カラーコントロールである。
ところが在庫が少なくなると、段ボールの間仕切りが倒れてしまう。
そこでM氏は段ボールに代えて、ホームセンターなどに売っている黄色のチェーンを
棚に5センチ間隔で取り付けるという改善を実行した。
 もちろん、すべてが順調に進んだわけではない。
LPC終了後、パート・アルバイトの表彰制度を導入したのは良かったが、
受賞者が毎回同じ人物になっていた。
それでは職場全体のモラル向上に寄与しない。
担当のM氏は悩んでいた。
しかし、せっかく導入した仕組みを途中でやめてしまえば逆効果になる。
たとえ同一人物であっても表彰制度は継続したほうがいい。
その代わり、報奨金の総額は従来通りのまま、
新たに表彰項目を増やすことで軌道修正するようアドバイスした。
 昼食後の昼礼の実施も、当初の趣旨から離れていた。
昼礼は、午前中の作業の進捗を見て、午後からの仕事量と人員数、配置を調整し、
ムダな労働時間(=人件費)を出さないことが狙いであった。
しかし担当のO氏は、明日の業務(量)予定の報告に重点を置いていた。
間違いではないが、それでは本来の目的が果たせない。

 2009.03■図●物流改善の優先順位

 横展開は一日にして成らず
 それでも、一度決めたことは徹底してやるところに、E社の強みが見てとれた。
現場を担うメンバーたちの若さが、それを後押ししていた。
彼らは「何%コストが下がるか」「いくらの金額が削減できるか」ということよりも、
改善のスピードとその手応えに魅力を感じていた。
それが自信という大きな財産につながっていった。
 コスト面での改善成果は彼らの上司が責任を負えばいい。
もともと「他部署との連携」や「共同配送の検討」といったテーマは現場レベルでは対応できない。
対象範囲が予め決められている大企業型の改善活動には、その点で限界がある。
これを払拭するには大企業であっても、
やはりトップダウン型の改善を実施するしかないだろう。
 当面は次のステップである横展開が課題である。
我々NLFでは「物流現場はショールーム」という考え方を奨励している。
E社の関東工場は、まさにそれを地で行く現場だが、
他の4工場も同じレベルにあるというわけではない。
本社と地理的にも隔たりがあり、また人材の厚みにも劣る他工場に、
関東工場の改善力をどう移植していくか。
 関東工場でノウハウを蓄積した専任の改善スタッフを
一定期間現地に派遣するというだけでは、表面をなぞるだけで、
その現場自身の改善力を引き上げることにはならないだろう。
関東工場の若手メンバーを他工場に異動させるという案も、
荷役子会社は「転勤なし」の条件で入社しており、実現は困難であった。
 一過性の指導には限界がある。
スキルを移植する〝深さ〟は、やはり寝食を共にした数に比例する。
ノウハウは人にあり、チームワークによってそれが波及していく。
E社に限らず多く物流会社が現場力向上に力を入れようとするが、
一朝一夕にそれが実現するものではないことは肝に銘じておくべきだろう。