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事例で学ぶ現場改善:『不況下に受注を伸ばす中小物流会社』

中小物流会社の経営が正念場を迎えている。前年比三割減、五割減は当たり前。七割減という話さえ、今や珍しくはなくなっている。倒産も急増している。ところが、その影響から思わぬ追い風を受ける会社も出てきている。生き残りをかけた戦いに、もがき苦しみながら一筋の光明を見出した二社の取り組みを紹介する。

スポット中心の展開が裏目に
年商5億円、車両37台を保有する中小物流会社M社。
ご多分に漏れず昨年9月15日のリーマンショックで大打撃を受けた。
今年1月、2月の売上高は前年同月比で約30%のダウンである。
期末の3月には若干回復したものの、
4月に新年度入りすると再び低迷し始めた。
M社は首都圏を地盤に、重量物の輸配送を得意としている。
我々日本ロジファクトリー(NLF)との付き合いは既に10年近くに及ぶが、
これまでは至って健全な経営を維持してきた。
重量物という比較的競争の緩やかな荷物を対象として、
しかもスポット需要をメーンに据えるという明確な差別化戦略で、
値崩れを上手く避けてきた。
M社のK社長は弱冠30才で先代から事業を引き継いだ。
大変な勉強家である。
私の知る限り、外部セミナーへの参加や読書などに、
普通の経営者の2倍くらいの時間と労力をかけている。
その経営スタイルは若さに似合わず保守的で、
大きな冒険は避け、無借金経営を貫いてきた。
内部留保も厚かった。
ところが、この状況が一変したのである。
スポット中心の展開が仇となった。
物量が大きく減少したことで、これまでスポットで受託してきた業務を
荷主が内製化、あるいは一次元請けが自分で処理するようになってしまった。
スポット仕事は、料金面で無理な条件をのまされることが少ない反面、
物量が安定しない。
そのリスクがまともに顕在化してしまった。
冒険をせずに堅実経営を貫いていてきたという美徳も、
今のような状況下では、将来に向けた種まきをこれまで行なってこなかったという欠点に変わってしまう。
すべてが裏目に出た結果、
M社が10年以上をかけてコツコツと積み上げてきた内部留保は
見る見るうちに減少し、わずか6カ月で消滅してしまったのであった。
K社長から連絡を受けて、私が改めてM社を訪れたのは
リーマンショックから間もない昨年11月のことだった。
物量の急減は既に数字に表れていた。
日頃から笑顔を絶やさず誰からも好かれるK社長も、
さすがに人相が変わっていた。
社長に就任して以来、初めて深刻な経営危機に直面し、
心も身体も憔悴してしまっているようだった。
しかし、K社長の逆襲はここから始まった。
わずかに残った気力を振り絞って、この状況をいかに打開するか、
我々は徹底して話し合った。
まずは減車、借庫の解約、週休3日制の導入、役員報酬カット、給与カット、
さらには従業員の解雇に至るまで、
考え得る限りの聖域なきコストダウンを年内中にすべて実行に移した。
そして年が明けてからは、本格的に営業開拓に乗り出した。
M社がこれまでの業務を通じて培ったツテを辿って、
あるいは過去に交換した名刺を頼りに、K社長が自ら各社を訪問して回った。
我々からも大手3PLを紹介するなどしたが、
時節柄かなりの苦戦が予想された。
実際、営業活動の開始から1カ月経っても、ほとんど何の手応えもなかった。
それでもK社長は気力を振り絞って顧客訪問を続けた。
それから1カ月ほど過ぎたある日、K社長からメールが入った。
新規荷主と結ぶ取引契約書の内容を確認して欲しいというものであった。
私はメールを開くやいなや、返信もせずにK社長に直接電話を入れた。
聞けば、地道な営業活動の甲斐あって、下請け仕事ながらも、
ようやく仕事が獲れたという。
しかも月間1500万円強の売り上げが見込めるとのこと。
M社にとっては大型受注であった。
運賃こそ厳しいが、
M社に残った社員を食べさせて行くには十分な仕事量である。
信じられないような吉報に、私も思わず声をあげた。
 さらに詳細に話を聞くと、
その荷主は大手機械メーカーの輸送を一元管理している物流会社で、
以前にスポットの仕事を発注してくれたことがあったため、
とくに材料もないまま訪問したのだという。
その席でK社長は先方から
「今、Aエリアの輸送を依頼している物流会社(傭車先)の経営が危ない。
いざという時には、替わりの会社を探さなければならない」
という話を聞きつけた。
今回の大不況でM社は確かに深刻な打撃を被った。
しかし、前年比3割減という数字は、市場全体が総崩れとなっている現状では、
まだ軽症と言えるかもしれない。
実際、3割減どころか5割減、
自動車関連の荷物では7割減という話さえ出ている。
当然、倒産や廃業も急増している。
その仕事が生き残った会社に回ってきたのである。
今を何とか食い繋ぐことができれば、先に周りが弱って手を上げる。
しかも皮肉なことに、そうして舞い込んだ案件には
中身の良い仕事がかなり含まれている。
ただし、幸運は待っているだけではやってこない。
M社の場合は、K社長が地道な営業活動を続け、
アンテナを張り続けたことで、
起死回生の案件を呼び寄せることができたのである。

値下げ要請を断り主要荷主から撤退
もう一社、紹介しよう。年商約3億5000万円、
車両約20台という規模で、中国・四国地方を中心に、
住宅設備機器の輸配送と保管、
そしてドライバー派遣などを行っているS社である。
S社はドライバー経験者を採用しない方針を採っている。
他社でドライバー経験があると、
「ドライバーの仕事とはこんなものだ」
という思い込みと癖がついてしまう。
その結果、納品先での挨拶もままならなくなる。
そこで、素人を採用して、
S社のカラーに合ったドライバーに一から育て上げることで、
他社と差別化しようという考えだ。
我々NLFが提唱する〝物流業はサービス業である〟というメッセージは、
S社のT社長の信念でもある。
事実、ドライバー教育には力を注ぎ、
高いレベルの顧客満足度によって荷主を維持してきた。
ところが先述のM社と同様に昨年9月以降は、
経営環境が大きく変わってしまった。
その前から姉歯事件をきっかけに国内の住宅着工数が低迷していたところを、
世界同時不況に見舞われ、
M社がメーンの荷物とする住設機器の荷動きがピタリと止まってしまった。
まずは大幅な減車である。
それまで車両台数20台のうち14台を住設関連に充てていたが、
荷主3社から計7台の台数削減を迫られた。
そのうえで残る車両に対して、5%〜10%の幅で値下げを要請された。
いずれもS社を育ててくれた長年の荷主ではあったが、
唐突で、あまりに過酷な要請に、
いつもは冷静なT社長も感情的にならざるを得なかった。
うち10%の値下げを要請してきた荷主に対しては
全面撤退を申し出たのであった。
さらに惨事は続く。
ドライバー派遣先の8社のうち5社が契約の打ち切りを通達してきたのである。
荷主、物流企業ともヒトが余り出したためである。
S社が派遣事業を開始してから5年目を迎え、
ようやく軌道に乗りかけたところであった。
この派遣事業は我々NLFがS社に提案したものであり、
契約の打ち切りは我々にとっても大きな衝撃であった。
しかし、T社長は決して慌てることはなかった。
派遣事業と共に展開していたフィールドサービス事業、
そして路線会社の下請けとして運営している
傭車仕事が思ったほど減らなかったことが、
冷静を保つうえでの支えとなっていた。
一口に物量減少といっても、その詳細をよく観察すると、
荷動きが完全に止まってしまった会社と、
比較的堅調な会社でハッキリと市場は二分されてきている。
営業力と実績を兼ね備えた3PLや大手路線会社の物量は、
減ったといってもせいぜい1割〜2割減。大幅に落ち込んだわけではない。
中小の物流会社でも食品スーパーや医療品関係をメーンにしているところの物量は減っていない。
さらには同じ業界の物流でも、
どの会社の業務を受託しているかということが非常に重要になってきている。
つまり勝ち負けがハッキリしてきたのである。
その点でS社にはまだ希望があった。
それまで売上高の約50%を占めていた住設関連の物流は大幅に縮小した。
しかし、それまで売り上げ全体の10%ほどしかなかった大手路線会社の傭車仕事が急速に増えたのだ。
その結果、売上高に占める比率が住設関連と逆転してしまった。

2009.06■図●カスタマーカード

路線会社の下請け仕事が急増
 大手路線会社からの荷物が増えたのは次のような理由だった。
現在、物量は確保できている路線会社であっても、
運賃単価の下落から逃れられているわけではない。
荷主からの値下げ要請は厳しく、
自社で走れば採算の取れない荷物が増えている。
その結果、傭車に頼ることになる。
しかし、個建て運賃で、物量の変動に対応できる下請けは限られている。
現在の相場レベルでも踏ん張れる下請け、
ドライバーを維持できる運送会社は重宝される。
それがS社であった。
今まで住設関連に割り当てていた車両を路線業務に振り替えたが、
それでも車両が足らず、さらに2台を増車するほど、急に荷物が集まった。
運賃水準はもちろん厳しい。
しかし、個建て運賃であるため、物量が増えるほど収益性は改善する。
それを若手中心の20代ドライバーが回す。
その若さを武器に車両を1日に3回転以上させることもある。
未経験者を採用し、地道にドライバーを育ててきたことが功を奏した格好だ。
しかしT社長は、傭車の売上比率が増加することを望ましいとは考えていない。
「これも食べていくための一時的な対応だと思っています」
とあくまで冷静である。
とりあえず、今日を生き伸びる。
現在のような非常時には、それも正攻法と言えるのかもしれない。