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第78回 事例で学ぶ現場改善:『横乗り調査で現場の実態を把握』

運賃水準や積載率などのデータだけで判断すれば痛い目にあう。そう考えて配送トラックの助手席に同乗し、現場を把握する“横乗り”調査を覚悟した。全く予想していなかった事実が次々に明らかになっていく。食品卸Y社の配送費削減プロジェクトでのことだった。

データだけでは見えない
食品卸Y社は、年商約100億円の業務用食品卸だ。
学校給食や社員食堂、給食会社などを主たる顧客として、北関東・東北地区に6つの事業所を構えている。
我々日本ロジファクトリー(NLF)は、以前にY社の系列会社の配送費削減をサポートしたことがあった。今回はそれをY社本体でやりたいという。
一般に食品卸は地域密着型の傾向が強く、同じ会社であっても事業所によって、顧客構成はもちろん、
追加注文に対する対処方法まで全てが違う。担当の営業マンや事業所長の考えや方針が、その事業所のサービスレベルに大きく影響する。そこを上から一律で押しつけても無理が生じる。
そこで今回はまず、Y社の営業所のなかでも最も競争の激しいA事業所を対象として、配送費を見直すこととなった。
Y社の納品には、①営業マンによる配送、②配送専用の自社スタッフによる配送、③外注委託先による配送、の3つの配送パターンがあった。
我々は既成概念を捨て、まずはそれぞれの配送の実態を把握しようと考えた。実績データを基にして、配送コースの重複やムダ、各車両の積載量をチェックすることはできる。
しかし、データだけでは現場の実情は見えてこない。そこで個人的には本当に久しぶりとなる“横乗り”調査を行うことにした。配送トラックの助手席に乗り込んで現場を確認するのである。
もちろん、見ているだけでなく積み込みや積み降ろし作業などは実際に手伝う。対象となったのは、A事業所に隣接し配送エリアの重複しているB事業所の2つのルートを合わせた計15ルート。月曜から金曜まで毎日1ルートずつ調査しても全部終えるまでに3週間かかる。調査期間中は毎朝3時の起床を強いられる。
筆者のなまった身体にはかなりきついコンサルティングであった。横乗り調査はA事業所の自社配送分から着手した。
A事業所の現場では毎朝5時30分から自社配送車両の積み込み作業を開始する。コース別に各営業マンや配送専任スタッフが納品伝票と照合しながら、ドライ、冷蔵、冷凍品とピッキングしていき、検品を行って車両に積み込む。最後に追加注文の有無を確認する。第一便の出発は7時過ぎであった。
我々にとって、配送の前工程となる積み込み作業は非常に重要なポイントの1つである。入念に視察を行った結果、営業マンによる自社配送にも、方法が2つあることが分かった。
ベテラン社員の多くは午前中に配送を終わらせて、午後は営業だけに充てていた。それに対して新人や一般社員は、時間指定を優先させて、その合間に営業するというスタイルであった。データだけではうかがい知れない、こうした細部に大きな宝の山は隠されている。
同乗した配送員との道すがらの会話、納品先に到着した後の荷出しの手伝い、納品時の立ち会いなど、至って単純な作業を通して、改善のヒントを得ることが横乗り調査の目的だ。これによって、筆者は以下の3つの事実を突き止めることができた。

①自社の「強み」、他社との差別化要因を社員たちが共有できていない
②自分の担当ではない配送、納品業務に対するモチベーションがない
③「時間指定」の定義があいまいであるために、配送専用員を活かしきれていない

 ①自社の強みに関して、同乗した社員たちに尋ねたところ、「即納できること」、「値段が安いこと」、「お客様とのコミュニケーション」、「キャンペーンパンフレット」など、全員が全く違うことを挙げた。
業界の中堅企業であるY社、その最激戦区を担当するA事業所と言っても、現場は個人商店の集まりであった。
そのため②自分が営業を担当していない取引先の納品作業には気が入らない。会社として、事業所としての組織力が営業に活かされていないということだ。

2009.07■図●①提案ダイジェスト

時間指定の中身を整理する
 ③「時間指定」の定義があいまいというのは、Y社以外にも見られる現象だ。
その時間指定は「時間帯」という幅をどれだけ持っているのか、いないのか。事前に遅れることを報告すれば許容の幅は広がるのか。絶対に順守する必要があるのか。そもそも時間指定がその取引先の納品条件に上がっているのはなぜか。納品先から具体的に要請を受けたのか。それともY社の納品時間が慣習化したものなのか。
契約を決めた時点の営業マンは分かっていても、その後、別の担当者に引き継がれていく間に元の理由が分からなくなってしまう。結果として十把一絡げに「時間指定」という条件だけが残る。
もちろん時間指定は配送サービスの重要なテーマであり、また今日の顧客がそれを強く求める傾向にあるのは確かだ。
しかし、その中身を整理して対応しなければ、いたずらに車両台数ばかり増やすことになる。時間指定先の納品後の配送効率は著しく低下してしまう。せっかく配送専用員を社内に置いているのに、それを追加発注用の緊急納品程度にしか利用できていないのも、同じ理由からだった。
A社の商売では営業マンが配送することのメリットは小さくない。信頼感から納品先の食品庫の棚管理を任せられる。あるいは、発注担当者のコック長と話ができるようになり、注文につながれば非効率な納品にも意味がある。
もともとA社の扱う食品は厳密な温度帯管理が必要で、きめ細かな取り扱いが求められる。冷凍食品であれば車両に積み込む前に、庫内の温度を一定のレベルまで下げておく必要がある。その後もドアの開閉のたびに温度が上がってしまうため、常に温度をチェックしなければならない。
また凍った食品は、通常考えられている以上に脆い。積み重ね方が雑だったり乱暴に扱えば、中身が割れたり、内袋が破れたりする。当然、商品にはならない。
さらには賞味期限の読み上げによる照合、納品先での先入れ先出しによる棚納品など、配送効率を求める物流会社に任せるには不向きな点が多い。
無理にアウトソーシングを進めれば対応できないドライバーが出てくる。そうかといって、きめ細かな対応が求められるわけでも、特別に取り扱いの難しい商品を扱っているわけでもない納品先に対しても、全て営業マンで処理するというのはあまりにも非効率であった。
次にA事業所とエリアが重複しているB事業所の2つのルートの横乗りを行なった。1つのルートは明らかに物量が足らず、集約が必要であった。
もう1つのルートは反対にキャパオーバーしていた。走行距離が他のルートの平均値の2倍で多くの残業時間も発生していた。A事業所の配送ルート、納品先との重複もかなり発生していた。各事業所が独自に配車を行ない、配送ルートを設定しているためだった。この点については後に、A事業所とB事業所の配車業務を一元化することで車両台数を2台減車することができた。
また配送専用員の車両回転数を1・5回転から2・5回転へ引き上げると同時に、営業マンの配送負担を減らし、車両サイズを従来の2トンから1トンに変更して車両の取り回しを軽減した。横乗り調査は第二段階に進んだ。
今度は協力物流会社N社に委託している配送ルートである。荷物の積み込み作業は、自社配送よりも1時間前倒しの朝4時30分に開始する。車両の出発も自社配送より一時間早い。
自社分と外注分で積み込み時間、車両出発時間を1時間ずらすことで出荷スペースを有効に活用し、また納品時間を調整していたのだ。
また外注先の車両は納品後にはA事業所に戻らずに、N社の車庫に直帰する。そのため我々の横乗り調査も、発着をN社の車庫から行なうことにした。
もっとも我々のような外部のコンサルタントが横乗り調査することをN社が快く思うわけはない。
荷主からの要請であるため断るわけにもいかないが、煙たく感じていたはずだ。
作業を手伝うにも、あまり関与し過ぎると足手まといとなってしまう。それだけ気配りが必要であった。
実際、優秀なプロドライバーは事前準備から段取りができあがっている。荷台のどこに何を積んでいるか、はっきりと頭に入っている。
商品の送り出しを手伝う我々に対する支持も「そこの商品をいくつ出してください」と明確だ。それだけに我々が荷物の積み込みや積み降ろし、商品の取り間違いをすれば直ちに気付く。

「今日で私、クビになるんです」
同乗したドライバーたちのキャラクターは様々だった。その1人、既に還暦を迎えているベテランドライバーは、口うるさいために仲間たちから少し煙たがられている人物だった。荷主に対しても不平、不満、グチを言うため、A事業所からの評価も決して高くない。
しかし、実際に横乗りして、その技術と仕事ぶりを目にした私は舌を巻いた。例えば、そのベテランドライバーは自分で工夫して精糖などの紙袋商品に毛布を巻きつけていた。聞けば2つの理由があるという。
1つは他の箱物商品が荷崩れして紙袋商品を破損させないため。もう1つは、マイナス15℃の冷凍室で精糖を運ぶことで、中身が凍ってしまわないようにする、という理由であった。
精糖は一定以上に温度が上がらなければ問題のない商品だ。そのため冷蔵輸送で構わないのだが、このドライバーが運転する車両の定温設備は冷凍室と冷蔵室の二層にはなっていないため、冷凍庫に積んでいる。
精糖が凍っても品質が劣化するわけではないが、納品先での使用に配慮したのだ。まさに職人の仕事であった。
「今日で会社を辞めるんです」というドライバーにも偶然、乗り合わせた。妻と娘2人、そして愛犬2匹を扶養家族に抱える48歳のドライバーだった。その理由を尋ねたところ、クビになるという。出発前のアルコールチェッカーに5回も引っかかったのだ。
しかし、呑んでから出社してきたわけではない。朝が早いため前の日の晩酌が抜けないのだ。酒量も二合に満たない程度であった。そのためだろう。
私は今回の調査で、この協力物流会社に務める七人のドライバーに同乗したが、うち5人は酒を飲む習慣がない。あるいは酒を止めたというのである。
食品の物流がいかに高度なスキルを必要とし、またそれを支えるドライバーの現場がいかに過酷な状態にあるか、我々は改めて思い知らされた。
これもまた過度な時間指定が1つの理由となっている。実際、時間指定の多いドライバーはまともに昼食をとるヒマがない。ハンドルを握りながら、おにぎりを頬張る程度である。通称“カミカミ”と呼ばれる。
もちろん会社から休憩時間を取ることを禁じられているわけではない。納品時間との調整で昼食をとるタイミングを逸してしまうのだ。
また何と言っても朝が早いため、早く帰りたいと言う気持ちも強い。N社の横乗り調査に入る前に、我々はA事業所から運賃額だけを聞かされていた。安くはないが高過ぎるわけでもないというレベルであった。
しかし現場の実態を目の当たりにして、N社のドライバーの多くはY社の業務に献身的に取り組んでおり、なおかつ相当に高度な業務をこなしていることに驚かざるを得なかった。ところが、これを経営レベルで見ると、A事業所の支払い物流費に対して採算が合っているのは、委託している5コース中、2コースのみであり、他3つのコースはコスト割れしていた。それだけ積載率が悪かった。
ただし、その原因はN社の仕事ぶりや運賃相場ではなく、Y社自身にあった。A事業所では繁忙期の物量をベースにして、外注の車両数を設定した。しかも、その運賃契約は月額の貸切であった。また配送コースも当初設定したままで、物量や納品条件の変化に応じた見直しができていなかった。
せっかくレベルの高い協力物流会社をパートナーにしながらも、A事業所はその力を活かし切れていなかったのである。
もちろんN社が完璧だったわけではなない。あいさつ、荷扱いが不十分なドライバーも中にはいた。積載率についてもコース別の物量はN社側で分かっているのだから何らかの提案があっても良かった。
しかし、問題は車両台数が減らされる可能性の高い提案を協力物流会社に期待することのほうにある。
結局のところ、N社の七台の車両の横乗りして分かったことは、大きく2つである。
1つは、N社は支払い運賃に見合う、きめ細かな納品に対応できているということ。その理由は同社が食品の中でも取り扱いの難しいアイスクリームの配送を別の仕事で請け負ってきたことが背景になっていた。
2つ目は日々、配車を行なわなければ大半の日数を採算割れにしてしまうことだ。そして我々はN社の横乗り調査の途中に、Y社以外からN社が受託している配送車両と何度も道ですれ違っていた。そこに改善のチャンスが隠されていると我々は考えた。

2009.07■図●②車両別実査報告イメージ

共同配送への移行で運賃を2割削減
 これまでN社には比較的扱いの容易な商材や納品先が充てられていた。
しかしN社はそれ以上の実力を備えている。委託する商材を拡大する余地があった。そこでチャーター便のルートをいったん解体し、N社が請け負っている他の食品関連会社と積み合わせレベルの共同配送を行ったのである。
Y社がN社の委託していた2つのルートを、この新たな共同配送インフラに移行することで、約20%のコストダウンが実現したのであった。
こうして3週間におよぶ横乗り調査は終了した。正直なところドライバー出身の私にとっても、久しぶりで慣れない作業による筋肉痛や冷凍庫を頻繁に出入りすることからくる体力の消耗などは、骨が折れ、途中で音を上げそうになった。
しかし、現場のみんなは毎日この作業に従事し、それで生計を立てているのである。我々は日頃、輸送力や配送インフラ、サービス品質などと軽々しく口にするが、その全ては現場におけるドライバー一人ひとりのスキルと汗にかかっている。そのことを改めて痛感させられたのだった。