Top > 雑誌寄稿 > 第79回 事例で学ぶ物流改善:『物流子会社の存続可否を判断する』

第79回 事例で学ぶ物流改善:『物流子会社の存続可否を判断する』

N社はグループ内に物流子会社を六つも抱えていた。その一つ、T社を存続させるべきかどうかについて、外部の物流専門家の立場から検証することを依頼された。親会社は恐らく最初から答えを持っていた。その裏付けが欲しかったのだろう。T社の実力を評価していくうち、そのことがわかってきた。
 

人件費は3割高、運賃は2倍
メーカーN社はグループ売上高が1兆円近くに上る大企業である。
他の日本の大手メーカーと同様にN社もかつては〝総合化〟を旗印に事業の多角化と分社化を進めた時期があった。
その影響から現在は百数十社の子会社・関連会社を派生させるに至っている。物流子会社だけでもグループ内に六社ある。
そのうちの1社、グループ内の物流子会社としては3番目の売上規模を持つT社について、今後も存続させるべきなのかどうなのか、我々日本ロジファクトリー(NLF)が中立的な立場から検証することになった。
Nグループほどの売上規模ともなれば、各事業ユニットがそれぞれ物流子会社を持っていること自体は珍しくはない。
また物流子会社の「存続検証」は90年代のバブル崩壊以降、常に議論されてきたテーマであり、我々NLFには土地勘のある分野である。
しかし、初めてT社の社名と業務内容を聞かされた時には、「こんな会社があったのか」と、正直驚いてしまった。それほどT社は一般的な知名度の低い、恐らく物流業界内部でも、あまり知られてはいないであろう存在だった。
T社は親会社の国内七カ所の工場に張り付くかたちで全国に拠点を展開していた。売上高に占める親会社向け業務の比率は90%超。倉庫は借庫、トラックは傭車で、資産(アセット)は所有していない。
その主たる業務は、親会社への請求と協力会社への支払い、いわゆる〝受け払い〟であった。
我々はまず、①コスト競争力、②物流品質、③差別化要因、④外販比率、⑤サービス力、⑥改善提案力という6つの視点からT社の市場性を検証した。
平たく言えば、T社に物流会社としてひとり立ちできる力があるかどうかを評価したのである。このうち、①コスト競争力には、バツの判定を下さざるを得なかった。
T社の一人当たりの従業員給与は、親会社の賃金体系をほぼ踏襲していたため、一般の物流会社平均の1・27倍と、3割近く高かった。
しかも受払手数料として平均で約20%のマージンを徴収していた。その結果、東京〜大阪間の10トン車の幹線輸送運賃が片道16万円にも達していた。現在の相場の倍の水準である。
以前は親会社の営業部長を務めていたT社の社長は、「T社の運賃が相場の倍だと当時の私が知っていたら、T社に業務を委託などしなかっただろう」と皮肉な感想をもらしていた。
しかし、そのお陰でT社には分厚い内部留保が蓄えられてもいたのだった。
②物流品質にも合格点は付けられなかった。
一般にメーカー系物流子会社の物流品質は高く、過剰品質の傾向さえあるほどだ。
T社の場合も、今回の検証では現場で物流品質を直接評価するところまではできなかったが、協力会社に対する品質管理は実施されていた。
しかし、その管理方法は、商品事故や誤納率などの数値の算出にとどまっていた。指標に基づいた具体的な改善などは行なわれていなかった。丸投げと言われても仕方のない状態であった。
③差別化要因としては、親会社の仕事で培った生産管理技術や輸出業務の経験に基づく「梱包設計」が挙げられた。
しかし他社への展開実績がなかったため、そのノウハウが市場で通用するのかを客観的に評価できてはいなかった。
後にエンジニアリング力に定評のある梱包会社から提案をもらったところ、T社の約6割の料金で、かつ約1週間短いリードタイムで同じレベルのサービスが受けられることが分かった。
④外販比率は前述の通りだ。50%近い外販比率を持つ1部のメーカー系物流会社を、〝物流別会社〟と呼ぶとすれば、T社は〝完全子会社〟だった。
⑤サービス力についても高い点は与えられなかった。
基本業務である「受け払い」のほかに、特徴のあるサービスが見あたらない。親会社の要望に対して融通を効かせている点は評価できた。他にも親会社との密接な関係によって培ったノウハウが散見できるものの、それを顕在化させて、サービス商品として開発しようという動きがなかった。
⑥改善提案力についても同じで、親会社が運営している工場内物流や調達物流を内製化するといった努力をしていない。
良かれ悪しかれ、親会社から見れば忠誠心の高いイエスマンであったのだ。

2009.08■図●「子会社」ではなく「別会社」であることの重要性

改善提案は最大の防御
このようなタイプの物流会社は〝守り〟に弱い。実際、今回我々が検証に入った時点で既に、全国7工場のうち2工場は牙城を崩されつつあった。
現地の物流会社や有力3PLが積極的な提案営業で各工場長の信頼を勝ち取り、T社を経由しない直接契約を一部成功させていたのだ。
攻撃(提案)は最大の防御でもある。提案内容がいつもピタリとはまるとは限らない。
しかし、情報提供や訪問、改善提案を常に行うことで守りは堅くなる。それを怠るために、子会社の隙を虎視眈々と狙っている他のライバルたちに仕事を持っていかれてしまうのである。
⑥人材力についても課題があった。
知名度の高いNグループの一員であるT社が中途採用の募集をかければ、求職者は大きな関心を持つ。
現在のような雇用環境であればなおさらだ。
しかし、T社の中途採用者の待遇と親会社からの出向・転籍組には大きな開きがある。その事実を確認すると求職者の関心も失せてしまう。
しかも、T社のように全国展開している場合、求職者は転勤を覚悟しなければならない。メーカーでは当然のことでも、物流業界はいまだに地域密着が根強い。経験、実績のある優秀な物流マンほど転勤には抵抗がある、というのが筆者の印象だ。
T社では、こうしたミスマッチが慢性化して管理職人材の補充ができていなかった。このようにプロジェクトが進んでいくにつれて、T社の存続の目は一つひとつ消えていった。
N社の上層部および経営企画部門は恐らくプロジェクトに入る前から、このことを予想していたに違いない。期待してさえいたはずだ。我々NLFを起用したのは自分たちの判断に対して、外部の専門家のお墨付きが欲しかったからなのだろう。
このT社も含め物流子会社の多くは日本の高度経済成長期に設立されている。その目的は、輸送力の安定確保のほか、大企業の終身雇用制を維持するための人材の受け皿としての意味合いが強かった。
しかし、その後、日本経済がゼロ成長に転じ、聖域なきコストダウンを余儀なくされるなか、物流子会社に支払っている業務委託費にもメスを入れざるを得なくなっている。
昨年のリーマンショック以降、その傾向は一段と強まっている。親会社の上層部としてもOBたちが在籍するグループ会社なのだから無条件に使えとは言えない状況だ。
これまで我々NLFが手がけた改善事例においても、物流子会社を経由せずに、資本関係のない3PLを新たにパートナーに起用することで、コストダウンが実現し、その後の運営も順調だというケースは少なくない。そうしたケースでは、物流子会社は存在意義を問われてしまうことになる。
物流子会社自身の事業戦略としては、その〝初期〟には外販比率の向上による自立が謳われていた。それが〝中期〟には3PLへの転換に移った。そして現在は3PLといってもグループ内の物流を包括的に受託し統合管理する足元固めがトレンドになっている。
しかし、今問題にされているのは戦略以前の物流子会社のコスト競争力である。今回のプロジェクトが終了して4カ月ほど経った後、N社は結局、T社を本社物流部門に吸収することを決めた。
一時は、大手物流会社への売却も検討されたが、市況の落ち込みと、T社の企業価値に対する評価の低さから成立はしなかった。
日本と違い欧米では、物流子会社が例外的にしか存在しないと聞く。日本の物流子会社は高度経済成長と終身雇用という日本固有の事業環境を前提とした特定目的会社ともいえる。
その目的が失われた場合には〝解散〟という選択を検討するのは当然だ。時代が大きく変化した今、多くの親会社がその問題と直面している。