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第82回 事例で学ぶ現場改善:『実践から学んだコンペ運営の勘所』

物流コンペによるコストダウンはとっつきやすい反面、その扱いにはデリケートさが求められる。準備が不十分な状態でコンペを実施すれば目的を達成できないだけでなく、コンペに落選した多くの物流会社に不信感を抱かれ、後々に大きな禍根を残す。コンサルタントとして数多くのコンペを経験してきた筆者が運営の勘所を解説する

コンペの種類と進め方
物流コンペはその目的から大きく二つに分類できる。
コスト削減を至上命題とするタイプと、荷主企業の事業展開を支える物流体制に対する提案を期待するタイプである。
この2つでは、コンペに参加する物流会社の数が違う。コスト削減至上型のコンペは通常、候補となる物流会社の数が3〜4社にとどまる。これが提案期待型になると5〜7社に増える。ちなみに8社以上集めるのは、やめておいたほうが賢明だ。運営を仕切る事務局の手間がかかり過ぎる。それだけ間接費がかさんでしまう。
候補の絞り込みも難しくなる。目移りして社内の意見がまとまらずに、決定が遅れてしまうという弊害も出てくる。
コンペの取り組み方にも2種類がある。コンペの実施が社内で決定され、プロジェクトチームを組織して、データ整備や物流会社のリストアップなどを行う通常型と、現場サイドでの値下げ交渉がコンペに発展していく「相見積り派生型」である。
後者ではいわゆる“あて馬”にされる候補やダミーの見積書が登場することもある。いくらコスト削減が大事だと言っても実施企業のモラルが問われるところだ。
さらにはコンペの進め方にも2種類ある。エリア毎に選考していく「段階型」と、3PLへの一括委託を前提に複数エリアの選考を一気に実施する「期間集中型」である。
段階型は在庫型センターを多く抱え、移管作業の負担の大きい場合。期間集中型は、在庫を全国1、2カ所に集約し、地方には通過型センターを置く体制で、移管が比較的容易な場合、もしくはボリュームディスカウントを狙いに行く場合に多く見られる。
どんな商売でも同じなのだろうが、荷主企業と物流会社の間には常に“温度差”がある。コンペではそれが顕著に表れる。予め温度差があることを認識し、その差をできる限り埋めておくことでコンペの進行はスムーズになる。

言葉の壁
荷主が社内で使用している物流用語と物流会社が使用している用語は必ずしも同じではない。
例えば「ピパ(PIPA)」と言われて何のことが分かるだろうか。ある荷主企業では、ピッキングとパッキングのことを合わせてそう表現していた。
質問しなければ何のことだかまず分からない。ピパは極端な例だとしても、“方言”の違いが不要な誤解や混乱を招くことは多い。
荷主が「仕入物流」と表現しているものが、調達物流と同じ意味であることを物流会社側の担当者が理解できていなかったり、また荷主業界特有の用語を知らないことなど珍しくはない。それを物流会社の不勉強だと切り捨ててしまうのは得策とはいえない。
専門用語はできるだけ一般用語に置き換える、あるいは説明を加える等の配慮が荷主企業側にもあっていい。

時間軸の壁
一般に物流事業者は、書類提出や質問、要望に対する回答のスピードが遅い。
同じ提案型サービスでも、情報システムや損害保険などの業界では、遅くても7日〜10日後には返答することが暗黙のルールとなっている。
これが物流業界では1カ月後等のんびりした対応が多く見受けられる。物流会社に改善を促したいところだが、焦れていても始まらない。そのスピードを前提にコンペのスケジュールを立てておくしかない。

情報交換の壁
コンペの場は物流企業による通常の訪問営業とは違い、要望や目的、期日など、多くの話をしなければならないのは荷主のほうである。それを勘違いした物流会社は、自社のPRに時間を割き過ぎて、荷主の要望を理解するための質問と確認がおろそかになってしまう。
「何でもできます」とPRする物流会社も多い。できない業務があることで、受託を逃したり、受託範囲が狭まる可能性を危惧してのことだろうが、安請け合いは逆に何もできない会社だという印象を荷主に与えてしまうことにある。
結果的には何の仕事も獲れない“あぶ蜂取らず”となる場合が多い。コンペの主役はあくまで荷主だ。そのことを物流会社と荷主の双方がよく認識しておく必要がある。

2009.11■図①●勝ち残る物流会社の7つの共通点

コンペの失敗とは何か
コンペの成否はその準備段階で8割がた決まってしまう。準備が不十分なコンペのほとんどは失敗に終わる。
コンペの失敗とは具体的には以下のような結果を意味している。
●コストが下がらなかった(下がってもほんのわずかであった)
●コストは下がったが業務品質が悪くなった
●稼動から三カ月〜六カ月後に値上げの要請があり、他の選択肢がなく受け入れざるを得なくなった。
●料金の安さに物流会社がギブアップした
反対に成功と呼べるコンペには、以下のような共通点がある。

①必要なデータを荷主側が用意している

②機密保持契約を締結した上で物流データ、将来計画などの情報開示を積極的に行なっている

③コンペに参加する物流会社のリストアップが充実している

候補企業をリストアップする力は荷主企業によって大きく異なる。それがコンペの結果に大きく影響する。
荷主企業の多くは、集めた物流会社を“削る”方法は知っていても、“集める”方法については驚くほど何も知らない。
メディアによく名前の挙がるブランド企業にアプローチするほかは、ホームページで情報を検索する程度の情報収集しかしていない荷主が多く見受けられる。それでは成功は約束されない。
口コミや現場からの情報、同業他社の委託先情報、外部の専門家による情報提供、さらには社内政治によるコンペのどんでん返しを避けるための経営幹部からの推薦企業情報などを事前に整理しておく必要がある。

④コンペ専任事務局を設置する
物流管理部門などに日常業務との兼務でコンペを運営させるのは無理がある。専任事務局が必要だ。
その担当者を兼務にしなければならない場合には、コンペの説明やデータ開示後の問合せをメールに限定するといったルールを設けて、運営業務の負担を軽減する措置をとらないとコンペの進行に支障を来たす。

⑤現場視察を欠かさない
物流会社にとって “現場はショールーム”だ。最終審査に残った物流会社、あるいは内定した物流会社に対する契約前の現場視察は絶対条件だ。
プレゼンテーションの内容や見積りコスト、窓口の対応は申し分なくても、現場視察で予想もしていなかった現実を突き付けられる場合は少なくない。
荷主が訪問しても、現場スタッフが挨拶ひとつしない。庫内はパレットが散在して、整理・整頓ができていない。
これから使用するはずの倉庫スペースが他社の荷物で埋まっていて、稼動まで間もないのに移管の折り合いさえついていない、という危険なケースにも出くわしたことがある。

⑥現場責任者を確認する
コンペに出てくる営業担当者だけでなく、稼働後に現場を管理することになる実務責任者の話を聞くことも欠かせない。
最近ではコンペに実務責任者を同席させる物流会社も増えてきたが、荷主の質問に対する回答は全て営業担当からという場合が多い。それでは業務の詳細の確認や検証が不十分になってしまう。そのような場合は「○○所長にお聞きしたいのですが‥‥」と直接指名して質問すべきだ。

Win─Winはきれい事か?
いくらパートナーだといっても仕事を出す側ともらう側、お金を支払う側と受け取る側という関係にある以上、荷主と物流会社の「Win─Win」など、きれい事に聞こえるかも知れない。
それでも、荷主が物流会社の立場を理解することで、双方がメリットを享受する関係は作れる。そのポイントを紹介しよう。

1)全体最適の視点を持つ
荷主が部分最適から脱皮できない限り結局、コンペは料金叩きで終わってしまう。全体最適の視点でコンペを実施することで、初めて意味のある提案が引き出せる。改善や物流の“シクミ”を変えてトータルコストを削減することが期待できる。

2)提案範囲を明確にする
RFPではコンペを開催する目的・主旨を明確して、消耗品の負担や使用するWMSなどの基本条件を、できる限り明確にする。
そのことが物流会社側で自由に提案することのできる範囲を明確にすることにもなり、良い提案を引き出すことにつながる。

3)対象領域を段階的に拡大する
販売物流から始めたコンペを、調達、回収、リサイクルといったステップで段階的に拡大するという進め方は案外有効だ。
販売物流のコンペでは次点で惜しくも落選した優良物流会社が、調達物流で敗者復活を果たしたりする。
荷主企業の販売物流まで理解していることが調達物流の運営にもプラスになる。

4)契約期間の柔軟な対応
契約期間は年々、短くなる傾向になる。買い手市場になっているためだ。
その荷主のために大型の設備投資を行なった場合でも、契約期間は施設の償却年数の半分がせいぜいだ。
そのため物流会社では特定荷主のための設備投資を避けるようになってきた。そのかわり、複数荷主を獲得するために先行投資に踏み切る物流会社が増えている。専用設備を必要とする荷主は、契約期間に柔軟性を持たせる必要があるだろう。
リスクを避けようとするあまり契約期間を過度に短くすれば、有望なパートナーを逃してしまうことになる。

5)選考結果のフィードバック
コンペの結果、既存の協力物流会社が勝ち残る割合は、筆者の経験からすると4割程度だ。6割は新規事業者に切り替わる。
その移行において、既存事業者との関係を必要以上に悪くすることは避けなければならない。
既存事業者以外でも落選した物流会社に、選考結果とその理由を通知することは、最低限守ってもらいたいマナーだ。
荷主の次世代の担当者たちが物流会社との関係で困ることがないように先輩としての配慮が欲しい。またそうしたフィードバックが物流会社にとっては課題克服のための重要な経営情報になる。

2009.11■図②●物流コンペティション最終結果のお知らせ

6)移行後の定例会議の開催
新規取引の場合には、稼動3カ月以内にたいてい“こんなはずではなかった”という問題が双方に発生するものだ。それを修正するために、運営が落ち着くまでの間は実務責任者による定期会が必要になる。
月1回、テーマによっては週1回のペースで現状について連絡し、課題を整理して改善策を検討することを事前に予定しておく。

7)イレギュラー業務とその頻度の公開
イレギュラー業務は、コストを大きく狂わせる。
「最も安価な料金を提示した会社と取引を開始したが数カ月も経たないうちに値上げの話が来た」という荷主に頼まれ、その実態を調べてみたところ、原因は荷主側にあったということは多い。
イレギュラー業務の有無とその量がどれくらいあるのかを荷主が事前に伝えていなかったのである。それを確認しなかった物流会社側にも落ち度はあるが、コストアップを恐れ、イレギュラー業務をわざと開示しない悪質な荷主もしばしば見受けられる。
当然ながら、稼働後に物流会社と揉めることになる。結果としてコストは下がらない。

赤字で続くわけがない
コンペで提示されたコストはあくまでもシミュレーションに過ぎない。実際にコストが下がったわけではない。
提示されたコストで運営を維持し、品質を低下させないようにすることは物流会社の義務であると同時に、荷主の責任でもある。
日本で3PLの本格的なコンペが実施されるようになって10年以上が経過している。物流会社は例え受託までこぎ着けても、その運営次第では赤字を強いられてしまうことを既に学習している。
その結果、物量だけが魅力で買い叩かれることが明らかな案件は避けるようになっている。全国対応の可能な大手3PLはとくにその傾向が強い。そのため現状では、オーナー系の地場物流会社がコスト面では優位に立っている。
ただし、その業務品質は玉石混淆だ。いくらコストが下がっても、品質が致命的に悪化してしまえば、
物流管理担当者はその責任を逃れられない。赤字続きでバンザイされる恐れもある。
コンペを安易に考えてしまうと、その代償は予想以上に高くつくことは肝に銘じて欲しい。