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第83回 事例で学ぶ現場改善:『外資系ITベンダーの日本市場参入』

回はいつもと違って物流現場の改善ではなく、外資系ITベンダーによる日本のロジスティクス市場への参入を、コンサルタントとしてサポートした事例を紹介したい。物流とは異なるカルチャー、異なる人材とのプロジェクトは、筆者に多くの気付きを与えてくれるものだった。

有力ITベンダーが物流分野に展開
外資系IT企業のL社は東アジアに本社を置くパッケージベンダーだ。
ある分野のパッケージソフトでは世界シェア90%を誇る有力企業で、世界12カ国に進出し事業を展開している。
しかし、日本市場には参入してからまだ数年しか経っていない段階で、とりわけロジスティクス分野への展開には手を焼いていた。
我々日本ロジファクトリー(NLF)が、その手助けをすることになった。L社の営業やITコンサルタントはヘッドハンティングによって集められた混成部隊であったが、良好なチームワークとパワフルな機動力を発揮していた。
現地法人とはいえ、本社からの権限委譲が進んでいた。強みとする特定分野においては日本における知名度も高く、参入してから間もなく有力各社にパッケージが採用されている。
その後も保守やメンテナンス、さらには再カスタマイズといった業務が増え、日本市場に上手く定着してきた。
しかし、ロジスティクス分野の日本市場における実績は、ほぼゼロの状態だった。計画としては当面の3年程度はオーダーメードのシステム構築に専念し、そのなかから汎用性の高いシステムを選んでパッケージ化していこうという考えだった。
ただし、WMS(倉庫管理システム)は対象外としていた。技術的には十分対応可能であったが、
WMS市場が既に飽和状態にあることから、採算が見込めない判断していた。これは我々NLFから見ても頷ける判断だった。
後発として無理に参入しても価格競争に陥るだけだろう。そのかわりWMS以外のシステムであれば、
どんなに難しいテーマであっても貪欲に対応していこうという方針で、メンバーたちも意欲を見せていた。このベンチャースピリットが後に成果をもたらすことになった。
さて、L社の営業部長M氏は顧客とのコミュニケーションを第一に考える人脈づくりのスペシャリストであった。
表裏のない気さくな人柄で多くのファンをつくっていた。その営業力がロジスティクス分野の最初の案件をもたらした。
物流子会社系3PL企業からシステムコンペの説明会のお呼びがかかった。システムの統合がテーマであった。
M&Aを実施した結果として、複数のシステムを並行して運用している状態になっているという。M&A戦略を進める企業であれば必ず直面する普遍性の高いテーマだ。
具体的には、受払(収入・支出)管理や日報、月報管理、伝票、帳票類管理などの業務フローの見直し、そしてアプリケーションやデータ、使用言語、セキュリティ機能の統合などがソリューションとして求められた。
この不況下で比較的大型の案件とあって、説明会には国内の名だたるシステムベンダーがそろって参加していた。説明会の質疑応答における活発なやり取りからも各社の意気込みがうかがえた。
一次の書類選考は無事通過することができた。ロジスティクス全体の視点からの提案、そして人件費の割安な東南アジアで開発を行い、その後のメンテナンスやカスタマイズのコストも最小限に抑えるという、ユーザー本位のアプローチが功を奏した。

 2009.12■図●RFPに見られるシステム提案の対象範囲と優先順位

 

〝おたくの見積りが最も高い〟
書類選考を通過した候補企業各社のプレゼンテーションは、それから一週間後に設定されていた。
我々はいっそうの差別化を図る必要があった。何としても投資効果を上積みしなければならない。というのも「L社さんの見積りが最も高かった」とコンペの窓口担当者から聞かされていたからだ。恐らく事実だろう。
赤字覚悟の安い値段でとりあえず受注を決め、後の保守、メンテナンス、カスタマイズで採算を取るというやり方をL社はとらない。その点で他のシステムベンダーの戦略とは一線を画していた。
とはいえ、日本のロジスティクス分野においてL社は新参者である。〝価格〟ではなく〝技術力と差別化された提案〟で勝負するというL社の方針が日本でも通用するのか、筆者としては、はなはだ疑問だった。そのことをL社メンバーに強く訴えてもいた。
L社のメンバーは徹夜作業で提案のブラッシュアップに努め、プレゼンの日を迎えることになった。
このプレゼンでは筆者もひとつの役割を与えられていた。物流コンサルタントとして第三者的な立場から提案先企業に助言することであった。
プレゼンの結果は、その日のうちに入ってきた。L社と別の一社の2社に絞られたということだった。
最有力候補と目されていたベンダーS社は落選したという。あとは価格の最終調整のみであった。
それから2週間後、落札者が決定した。その結果については、みなさんのご想像にお任せするしかない。
筆者としては最終二社に残ったという時点で既に大きな収穫を得たと評価している。L社が日本国内のロジスティクス分野でも充分通用することが分かった。次の展望が大きく開けた。
実際、このコンペでL社のメンバーは大きな自信と手応えを得たのだった。それから我々NLFは様々な荷主企業や物流企業、さらには金融やサービス分野の企業までL社に紹介した。
先ずは顧客ありきで、各企業のニーズを収集することに努めた。なかには〝こんなものがあったらいいな〟というレベルの夢物語も少なくなかったが、それでも貪欲に耳を傾けた。
L社としては、強みとする特定分野で培った技術をロジスティクス分野に応用するというアプローチが理想であった。
具体的には、店舗発注システムや物流業界における在庫管理システム、CO2削減に向けた環境システムなどが、その対象となった。
そもそもL社の強みは、顧客さえ獲得できれば、いかなるスキームの案件にも対応できることにあった。低コストの開発力を活かして、オーダーメードのシステムを構築し、そのうち汎用性の高いシステムをパッケージ化してそれを世界12カ国に展開するというのが勝ちパターンだ。
先に説明した特定分野で圧倒的な世界シェアを誇っているため、あらゆる同業者とのパイプが出来上がっている。
同業者にパッケージを供給する一方で、同業者の下請けとしてシステム開発に当たることもできた。この強みを活かせば、日本市場におけるロジスティクス分野への展開も十分期待できるはずだ。後はL社のメンバー、特に営業やITコンサルタントのフロントメンバーが、どれだけ日本企業のシステムニーズを吸い上げていくことができるかにかかっていた。

独自のアプローチで日本市場攻略
我々はさらに顧客の発掘を進めた。
当初は〝システムニーズのありそうな顧客〟からニーズを聞くという、マーケティング戦略を欠いた営業活動に奔走しているところがあったが、多くの企業との接触を重ねるうちに、L社が対応すべき企業とそうでない企業が大別できるようになってきた。
やはりL社の独自技術を応用できるシステム、これまで国内にはなかった付加価値の高いシステムの構築がL社には適していた。
そうしたニーズを持つ顧客企業を対象に、営業ターゲットをリセットすることで、ビジネスが回転を始めた。
現時点でL社のロジスティクス分野の事業は、開発案件が大小合わせて4件、商談中が9件となっている。上々の成果だろう。
昨年のリーマンショック以降、企業の設備投資は冷え切っているが、いくら不況だといっても、本当に必要な投資は避けられない。ましてや他にはないシステムを構築し、他社と差別化できるとなれば、厳しいなかでも予算は確保できる。そのことをL社の事業は証明しているように思う。L社との一連のプロジェクトは筆者にとっても収穫の多い仕事であった。
様々なサプライズや気づきを得ることができた。物流の現場とは異なる文化、異なる人材とのやり取りは新鮮で、想像力をかきたてられた。
そこで得たロジックや方法論を今度は我々NLFがベースとする物流分野にも応用していきたいと考えている。