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第84回 事例で学ぶ現場改善:『投資ファンドA社の出資先テコ入れ』

倉庫会社に出資した投資ファンドから支援の要請を受けた。効率の悪い施設の使い方をしているので、現状を評価して改善して欲しいという。ところが実際に現場を視察してみると、ムダに見えるようなスペースにもそれなりの理由があった。

保管効率を2倍にしたい
弊社日本ロジファクトリー(NLF)のホームページ経由で、投資ファンドA社から問い合わせのメールが入った。
投資を実施した倉庫会社の保管効率を向上させたいという。ついては、どのようなコンサルテーションを受けることができるのかという質問だった。
ひとまずメールを返信し、後日打ち合わせすることになった。我々のような物流専門のコンサルティング会社でも、昨今は投資ファンドとのやり取りが珍しくなくなってきている。
物流用地や倉庫設備などのアセット、あるいは物流会社そのものが、投資対象として定着してきたためだ。
しかし、A社とコンタクトを取るのは今回が初めてだった。問い合わせのメールをくれた担当者から、A社の投資方針をヒアリングした。
それによるとA社は不動産投資をメーンとし、物流は得意分野としていないという。物流不動産への投資実績はあるものの、当時の担当者は既に退職しており、社内には物流分野の問題に対応できる組織がなく、また人材もいなかった。
A社としては出資先の倉庫会社に儲かる仕組みを定着させたい。具体的には主力施設の保管効率を2倍にしたいという。そのために株主として口は出すものの、専門外の倉庫運営に直接手を出すこともできない。
そこで我々NLFが外部の専門家の立場からその施設の現状評価と課題の抽出を行い、それを倉庫会社にぶつけることで改善を進めていきたいという。ファンドとしては正攻法の進め方と言えた。
その担当者と現地の視察を行った。東京から電車で約1時間半。さらに駅からタクシーに乗り換えて約20分。ようやく倉庫のある現地に到着した。
広大な敷地に6000平方メートル規模の真新しい倉庫が3棟並んでいた。(首都圏からここまで距離があれば、地価は相当に安いのだろう。
それにしてもバカデカイものを作ったものだ。一体、何を保管するつもりで建てたのであろうか。ひょっとすると、建ててしまってから空きを埋めるつもりだったのではないか)
──筆者の脳裏を様々な想いが駆け巡った。倉庫の壁面にはA社の出資先の「L社」の名前がペイントされていた。筆者が以前から知る倉庫会社である。その現場責任者に案内を依頼し、我々は庫内を視察して回った。
A社の担当者からは「無駄な倉庫の使い方をしているんです。棚を入れるなり、工夫をすればもっと荷物が入ると思うのですが」と事前に聞かされていた。その言葉通り、確かに高さが活かされていない。
パレットの二段積みを一部で行っている程度で、ほぼ平置きの状態であった。

見た目は非効率なようでも‥‥
現場責任者にそのあたりの事情を聞いてみた。するとダンボールの耐性(強度)から、そのままでは二段積みが限界であること、また「ネステナー」などの段積みを可能にする器具を使っても、庫内の高さが六メートルに満たず、天井から照明がぶら下がっていることから三段積みはできないという。
しかも、その荷主の使っているパレットは普及型の「T11型」(1.1メートル×1.1メートル)ではなく、1.1メートル×1.4メートルの特殊サイズだった。保管棚を導入するには、特注する必要があり高価なものになってしまう。荷重もあって、リフト操作の効率が落ちるため、導入しても効果は期待できないという判断だった。
空きスペースについても、現場責任者にとれば借置場として使用しており、朝の入荷時や午後の出荷時には目一杯使われているという。
庫内の通路もフォークリフトを使用する上では必要な幅であった。
A社の担当者には非効率に見えたスペースの使い方にも必然性があった。そのことをA社の担当者に伝えたところ、担当者は落胆したようだった。
続いて他の2棟も見に行こうと促しても「こことほぼ同じ状況です」と半ばあきらめ顔だ。しかし、同じ会社の倉庫であっても庫内の状況は1つひとつ違うものだ。ましてや3棟はそれぞれ荷主が違うという。しかもA社の担当者が倉庫の見学に来たのは半年ぶりだと聞いている。その間には品目の入れ替えも発生し、格納されている物量も変わっているはずだ。
筆者は「せっかくここまで来たのだから、〝念のため〟見ておきましょう」と、A社担当者を誘い出した。
案の定、庫内の状況は先ほどとは全く違っていた。次に見た棟では、雑貨や常温食品などが天井近くまでぎっしりと保管されていた。
そして最後の棟には、木枠に入った重機や動力エンジンなどが平積み状態で一面に広がっていた。
こうして視察を終え、日を改めてA社に報告を行った。
効率化の追求には限界があり、保管効率を2倍にするという当初の目標は相当に高いハードルであることを説明した。それを実現しようとすれば、倉庫で扱う荷物(品目)のセグメント自体を設定し直す必要がある。対象となる新規荷主の獲得に改めて奔走しなければならない。L社の営業活動そのものにもメスを入れる必要が出てくるだろう。
今の荷主には別の拠点に移ってもらうことになるため、当然移転コストもかかる。しかも通常の倉庫では、床荷重やフォークリフトの種類などの制約からハンドリングできない荷物も出てくる。現場のオペレーションも再構築しなければならない。
筆者の説明を聞いて、A社の担当者は〝思うようにならない〟と天を仰いだ。

高い買い物を避けるには
この手の話はA社に限ったことではない。投資ファンドや金融機関絡みの案件では、よくある話と言ってもいい。庫内を見て素人は「もっと積み込める」と思う。
しかし、実際には保管効率を上げられないそれなりの理由が存在する。現場が努力を全く放棄しているわけではないのだ。
今回のケースでは、荷主を現状のまま動かさないとすれば、保管効率の向上は30%増が限界ラインだった。それ以上の改善効果を狙うのであれば、保管効率以外に新たな利益源を見出す必要があった。
そこで我々NLFは善後策として、協力輸送会社のコストの見直しなどの一般的な施策のほかに、次のような選択肢を提案した。

●賃貸に回す。6000平方メートル規模の倉庫三棟という規模と立地を考えると、L社単独で全て受託し、庫内も自社スタッフで運営するという体制自体にそもそも無理がある。他の物流会社への坪貸しや一棟貸しを検討する。

●引き合いの内容次第でメザニン(中二階)の導入を検討する。

●不況のなか比較的荷動きのある食品業界のニーズに対応するため、冷蔵庫の増設棟の改修も視野に入れる。

●この施設を単に荷物を保管する“倉庫”と位置付けるだけでなく、組み立てや流通加工も対応する〝工場〟としても活用する。

●L社の現場と営業の定例ミーティングを月一回実施する。「精密機械が入るかもしれないが現場では対応できるか」といった営業からの相談や、「B棟の右奥スペースが300坪程度空けることができるので入る荷物を探して欲しい」といった現場の要請など、双方の連絡を密にして、情報を共有化する。

こうして新たな方針の下で現在、L社の収益性改善活動が進められている。
既に食品業界などから新規の引き合いが来ており、スポット的な仕事ではあるが、ギフト品の業務を2社から受託したという連絡を受けている。
しかし不況の折、まだ苦戦を強いられているのが現状だ。今や投資会社や金融機関は、物流市場に大きな影響力を持っている。
しかし、彼らの投資プロセスを見ていて著者は、危うさを感じることが少なくない。
土地、建物への投資ならまだしも物流会社そのものへの投資であれば、投資を判断する前にもっと物流事業の構造を理解しておくべきだろう。その知見を持ったスタッフや協力者を社内外に確保しておく必要がある。
それを怠れば、自分たちが高い買い物をしてしまうというだけでなく、物流業界自体がかき回されることにもなってしまう。
やはり〝餅は餅屋〟と、筆者は感じている。

 

 

※今月より「事例で学ぶ物流改善」は月刊ロジスティクス・ビジネス掲載1ヶ月後の更新となります。