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第86回 事例で学ぶ現場改善:『電機メーカーY社の庫内作業内製化』

電機メーカーY社は大幅な売上高の減少に対応するため、物流の内製化による外払い費用の抑制に取り組んだ。グループ物流会社に委託していた庫内作業を自社化し、保管効率を向上させて外部の営業倉庫に預けていた在庫も取り込みたい。しかし、社内に物流のノウハウは乏しかった。

 

年商約600億円の電機メーカーY社は、大手電機メーカーA社のグループ会社だ。
従来は国内5カ所に生産拠点を構えていたが、昨今の不況の影響で2カ所を閉鎖。現在は主力の北関東工場を中心に3つの工場を運営している。北関東工場は物流センターを併設している。
その現場運営はこれまで同じA社グループの物流子会社に任せていたが、サービス料金が割高で対応も満足のいくレベルではなかったことから、物流子会社の利用を輸配送の管理だけにとどめ、庫内作業は内製化して支払い物流費を抑制することにした。
しかし、Y社の社内の人材やノウハウだけで現場を運営するのは難しいと判断し、当社日本ロジファクトリー(NLF)が、物流コンサルタントとしてサポートに入ることになった。
当社に問い合わせをくれたY社側の担当者で、今回のコンサルティングの窓口となったS氏は、肩書き上は在庫や物流に関する社内調整役であったが、実質的には北関東工場の物流責任者だった。現場の実務においてもS氏が実権を握っていた。
当初我々NLFはA社グループのブランドイメージから、物流現場においても生産技術を活かした緻密な管理や改善活動を行っているものと推測していた。
しかし、その期待はあっけなく裏切られた。実際に現場を見学してみると、オペレーションの完成度は低く、気になった点を現場のリーダーに質問しても的確な回答が返ってこない。物流現場の管理レベルとブランドイメージに大きなギャップがあると感じざるを得なかった。
恐らく親会社のA社では、物流にもしっかりと取り組んでいるのだろう。しかし、それがグループ会社に横展開できていない。
これはA社グループだけでなく、広汎なグループ企業を展開する大企業に珍しいことではない。それでもS氏の形式張らない性格と、そのコミュニケーション能力に、我々はずいぶんと助けられた。
S氏は「現場リーダークラスはここ(自社)の現場しか知らない。他の会社や倉庫がどのように生産性や効率を上げているかなど全くわかっていない。素人集団なんです」と現状を率直に認め、今回のプロジェクトの目的として、①工場倉庫の保管効率を上げて外部倉庫に委託している分を取り込むこと、そして②改善を通して現場スタッフのスキルを上げることの二つを明確に示してくれた。
我々NLFはまず、現場視察による定性調査を基に改善の仮説を図1のように抽出した。
次に各担当者へのヒアリングやデータ分析を行って、これらの仮説を検証。その結果をもとに、改善項目の優先順位を決定し、改善活動を実施していくというコンサルティングの進め方をとることにした。

仮説を立てて検証する
「仮説①」の「品目別保管方法の見直し」は、既存の保管棚およびラックサイズと保管しているアイテムの特性が合っていないのではないかという仮説であった。
重量ラックを使用することで〝高さ〟の確保はできていた。しかし、どうも隙間が目立つ。調べてみると、少量ロットの製品をロットのまとまる製品と区別せずに保管していたため、いわゆる“ぎっしりと詰まった状態”の積み付けができなくなっていた。品目別、ロット別に保管方法、形態を変える必要があった。
「仮説②」の「出荷頻度ABC分析によるロケーションの見直し」は在庫型センターの定番と言える改善方法だ。
案の定、Y社の場合もロケーションの使い方、保管場所のルール決めが明確になっていなかった。リフトマンが自分の判断で作業を行い易い場所にパレットを〝借り置き〟してしまう。それが連続して発生し、その一部が放置されることで、保管スペースをまんべんなく利用することができていなかった。
その結果、棚番地が振り当てられているのに、恒常的に“空き”状態になっているスペースが散見された。
これはロケーションに対するメンテナンスができていない証である。業種、業態よって頻度は様々であるがY社の場合、四半期に一度はメンテナンスを実施する必要があった。
「仮説③」の「通路幅の見直し」は、フォークリフト作業の問題だ。物流品質を重視する物流子会社や荷主の現場では、安全性に配慮して庫内の通路幅を広くとっている場合が多い。必要なことではあるが、広すぎるのは問題だ。
生産性と保管効率が収益の源となる一般の営業倉庫では、安全性に配慮しながらもギリギリの通路幅を模索している。
またフォークリフトの種類によっても必要な通路幅は変わってくる。そこで最適なフォークリフト機種を選定し直し、動線を見直すことで通路幅を20センチ狭めることができた。
「仮説④」の「出荷スペースの有効利用」について、Y社の倉庫では他の会社や物流会社が見ればうらやましがるほどの雨避けのヒサシが、建ぺい率に加算されるにもかかわらず、上手く活用されずに放置されていた。
ヒサシ部分は方面別および物流会社別の出荷スペースとなっていたが、その1・5倍程度の使用可能スペースが残されていた。
そこで庫内に保管されていた空きパレットをヒサシの下に移すことで、有効保管スペースを拡大した。
「仮説⑤」の「作業分析によるムダの見直し」は、作業にムラが見られたことから実施した。
主力の庫内作業スタッフが時間給であることもあって、入・出荷量が少ない閑散時には作業スピードが低下する傾向が見られた。
調べてみると〝作業の待ち時間〟と〝保管する場所探し〟の時間に大きなウェイトがかかっていた。
「仮説⑥」の「適正在庫の見直し」は、デッドストックの廃棄等を含め、生産部門や営業部門との調整が不可欠であった。実施には時間を要する施策だ。大企業になるほど、いっそうその傾向は強まる。
それでもY社の場合、S氏がもともと部門間の調整役を担う部隊であったことも手伝って、在庫削減に向けた動きが着々と進んでいった。
当初20日分と定められていた在庫日数を現在は14日分に削減することで調整が進んでいる。
「仮説⑦」の「動線調査結果による改善策の抽出」では、思わぬ材料が見つかった。
以前にY社では、あるマテハンメーカーからフォークリフトの動線調査サービスを受けていた。ところが、その結果が分析されることなく放置されていた。そこで我々NLFが改めて資料を確認することにした。
すると、その資料には通路の活用が平均化されておらず、特定のロケーションエリアにフォークリフトが集中して作業を行っているという実態が示されていた。
このことは我々の打ち立てた一連の仮説をデータ的に裏付けることになった。

2010.03■図①●改善の仮説

現場の管理指標を整備する
 さて、これらの一連の改善策を実施すれば、生産性や保管効率の向上が期待できるものの、それと引き替えに、作業品質や安全性の低下を招くリスクがあった。
そのバランスをとるために「仮説⑧」の「物流管理指標の設定と運用方法の決定」は欠かすことのできないテーマであった。
“生産性指標”と“品質指標”は現場管理の両輪だ。その二つをセットで管理することで、はじめて最適な作業方法を作り上げることができる。
そして、それを成熟させていくことが、利益を産み出す現場への道である。
我々NLFはY社に対して図2のような指標のモデルを提供した。このうち、どの指標を採用すべきか、Y社はプロジェクトチームで検討している最中だ。各指標それぞれ一つで十分だと我々はアドバイスしている。あまり欲張って多くの指標を導入してしまうと、結果的に長く続かなくなってしまう。指標の算出には、かなりの手間がかかる。
その結果、いつしか指標の算出自体が目的化してしまうといったケースを我々は数多く目にしてきた。
こうしてプロジェクトの開始から3カ月を経て、S氏が目的とした外部倉庫の吸収が実現した。
しかし、もう1つの目的、現場スタッフのスキルアップはスタートを切ったばかりである。
需要予測が大きく乖離し、生産量と販売量の相違から在庫量が大きく増えた場合にどのように対処するかといったテクニックなどを習得するのはこれからだ。
その方法を誤れば、再び外部倉庫に製品を逃がさなければならない事態にも陥ってしまう。S氏が一息付けるのは、まだ先のことになるだろう。

2010.03■図②-1●物流管理指標 物流品質指標の設定

2010.03■図②-2●物流管理指標 物流作業指標 その他の設定