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事例で学ぶ現場改善:『ブチ猫と共に業務請負会社の提案営業』

業務請負会社のB社に営業支援を依頼された。打ち合わせに訪れた社長宅で、白と黒のブチ猫〝サチ〟と出会った。社長と筆者、そしてサチの三者でプロジェクトチームを組織して、同社初の本格的な提案営業を開始した。

3PL業界の黒子役
物流会社B社は年商約12億円、
特定の業種にターゲットを絞ったセンター運営業務を主業としている。
完全なノンアセット型で、トラックや倉庫を所有しないのはもちろん、
事務所までない。
直接の顧客は大手物流会社や物流子会社で、
仕事のお声がかかるとパート・アルバイトを集めてセンター実務を代行する、
いわゆるセンター運営請負会社である。
荷主や元請け物流会社のセンター内で完結する仕事であるため、
ハードを一切持たないのも不思議ではないのだが、
B社の場合はホームページさえない。
B社はこれまで営業活動を一切行ってこなかった。
全く表舞台には出ず、黒子に徹してきたのである。
それでも仕事の引き合いは、どんどん舞い込んでくる。
B社率いる創業者のH社長は20年近くこの業界に身を置くプロで、
〝混乱センター収拾請負人〟として知る人ぞ知る存在なのだ。
そんなH社長から、休日のある日、筆者の携帯電話に直接連絡が入った。
といっても、その時点で筆者とH社長は全く面識がなかった。
筆者の携帯に電話番号が登録されているはずもない。
どうせ何かの売り込みか、かけ間違いだろうと無視したところ、
留守電に伝言が残されていた。
社名を名乗らず個人名で、しかも連絡が欲しいという内容であった。
声や話し方から、いかがわしい人物ではないだろうと判断して、
折り返し連絡を入れた。
結局この携帯電話のやり取りは、全く面識のない相手であるにもかかわらず、
1時間強にも及んだ。
 H社長の筆者に対する要望は至って明確であった。
〝自分の考えを提案書にまとめて欲しい〟
というものだ。
ある大手メーカーのトップからセンター運営業務を頼まれているのだが、
中間に入っている大手物流会社は、他の業務請負会社を使いたがっている。
そのためB社が今回の仕事を受託するには比較検討審査をパスしなければならず、
提案書がどうしても必要だ。
もちろんH社長は現場業務に精通しているし、
今回の案件でも何をどのように改善すべきかは分かっている。
しかし、自分の考えを提案書にまとめるスキルがない、というのである。
電話の会話を聞いた限りでは、
H社長は慎重な人物のようであった。
依頼内容の説明でも、どの荷主の案件か察しがつかないように注意深く言葉を選び、
またB社の社名も電話を切る直前まで告げなかった。
ちなみにH社長が筆者に連絡を入れることにしたのは、
あるところから我々日本ロジファクトリーのことを聞いてのことだというが、
その〝あるところ〟とはどこだったのか、いまだに筆者は聞いていない。
少なくとも、H社長は開けっ広げに話しをするタイプではなかった。
それでも物流に対する考え方や、
今回の案件にはどのレベルの提案が適切かといった点では、
お互いの意見が一致し、会話は多方面に広がっていった。

実力以上に手を広げない
後日、H社長と面談を行うことになった。
初の打ち合わせ場所はH社長の自宅であった。
電話のやり取りを通して筆者はH社長に好感を持ってはいたが、
事務所もホームページもなく、いきなり自宅に伺うことになって、
黒塗りの高級車に乗った若い衆でも迎えに来るのではないかと少し身構えた。
が、そんな心配は無用であった。
指定された駅に着くと、H社長自らがハンドルを握るワンボックス車が待っていた。
自宅に到着すると美人の奥様と白黒のブチの愛猫が出迎えてくれた。
アメリカンショートヘアのメスで、名前はサチという。
実のところ筆者は無類の犬猫好きである。
(諸般の事情があって現在は飼っていないが)
奥様との挨拶もそこそこに、猫を手招いたが全くの無視であった。
それでも先ほどまでの緊張はどこへやら。
初回の電話の後もH社長とは何度か電話でやり取りをして
既に意気投合していたこともあって、名刺交換も忘れそうになる始末であった。
リビングに通され打ち合わせが始まった。
H社長から改めて今回の仕事の背景、荷主の事業概要、
現場の状況、中間に入っている大手物流会社との話し合いのこれまでの経緯、
競合先の情報などをヒアリングした。
私がメモを取りながら話をうかがっている間にも、
あの〝サチ〟のしっぽがH社長の隣りの椅子から出ては消え、消えては出る。
どうやら打ち合わせに同席しているようである。
H社長が何度も口にする要望があった。
それは「私が作った提案書に見えるようにして欲しい」ということである。
難しい専門言葉や高度な技術が入った提案書では
別人が作ったことがバレてしまうというのである。
あくまでH社長からの提案書であることが今回の案件では重要であるらしい。
分かる気がした。
これまでもB社では、新規案件はH社長自身が立ち上げに加わり、
運営が軌道に乗った段階で、
初めて現場のリーダーに任せるという方法をとっていた。
B社が現場の混乱を収拾できるのは、
H社長個人の持つノウハウとタレント性に負っているところが大きかった。
それだけに難しさもあった。
実際、H社長と後任の現場リーダーとのスキルのギャップが、
依頼主からの不満につながっていることも多いという。
後任のリーダーがH社長の七掛けの仕事をしてくれれば、
その現場の運営は維持できると、H社長はいう。
しかし、その七掛けのリーダーを育てるのに時間がかかる。
それも時間をかければ確実に育ってくれるというのならまだしも、
途中で潰れてしまったり、辞めてしまう現場リーダーも少なくない。
そのためH社長は現場リーダーが一人前に育つまで、
どんなに魅力のある仕事でも手を広げないようにしているという。
やはり慎重な人なのだ。
そんな話を2時間ほど聞いているうちに、
サチも筆者に慣れてきたようだ。
打ち合わせテーブルの上にゆったりと腰をおろしてこちらを見ている。
さらには私のメモが気になったのか、
背伸びをしながらメモを覗き込んでくる。
それを飼い主に叱られると、またゆったりとテーブルに腰をおろした。
この打ち合わせのすぐ後に、今回の現場を見学することになった。
私のわがままを聞いてもらって、サチも一緒に連れて行くことにした。
現場はクルマで約15分の場所だったが、
クルマが走り出すとすぐにサチは寝てしまった。
現場は築2〜3年の綺麗なセンターだった。
今回の荷主のほかにも大手企業が入居するマルチテナントの多層階センターで、
3階のフロアに目指す現場はあった。
約700坪のスペースに商品が散乱している。
稼働6カ月目ということだが、移管直後のように見えた。
思い思いに商品が放置されていて、
どこに何が置いてあるか全く分からない。
必要に応じてH社長から説明を聞き、
約1時間程度で視察を終えた。
我々がクルマに戻ると、サチはようやく目を覚ました。
荷主の大手メーカーのトップはH社長に対し、
この見学の日から2週間後に控えた最終提案の前に、
中間報告書を出すように指示していた。
既にH社長はその報告書を準備していた。
それを筆者が持ち帰り、加工することになった。
併せて現場視察で筆者の気付いた点を整理して、
H社長にメールすることを約束し、この日の面談を終えた。
後日、H社長に送付したメールの主な内容をランダムに列記すると以下の通りである。
要するに、何から何まで現場の作り直しに近い。

①出荷伝票の改良 
納品伝票をそのまま出荷伝票としても使用していることが、
ミスを誘発している。本来は別に伝票を作成することが望ましいが、それには設備が必要になるため、当面は「カラーペン」を使って表示を明確化することでミスの削減を図る。
②棚番地の設定 
棚番地が設定されていない。
棚番地を設定して明示することで、保管ロケーションを明確化する。
③商品分類の明確化 
商品分類の不明確な在庫が散見された。
早朝の入荷時の商品分類を徹底する。
紙に黒マーカーで商品分類をハッキリと書き込んで商品に貼付し、
不明品を撲滅する。
④管理指標の導入 
作業の生産性と品質を管理する指標を設定し、
スピードアップと品質向上を図る。
⑤人員の適正化 
人員配置表(分担表)を作成し、それを現場に掲示して、
物量の変動や作業の進捗に合わせて配置を調整する。
⑥保管ロケーションの見直し 
出荷頻度のABC分析に基づく保管ロケーション、レイアウトの作成。
⑦定物定位置の徹底
⑧保管方法の見直し
 
入荷ロットに合わせて、ラック、棚、パレット二段積みなどを使い分ける。
⑨パートの戦力化 
熟練スタッフに担当させているハンドリフトを使った追加補充作業を
パートに任せる。
⑩作業の標準化 
「作業基本ルール」を作成し、朝礼、昼礼で伝達して徹底させる。
⑪やる気を維持する 
作業量、終了予定時間の可視化と共有化によるモチベーションの維持。
⑫検品精度の向上 
店舗でのノー検品を目指した出荷検品の徹底による精度向上。
⑬料金制度の変更 
請負業務の個建て料金制による生産性の向上。
⑭現場のショールーム化 
整理整頓(2S)の徹底によるショールーム化の推進。
⑮ピッキング方法の見直し 
稼働当初の混乱が収拾したら第2ステップとして、
現在の種まき方式を摘み取り方式へ変更する。
種まき方式のままでは店舗数が増えると、
それだけスペースが必要になり、
また出荷ミスを誘発させてしまう可能性が高い。
⑯多能工化 
同様に安定稼働後の第2ステップとして、
「誰もがわかる現場づくり」による多能工化を推進する。

良い仕事こそ最高の営業
現場視察から1週間後、再びH社長宅を訪れた。
最終提案に向けての打ち合わせだ。
また奥様とサチが出迎えてくれた。
筆者の顔を見てサチは一声鳴いた。
リビングに通されてソファに腰掛けると、サチも横に座る。
筆者のペンケースを引っ掻く。
もはやすっかりプロジェクトメンバーの一員である。
H社長は最終提案のラフ原稿を事前に用意していた。
ロケーション、レイアウト、棚の種類やサイズ、
フォークリフトの台数、動線、人員配置などが書かれている。
この資料を叩き台に、私も意見を出して内容の詳細を詰めた。
この2日後に筆者はラフ原稿と協議内容を提案書の形式にまとめ、
H社長に送付した。
今回の案件は元々荷主のトップからの肝いりであるため
受注確度は高いと思われた。
しかし最終判断が下されるまでは筆者も気が気ではなかった。
2週間後にH社長から「決まりました」の連絡が入った。
ほっとした瞬間であった。
その後もB社には口コミによる相談や引き合いが絶えないと聞く。
「最高の営業とは、良い仕事をすることだ」
という考え方がH社長の原点だ。
これからもB社は営業PRに注力することはないだろう。
この仕事を通して筆者が痛感したことは2つ。
1つは営業力や提案力を誇る3PLや大手物流会社であっても、
その現場力は実のところB社のような〝請負人〟によって
支えられているという事実である。
そしてもう1つは、現場を担うプロの物流マン、
そして物流猫〝サチ〟との仕事はとても楽しいということである。