Top > 雑誌寄稿 > 事例で学ぶ現場改善:『アパレルE社の3PL導入失敗』

事例で学ぶ現場改善:『アパレルE社の3PL導入失敗』

プロジェクトは既にスタートしていた。センターの運営を委託する3PLも決まっていた。しかし、その3PLの提案にはどうにも納得がいかなかった。現場運営の実力にも疑問符が付いた。オーナー経営者と3PLの板挟みに悩むプロジェクトリーダーが助け船を求めてきた。

マテハンの導入提案に疑問
E社は名古屋に本社を置くアパレルメーカーで年商は約85億円。
カテゴリーにおける市場シェアは約20%で業界2位につけている。
納品先は百貨店、量販店、ディスカウンター、食品スーパーなどで、
自社製品のほか卸機能も持っている。
取扱アイテム数は年間平均で約4300。
アパレル製品はアイテムごとに色・サイズなどの展開があるため、
実際のSKUは膨大な数になる。
自社商品の大半は中国製で、
委託先も含め中国に3カ所の工場を構えている。
中国には検品・検針センターも設置している。
人手が多くかかる作業は中国国内で完結させて、
地元の名古屋港に商品を輸入している。
名古屋港に到着した後は、
小牧にある物流センターに商品を持ち込み、
そこで保管、仕分け、値札付け、梱包、出荷を処理している。
そんなE社のK氏から弊社日本ロジファクトリー(NLF)に連絡が入った。
「現在、ある中堅3PLとセンター運営について協議を行っているが、相手の対応が納得のいくレベルにない」
という。
後日、K氏と直接面談することになった。
K氏は中途採用でE社に入社してから2年目と、
まだ日が浅いこともあって、名刺の肩書きは企画室の一般社員であったが、
実際はE社の財務、情報システム、物流の三分野を任されている
改革のキーマンであった。
E社はオーナー企業で、先代とその息子である現社長が
全ての意思決定を行っている。
K氏はその側近として改革の陣頭指揮を執っていた。
K氏に肩書きがないのは、
K氏および改革に対する社内の軋轢を避けるためであり、
また我々コンサルタントのような社外の人間が、
肩書きの軽い担当者にどう接してくるのか、
対応品質をチェックする狙いもあったようだ。
そのK氏の説明によると、E社は現在、
センター運営の委託を前提に中堅3PLのP社との協議を進めているのだが、
先方からの提案内容に満足できずにいるという。
その3PL、P社はE社に対して大規模なマテハンシステムの導入を提案していた。
しかし、それが果たして必要なのかK氏には疑問だった。
また、その3PLはこれまで川上のメーカー物流をメーンとしていて、
販売物流、店舗配送の実績がないことも不安だった。
しかし、別の3PLや物流会社に相談したり、
話し合いを持ったことはなかった。
もともとP社は、K氏が知人から紹介された会社だった。
K氏を窓口にP社の担当者をトップに紹介したところ、
すぐに意気投合し、今では互いに認め合っているとのことであった。
最適なパートナーを見つけるためには、
コンペを実施するのも一つの選択肢だと筆者はアドバイスした。
K氏自身、そうあるべきだと強く思っていた。
しかし、トップとP社担当者が、がっちり握手してしまっている現状では、
いかにK氏といえども話を後戻りさせるのは困難なようであった。
P社を外すことができない以上、
協力会社に販売物流の実績がないという不安はどうにも解消のしようがない。
それでも大規模なマテハンシステムの導入については
まだ見直しをかけられる可能性があった。
E社のビジネスは月別の波動が大きい。
専用センターであるため、設備を他社と共有することもできない。
そこに重装備のシステムを導入すればコスト高につくのではないかと
K氏は感じていた。的確な判断といえる。
K氏はE社に転職する前まで経理畑だったという。
しかし、そうとは思えないほど物流について多くのことを学び、
よく理解していた。
大変な努力家でもあるのだろうが、
会話のレスポンスからK氏の地頭の良さ、切れが感じられた。

コンペなしでパートナー選択
なぜP社は大規模なシステム導入を提案してきているのか。
K氏との会話を重ねるうちに、その理由も分かってきた。
要はP社に現場運営の自信がないのである。
現在、E社は自前でセンター運営を行っている。
そこでは自動仕分け機やデジタル・ピッキング・システムを活用した
作業フローが出来上がっている。
P社はその仕組みを新センターにもそのまま移管しようとしているのだ。
それによって移管に伴うオペレーションの混乱を最低限に抑えられる。
生産性の向上は、オペレーションに慣れてきてから改善の手を入れればいい。
既存センターは既に投資の償却も済んでいるのでE社側に再投資の余地もある。
3PLのP社にすれば提案内容を競う必要のない案件であるため、
それが最も安全なやり方であるのは確かだろう。
しかし、それだけE社はリスクを背負わされることになる。
このほかにも、もう一つK氏には懸念していることがあった。
新センターの立ち上げ時の混乱から軌道化までのプロセスと、
その方法が見えない、P社の説明が不明確だということであった。
これらの問題に対して我々NLFは次のような実施項目をP社にアドバイスした。

1.「物流事業者評価表」を活用した
  P社とのレベルギャップの確認

我々NLFが作成した「物流事業者評価表」を使って、P社の実力を評価する
(表1)。

2010.06■図①●物流事業者評価表
物流パートナーに求められる機能・能力を、コスト、品質、運営、システム面など76項目から評価してチェックする。
(ただし、これは本来なら他のパートナー候補との実力の比較に用いるツールであり、E社の場合はP社以外に候補がいないため、その効果は限定的になる)

2.定期的な物流連絡会議の開催
正式な委託決定後は定期的な連絡会議を実施する。
連絡会議は稼働の2カ月前から、テーマ別にそれぞれ週1回のペースで開催する。
そこで互いの進捗状況、問題点と解決策、次回までの準備事項などを決める。
立ち上げ2週間前からは毎日の始業前に、
E社、P社の現場責任者でミーティングを行う。
稼働日以降もしばらくは毎日のミーティングを継続し、
その後は現場の安定状況を見ながら週1回、月2回などの開催頻度に減らしていく。
軌道化が済んだ後も月1回の連絡会議は継続し、
互いの要望事項とその対応策、改善の進捗状況、
今後の予定(新規の納品先の発生、新商品の投入時期など)を共有する。
これにはコミュニケーションを深めるという一面もある。

3.立ち上げ時における応援体制
  (人員、役割分担)の確認
新センターの立ち上げプロジェクトは稼働から約1カ月半、
45日目までが勝負になる。
45日目までにどれだけの応援スタッフを投入することができるのか。
そのスタッフに、何をやってもらうのか、
その時のP社の現場リーダー(旗振り役)は誰か。
その現場リーダーには、どんな経験があるのかなどを確認する。

4.情報システムの稼働時期の前倒し
一般にセンターの立ち上げに失敗する原因の8割は情報システムに起因している。
現場オペレーションの開始に先だって情報システムを稼働させ、
テストランの期間を設けることで、トラブルの多くは回避できる。
今回のケースでは従来からE社が使用してきたWMSを
そのまま新センターでも利用することになるため
大きなトラブルが発生する恐れは低いが、
P社側ではWMSの操作とピッキングリストなど
帳票類に対する〝慣れ〟が必要になるため、やはりテストランは必要だ。

5.物流管理指標の導入
現場の混乱収拾を経て、軌道に乗ってからは物流管理指標に基づく
業務の可視化(見える化)を実施する。
適切な指標がなければ運営が上手くいっているのかどうかも分からない。
ただし、物流管理指標は多くの種類を設定し過ぎると実効性がなくなる。
具体的には生産性の指標と、物流品質の指標をそれぞれ一つずつに絞り、
そのデータを常に把握し、継続的に改善サイクルを回していくというやり方が、
最も管理が容易で、効果も上げやすい。
そうアドバイスしたところK氏は、生産性の指標を
「1分当りピッキング行数」に、
そして品質の指標を「誤出荷率」に絞り、
これをKPI(重要業績評価指標)として導入することになった。

プロジェクトの誤算
これらの実施項目をプロジェクトと現場に反映させるかたちで
K氏はP社との協議を再開した。
これに伴いE社からトップダウンでP社に内示書が渡された。
そこには「弊社(E社)の要望事項にP社が対応できない場合には、
他の3PL企業との商談、交渉を開始する」という一文が付け加えられた。
それから2カ月ほど経ったある日、
改めてK氏から筆者に連絡が入った。
内示書の提示からずいぶんと日にちが空いているのに、
K氏から連絡がないことを、ちょうど気にし始めた頃だった。
K氏の報告に筆者は思わず耳を疑った。
「P社がドロップアウトしてしまいました。
あらためて3PL導入の検討を最初からやり直すことになりました」という。
懸念事項の一つであった
〝大規模マテハンシステム導入〟について、
E社は再検証もしないまま方針を譲らなかった。
それに対してE社もまた代替案が出せなかった。
しかし、何と言っても大きかったのは、
E社のトップと意気投合したP社の担当者が突然、退職してしまったことだったようだ。
すぐさま後任者が就いたが今までの協議とのギャップがあまりにも大きく、
P社への委託を断念せざるを得なかった。
これによってE社は大きく時間をロスしてしまっただけでなく、
社内に3PL導入に対するトラウマまで残ってしまった。
もっと早くから複数の3PLと折衝していれば、
E社も最適なパートナーを選定できたかもしれない。
この手のプロジェクトはやはりキックオフ時のプロセス設計が大事だ。
プロジェクトの進め方を誤まったことで、
上手くいくはずの改革が頓挫してしまうことが、意外なほど多いのである。

2010.06■図②-1●物流品質指標の設定

2010.06■図②-2●物流作業効率指標の設定

2010.06■図②-3●その他指標の設定