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第90回 事例で学ぶ現場改善:『印刷E社の物流フロー改善プロジェクト』

不況を追い風にして売り上げを伸ばすE社。物量の急増にオペレーションが追いつかず顧客からのクレームが頻発するようになっていた。危機感を持った営業部門が主導して物流フローの改善に着手した。クレームの原因を探っていくと、そこには予想した以上に根深い問題が横たわっていた。
 

急成長で物流問題が顕在化
E社は年商約100億円の中堅印刷会社だ。
特定業界のカタログやプロモーションツール、見本等を作成・販売している。顧客は全国に分布しているが、東京本社1ヶ所に機能を集中させている。販売不振に喘ぐ同業他社をしり目にE社の売り上げは増加傾向にある。
とりわけ不況期に入ってから事業拡大のペースに拍車がかかっている。営業ツールに工夫を凝らし、コンサルティング営業を徹底したことが奏功している。その反面、物量の増大によって物流機能は疲弊し、品違いなどのクレームが顕在化していた。
このままでは、せっかく獲得した顧客を失ってしまうという危機感から、営業担当役員のA氏をリーダーとして、トップダウンで物流改革プロジェクトを立ち上げることになった。そのサポート役が弊社日本ロジファクトリー(NLF)の役どころだ。
プロジェクトのテーマは「物流フローの改善」だった。モノの流れをスムーズにしようというものだ。
具体的には
①入荷予定数量を事前に把握することで現場作業の混乱を回避する。
②製品の滞留を減らし在庫回転を高める。
③港(横浜港)、倉庫(厚木)での入荷、出荷の待ち時間を削減する、
という内容であった。

これらの改善テーマであれば正攻法のアプローチが適用できる。成果も比較的早期に挙がるだろうと見込んでいたのだが、詳しく話を聞いてみると、E社には他にも物流管理に関する重要な課題があった。
その1つは、E社の物流を長らく管理してきた担当者C氏が近く定年退職し、その後を任せられる人材が社内にいないことだった。
C氏の後継者を至急確保しなければならなかった。またE社のメーンの協力物流会社は、いわゆる〝乙仲〟と呼ばれるローカルな海貨業者であった。
E社の求めるサービスレベルや提案能力を備えているとはとても思えなかった。しかしE社はその会社の他に有力な物流会社や3PLとのつながりを全く持っていなかった。
物流フローの改善という表向きのテーマよりも、むしろこれらの課題の解決ほうが本質的な問題だと筆者には思えた。これらの課題を解決できれば、物流フローの問題は自ずと解消されていくはずだ。
そこでプロジェクトメンバーとのミーティングを2回行った後で、今回のプロジェクトの実施項目と我々NLFのサポート内容を次のように3つに整理してE社に提示したのであった。

1.自社改善
①あるべき姿としての新しい物流フローの作成
②着地点分析による最適物流拠点の設定
③イレギュラー業務の改善
(それによって協力物流会社のスムーズな変更を可能にし、協力物流会社に対する交渉優位性を獲得する)
④入荷情報の精度向上および入荷情報の活用方法の指導
⑤物流管理および運用の基本ルールの設定
⑥その他

2.協力物流会社の見直し
①候補会社のリストアップ
②コンペ開催要項の作成
③データ開示に必要な物流データ整備サポート
④コンペ事務局サポート
⑤NLFの提供する「物流事業者評価表」に基づく物流会社の評価、選定
⑥その他

3.物流管理者の採用サポート
①後任に求められる能力、実績、人物像、条件などの抽出
②採用媒体の選定(自社採用の場合)
③外部紹介会社の選定

これら項目を実施するに当たっては、いくつか留意すべきポイントがあった。1つは既存の協力会社との関係性だ。
既存の協力会社をいきなり切るような真似はすべきではない。思わぬトラブルに発展する恐れがある。
まずは既存の協力物流会社と協議して、先方に改善を求めるところからスタートする。ただし、期間を明確に区切る。具体的には2カ月の猶予を与えて、その期間内に協力会社の自主的な改善が成果を挙げれば良しとする。進捗が見られなかった場合にコンペを実施するという段取りを提案した。

2010.07■図●イレギュラー業務の要因分析フォーマット(例)

トップダウンで取引条件改革
それと並行して自社改善に取り組んだ。まずは新しい物流フローの整備だ。
既存の物流フローは、近く定年を迎える物流担当者C氏が長い年月をかけて構築したものだった。当然ながらC氏はプロジェクトメンバーの1人であり、ミーティングにも毎回出席してもらった。C氏に関して筆者には少し不安があった。
物流フローの改革は、過去のC氏の仕事の否定という側面を持つことになる。C氏としては面白いわけがない。場合によっては、C氏が改革のブレーキになるかも知れないと懸念した。しかし、それは杞憂だった。
毎回のミーティングでC氏はこれまで自分がやってきたことを説明すると同時に、〝やり切れなかったこと〟、〝手を着けられなかったこと〟などを客観的に開示してくれた。C氏は自分の過去の仕事を肯定も否定もせず、正確に伝え残そうとし、改善できるところは引き続き協力するといった姿勢を貫いた。
そんな人物に出会うことは珍しい。もともとC氏が誠実であることに加え、長年務め上げた会社に対する愛情もあるのだろう。そのお陰で物流フローの整理は思いのほか順調に進んだ。それとは反対に、予想以上にやっかいだったのがイレギュラー業務の改善だ。これまでにE社は協力物流会社から何度も取引を断られていた。
いずれも「E社さんの仕事は日々の物量の変動が大きく、イレギュラー業務が頻発するのでもうこれ以上、対応できません」という理由だった。
しかし、イレギュラー業務はどんな会社の物流でも少なからず発生するものである。過去のE社の協力会社のリストを見ると、そこには名前を聞いたこともない独立系の乙仲ばかりが並んでいる。
イレギュラー業務が頻発するのはE社だけに原因があるのではなく、既存の協力会社の対応力にも問題があったのではないかと推測した。ところが、蓋を開けてみて驚いた。
E社の物流フローは受注から出荷指示のプロセスまで、すべてが〝何でもあり〟で、運用ルールというものが一切なかった。顧客の要請次第で業務内容がコロコロ変わるため、イレギュラー業務の発生も〝メガトン級〟であった。
これにトップダウンでメスが入った。「わがままを言う顧客は切っても良い」とトップが号令を下したことで、営業と顧客との納品条件交渉が急ピッチで進められた。
この分野では圧倒的なシェアを持つE社ならではの荒療治といえるが、この取引条件改革で失った顧客は結局、皆無であった。その結果、イレギュラー業務の7割が解消された。

物流の整備で営業力が向上
残り3割の改善、そして物流フローの最適化の仕上げには、やはり協力会社の力が必要であった。
協力会社に当初約束した通り、タイムリミットとした2カ月目でいったんプロジェクトの中間総括を行い、そこで協力会社の見直しが必要か否かを協議した。結論としては「必要」であった。
これにはプロジェクトリーダーで営業担当役員のA氏の強い意向が働いていた。現状を分析した結果、クレームが多発した原因は主にE社にあり、協力会社のせいでないことは分かった。しかし、前述のようにE社の売り上げは年々拡大し、それに伴い協力会社に求める要件も高度化している。
E社が次のステージに進むには、新たな要求に対応できる物流パートナーの選定が不可欠だという判断だった。
筆者もその考えに賛同した。E社に限らず、物流パートナーの選定はリストアップの段階で90%は決まってしまうものである。そしてE社が顧客ターゲットとする特定業界もしくは印刷物というカテゴリーには、その分野に強いとされる専門知識を持った物流会社が複数存在している。しかし、E社はそれらの物流会社と話し合いの機会さえ持ったことがなかった。過去に数多くの物流会社から仕事を断られてきたことがトラウマになっていた。
今回のプロジェクトはトラウマを払拭する良い機会となるはずだ。このプロジェクトは現在、物流パートナーの選定段階にあり、まだ進行中である。しかし、既に大きな効果が現れている。自主改善によって物流フローがスムーズなったことで、E社が強みとする営業力がいっそう向上した。
営業が自社の物流に不安を抱えたまま顧客と交渉しているようでは説得力など持ち得ない。その不安が解消されつつある。
また物流担当者C氏の後任には、中途採用ではなく、営業部の中堅社員を充てることになった。物流の専門家を外部に求めるよりも、E社の製品、顧客特性を理解している社内のスタッフに、一から物流を習得させるほうが有効だという判断だ。
物流の専門性はパートナーに託し、E社は本業に特化するという考え方で、これも筆者に異論はなかった。
急成長によって顕在化した物流問題にメドつけたことで、E社の快進撃はまだまだ続きそうだと期待している。