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第91回 事例で学ぶ現場改善:『長距離運送E社の黒字化プロジェクト』

大手物流会社の下請けの長距離運送に徹してきたE社。目標だった年商10億円を達成した直後にリーマンショックに襲われた。その後は減収減益で赤字転落を余儀なくされている。立ち直る方法はあるだろうか。金融機関から相談を持ち込まれた。
 

年商10億円のハードル
E社は長距離輸送をメーンとする年商10億円の運送会社である。
関東に本社を置き、近隣に2カ所の営業所を構えている。
所有車両台数は87台。そのほとんどがトレーラー、10トン車、増トン車などの大型車である。
売り上げのほとんどは大手物流会社の下請け輸送、具体的には路線会社A社、倉庫会社B社、物流子会社C社の3社の仕事で占められている。
E社のような中小の運送会社は、荷主と直接取引するよりも、大手物流会社のアンダーに徹したほうが、仕事量が安定し、ペナルティなどのリスクも低くなるという経営トップの判断から、現在のような売上構成を長年維持してきた。
これまで筆者はこのような運送会社に数多く接してきたが、年商10億円という売り上げ規模は、運送会社にとっての1つのハードルになっていると感じている。
10億円を突破できると、燃料代や車両費などの購入にボリュームディスカウントが効いてくる。規模のメリットによってコストが下がり、業界における知名度も増すため、人材確保が容易になる。
また荷主からの信用も高まってくる。E社はこのハードルをぎりぎりクリアしていたが、事業領域を輸配送に限定している点に特徴があった。
E社のように輸配送から事業をスタートした会社の多くは、保管や流通加工に業務領域を拡大し、付加価値を高めることで売り上げを創っていくものだが、そうはしていなかった。そこにE社の改善ポイントがあった。
筆者がE社を知るようになったきっかけは、ある金融機関の紹介であった。リーマンショック以降の長引く不況によって、E社がいよいよ赤字経営を強いられることになったことから、その経営状況を診断し解決策を提示して欲しいという依頼であった。
E社のT社長は、筆者とちょうど同い年であった。E社に就くまでは物流とはまったく無縁な仕事を転々としていたが、24年前にE社の前社長の娘であった現在の奥方と知り合い、それをきっかけにE社を切り盛りするようになったという。
義父にあたる前社長は、T氏に対して〝E社のことはお前に任せた〟と一任し、それ以降は関連会社の経営に注力するようになり、社長の肩書きこそ残していたがE社にはほとんど姿を見せなくなっていた。
T氏は全く運送業界のことなど分からない状態で、当初は女性事務員と2人で配車を行い、ドライバーたちとすったもんだの日々を繰り広げた。新規採用をかけても人が集まらない。やっとのことで入社してくれた社員も長続きしない。それだけE社の仕事は、乗務員、事務員ともハードであった。T氏の心労は重なり、ついに体調を崩してしまったが、それでも休むことは許されなかった。
前社長は経営の第一線からは退いていたものの、その後も倒産寸前の運送会社を買い取り、E社に統合させるというかたちで、M&Aを2度行っている。
そうした統合会社の番頭格の社員たちが、E社の幹部として定着してくれたことで、ようやくT氏は現場仕事から解放され、新社長として経営に集中できるようになった。ところが、そんな矢先にT社長は身体を壊してしまった。現場の混乱が収束し、ひとまずは肩の荷が降りたという安心感からなのか、それまでに蓄積された疲労が一気に表に出て、入院生活を強いられることになってしまった。
その後、病状は落ち着き、現在は経営に復帰しているが、それでも心労が重なると時々持病が頭をもたげてダウンすることがある。

車庫の分散で管理が疎かに
しかし、T社長のそんな姿を見て、番頭格たちが奮起した。
もともとT社長は親分肌の性格で人情に厚い。加えて統合会社出身の番頭格たちには前社長に助けてもらったという意識もあり、皆ががむしゃらに働いた。
そして4年前には「売上高10億円」という目標を皆が共有するようになり、2年後にその夢を達成したのであった。
リーマンショックに見舞われたのは、その直後だった。売り上げが急減し、しかも運賃水準が下落したことで、それまでの成長ペースから1点、大幅な減収減益を余儀なくされて、ついには赤字に陥ってしまった。
そんなE社を再び黒字化することが、我々日本ロジファクトリー(NLF)に与えられた使命だった。
我々はまずE社の現場を視察し、幹部へのヒアリングを行った。それと並行して各種の実績データ、資料などをチェックした。E社はドライバーの給与に歩合制を導入していた。
長距離主体の運送会社では珍しいことではないが、歩合の比率が大き過ぎた。また車庫が分散していることが影響し、ドライバー管理、運行管理がほとんどできていなかった。そのことが車両事故、商品事故の多発を招いていた。せっかくの利益が事故費で飛んでいた。
コンプライアンス(法令遵守)という側面からも、E社は〝危ない橋を渡っている〟ところが垣間見られた。これらの情報を元に、我々NLFはE社の〝ヒト、モノ、カネ、情報、その他〟に関わる問題点と改善の方向性を以下のように整理した。

1.ヒト
①ドライバーのアルコールチェックや対面点呼などができていない
→ドライバー管理の徹底
②ドライバーによって洗車に大きくバラツキがある
→洗車ルールの設定と徹底
③休車率ゼロ化と欠勤時の対応力増強
→複数の車種を担当する「マルチドライバー」の拡大
④採用活動の強化
→管理職に①履歴書の読み方、②面接の行い方を修得させる
⑤過去10カ月に大小63件の事故が発生している
→車両事故、商品事故の削減
⑥ドライバー給与の歩合比率が高い
⑦専属スポット車両の管理の実施
→配車管理を行い、所在と業務実態を把握する
⑧ドライバー、作業員に対する教育・研修および指導体制の構築(商品事故・車両事故・誤出荷対策として)
⑨事故報告書提出の徹底
⑩事故当事者による朝礼時での本人報告のルール化

2.モノ
①不要な土地の返却
②土地の有効活用の検討→新規収入の獲得
③本社保管スペース拡大による倉庫収入の獲得
④拠点集約による賃貸料の削減

3.カネ
①月次決算の作成に一カ月以上かかっているが、
これを7日間レベルにまで短縮し、
損益情報をスピーディに収集し当月の黒字化対策を打ち出す。
そのために運賃が後決めになっている取引先との交渉を行い、
請求書発行までの業務プロセスを改善する
②車両別損益表と日別損益表の導入による利益管理の徹底
③燃費管理の徹底によって、燃料費の削減、車両の寿命延長、
事故の削減を徹底する
④月ごとに赤字、黒字が入れかわりになっている。
予算計画の作成による軌道修正の仕組みを作る

4.情報
①商品事故原因の追求と解決策の抽出
②事故情報の共有化による危険予知意識の向上
③後決め運賃の削減

5.その他(営業、管理他)
①荷主との直接取引を拡大し、売り上げ構成比の修正を図る
②ホームページSEO(検索エンジン最適化)による新規問合せの拡大

これらの内容を基にして、E社の経営幹部たちと第1回目のミーティングを行った。それぞれのテーマに、T社長が担当者を割り振った。その約3カ月後、第2回目のミーティングに出席した筆者は、彼らの行動力に驚かされることになった。
わずかの期間で成し遂げられた数多くの改善とその成果が、第2回目のミーティングで報告された。そのなかでも特筆すべき点を以下に挙げる。
①車両事故、商品事故を4分の1に削減
②暫定版の月次損益が翌月10日にはできあがるようになった
③土地の返却、車庫の集約、その他経費項目の見直しで月間95万円のコスト削減を実現した
④歩合比率の引き下げ交渉を無難に乗り切り、総人件費を15%圧縮した
⑤採用担当の管理職が履歴書の読み方、面接の行い方を習得したことで、乗務員の当たりはずれがなくなった
⑥計画未達が心配された期末の3月の月次の売り上げが対前年130%となり、再び年商10億円の大台に乗せた

結果として、E社はわずか3カ月間の活動で見事に黒字転換を成し遂げた。T社長と幹部たちの間には、長年の付き合いを通じて〝即時処理〟が暗黙のルールとなっていた。つまり打てば響く組織になっていた。それが黒字化の最大の要因だと筆者は評価している。

“後決め運賃”をどう解消するか
しかし、課題も2つ残されていた。1つはドライバー管理の問題だ。長距離輸送の拠点では24時間、入出庫がある。管理職が不在の深夜帯での対面点呼やアルコールチェックをどうやって行うか。2つ目は、後決め運賃だ。
傭車などでは配送の終了後に運賃の決まるケースがある。これをどう改善するかという問題であった。
深夜の点呼・アルコールチェックについては、シルバー人材を新規雇用するというアイデアが出た。
コストアップを免れないが、仕方のないところだろう。
しかし、それに対してリーダー格の番頭が「うちら3名が、交替で出てきます。(乗務員管理を)やる以上は徹底したい」と手を挙げてくれた。
これにはT社長だけでなく我々NLFも頼もしさを覚えた。もちろん幹部たちの頑張りに甘えすぎるのはよくない。いずれはシルバー人材等を新たに投入するとしても、まずは自分達で実態を把握しておくことは重要だ。そんな判断から、幹部たちの提案をT社長は喜んで受け入れたのであった。
二点目の後決め運賃ついて。
後決め運賃が発生するのは主要荷主3社のうちの1社、X社だけだった。実は我々NLFは、過去に他のクライアントの案件で、このX社と同様の問題を話し合ったことがある。その件では後決め運賃に加え、長時間にわたっていた積込み待ちの改善がテーマだった。そのクライアント先の社長と一緒に先方のトップに直談判を行った。
大手上場企業らしく、トップから丁重にお詫びをいただき、改善を約束してくれた。しかし、このクラスになると、上層部の言うことと現場のやることに、かなり開きのあることが珍しくない。やはり現場の対応が重要である。
そもそも後決め運賃は依頼主が一方的に悪いというわけでもなく、仕事を受ける側にしても、遠慮して値決めをしない、話し合いを諦めているところがある。
実際、E社でもT社長が配車実務を担当していた時代には、要請や話し合いを繰り返すことで、後決め運賃問題がほとんどが消されていた。その進め方を再び、現在の配車担当者に指導していくことした。
こうした管理や教育の成果が、利益率の向上となっては現れてくるまでには、しばらく時間がかかる。
それでも、赤字に陥り、管理も不十分で、一見すればダメに見える運送会社でも、ポイントを押さえて、着実に改善を加えていくことで、誰もが認める良い会社に生まれ変われるということを、筆者はE社のケースを通じて改めて確認できたのであった。