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第92回 事例で学ぶ物流改善:『化学品商社Z社の最適化プロジェクト』

買収を重ね、規模を拡大することで中間流通の再編を生き抜いてきた。しかし物流の統合が後回しになっていた。各拠点でそれぞれに日々の運営を処理しているだけで、物流管理に責任を持つ部署はなく、専門知識を持った人材もいなかった。経営者は強い危機感を持って「物流最適化」に乗り出した。

「最適化」とはいうものの…
化学品の輸入販売をメーンとするZ社は東京に本社を置く年商500億円の中堅商社だ。
Z社のS社長とは、筆者が日本ロジファクトリー(NLF)を創業した14年前からの付き合いである。といっても、時候の挨拶を交わす程度で、直接コンタクトをとる機会はしばらく途絶えていた。そんなS氏から連絡が入った。物流コンサルティングの相談だという。
筆者が知り合った当時、S氏は常務の肩書きであったが、その後社長に昇進したとは聞いていた。社名もその頃とは変わって、旧社名の前にもう一つ別の社名がくっついていた。3年前に同業他社を買収したことによる社名変更だった。
久しぶりにお会いするS社長は、額の生え際もすっかり後退し、既に初老の趣となっていた。しかし、物流に対する意識は昔と変わっていなかった。むしろ経営トップに上りつめたことで、Z社が卸として生き残っていくためには物流の高度化が不可欠だという意識を以前にも増して強めているようだった。この14年間でZ社は3度のM&Aを実施していた。
同業他社との経営統合による規模拡大は、中間流通の再編という荒波を乗り切るうえでは正攻法とも言える施策だろう。しかし、M&A後の物流管理体制の統合や物流拠点の再編は後回しになっていた。そこにメスを入れて、「物流を最適化したい」というのが、S社長の依頼の主旨だった。
(物流の最適化か‥‥)正直なところ筆者は、S社長の口から「最適化」という3文字が出てきた時点で、1つの予断を持った。
具体的に何をしたいのか、最適化を測る基準は何か、ベンチマークとなる企業はあるのか、それをいつまでに実現させたいのか等々、プロジェクトの目的や目指す先が明確になっていないのだろうと予測したのである。
というのも、これまでの筆者のコンサルティング経験を振り返ると、「最適化」をテーマに挙げたクライアントには、どこもそうした傾向があったからだ。
プロジェクトの成果が明確でないというのは、実は我々コンサルタントにとっては都合の良い〝潰しの利く〟案件である。またプロジェクトに参加する社内のメンバーたちにとっても、逃げが利くので気が楽だ。しかし、当社にコンサルティングを依頼したことがムダになってしまえば、筆者はS社長に顔向けできないことになる。NLFの名折れでもある。
そんなことから今回の案件は、プロジェクトに着手する準備段階に多くの時間を費やすことになった。
S社長の求める最適化の具体的な最終像を明らかにし、それを実現するための体制作りや方法を検討し、さらにはプロジェクトを開始することに対する社内合意を形成することに、約7カ月の時間を割いたのである。
現在のような不況期の物流プロジェクトとなると、通常はコストダウンをゴールに置いて、そこから必要な改革や改善ポイントを検討していくのであるが、S社長の要望は必ずしもコストダウンだけではなかった。
本社スタッフ部門としての在庫管理部門の設置、受注センター設立による業務の集約と効率化など、〝守り〟を固める施策と並行して、納品リードタイムの短縮による顧客サービス向上、そのために必要な新センター設立などの〝攻め〟も視野に入れていた。
S社長と、Z社のナンバー2であるY専務、そして我々NLFの三者でこれらのテーマを検討し、プロジェクトの大枠を固めていった。その話し合いのなかでZ社がM&A後の統合作業に難渋し、組織内の役割分担の整理や必要な権限委譲などが進んでいないことを知ることになった。
長い準備期間を経た後に、満を持してプロジェクトのキックオフミーティングをZ社の基幹センターで開催した。このミーティングにはもちろんS社長も同席した。今回のプロジェクトをトップダウンで進めていくという意思表明である。しかし、プロジェクトはそのスタートから大きな壁にぶつかった。ミーティング参加者の口から出てくる言葉は「ウチの物流は特殊なんです」「荷姿や納入方法が顧客によってバラバラなんです」といった言い訳ばかりであった。それは変化に対する防波堤であった。
物流改革に生き残りを賭けるS社長やY専務と、現場との間には大きな温度差があった。しかもセンター長の1名を除き、他のプロジェクトメンバーは全員が物流専任ではなく、他の業務との掛け持ちで物流管理を担当させられていた。
現状認識、改善意識、物流知識という3つの〝不識〟は明らかであった。S社長やY専務もこの状況は重々理解していた。トップダウンの指令が現場まで届かない。業務に落とし込むところでストップしてしまう。しかしM&AでZ社と統合した会社のスタッフにはベテラン社員が多く、単純な人事異動だけでは社員の意識を改革するところまで到底たどり着けないだろう。それが分かっていたからこそ、S社長は我々NLFに改革支援を依頼したのである。客観的な立場から外部の専門家に将来のZ社の〝あるべき姿〟を提示させることを契機として、硬直化した組織を打破し、改革・改善のアクセルを踏みたいという狙いがあった。
この状況を見て我々NLFは、メンバーを集めて定期的にミーティングを行うという通常のプロジェクトの進め方ではなく、節目節目でNLFが報告会を実施し、その場でメンバーたちからの質疑応答を行うことで、軌道修正しながらプロジェクトを進めるという運営スタイルをとることを提案した。
我々NLFが各現場に出向いて現状に応じたアドバイスをしても、それを現場が受け止めて自律的に改善活動を進めていくのは難しいと判断したのである。

まずは“守り”を固める
こうして筆者のセンター視察の旅が始まった。視察先は5カ所。うち1カ所はM&Aで吸収した卸の地方拠点だが、仕入先からも納入先からも移動距離が長い。これは明らかに不要であった。残り4カ所は東西に2カ所ずつ配置されていた。
キックオフミーティングでメンバーが説明していた通り、各センターとも確かに荷姿がバラバラであった。袋物、パック品、フレコンバック、段ボール、タンク、ドラム缶など、多様な荷姿の製品が、パレット、オリコン、ケース、そのまま直置きなど、それぞれの状態で保管されていた。見たところ段積みが不可能な製品も多かった。
庫内レイアウトや保管ロケーションの見直しの際には、仮置き用のスペースを確保する必要があった。ただし、4カ所のセンターのうち一カ所は備蓄型センターで、1年に5カ月程度しか稼働していないという。それが使えるかも知れないとあたりをつけた。
この視察ツアーのヒアリング対象者は7人であった。Z社ではセンター運営を各地の物流会社に委託しており、センターにZ社の社員は常駐していない。その状態でどのような管理を行っているのかに注目していたが、案の定というべきか、担当者の業務内容は、支払物流費とセンターの収支管理、トラブル・イレギュラー発生時の協力物流会社への指示にとどまっていた。他の仕事と掛け持ちで物流管理を任されている以上、これは仕方のないことだろう。
以上の視察とヒアリングを元に我々NLFはS社長とY専務に調査結果を報告した。具体的には、プロジェクトの第一段階として以下の3つの項目を実施することを提案した。

①拠点集約
 買収した地方卸に由来する一拠点は閉鎖。残る四拠点を東西二拠点に集約する
②幹線輸送の共同化
 各拠点がそれぞれに幹線輸送を手配するのを改め、統合管理することで効率化する
③物流専任担当者の設置
 物流担当者の兼務体制を改める

①拠点集約ではまず、仕入先や港からの距離と時間、納入先へのリードタイムを考慮して最適立地を選定する作業を行った。その結果、東日本、西日本とも、現有の一センターが理想的なエリアに立地していることが判明し、そのセンターをそれぞれ拡張することになった。
問題は集約によって閉鎖することになる東西の各一センターが、土地・建物ともZ社が所有する自社物件であることだった。集約後の活用方法を見出さなければならない。売却するか、あるいは物流パートナー企業への賃貸という手段をとるのが普通だが、現在のような環境では売却といっても、よほど価格を下げない限り、買い手を見つけるのは困難だ。
また物流パートナー企業への貸借は、コンペ実施時における付帯要望事項として、「提案依頼書(RFP)」にその旨を提示することができるが、今回のプロジェクトでは物流パートナーの選定を第二段階のテーマとしていた。
協議の末、S社長から「自社物件の処分については後回しで構わない」という指示が出た。これを受けて着手しやすいところから拠点集約を具体的に進めていくことになった。

幹線輸送の管理を統合
②幹線輸送の共同化について、従来は各センターがそれぞれ幹線輸送を手配していたが、効率が悪かった。そこで次の施策を打つことにした。

●大ロット輸送時には、港から東西のセンターに直送する
●割安な帰り便を利用する。発点ベースで輸送を手配するのを改め、着点エリアの地場の運送会社を利用する
●船便やJRコンテナを利用する。市況の安い時期に資材を大量購入して保管しておくというZ社の購買パターンを活かして、在庫日数に余裕のある製品は、輸送スピードは落ちるが料金を抑えられるトラック以外のモードを使用する

③物流専任担当者の設置については、プロジェクトメンバーの中から比較的実務スキルの高い2人を選出した。

Z社の物流コストは支払い物流費だけでも年間約15億円に上っている。その管理に〝かけ持ち〟ではなく専任者を投入しても、物流企画→実行→検証→改善を繰り返していくことで、コストや品質、リードタイムを向上できれば十分お釣りが来る。また今後、〝攻め〟に入る段階では物流管理の専任者の存在が必須であった。
こうしてZ社の〝攻め〟と〝守り〟の最適化に向けたプロジェクトは第一段階を終了した。現在、このプロジェクトは第二段階を終え、効果測定に入ろうとしている。そして次の第三段階からは、正念場とも言える〝攻め〟に入る。そこには物流パートナーの力を借りることなしには超えられない大きな壁が待っている。
まだまだ難所が続くことを覚悟している。