Top > 雑誌寄稿 > 第94回 事例で学ぶ現場改善:『事業部制廃止に踏み切った部品メーカー』

第94回 事例で学ぶ現場改善:『事業部制廃止に踏み切った部品メーカー』

物流改善を目的として現状を分析した結果、事業部制という組織体制自体に問題のあることが分かった。事業部制のメリットを活かすことができていないだけでなく、部門最適から物流の非効率を招いていた。経営トップが決断を下し、事業部制の廃止を含む大がかりな経営改革を断行した。

たこつぼ型組織の弊害
我々日本ロジファクトリー(NLF)が12年ほど前にコンサルティングを実施した機械部品メーカーのD社から連絡が入った。改めて相談したいことがあるという。
電話の相手は当時の窓口だったS常務。今では社長に昇進している。S社長と現在会長を務める前社長の二人三脚によって、D社の年商は、12年前の約80億円から約300億円へと大きく拡大していた。その間、営業利益率も5%を維持してきた。しかし、このところ経営の足元が揺らぎ始めているという。利益率とシェアが低下しつつある。
D社の販売ルートは、工作機械メーカー、自動車メーカー、精密機器メーカーなどへの直販が全体の約75%を占める。残り約25%は大手代理店経由の取引である。
現在の取り扱いアイテム数は約3万5000。うち約7割を国内で生産し、残り3割を中国やタイ、ベトナムなどのアジア諸国から輸入している。高い技術力を必要とする部品は国内で自社生産し、コスト重視の部品は海外から調達するというパターンは、同分野の定石といえる。ただし近年は価格競争の激化によって海外調達比率が年々上昇する傾向にある。国内の競合のほか、韓国や欧米勢の追い上げも激しく、D社としても改めてコストダウンに取り組む必要があった。
久しぶりにD社を訪ねることになった。我々の面談相手はS社長ひとり。他の経営幹部は誰も同席しなかった。珍しいことだ。
「ウチには物流の専門家がいないので改革推進に向けて手伝って欲しい」とS社長。物流を切り口にして、調達、生産、営業、システムまで、組織全体を見直すことで効率化を図ろうという考えであった。
しかし外部のコンサルタントを招くことは、まだ社内に話していない様子であった。我々はまずD社の現状を把握するため、主要な物流拠点を視察に回ることにした。
それと並行してS社長に必要なデータと資料を用意してもらった。そこから我々が導き出した分析結果は、事業部制の形骸化であった。
D社は組織を製品群や販売チャネルに合わせて4つの事業部に分けていた。周知の通り事業部制においては、本社権限を各事業部門に委譲し、損益の責任も持たせることで、各事業部がそれぞれ独立した会社と同様に活動する。これによって柔軟で素早い意志決定が可能になり、本社組織の肥大化を防ぐ効果があるとされている。しかし、事業部制を機能させるには高いヒューマンスキルと、事業部の活動をサポートしチェックする組織横断型の管理機能が必要になる。そのため一定の規模と成熟度を持った会社でないと、事業部制のメリットを活かすことは難しい。
筆者はこれまでのコンサルティング経験から、年商500億円というラインが一つの目安になると考えている。それ以下の規模で事業部制を導入している会社には、物流費の高い会社が多いと感じている。
D社はこの基準をクリアしていなかった。本社に管理本部は置いていたが、各事業部の活動を調整し相乗効果を上げることはできていなかった。事業部間の人事交流や異動などもまったくない状態であった。
D社が事業部制を採るようになったのは、過去のM&Aがきっかけだった。売上拡大のために買収した会社をそのまま事業部として組織に加えたものの、その後の人事やシステムの統合には全く手がつけられていなかった。その結果、物流面では以下ような問題が顕在化していた。

■販売管理システムが事業部ごとに異なる。
■事業部ごとの物流費が明確になっていない。
■A事業部を除き、他の3つの事業部には物流管理の専門組織がない。(実は15年前までD社は物流子会社を持っていた。しかし外販能力を持たず、親会社の仕事に100%依存した状態で、コスト高であったことから清算していた)
■各事業部でバラバラに協力物流会社と取引している。マテハン類や備品も各拠点で勝手に購入している。ボリュームを活かしたコストダウンが図れていない。

まずは各担当役員と現状認識を共有し、改革を実施することへの合意を得る必要があった。
D社はカリスマ性を備えた経営者による強いトップダウンで運営されてきた会社だ。それだけに役員たちは上を向いて仕事をする傾向があり、隣の部門には全く関心がないといっても過言ではなかった。そのため役員会で調整を図るのではなく、トップ自身が個別に担当役員と話し合い、説得する形で意識の統一を図った。

製・販・物の合同連絡会議を設置
我々のアドバイスを元に、S社長は一年後をメドに事業部を廃止することを決断した。
従来の販売チャネル別・製品別のタテ割りの事業部制をフルラインのエリア制に改組し、組織をスリム化することでコストの抑制を図る。これはD社にとって過去に経験したことのない大改革であった。
物流管理面では、まず組織改革に取り組んだ。A事業部の既存の物流管理組織を本社部門に格上げし、その業務内容、管理対象範囲を明確にしたうえで、必要なスキルを備えたスタッフを人選した。さらに製造・販売・物流の各担当者で構成する「合同連絡会議」の設置を当面の目標に据えた。
従来、D社では製造計画、販売計画、在庫計画を各事業部が立てていた。その結果として、作り過ぎによる在庫過剰が発生する一方で、慢性的に欠品しているアイテムが存在していた。
過去に改善活動に取り組んだこともあったが、納品率は96%にとどまっていた。これにメスを入れるには、在庫情報、新規顧客情報、既存顧客からの内定受注情報を全社的に共有して、在庫がだぶついているアイテムの販売強化、および欠品が目立つアイテムについては、その理由の明確化などを進める必要があった。社員たちが組織横断型のマネジメントに慣れるための前哨戦としても合同連絡会議の設置は大きなポイントであった。
全社共通の課題である「在庫」と「需要予測」をテーマに全体会議を運用することで、他部門のことには興味を持たないという悪弊を払拭しようという狙いもあった。
同会議において、現状の在庫回転率17・5回を業界平均の22・0回まで向上し、また納品率を96・0%から99・9%に改善することを、プロジェクトの最終目標として定めた。
これを受けて統合業務では、人事考課、給与体系の見直し、そして受注システムの集約を実施した。D社の納品リードタイムは事業部によって最大1カ月強もの差があった。また受注形式も販売チャネルごとに、「①EOS」、「②WEB」、「③電話」、「④ファックス」、「⑤営業マンによる受注」の比率が大きく異なっていた。
大手メーカーとの取引はEOSやWEBがほとんどだが、中小企業や代理店経由の受注はどうしてもアナログ受注の比率が高くなる。
これらをすぐに一本化するのは現実的ではないと判断し、従来の事業部別の四種類の受注システムを2つに集約し、当面は2つのシステムを並行して運用するかたちをとった。
これと並行して物流拠点の再編と物流コンペに取り組んだ。コンペは候補企業の選定の段階から紛糾した。各事業部の意向がそれぞれ異なっていた。どこも自分たちが従来から取引していた協力会社を使いたがった。
そこで我々NLFが、D社における物流の〝あるべき姿〟を提示することにした。輸配送、保管、センター運営、海外インフラなどの各項目において、必要とする物流サービスを明確にして、そこから物流パートナーに求められる条件を抽出した。結局コンペの運営は、A事業部の物流管理組織を格上げした物流管理部門が実行部隊となり、最終的な選定はトップに一任するかたちで進められることになった。
結果的には従来から3つの事業部と取引していた倉庫系のS社をパートナーに選んだ。
競争力のあるコストに加え、D社の業務に熟知していることなどが理由だった。なお事業部の廃止に伴い、古参の担当役員2名に対して退任を勧告する必要があった。
売上規模の最も少ないD事業部の幹部社員もリストラの対象とせざるを得なかった。トップと各対象者が膝をつき合わせて話し合った末、彼等を関連会社の顧問というかたちで、低報酬ながら再雇用することで決着をつけた。

事業部制は機能しているか
これらの実施項目は今回のプロジェクトで実施したうちのごく一部に過ぎない。それだけD社の改革は広範囲にわたるものであり、なかには難航したテーマも少なくなかった。当初は一年をメドとしていた事業部制廃止の時期は結局3カ月オーバーすることになった。それでもS社長の強いリーダーシップによって計画は実行に移されたのであった。
一連の改革によって、D社の組織は簡素化された。人事面も大きく刷新された。その結果、従来は各事業部が囲い込んでブラックボックス化していた、クレーム処理やイレギュラー対応、執行管理のやり方などが解明されたのであった。
物流コストは、対売上高支払い物流費比率が従来の2・2%から1・85%に抑制された。金額にして1億2000万円のコストダウンである。
事業部制とエリア制、組織の集中と分散には、絶対的な正解はない。実際の経営において、組織体制とは環境の変化に応じて振り子のように変化するものであろう。しかし、最近の傾向としては、D社のように事業部制が機能不全を起こしているケースが増えているように感じている。
とりわけ組織が成熟していない、事業部単位の売上規模が小さい、組織横断的な管理機能が不在もしくは不十分だといった問題を感じている場合には、物流改善というレベルだけでなく、会社全体の組織体制から、そのあり方について検討を加える必要があるだろう。