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第95回 事例で学ぶ現場改善:『若き四代目と臨んだ輸送費削減プロジェクト』

プラスチック部品を加工する老舗メーカーから輸送費削減プロジェクトの支援要請を受けた。先方の担当責任者は創業家の四代目となる若き社長室長。物流は門外漢だというが、それにしても受け答えが頼りない。プロジェクトリーダーの大任を無事に果たすことができるだろうか。


国内市場の成熟から利益重視に転換
プラスチック加工メーカーのF社は創業100年を数える老舗である。
年商は約45億円で関西に工場を置いている。金型加工で創業したが、高度経済成長期にプラスチック素材の成長性に目を付けて業態を転換した。現在の生産品目数は約800。卸や代理店を通さず、直販体制を敷いている。
F社の対象顧客は大きく3つに分かれる。1つは化学品業界だ。
かつてはF社の稼ぎ頭となっていた事業分野だが、近年は中国や東南アジアで生産された低価格の輸入品にシェアを奪われて苦戦している。昨年はついに赤字に陥ってしまった。
2つ目は情報通信(ICT)業界向けで、電力会社や通信機器メーカーに納品する部品類をメーンとしている。
この分野の主要顧客は技術開発や安定調達のためにサプライヤー各社を協力会社として組織化しているところが多い。サプライヤーの入れ替えや新規参入はあまりなく、価格競争も起きにくい。その恩恵を受け、F社の同事業の売り上げは毎年安定している。ただし、今後の大きな伸びは期待できそうにない。
3つ目は自動車業界向けだ。同分野でF社は系列を超えて自動車部品メーカーに広く支持されている。
F社の3つの事業領域のなかでは最も勢いのある事業だ。
しかし、部品需要は自動車組み立てメーカーの生産動向に大きな影響を受けるため、売り上げが安定せず、利益率も低い。
いずれの事業も国内市場は既に成熟している。現在、F社は海外からの割安な輸入品に対抗するため、高い技術力を要する高付加価値品の開発に躍起になっているが、それに成功したとしても今後売上規模を大きく拡大していくのは難しい状況であった。
そこでF社は従来の売上重視から利益重視に、経営の基本方針を大きく転換しようとしていた。その一貫で物流コストにもメスが入れられることになった。
我々日本ロジファクトリー(NLF)がそのサポート役を仰せつかったわけである。NLFのホームページの問い合わせページから、F社からのメールが入った。「輸配送コストを下げたい」と書かれていた。
これを受けて後日、大阪市中央区にあるF社の本社を訪れた。面談相手はF社の社長室長のN氏。NLFに問い合わせをメールを入れた本人であり、F社の四代目にあたるという。リーマンショック直後からF社では、調達から生産、事務コスト、そして人件費などの様々なコスト削減策を実施してきた。しかし、物流コストにはこれまで手をつけていなかった。
社内に物流の知識、経験を持った人材がいないため、どのように進めれば良いものか全くわからなかったという。それでも、これまで実施した各種のコストダウンプロジェクトは全て社長室長のN氏がプロジェクトリーダーを務めてきた。
今回の輸配送コストプロジェクトもN氏がリーダー役を担うという。そこで我々はN氏に対して改善の前提となる物流の実態を知るために種々の質問を行った。
質問は「基本となるリードタイムはどれくらいか」、「自社車両の車両サイズは、どんなサイズか」
といった基本的な内容である。
ところがF氏は支払物流費の協力会社別・月別一覧表を見せるだけで、ちんぷんかんぷんな答えしか返ってこない。N氏が物流の門外漢であることを差し引いても、あまりに準備不足であった。それとも情報開示を拒む理由が他に何かあるのではないかと、疑いたくなったぐらいである。
拙速な判断はつつしむべきではあったが、まだ30代半ばの若き四代目に我々は一抹の不安を抱かざるを得なかった。そのままでは仮説を立てるどころか基本的な提案書も作成できないため、日を改めて、我々がF社の工場および倉庫の視察と現場担当者にヒアリングを行うことをN氏に提案し、了解を得た。

提案の場に先代を引きずり出す
我々は現地視察とヒアリングを無事に済ませ、改めて提案を行うことになった。その席にはN氏の実父であるT社長にも同席を願った。
提案はキーマンへ──我々がこれまで痛いほど学んできたコンサルティングの基本である。N氏には失礼なお願いであったかも知れない。N氏に対して感じた一抹の不安が我々をそうさせた面は否定できない。とはいえ、第一印象というのはそう簡単には払拭されないものだ。
我々はF社に対して、支払運賃だけではなく「トータル物流コスト」さらには「全社コスト」の範囲にまで拡大して、改善に着手する必要があることを伝えた。
N氏が削減の対象としている支払い運賃は年間1億円にも満たない少額であった。我々のような外部のコンサルタントを使ってそれを削減しても、コンサルティングフィーに見合う効果を得るのは難しかった。また改善の余地も限られていた。
F社は地元のS運輸を中心に複数の協力会社を利用していたが、各社の役割分担は明確であり、既にフォーメーションが出来上がっていた。これに対してT社長からは、
①いっそうのコストダウンを希望していること
②首切りはしないこと
③長年の付き合いであるS運輸との取引は継続すること
などの基本方針が我々に伝えられた。これで改善の骨格が固まったのであった。
このミーティングを受けて、我々NLFは当初、13の改善実施項目を挙げた。そこからF社の社風や改善実現力、期間と効果の検証などを行い、最終的には以下の7つに絞り込み、それぞれの施策に優先順位を付けた。

(1)路線会社の集約による車両手配業務の簡素化とボリュームディスカウント交渉の実施
(2)調達物流の内製化による仕入れコスト削減の検証。(①自社便による引取り、②S運輸既存便の帰り便活用、③S運輸の新規引取り便設定)
(3)自社車両(トラック)の使用方法の見直し、納品、引取りなどの効率化と、それによる減車
(4)運行日報の記入による配車効率および燃費の改善
(5)運送原価の算出による「運行四費(燃料油脂費、修理費、消耗品費、高速費)」のチェックとムダの排除
(6)支払い運賃の料金体系見直しと車両サイズの見直し(①相場との比較、②変動費化(個建て、重量当たり他)、③車両サイズの見直し)
(7)出荷業務の集約化

当初挙げた項目のうち、「出荷量の少ない、Bランク、Cランク顧客への出荷頻度の見直し」などは削減した。
Bランク、Cランクの得意先にも毎日、小口出荷しているのは明らかにムダである。得意先とF社の営業が交渉すれば配送回数の削減や最低取引ロットを承諾してもらえるかも知れない。しかし小ロット、短納期がF社の〝強み〟である可能性もあった。それを失うような施策は当面は避けた方が良いと判断した。実際、自社の強みを無視した物流改善によって、コストは下がったが取引を失ってしまったというケースは決して珍しくはないのである。

プロジェクトメンバーの選び方
こうして七つに絞り込んだ改善項目について、それぞれ週単位の実施スケジュールを作成した。そして各項目の実務責任者を決めた。その人選でもアドバイスを行った。
当初、N氏はプロジェクトメンバーとして、物流現場の管理者と、現場業務を熟知しているベテラン陣の計3名をリストアップしていた。しかし、〝老舗のベテラン物流マン〟というスペックを我々は危惧した。長年続けてきたやり方の変更に最も強く抵抗するのは、往々にして現場のベテランである。それよりも、物流に関するスキルを持ち合わせていなくても、N氏が社長となった暁にはその右腕として活躍することが期待される人物、あるいはF社の将来を担うであろう若手からメンバーを選んで欲しいとお願いしたのである。
その結果、財務・経理、購買、営業事務から、それぞれ1人ずつがメンバーとして選出された。この3人は非常に優秀であった。なかでも営業事務担当の女性社員は、F社の何が問題なのかがよく分かっていた。我々の要請も十分に理解し、必要な情報を的確にフィードバックしてくれた。贔屓目なしに、彼女なくしては、このプロジェクトの成功はなかったであろう。
彼女を始め再選出された3人のメンバーは、それぞれ与えられた課題やテーマ、そして協力会社との交渉などを精力的にこなしていった。その活躍とは裏腹に、プロジェクトリーダーを務めるN氏の取り組みは遅れがちだった。
トータル物流コストの算出や自社車両に対する車両別運送原価の算出など、経験のない仕事に手間取っていた。N氏は他のメンバーに負担をかけまいとして、手間のかかる課題に、自主的に手を挙げていた。その気遣いは良かったのだが、実務がついていかなかった。
リーダーの面目を保つため、黒子役の我々NLFが汗を流さなければならなかった。それでも、プロジェクトは当初の予定通り6カ月で完了し、T社長が我々のコンサルティングを受けるに際して望んでいた費用対効果を実現することができた。その主なポイントとしては以下が挙げられる。
自社車両3台のうち3t平ボディ車1台を幌車に改装し、引き取り(ミルクラン)を実施して仕入れコストを削減。それまで協力会社が担当していた納品先のうち4社を自社納品に切り替え、支払運賃を削減。また各事業部に1台ずつを配分していたバン型社用車を全事業部共通の事前予約制(カーシェア制)に切り替え、1台に集約したことで、バン型車2台分のリース代を不要にした。
こうして我々はコンサルタントとしての責任をひとまず果たせたものの、N氏のことは今も気にかかっている。

今回のプロジェクトを通じて、N氏が四代目として社内で認められるようになるには、まだ時間がかかりそうだという印象を得た。それでも社員を気遣うN氏の優しい性格は、これまでも社員を大事にしてきたF社には相応しい。
N氏の下にF社の次世代を支える有能なブレーンたちが集まってくれることを、筆者は心から望まずにはいられないのである。