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第96回 事例で学ぶ現場改善:『新興SPAの最適化プロジェクト』

雑貨・アパレル品の製造小売り(SPA)として急成長を遂げたK社が、プロジェクトチームを組んで、物流改善に乗りだした。オペレーションの実態を調べ、仮説を検証していくうちに、問題は物流よりもむしろ受発注の仕組みや未成熟な組織にあることが分かってきた。

ローコストではあるものの…
K社は国内7大都市を中心に展開する直営店で自社企画の雑貨・アパレル品を販売するSPA(製造小売り)である。
東京に本社を置き、年商は約120億円。ターゲットとする顧客年齢層別に3つのブランドを展開し、約4300アイテムを取り扱っている。
K社の顧問を任されている人物から、物流体制を整備したいとの相談を受けた。それを受けて後日、筆者はK社の物流改善の担当メンバーと会うことになった。その席には顧問の姿は見当たらなかったが副社長のA氏と物流全般の実務責任者であるY氏が我々を迎えてくれた。
約2時間強は要したであろうか、様々なヒアリングを行なった。K社はこれまでも自分達で委託配送会社の見直しや運賃の抑制などを行ってきたが、次の一手が見えず、改革が行き詰まっているとのことであった。事前に簡単なミーティング用の資料を準備してくれていたが、物流の問題点を炙り出すまでの情報レベルには至っていなかったため、ほぼ白紙の状態からの情報収集作業となった。
K社の商品の生産地は80%が中国および東南アジア、残り20%が国内という構成だった。物流拠点は関東圏内に2カ所。1カ所は自社運営、1カ所は外部委託となっていた。
拠点はブランド別に分かれており、複数拠点の場合によくある〝横持ち〟は、ほとんど発生していない。支払物流費は売上高の2%にも満たなかった。
雑貨・アパレル業界および類似業種の平均的な水準と比較して、非常にローコストといえる。現状の2カ所の物流センターはいずれも小規模だった。手狭なスペースで恐らく現場は相当に混乱しているはずだが、それでも保管料と人件費を抑えて回すことはできているのであろう。
そこまで説明を聞いた限りでは、K社の物流に決定的な問題があるとは感じなかった。しかし、実務責任者のY氏曰く「返品コストが高くかかっている」という。そこで返品の発生原因を尋ねたところ、次の順で多いという。

①売れ残りによる返品
②サンプル品の返品
③不良品の返品

これを改善するには、物流オペレーションの見直しや支払物流費のコストダウンではなく、最適化が必要である。
今さらではあるが、筆者は物流コンサルタントである。しかし、このところ筆者が相談を受ける案件は、どれも最適化をテーマとしている。これは偶然ではないのかも知れない。個別最適や経営の歪みが物流にしわ寄せされる傾向が強くなっているのではないか。Y氏の説明を聞いていて、そんな考えがふと頭をよぎった。
ともあれ、テーマがはっきりしたので、次のステップは改革・改善の仮説の提示である。売れ残りを原因とした返品の抑制には通常、発注点の見直し、需要予測の精度向上、店頭およびバックヤード在庫の管理方法の見直しといった手法をとる。その点に関して現状を尋ねたところ、何とK社には店舗発注の仕組み自体がないという。各店舗への商品の配分は、すべて本部が割当てていた。
それを聞いて先ほどの物流センターの件も合点がいった。手狭なスペースでの作業を強いられている現場では誤出荷(品違い、数量違い、店舗違い)が少なくないはずだ。しかし、K社では本部配分のため、店舗側では到着した商品をすべて〝売りなさい〟のサインだと受け取る。つまり誤出荷という概念がない。いくら商品回転率の高い商品を扱っているとはいえ、そのままでは売れ残りを減らすのは困難であった。
このようなK社特有の物流環境を把握したうえで、最適化に向けて以下の5つの仮説を提示して、さらに協議を行った。

①物流拠点2カ所の統合による作業の集約と一元管理の実施
②自社運営センターの外注化による本業への特化
③今後の規模拡大をサポートできる物流パートナーの選定
④作業効率を上げ、品質の悪化を防ぐのに最低限必要な350坪以上の倉庫スペースの確保
⑤出荷頻度の見直し

以上の仮説のうち⑤出荷頻度の見直しを除いた4つの項目は、実施に伴い新規投資もしくは新たな支払い費用の発生が避けられない。現状と比べれば売上高物流費比率もアップすることになるだろう。いくらそれが最適化やサービス向上につながるとしても、プロジェクトの最高責任者である副社長のA氏は首を縦に振ることはできなかった。
こうなると改善に向けた一歩が踏み出せない。他のプロジェクトメンバーは戸惑いを見せた。しかし、我々コンサルタントにとっては、副社長の経営判断が下されたことは必ずしもマイナスではなかった。テーマを絞り込めた。〝投資なし、コストアップもない最適化〟である。

センター業務を中国に移管
その方針の下に再度、仮説を洗い直し、当初は第2ステップのテーマと考えていた項目を、第1ステップに引き摺り下ろした。以下の3つである。

①物流センター業務の中国移管
②フォワーダーの見直し
③店舗スタッフの物流業務の軽減による販売への集中

①物流センター業務の中国移管ついて、K社では海外生産分のうち九割を中国で行っていたため、検針、店別仕分けなどの作業を可能な限り現地で行い、人件費の高い日本国内のハンドリングを避けて店舗に納品するプランを作成した。
K社と同業の大手Y社は既に数年前からそれを具現化していた。そのことを知るプロジェクトメンバーたちも物流業務の海外移管というアイデアには一定の手応えを感じていたようだった。しかし、いざ実行に移すとなると壁は高かった。
センター機能の現地移管には、現地パートナーの発掘と、そのパートナーを日本流のきめ細かな作業に対応させる教育・訓練が不可欠であった。しかし、K社には、その仕事を任せられる人材がいなかった。
そのため②フォワーダーを見直して、商社とその系列の物流会社との共同プロジェクトで移管を進める形をとることになった。
③店舗スタッフの物流業務の軽減による販売への集中は、かなり深刻な問題であった。
K社の店舗スタッフは物流センターおよび海外から直接納品される商品の荷受け、検品、陳列、そして返品のための物流業務に多くの時間を割かれていた。ランダムに3つの店舗を選んで、その負荷を実地調査したところ、作業負荷の軽い店舗で一日一人当たり平均2時間、多い店舗では3時間強を物流業務に費やしていた。一日10時間勤務としても、その2、3割を物流業務に割いていることになる。
我々が視察した店舗では平日のスタッフは1名、金土日祝はアルバイトを使って2名で対応していたが、営業時間中も物流業務に追われて販売・接客まで十分に手が回らない状態だった。さらに閉店後には物流センターへの返品作業(集荷依頼、梱包、店舗内移動)にかなりの時間がかかっていた。
これらのことをA副社長と実務責任者のY氏をはじめとするPJメンバーに報告し、店舗発注の仕組み自体を再検討して、その効果を検証するよう提案した。
これを受けて、A副社長とY氏はようやく〝本音〟をもらし始めた。実はA副社長そしてY氏とも、中途採用でK社に入社してから、まだ2年も経っていなかった。そのため現場の実態がよく分からず、店舗での物流作業負担が大きく、販売の足かせになっていると聞いても具体的にイメージできないという。
この二人だけではなかった。K社は事業の急成長にともない、時間的余裕のない状態で人材を手当てし、組織を拡大してきた。そのために経営の問題点を検証し、改善、実行するといったスキームを回すこと自体が困難であった。さらには、現在の3つのブランドのうち、順調なのは1ブランドだけで、他の2つのブランドは売り上げが伸びず、出店計画が停滞している状態にあるという。
筆者がこの話を聞いた時には、既にプロジェクトを開始してから2カ月が過ぎていた。遅すぎる〝真実〟に直面したことでプロジェクトは仕切り直しを余儀なくされた。
K社を我々につないだ紹介者でもあり、K社のビジネスをよく理解している顧問に参加してもらい、改めてプロジェクトに取り組むことになったのであった。

こうしてK社のプロジェクトは消化不良のまま後戻りしてしまった。しかし、新たな体制を組んだことで、物流センター業務の現地化の検討が本格的に動き出した。そのサポート役となる我々の責務は重い。我々もまた捲土重来を期さねばなるまい。