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第97回 事例で学ぶ現場改善:『青果仲卸P社の物流改善プロジェクト』

地方の青果仲卸が物流改善に着手した。同業他社の苦境をよそに市場外流通や輸入果物の増加を逆手にとって急成長を成し遂げた。しかし、物流体制の整備は後回しで、物流子会社は赤字に陥っていた。オーナー一族の次期経営者がリーダーとなって、トップダウンのプロジェクトがスタートした。

青果物流は熟練者の聖域
青果物仲卸のP社は、地盤とするエリアの5カ所に営業所兼物流拠点を展開している。
現在の年商は約150億円。衰退著しい他の仲卸業者を尻目に、この5年間で3割近くも売上規模を伸ばしている。
理由の1つは事業領域の拡大である。市場からの調達に加え、農家からの直接調達や輸入にまで手を広げ、二次卸のほか食品スーパー、量販店、外食チェーンなどに得意先を拡げた。
もう一つの理由は在庫戦略である。一般に青果物の仲卸は在庫を持たず、市場外流通を扱う場合でもTC(通過型)センターとして物流機能だけを請け負っている場合が多い。
それに対してP社は冷蔵施設を所有し、冬場には2日分の在庫を持って得意先の安定供給のニーズに応えている。年商200億円の達成を当面の目標に掲げている。しかし、それには物流の整備が必要であった。
また親会社向け業務に売上高を100%依存する物流子会社が赤字に陥ったことから、外部の専門家の支援が必要との判断が下り、弊社日本ロジファクトリー(NLF)にコンサルティングの依頼が入った。
P社側の窓口となったのは常務のK氏である。P社の営業総責任者であると同時に物流子会社L社の担当役員も務めている。現社長の長男であり、いずれはP社を背負うことになる人物であった。
K常務はまだ30歳代半ばということもあって、エネルギッシュかつ強いリーダーシップを有していた。そして父親の現社長は決済案件以外のすべての判断をK常務に一任していた。
現社長はK常務の祖父に当たる先代から特別な帝王学を受けることもないまま、若くして社長を継ぎ、それ以降は何事も自分で判断し、実行してきたという。息子のK常務にも同様の道を歩ませようという考えであった。
このことは今回のプロジェクトおよび、それを支援する立場にある我々NLFにとって好都合であった。
営業と物流の意見は往々にして相容れない。調整に多大な労力を必要とすることが多いのだが、P社の場合はいずれも総責任者がK常務であるため、プロジェクトの進行がスムーズになる。実際、今回のプロジェクトでは改善実施までの時間を相当に短縮することができたのであった。
我々はまず現場の実態調査に入った。物流オペレーションは、主に夜19時から翌朝7時までの夜間に行われる。
セリで落とした商品のほかに、近隣の市場から入荷した商品を、P社および物流子会社のL社のスタッフが荷受けして方面別に仕分ける。その仕分けられた品物を得意先の引き取り物流事業者がトラックに積み込む。各産地から持ち込まれた青果物がセリにかけられ、商品と人、トラックとフォークリフトが激しく出入りする夜の青果物市場は活気に溢れ、荷捌き場はさながら〝戦場〟である。
現場は乱雑としていて傍目には、どこに何が置かれているのか分からない。それを数十台ものフォークリフトを使って、P社側のスタッフと引き取り物流事業者が阿吽の呼吸で秒単位で処理している。フォークリフトの通行には、〝優先〟〝譲る〟など、仲間内のサインがあるようだ。
トラックの待機場所やリフトの貸し借りも、引き取り物流事業者を含めた仲間内で柔軟に調整されている。
明文化されたルールやマニュアルはなくとも、このやり方でトラブルや事故はほとんど発生していないという。現場は熟練者のみが立ち入りを許される〝聖域〟であった。新人や経験の浅い作業者ではとても対応できないであろう。その運営スタイルはパート・アルバイトを主力として、誰もがわかる現場づくりを目指す通常の物流現場とは対照的であった。
それでも、現状のP社のオペレーションが最適化の一つのかたちであることは窺い知れた。熟練者ばかりのため現場管理がほとんど必要ない。そのことをK常務にも伝えたところ、彼は大きく頷いた。しかし、このことはP社の物流改善においては、ロケーション管理やレイバーコントロールなどの一般的な手法を使って現場をあるべき姿に落とし込むというアプローチが使えないことを意味していた。正攻法を採ることで、かえってコストアップと現場の混乱を招く恐れがあった。P社の業態に適応した改善テーマの選定と改善手法を検討する必要があった。

物流子会社はなぜ赤字に陥ったのかK常務は当初、以下のような改善テーマを挙げ、それを解決するように我々に依頼していた。

①物流子会社L社の運賃の妥当性検証と改善
②L社の仕分け、ピッキング作業料金の妥当性検証と改善
③適正人員の設定と役割分担の決定
④作業生産性の向上
⑤目標管理の設定
⑥評価システムの導入

しかし、これらのテーマは実態と乖離したK常務のいわば〝願望〟であった。願望を実現する前にやるべきことが多く残されているのは明らかだった。
現場の実態を見ずに願望を我々にぶつけてくるクライアントはP社だけに限らない。その気持ちは我々も理解できる。しかし、土台のないところに家は建てられない。K常務も我々と共に改めて現場を視察したことで、そのことを理解してくれたのであった。
この現場視察に基づいて我々は調査レポートをまとめ、延べ44項目にわたる改善課題を設定した。これらは大きく以下の3つのテーマに分けることができた。

(1)受注票、発送明細書などの帳票の統一とフォームの改善
(2)勤務スケジュールの見直し
(3)P社と物流子会社L社との業務の線引きの明確化

このうち「(1)受注票、発送明細書などの帳票の統一とフォームの改善」は、基本的に営業の問題であった。
P社の出荷現場では正式な受注票以外に3パターンものイレギュラー伝票が使用されていた。これは時間外受注や追加注文の処理がずさんで、営業マンが正式な受注伝票を起票せず原票のまま現場に送ってしまうことが原因だった。
この問題については、営業の総責任者でもあるK常務がすぐさま朝礼で業務部と営業部に受注入力を徹底するよう指示を出した。
また注文の入力ミスによる誤出荷やクレームも多発していた。これについてはいわゆる「赤伝」の一覧表を作成して、一つひとつ原因を探り、それぞれ解決策を見出して問題を潰していくことになった。
「(2)勤務スケジュールの見直し」はP社にとって最も大きな変化を強いる課題であった。先代社長の時代まで、P社の得意先は大半が二次卸であった。
二次卸向けは出荷のピークが早朝四時頃となる。そのため、主だった管理職や現場スタッフ、事務スタッフのシフトもそれに合わせて、「早朝」に厚く、「夜間」に薄い配分となっていた。
一方、市場外流通の青果物をスーパーや量販店、外食チェーンに納品する出荷作業は前日の「夜間」にピークを迎える。
P社の事業内容の変化と共に、時間帯別の作業量は従来とは変わってきていた。そのことはK常務を始めプロジェクトメンバーたちも漠然とは分かっていたが、正確には把握できていなかった。そこで「早朝」「夜間」の時間帯別売上比率を概算で算出してみた。すると3対7の比率で夜間のボリュームのほうが多いことが分かった。いつのまにか主客が逆転していたのである。
この勤務シフトの問題は受注入力ミスの原因にもなっていた。ボリュームの大きな夜間作業で生産性や品質の低下が目立っていたのだ。
「早朝」をメーン、「夜間」をサブと位置付けていたことから、夜間の作業量が増加するのに伴い管理レベルが悪化していた。夜間は受注スタッフの入力をチェックする機能も設けられていなかった。主要管理者やスタッフを夜間シフトに配置換えして体制を立て直し、同時に早朝のシフトには出来る限り派遣スタッフや事務パートを充てるかたちで勤務シフトを見直していく必要があった。
「(3)P社と物流子会社L社の業務の線引きの明確化」は、L社が赤字に陥った原因に関わる問題であった。
L社は受注入力や在庫管理(棚卸し)を無償で行っていた。また親会社への課金は、作業原価と協力物流会社に支払う運賃にわずか1%のマージンを乗せたレベルであり、仕分け・ピッキング作業のキログラム当たり4円という単価設定にも検証が必要であった。

在庫問題の原因は発注にあり
K常務の物流における〝願望〟を実現するには、これら3つの課題をクリアする必要があった。それに加えてP社には在庫管理面にも課題があった。
得意先のメーンが二次卸であった時代には、P社は在庫を持たない方針をとっていた。その方針を大きく転換したのはK常務であった。
社内の反対を押し切って、輸入品や政策仕入れ(値が安いときに多量に買う)を断行した。結果としてチェーンストアや外食産業との取引が拡大したことで、K常務の戦略の妥当性は証明されていた。しかし、在庫商品の中には在庫過多となっている品目や頻繁に廃棄ロスとなる品目もあった。その原因を分析したところ担当バイヤーの発注スキルに問題のあることがわかった。
対象となる2名のバイヤーは、単純に営業からの注文を集約して、それに定量の在庫を加算し発注を行うという処理をルーティンとして行っていた。
営業からの注文量の内容確認や季節ごとに鮮度維持ラインを考慮した適正在庫量の算出、廃棄ロス量からの在庫量の見直しなどの業務は行われていなかった。業務ではなく作業になっていたのだ。
そこで2名のうち年輩のバイヤーを他の部署に異動させ、残る1名の若手バイヤーを担当役員の隣の席に貼り付けさせて、直接指導を行うことにした。
こうして我々は3カ月のプロジェクトを終了した。といっても現段階は当初予定していなかった〝事前テーマ〟の設定を済ませたに過ぎない。本来はここからがプロジェクトの本番である。
今後の進め方について、K常務とじっくりと話し合った。
この3カ月間の取り組みでは、P社の物流と営業の責任者が同一人物であること、キーパーソンのK常務が強いリーダーシップを持っていることが、プロジェクトを推進させる大きな原動力になった。
その反面、K常務と他のプロジェクトメンバーの意識に温度差を感じさせる場面もあった。
強過ぎるリーダーシップによって、K常務が周囲の意見に耳を塞いでしまうようでは取り組みは空回りしてしまうだろう。
そこで次のステップでは、K常務はそのパワーと願望を少し抑制し、スタッフを活かすことに注力したほうが良いと我々はアドバイスしたのであった。