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第98回 事例で学ぶ現場改善:『業務用卸Q社の新センター開発プロジェクト』

自社で運営する既存センターの狭隘化から新センターの建設に乗り出した中堅卸のQ社。土地は賃借だが、建物は自前で建設するという。初期投資が必要で物流資産を抱えることになるが、他に選択肢はないと判断していた。本当にそうだろうか。別のスキームを検討することにした。

業務用雑貨卸Q社は年商約60億円。福岡に本社を置き、九州の5カ所に支店を構えている。
最近、我々日本ロジファクトリー(NLF)のクライアントには、生き残りをかけて積極的な〝攻め〟に転じる卸が目立つようになっている。Q社もその1つであった。
これまでQ社は本社のすぐそばに倉庫を賃借し、自社でセンター運営を行ってきた。しかし、営業エリアの拡大によって売り上げが増加し、倉庫のキャパシティは限界に来ていた。新センターを手当てする必要があった。
Q社の取り扱いアイテム数は約3万。出荷ロットは98%がピース単位で、非常にきめ細かな作業が求められる。受注締め切りは15:00。その日のうちに支店別・顧客別にピッキングして検品・梱包のうえ、路線便で出荷する。支店はどこも九州圏内であるため翌日午前中には商品が届く。各支店では営業マンが自分の顧客の商品をピッキングして、そのまま車両に積み込み、営業活動と共に納品を行う。
また顧客先で売れ残った商材の返品や交換は基本的に受け入れている。
今回のプロジェクトのリーダーはQ社の実務総責任者のS常務であった。現場叩き上げとあって物流の中身にも精通していた。
S常務は既に新センターのハード面については明確なイメージを持っていた。我々NLFに対する期待はソフト面、ロケーションや作業フロー、動線の設計であった。
新センター開発の条件としては以下の3つが挙げられた。①現場運営は引き続き自社で行う。既存の正社員3名の雇用は維持し、約20名のパート・アルバイトの適正化を行う。②営業による現場確認、管理の効率化などの観点から立地は本社周辺とする。③土地は賃借、建物は自社建設とする。
このうち①自社運営については、過去にS常務が中心となってアウトソーシングを検討したことがあるという。
パートナー候補の物流会社3社と協議を重ねたが、結局は断念した。アウトソーシングによって、倉庫が本社から離れてしまう。
つまり②立地条件をクリアできなかったことが理由であった。一般に本社からセンターまでの距離は、移動時間が40分までなら理想的、1時間までが及第点というところだろう。しかし、Q社の場合は、本社での展示会開催や、センターで欠品となった場合に本社ショールームの商品を代用するといった対応を行っていたため、至近距離にセンターを置いておく必要があった。
「③土地は賃借、建物は自社建設」という条件については、我々NLFから別の選択肢もあることを提案した。開発業者が借地に専用施設を建て、それをQ社が賃借して運用する、いわゆるサブリースである。
従来から我々は自前でセンターを建てようとしている中堅・中小企業に対しては次の3点を必ず確認するようにしている。
①内部留保が10億円以上あるか。
②建設費は銀行借入か否か。銀行借入の場合、全投資額の何%を借り入れるのか。またその金利は何%か。
③自前で建てた場合に、自己資本比率が30%を下回ってしまうことはないか。
大手企業か、あるいはよほど資本が潤沢な場合でない限り、中堅・中小企業が物流施設を所有するのはリスクが大きい。
物流用地や建物は不要になった場合、売却も含め、有効活用が極めて難しい。固定資産ではなく固定〝負債〟になりかねない。それだけの資金を物流施設に投じるよりも、システム開発や人材教育、販売促進など、他に使うべき所があるはずだ。そのため我々が対応するセンター開発案件の10社のうち9社が賃借を採っている。S常務も賃借ベースのスキームを一度は考えたという。不動産会社を通じて地主にQ社専用施設の建設を打診したが答えはNOであった。
仲介に当たった不動産会社自身にも、センター開発の力量はなかった。その結果、実現は困難と判断していた。

新センターの確保にサブリースを提案
そこで我々は、荷主専用施設を建設して賃貸する長期契約型3PLの存在とその事例を紹介した。S常務は「それはおもしろい」とすぐに興味を示した。しかし課題もあった。1つは物件の規模である。
通常、3PLが特定荷主の専用拠点を新設する場合には、投資利回りの点から延べ床3000坪以上の大型物件が対象となっている。しかし、Q社が必要とする施設は1000坪に満たなかった。
また庫内作業はQ社の自社運営であるため、3PLは物流事業収入を得ることができない。それでも、まずは〝本命〟と目されたA社に打診した。このタイプのスキームには実績がある。
ところが、A社はリーマンショック以降、有利子負債の削減に動いており、当面は投資の伴う案件には対応しない方針だという。
仕方なく他に数社当たってみたところ、ほとんど期待していなかったB社が対応できるという。
B社は「たとえ純粋な不動産賃貸からスタートしても、その会社に物流が発生している以上、我々の営業努力次第では将来的に物流業務も受託できるはずだ」と言い放った。ただし、条件があるという。契約期間である。
場所と建物のスペックにもよるが最低でも15年以上の契約になるとのことであった。これを聞いて我々は、密かに胸を撫で下ろした。というのもS常務をはじめQ社の経営陣は25年契約を覚悟していたからであった。
こうして困難と思われた開発スキームが現実味を帯びてきた。あとはB社が提示する賃料である。我々の試算ではセンター建設費は約2億5000万円であった。サブリースによって、Q社は初期投資の負担を回避できるが、肝心の賃料が割高であれば話は振り出しに戻ってしまう。しかし、これも杞憂に終わった。
B社から提示された賃料は我々が試算した金額より1割以上も安かった。B社の幹部によると、空調設備、断熱機能、床荷重1トンといったスペックを確保しながらも、シンプルな設計にすることでコストを抑制できるという。
その方針に基づいて、レイアウトイメージや柱の位置、休憩室の位置、トラックの入・出庫スペース、スペースの確保、従業員の駐車スペース、建ペイ率を考慮した雨避けの大きさの決定など、設計士と詳細な打合せを行い、4回の協議のうえ、図面が完成した。
この作業を通じて我々NLFは本題であった運営改善の布石を打つことができた。
現在、施工開始から5カ月が経ち、あと1月もすれば新センターが完成する。初期投資を回避できたことはQ社の経営陣から喜んでもらえたが、我々にとってはむしろこれからが勝負である。
キャパオーバーとなった既存センターの現場は商品が通路を埋め尽くし、身動きが取れない状態だ。返品処理のスペースと保管スペースの境目すら判別がつかない。電球もあちらこちらで切れたままになっている。
さて、気を引き締めて取りかかることにしよう。