Top > 雑誌寄稿 > 第101回 事例で学ぶ現場改善:『震災対応で揺れる中小通販の物流』

第101回 事例で学ぶ現場改善:『震災対応で揺れる中小通販の物流』

東日本大震災は、国内市場における数少ない成長分野と目されてきた通販物流にも大きな影を落としている。被災地から遠い関東でも液状化によって使えなくなった拠点や、リスク分散のために関西進出を検討する企業が出始めている。

新センター予定地で液状化現象
通販向けに卸売業を営むT社は、年商15億円とまだ規模は小さいものの、ここ5年間で大きく業績を伸ばしてきた。
日用雑貨品、家電品、アパレル品などを扱い、取扱品目の85%は中国製が占めている。中国に事務所を設置し、現地で生産された商品を積極的に日本に向けて輸出してきた。
これまでT社は群馬の地場物流会社から200坪ほどの既存の倉庫施設を賃借し、現場作業もその会社に委託してきた。しかし、年々増加する取扱量に対応するため、中古ながらも自社物件を千葉県に取得した。T社としては思い切った投資であった。
T社ではこの自社物件の取得にあたり、センター運営も外部委託から自社運営へ転換しようと考えていた。しかし、社内には物流の専門家がいなかったため、我々日本ロジファクトリー(NLF)にお声がかかった。
新センターの企画・プランニングから立ち上げ、安定軌道化までのコンサルティングである。具体的には、①物流フローの作成、②センター運営フローの作成、③作業方法・手順の決定、④通路・動線の設計、⑤庫内レイアウト、ロケーションの作成、⑥マテハンの選定と手配、⑦法的な申請という一連のプロセスをサポートするという役割であった。
T社の既存のセンターは、中国からの輸入で20フィートを中心としたコンテナが直付けされることがあるため、デバンニング(開梱)スペースを確保していた。
また庫内はスチール棚の「ネステナー」を二段重ねにして、保管を行っていた。出荷は大きく3つのパターンに分けられた。
中堅以上の通販会社向けは、パレットもしくはケース単位の出荷がメーンで、基本的には物流センターへの納品となる。小規模な通販会社はケース単位で事務所に出荷する。他にエンドユーザー向けのピース出荷もあった。
新センターの立ち上げに当たって、我々NLFとしては「⑤庫内レイアウト、ロケーションの作成」に関して、保管方法を固定ロケーションとするか、ロケーションを固定せず、空いた保管棚を管理するフリーロケーションにするかが大きな関心事であった。そのために、先ずは定番品の割合がどれくらいになるかをT社に調べてもらうことにした。
定番品の割合が高い場合には、固定ロケーションでも出荷頻度のABC分析から効率的なレイアウト、ロケーションを組むことができる。フリーロケーション用に、マテハンや情報システムに投資せずに済む。
翌日、新センターとなる千葉県の倉庫物件を訪れた。築15年は経っているが、施設は十分な広さと高さを有していた。建物はワンフロア400坪の2階建て。1階の荷受け・出荷スペースには大きな雨よけが付いていて、スムースな入出庫作業が期待できた。
他社に賃借する予定の2階も床加重1・5トン/㎡と、頑丈な作りとなっていた。この視察を受けて、我々NLFは旧センターをここへ移管する場合の保管、レイアウト、動線のイメージを、「保管効率重視型」、「動線重視型」、「作業生産性重視型」の3パターンのラフ案にまとめて後日、T社に提示する予定であった。しかし、その4日後のことである。東日本大震災が起こった。幸いT社の群馬の既存施設は、一部の商品が棚から落下する程度の被害で収まった。ところが千葉の新センター予定地で液状化現象が発生してしまった。
建物の構造に影響はなかったものの1階のフロアが地面から湧き出した泥水で水浸しになった。敷地内のあちらこちらに地割れが発生し、復旧には多額の費用と時間がかかるのは明らかであった。T社は建物にあまり手をかけず、現状のまま新センターとして使用するつもりであった。大がかりな改修工事などは行わず、照明の電気工事程度で済ませる予定だった。大きな投資をした直後であり復旧工事に費用をかける余裕はなかった。
こうしてT社の自社センター設置プロジェクトは棚上げとなってしまった。今もまだセンター予定地は何の手もつけられないまま放置されている。T社の経営陣の行き場のない想いは察するに余りある。

エリア戦略を見直し
今回の大震災で大きな方向転換を余儀なくされた通販関連企業を、もう1つご紹介する。通販会社向け物流の受託をメーンとするD社である。
我々NLFはリーマンショック前に2年弱ほどD社の現場改善のお手伝をしている。物流の運営ノウハウが欠けているとのことで、現場スタッフを中心に計6回の実務研修と、誤出荷・誤納品削減に向けた現場改善を6カ月間にわたって実施した。
物流に対する共通認識と現場ルールの欠如、そして現場を統括する人材不足が目立ち、なかなか苦労したことを覚えている。
震災後、久しぶりにD社の2代目のM取締役から連絡が入った。「今回の大震災で、わずかではあったがウチも影響を受けた。会社のこれからについて相談に乗って欲しい」とのことであった。その1週間後に、昼食を取りながらM取締役と話をすることになった。この日はM取締役の右腕となっている若手部長も同席していた。
D社は物流事業のほかに、情報システム開発や帳票類の作成、印刷などを手がけている。元々はそれら物流以外の事業をメーンとしていたが、現在では年商30億円のうち4分の3を通販物流で売り上げている。
D社は通販分野が成長分野として注目される以前から、中小の通販会社を主なターゲットと定めて荷主を増やしてきた。拠点にはコールセンターを併設させて、通販物流のワンストップサービスを目指し、
付加価値の向上を図ってきた。
当初の荷主の中には今では中堅、準大手になった通販会社もある。D社は茨城県を地盤として現在、同じエリアに集中して全9棟の平屋倉庫を所有・運用している。比較的地価が安かったことから、先行投資で土地を確保し、そこに次から次へと新棟を作っていった。
敷地内には常に新築に向けた工事用建設車両が出入りし、さらには同センターの周辺にも土地を買い増し、規模を拡張していった。
果敢な事業展開の裏付けとなる営業力も、D社は備えていた。体育会出身者で固めた営業担当者たちが、どんどん新規案件を持ち込んでくる。なかには採算に合わない案件もあったが、それはM取締役がピシャリと〝ダメ出し〟を行う。強気の経営戦略とエネルギッシュな営業組織が上手くマッチし機能していた。
もちろん、何の問題もなく、ここまで来られたわけではない。物流専門で出発した会社ではなかったこともあり、社内に物流のスペシャリストが育っていなかった。日々のオペレーションは当初は人海戦術で「時間内に業務が終われば良し」というレベルであった。商品の荷扱い、先入れ先出しなどの商品管理、レイアウト、ロケーションなど、現場運営面での課題は山積していた。それが我々NLFにコンサルティングを依頼した理由でもあったわけである。

関西進出でリスクを分散
話を元に戻そう。M取締役と右腕の若手部長は今回の震災で、茨城県に拠点を集中していることが、大きなリスクであることを思い知らされたという。震災の被害は金額にして20万円あまりで済んだものの、拠点を集中させているエリアは海岸から近く、津波の被害を受けてもおかしくない場所だった。被災していれば会社の存続自体が危うかったという。
そこで新たに関西に進出し、事業エリアを分散することを考えているという。筆者にはやや唐突に感じられたが、荷主となる中小通販会社が多いこと、またコールセンターに必要な人手の確保などの諸条件を考えると、関西が有力との判断であった。といっても、関西進出のための事前準備や下地づくりは何も出来ていない状態であった。
これまでもD社は営業活動としては名古屋や大阪方面にも足を伸ばすこともあった。しかし、現地にセンターを置いて運営するとなれば、土地勘のある責任者を現地採用することなども検討しなければならないだろう。限られた既存スタッフを勝手の分からぬ関西へ送り込むことになれば、安定稼働のみならず、足元の関東の事業を揺るがすことにもなり兼ねない。
本格的な関西進出には人材の他にも、もう1つハードルがあった。財務である。
これまでD社は拠点投資を続けざまに行ってきたことから、有利子負債が膨らんでいた。そのうえでの追加投資となると、土地、建物の新規取得は元より、大型物件ともなれば賃貸でも負担は大きい。昼食後に改めて議論を交わし、当面は自分で進出するのではなく、関西を地盤とする物流会社とのアライアンスを先行させるべきであろうということで意見の一致を見た。これに応じて筆者はすぐにD社のパートナー候補を選び、物流会社三社と連絡を取った。幸いにして3社共「前向きに検討するので詳細について聞きたい」とのことであった。
この後1カ月以内に3社をそれぞれ訪問し、D社とのアライアンスによる相互補完、相乗効果、そして相性を確認する予定である。
通販という業種は、物流拠点の立地や配置を比較的自由に選択できる。調達先や部品メーカーが近隣に不可欠な自動車、電機などとは大きく事情が異なる。拠点を分散することで顧客への配送リードタイムを短縮できるため、通常ならコスト高になる拠点の分散も有効な選択肢の1つになる。通販物流に特化しているD社にとっては環境の変化に対応して柔軟に拠点を見直していくことも必要なことであろう。
しかし、今回の震災を機に〝右向け右〟のごとく、多くの会社が東日本の外に拠点を移転させようとする動きに出ていることに、筆者は少なからず疑問を感じている。なかには過剰とも思える反応も見られる。
検証レベルならまだしも、拙速に拠点の分散を実施してしまうとオペレーションの混乱を招き、時間と資金を浪費してしまうことにもなりかねないことに留意すべきである。