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第102回 事例で学ぶ現場改善:『納品率向上に挑んだ中堅日雑卸』

納品率は卸売業の生命線といえる。オペレーションの精度、商品調達力、情報共有のレベル等々、すべての機能が納品率に集約されて表れる。納品率の改善には物流の枠内に止まった取り組みだけでは不十分だ。難易度の高いテーマに中堅卸が正面から挑んだ。

納品率を正しく管理する
本社を中国地区に置くP社は年商約200億円の中堅日用雑貨品卸である。
同社は小売り業態別に3つの事業部を設けており、専門店チェーンや総合量販店(GMS)を相手とする量販事業部がそのうちの稼ぎ頭となっている。
同事業部の取扱アイテム数は約3万。納品先は北海道を除く全国にまたがっている。10年ほど前までは、得意先の数は限られていて、取引のない有力チェーンも多く残されていた。その穴を埋めるべく、M&Aを含めた拡大策に打って出て、売り上げを大きく伸ばしてきた。
しかし、規模こそ拡大したものの、部分最適の継ぎ足しを繰り返したかたちの組織は、うまくは機能していなかった。
現場を熟知した叩き上げのP社トップは、全体最適を図るために、物流からメスを入れるべきだと判断した。改革に向けたプロジェクトチームが組織され、その推進役として我々日本ロジファクトリー(NLF)にお声がかかったのであった。
我々は約一年半にわたり作業の効率化や支払い運賃の最適化などベーシックな改善に取り組んだ。そして、いよいよ新たな段階にたどり着いた。納品率の改善である。
流通業に携わっている読者の方ならお分かりであろうが、納品率は卸にとって最も大事な指標の一つである。実際、専門店チェーンやGMSの多くが、卸の納品率を見て、その卸との付き合い方を決めている。納品率は単純に〝一マイナス欠品率〟で決まるわけではない。欠品が発生しても他の拠点や二次卸から調達できれば納品率は維持できる。
従って、その卸の商品供給力、そして物流力が納品率に表れるのである。改善に取りかかる前のP社の全国平均納品率は、98.3%と、決して悪い値ではなかった。というよりライバルの卸と比べて優秀であり、カテゴリーによっては1位、2位を争うほどであった。それでも、コンビニを始めとしたオペレーション精度の高い業界のレベルにはまだ達していなかった。
あるいは全国規模のメガ卸と比較した場合には、パフォーマンスに開きがあった。P社のトップは、現状の納品率98.3%を可能な限100%に近づけていくことなしに、激しい競争を生き抜くことはできないと考えていた。その証拠に納品率が原因で入札を失注することもしばしばあった。卸が管理指標として一般的に採用している納品率には、大きく2つの種類がある。「出荷納品率」と「得意先納品率」である。
このうち出荷納品率とはセンターからの出荷段階での注文充足率である。一方の得意先納品率は店舗での検品後に明らかになる納品率を指す。検品によって発覚したミスや破損の分だけ出荷納品率よりも低い数字になる。日雑業界では店舗段階での受け入れ検品を省略する「ノー検品」が、今では広く普及している。検品後のデータを返してくる店舗は限られている。
しかし、出荷納品率だけでオペレーションの精度を測るのは危険だ。得意先納品率との乖離を無視した管理は自己満足に陥る。その結果、顧客からの評価を著しく落としてしまう恐れがある。
また、受注形態によっても納品率には2つの解釈がある。「正常受注」と、いわゆる〝ダミー込み受注〟のどちらを分母にとるかという違いである。
正常受注は文字通り顧客からの実注文である。一方のダミー込み受注の〝ダミー〟とは、営業が欠品を恐れるあまり、あるいは担当顧客の販促(特売)を見越して、注文数を上乗せしているケースを指す。
物流部門は、正常受注の納品率の向上に努めるのはもちろんのこと、ダミー込み受注の納品率の改善にも取り組む必要がある。
営業との連携テーマとして物流部門が主導しない限り、なかなか改善されない問題だからである。
具体的にはまず、ダミー込み受注によって、どれだけの金額的損失が生じているかを算出する。そして出荷センターごとに営業向けの説明会を開催し、算出結果を報告するのである。説明会の後も情報発信は継続して行い、それに対する解決策を営業担当責任者と物流部門の協議のうえで決定し実施する、というやり方が有効である。

物流の枠外に足を踏み出す
P社の量販事業部は関東、中京、中国の3カ所にDC(在庫型)センターを配置している。
このうち「正常受注」において納品率97.3%と、最も数値が悪かった中京物流センターから改善に着手することになった。
一般に納品率を悪化させている原因・課題は、同じ会社であっても拠点によって異なっている。中京物流センターの場合は、スペース的なキャパオーバーのほかに、大量発注への対応と、メーカー欠品の解消が重要な課題であった。
従来からP社では、顧客が販促キャンペーン等を実施する場合には、担当営業マンが事前に「大量販売申請書」を提出することになっていた。しかし、その運用精度が悪かった。どれだけの量を超えた場合に「大量」とするのかという点も曖昧だった。さらには大量発注以外の通常の発注精度にも疑問があった。もう一方のメーカー欠品の問題も含め、解決には営業部門や調達部門との連携が不可欠であった。
それまでのP社の改善は物流部門の管理対象範囲内で解決できるテーマに止まっていた。しかし、中京物流センターの課題と解決方法を分析していくことで、物流部門を中心とするプロジェクトメンバーたちは、経営の視点に立った改革、全体最適化が必要であることを認識するようになっていた。
我々は他部署との連携による全社横断的な改善を開始した。従来は物流という枠内で活動していた若手のプロジェクトメンバーたちが、名前は知っているが話をしたこともない他部門の部長クラスに声を掛け、多少おどおどしながらも〝枠〟の外に少しずつ踏み出していったのであった。P社ならずとも全体最適化を目指した取り組みをボトムアップで進めるとなると、他部門との調整業務に多くの労を費やすことになる。しかし、その結果として得られる効果は甚大である。
単なる効率化だけでなく、プロジェクトチームメンバーの成長を促し、社内の風通しを良くする効果がある。
確かにトップダウンで取り組みを進めてしまえば担当者の苦労は軽減され、ゴールには早くたどり着くだろう。しかしボトムアップ型の取り組みにも捨てがたい魅力があると筆者は考えている。
さて、我々プロジェクトチームは中京物流センターの納品率向上を目指し、具体策として以下の3項目の実施を役員会に提案した。すなわち「①営業との定期的連絡会議の開催」、「②大量発注の基準の統一」、「③物流センターのスペース確保」である。
このうち「①営業との定期的連絡会議の開催」については、基本的に月1回(繁忙期月2回)の開催とし、毎回以下の6項目について、それぞれ物流と営業が報告し、検証を行うという計画を提案した。

(1)欠品報告(物流→営業)
(2)滞留在庫報告(物流→営業)
(3)終売情報確認
(4)新規納品先(取引先)情報共有
(5)大量発注見込み情報(営業→物流)
(6)販促情報(営業→物流)

「②大量発注の基準の統一」では5年ほど前に取り決めた基準が陳腐化し、かつ形骸化していたため、対象商品を見直し、リニューアルする必要があることを指摘した。
また「③物流センターのスペース確保」に関しては、以下のような複数の選択肢を挙げて経営レベルの判断を仰いだ。

●センター内の事務所を廃止してスペースを確保する
●滞留在庫を含む在庫削減
●センター移転
●ベンダー直送の推進
●得意先にコストメリットを提示したうえで出荷日の調整を図る
●店別の仕分け処理を、路線会社のターミナルに移管する

役員会の結果、「①営業との定期的連絡会議の開催」と「②大量発注の基準の統一」についてはプロジェクトチームの提案がそのまま承認された。
「③物流センターのスペース確保」については、中京物流センターが自社物件ということもあって、各対策を実施した時の影響を継続して検証することになった。
しかし、これも会議から3カ月後にはトップの判断で、「センター移転」にゴーサインが出たのであった。
こうしてP社の取り組みは着実に前進している。プロジェクトチームのメンバーたちは大きく成長し、全体最適の視点が加わったことで新たな改革テーマも見い出せるようになってきた。卸売業にとっては永遠のテーマとも言える納品率の向上にも筋道が出来つつある。先月から0.1〜0.2ポイントではあるが、指標が上がってきた。
物流が現場データを用いて営業、購買そしてシステムに〝もの申す〟ようになったことの成果だと筆者は評価している。